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幼馴染「……童貞、なの?」 男「」【後編】

416:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/02(火) 11:17:11.35 ID:yBf3Hcveo
翌朝には、体調も多少よくなっていた。まだ微熱は残っていたけれど、今日一日休んでいれば治るだろう。
大事をとって薬を飲んでベッドで寝ておく。食事はリビングに下りてとった。

十一時を過ぎた頃、昨日言った通りに幼馴染がやってきた。

「はい、缶詰」

「苦しゅうない」

俺はベッドにふんぞり返った。
咳が出た。情けない。

「まだつらい?」

「だいぶ楽になった」

養生しております。
417:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/02(火) 11:17:40.02 ID:yBf3Hcveo
「あのね、風邪が治ってからなんだけど」

「なに?」

「水族館行かない?」

「水族館」

唐突だった。
幼馴染はたまに突飛なことを言い出す。たいていがユリコさんの案。
以前、突然思い立ったといって二泊三日の旅行に行ったこともある。
今回もどうやらそういうアレらしい。

「いつになるかにもよるけど、うん」

遠出をすると心が沸き立つのです。

その後、妹が剥いてくれたリンゴを三人で食べた。




418:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/02(火) 11:18:23.28 ID:yBf3Hcveo
三日もすれば風邪は治った。誰かにうつった様子もない。とりあえずはほっとした。
失われた夏休みの一部を惜しみながら、課題を少しずつ消化する。後でまとめてやるにせよ、減らしておくに越したことはない。

平日には祖父の車に乗せられて免許センターに行った。
書類の空欄を埋めるのに悪戦苦闘する。受付に書類を提出すると今度はたらいまわし。
適性検査。問題なくクリアする。最後に揃った書類を出して申請が終了する。

待合室の長椅子では、俺と同じくらいの年齢の人たちが問題集と向かい合っていた。
真似してみようと思って鞄から問題集を出す。すぐ飽きる。緊張で集中できない。

長い時間待たされてからアナウンスで試験会場へと誘導される。番号に従って席に座る。落ち着かない。

小心者ですから。

学科試験は手ごたえはあったが自信はなかった。
問題はほとんど解けたつもりでいるものの、不安が残る問題が五問以上ある。ケアレスミスがないとも限らない。

時間を置いて合格者の発表。電光パネルに番号が表示される。
自分の受験番号を見つけてほっとする。祖父にメールをしながら横目で周囲を見た。




419:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/02(火) 11:19:00.60 ID:yBf3Hcveo
二人で来たのに、片方だけが受かったと思しき人たちがいた。よかった、一人で来て。あれは気まずい。
片方が安堵で表情をゆるめているのに対して、もう片方が少しいたたまれないような顔をしている。

また今度がんばれ。上から目線で思った。

午後の講習が終わってから携帯を開くと、妹からも祝いのメールが来ていた。終わってみると祝われるほど大したことじゃない。

祖父に電話をすると付近の本屋で待機しているという。歩いていける距離なので、そのまま向かうことにした。

本屋で部長と遭遇した。手には参考書。自分の未来を見せられているようで思わず不安が浮き上がる。
少し話をした後、すぐに別れる。次に会うのは部活のときだろう。

祖父の家に寄って、従兄のナオくん(通称)が昔使っていた原付を譲り受ける。
彼は車があるのでもう使わないらしい。ちょうどいい。

さっそく原付に乗って帰る。少しだけ緊張したけれど、運転しはじめると大したことはなかった。
ただ、多少は心臓が痛かった。




420:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/02(火) 11:19:34.96 ID:yBf3Hcveo
翌日、目を覚ましてリビングに行くと、誰もいなかった。妹はまだ寝ているらしい。
起こそうか迷ったが、どうせ休みなのだしと放っておく。
結局、妹が起きたのは正午になる頃だった。

昼過ぎには幼馴染がやってきた。

例の水族館の話で、予定を聞きにきたらしい。
どうせ部活以外には予定と言えるものはない。妹も似たようなものだったので、すり合わせは簡単にできた。

明日らしい。

「急な話だ」

「日帰りだしね」

そりゃそうだけど。

「で、今日、花火しない?」

「なぜ花火?」

「夏だからだよ」

納得した。




421:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/02(火) 11:19:56.83 ID:yBf3Hcveo
そんなわけで、日没ちょっとまえに家を出て、幼馴染の家に行った。

暗くなってきた頃、チャッカマン片手に庭に出る。花火は既に用意していたみたいだった。

ユリコさんが噴出花火を三つ地面に並べる。まさかと思いながら見ていると、あっという間に三つ揃えて点火してしまった。

「てへ」

「てへじゃないでしょういきなり」

花火の音が周囲に響く。
はしゃぐユリコさんを放置して、手持ち花火を配る。

最初の一本から火を分け合って、全員の手に花火が行き渡る。

「夏ですな」

ぼんやり呟く。

「だねえ」

幼馴染が頷いた。

「煙! すげえ煙!」

思わずはしゃぐ。

「振り回さない!」

妹に叱られる。




422:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/02(火) 11:20:27.40 ID:yBf3Hcveo
一本ずつ消化していっても、やがて花火は尽きる。
火が噴き出す音が消えて、急に周囲に静けさが帰ってきた。

ユリコさんが袋から線香花火を取り出す。

「じゃあ、一気に火つけちゃう?」

「そこは一本ずつでしょう」

「そんな辛気臭いのは夏の終わりにでもやればいいじゃん。どうせ何回でもするんだから、花火なんて」

……そういうものだろうか。

「じゃ、点火します」

喋っているうちに、彼女は数本の線香花火にまとめて火をつけた。火の玉でかい。

「あ、落ちた」

はええよ。

片付けが終わった後、俺と妹は幼馴染の家にお邪魔して夕食をご馳走になった。
満腹になった後、スイカを食べさせられる。

「チューハイ飲む?」

「いただきます」

何度も言うが俺たちは十六歳(数え年)だった。




423:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/02(火) 11:20:59.35 ID:yBf3Hcveo
「やめときなよ。二日酔いになるよ」

妹に諭される。
ぶっちゃけ、酒には弱かった。
三口で酔う。立っていられなくなる。
缶一本を飲み干したことがない(ちなみに幼馴染はめっちゃ強い)。

男として負けるわけにはいかなかった。

結果、缶を半分くらい飲むことができた(歴史的快挙)。

「ちょっと強くなったんじゃない?」

半分じゃなんの慰めにもならない。体質的に無理なのだろう。

少し休んでからお礼を言って幼馴染の家を出た。

夜風に当たると酔いに火照った体を心地よい冷たさが撫でた。
涼しい。風流。

ふらふらになりながらも自分の足で歩く。

家についた。

リビングのソファに寝転んだ。頭がぼんやりとして心地いいのか悪いのか分からないような熱が全身に広がっている。
酒を飲むとエロいことを考えられない。不思議と。いい傾向。

風呂には入らずに顔を洗い、歯を磨いて眠る。

明日は水族館らしい。




424:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/02(火) 11:21:35.52 ID:yBf3Hcveo
翌朝は幸い二日酔いにならずに済んだ。
準備を終わらせて幼馴染の家に向かう。

車の中ではしりとりをしながら時間を潰した。なかなか白熱する。
妹が「り」で俺を攻める。俺はなんとか回避する。幼馴染が「み」で妹を攻める。
飽きた頃には海が見え始めた。

港だけど。

目的地は寂れた水族館だった。寂れた、というところが絶妙で、本当に寂れている。
さして大きくもなく、目新しさがあるわけでもない。人も少なくてがらんとしている。

でもまぁ、水族館は水族館だった。

適当な駐車場に車を止めて、海沿いの道を歩く。十分もせずに目的地についた。
ちょうどアシカショーが始まる五分前だったらしい。

せっかくなので見た。
どう考えても安っぽいセットにあんまり綺麗とはいえない客席。
座る。
見る。
案外ワクワクする。
すげえ、ってなる。

「うおー! すげえ!」

終わったときにはテンションが上がっていた。
単純。




425:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/02(火) 11:22:07.90 ID:yBf3Hcveo
大量のペンギン。
写メってキンピラくんに送った。

『俺はペンギンよりシロクマの方が好きだ』

謎の返信内容だった。

館内にシロクマはいなかったので、デフォルメされたシロクマの看板を撮影して送信する。
返信は来なかった。

クラゲ、イルカ、ワニ、あとなんかいろんな魚(名前は見ていない)。
いっそグロテスクですらある見た目をしている魚もいた。

壁は水槽。周囲は薄暗い。
ワクワクする。

「サメ、ちっちゃいね」

幼馴染は残念そうに言った。
妹はというとクラゲをじっと眺めている。

「超癒される……」

超って。

ユリコさんは一人でイカ焼きを食べていた。それはなんか違わないか。




426:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/02(火) 11:23:21.20 ID:yBf3Hcveo
一通り見終わってから土産物屋を見る。

シロクマのぬいぐるみがあった。
超かわいい。

「俺これ買うわ」

即決した。

サメの牙のアクセサリーとか、魚型のストラップとかもあったけれど、琴線には触れない。

妹は亀がたのぬいぐるみを欲しがった。なぜ亀?

「買う。これ買う」

妹は、一見どうでもいいようなものに強い執着を示すときがある。今だ。

祖父母や両親向けにお土産にお菓子を買っておく。あと自分たち用。

水族館を出る。一時半を過ぎた頃だった。

「どうだった?」

ユリコさんは串焼きのイカを片手に尋ねた。

「クラゲもうちょっと見たかったです」

「満喫しました」

大いに満足した。アシカショーとか。
帰り際に、ユリコさんが付近で売っていたカレーパンを買ってくる。なぜカレーパン? 彼女は食べっぱなしだった。
俺たちもご相伴に与る。美味かった。




427:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/02(火) 11:23:55.16 ID:yBf3Hcveo
家についたときには、父が帰ってきていた。
夕食を一緒にとってからお土産のクッキーをかじる。
父はユリコさんにお礼の電話をかけた。

大人の会話を横目に見ながら俺と妹はリビングでお茶を飲む。
暑いときこそお茶をすするのです。

その後、親子三人で花札をした。点数計算ができないので勝敗は適当だった。

翌日は部活があったので学校に向かった。
ひんやりした空気。
人のいない教室。
遠くに聞こえる運動部の掛け声と、吹奏楽部の練習の音。

窓からグラウンドを見下ろすと、陸上部が走っていた。
そのなかに屋上さんの姿を見つけて立ち止まる。
軽快な速さで彼女はグラウンドを縦横無尽に駆け巡る。ハードルを越える。

彼女の雰囲気も、夏休みが始まる前とでは、少しだけ違っているように見えた。

部室に行くとほとんどの先輩は来ていなかった。とはいえ人数は結構いる。
そもそも何をする部でもないので当たり前といえば当たり前なのだが。

部活では何をするわけでもなくぼーっと座っていた。
部長はしずかに本を読んでいた。邪魔をするのも悪いと感じる。

持ってきておいた課題を進めておく。早めにするに越したことはない。あとが楽でいい。




428:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/02(火) 11:24:29.88 ID:yBf3Hcveo
部活はつつがなく終了した。帰りに近場のコンビニに寄ると、屋上さんと遭遇する。

「ひさしぶり」

屋上さんは小さく頷き返した。

彼女と少しだけ言葉を交わす。夏休みの前とたいして変わらないバカ話。

でも、会えないのはちょっと不便だ。

「携帯のアドレス教えてよ」

「いいけど」

頼んでみるとあっさり許可が出た。

「じゃあ今度メールするね!」

「その口調やめて」

屋上さんのメールアドレスを教えてもらった。

家に帰ってから屋上さんにメールをする。
屋上さんのメールの文面はそっけなかったが、その割には返信がすぐに来た。

どうでもいいメールを交換しあう。
メール文化は馴染めないけれど、悪くない。




429:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/02(火) 11:25:05.12 ID:yBf3Hcveo
翌日、サラマンダーとマエストロが我が家にやってきた。
部屋に招き入れる。ごろごろと退屈な時間を過ごす。

「課題やってる?」

「やってない」

俺は嘘をついた。

三人でゲームをする。
すぐに飽きた。

「どっか行こうか?」

「暑い」

ですよね。
妹が友達と遊びに行ってしまったので、昼は自分たちでどうにかしなければならない。
昼過ぎに腹を空かせてファミレスに向かった。

後輩と遭遇する。

「最近良く会いますね」

後輩と同じ席に着いた。




430:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/02(火) 11:25:31.53 ID:yBf3Hcveo
「ドリンクバーを奢ってやろう」

「あざす。いただきます」

後輩はくぴくぴとジュースを飲んだ。

「おまえ酒強そうだよね」

「めっちゃ弱いです」

親近感が沸く。

とりあえず昼食を注文した。
三人とも後輩とは知り合いだったので、話は弾む。

「いやー、暑いすね、最近」

「そうでもないだろ」

「そうですか?」

「そうでもない」

「そうでもないっすね」

会話はいつでも適当だ。




431:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/02(火) 11:25:58.32 ID:yBf3Hcveo
「休みに入ってから毎日暇で仕方ないんですよ、ホントに」

「じゃあ俺と遊ぼう」

「いいですよ」

あっさりオーケーされた。
逆に困る。

「え、なにその。俺デートとか何着てけばいいかわかんないしあのあれ。ごめんなさいこの話はなかったことに」

思わず初デート前の中学生並に動揺する。
後輩はからから笑った。

その後バカ話で盛り上がりながら食事をとった。
後輩からCDを借りる約束をした。約束があるのは素敵なことです。




432:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/02(火) 11:26:43.06 ID:yBf3Hcveo
家に帰ると幼馴染と妹と謎の少年がいた。

謎の少年。

「誰?」

「親戚の子」

幼馴染が分かりやすく説明してくれた。どうやら夏の間だけ遊びに来ている親戚の子らしい。
子供同士の方がいいだろうと面倒を任されたらしいが、さすがに歳の離れた異性との接し方なんて分からないという。

「それがなぜ俺の家に?」

「男の子同士の方が遊べるかと思って」

そんなわけがない。
子供の面倒なんて見たことないし、充実した子供時代を送った記憶なんてないし、ましてや友達なんていなかった。
少年に充実した夏のすごし方を提供しろと言われても荷が重過ぎる。

「協力するから!」

幼馴染に懇願される。
妹にジト目で睨まれる。
罪悪感。何も悪いことしてないのに。




433:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/02(火) 11:27:15.75 ID:yBf3Hcveo
「分かった。おい少年、カブトムシ捕まえにいくぞ!」

「だるい」

シニカルな少年だった。

「一人でゲームやってるからいいです」

……なにこいつ。

「……タクミくんはインドア派で」

タクミくんと言うらしい。

扱いに迷っているうちに、沈黙が落ちる。

「あ、そう。えっと、じゃあ、なんかジュース飲む?」

「いただきます」

それっきり会話がなくなった。
ピコピコとDSに向かい合うタクミくん。




434:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/02(火) 11:27:43.71 ID:yBf3Hcveo
「何やってんの? ゲーム」

彼はあからさまに面倒そうな表情をしながらゲーム画面をこちらに向けた。

俺の持ってる奴だった。

「対戦、しようゼッ!」

強引なテンションで誘う。

負けた。

「……あっれー?」

あっさり負けた。
完膚なきまでにやられた。
3タテだった。




435:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/02(火) 11:28:12.12 ID:yBf3Hcveo
今度は妹が対戦を挑む。
なぜか勝利した。

「……あれ? こいつなんか俺と妹で態度違わない? ね、おかしくない?」

「子供だから、子供だから」

言いながらも、幼馴染の目は俺が弱いだけだと言っているようだった(そういえば妹には勝ったことがない)。
負けられねえ、と思った。

「おいタクミ! てめえもう一回だ!」

鼻息荒く勝負を挑むが、連敗記録を塗り替えただけだった。
その後、夕方まで彼と勝負を続けたが、かろうじて接戦までは持ち込めても結局敗北した。

「ちくしょう! 今度来たときには叩きのめしてやるからな!」

タクミくんは苦笑していた。




436:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/02(火) 11:29:11.73 ID:yBf3Hcveo
夜、炭酸が飲みたくなってコンビニに行く。
妹と一緒に家を出た。アイスを切らしたらしい。

帰り際、一人で歩く後輩を見かけた。

どこへいっていたのかを訊ねると、適当に町をうろついていたのだという。

「女の子が夜道を一人で歩くんじゃありません」

コンビニ帰りに送っていくことにする。

「送り狼の方が怖いんですけど」

何かを言われていたが気にしないことにした。

妹を先に家に帰して、後輩の家を目指す。
歩いてみると結構距離があったが、さりとて遠すぎるというほどでもない。

「あ、CDですか?」

後輩は手を打ち鳴らして言った。

「そう。ついでだから」

別に慌てるほどの用事ではないが、次にいつ会えるかも分からないのだ。




437:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/02(火) 11:29:47.65 ID:yBf3Hcveo
「携帯のアドレス教えてくれれば話が早くて済むのに」

「鳴らない携帯なんて持ち歩きませんよ」

「だから俺が鳴らすというのに」

後輩は気まずそうに苦笑した。

彼女の家につく頃には、周囲は薄暗くなっていた。
それでも、その家の大きさはよく分かった。

「でけえな」

「広いだけですよ」

広いのがすごいと言っているのだが。
なんかやたらとでかい家だった。

後輩は気にするでもなく広い庭を通過していく。日本的庭園。飛び石。和、な木々。
和。

なぜだか萎縮する。




438:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/02(火) 11:31:03.49 ID:yBf3Hcveo
後輩は俺を客間に取り残して部屋から出て行った。
どうしろというのか。

落ち着かずに周囲を見渡してみる。
余計落ち着かなくなった。

そういえば幼馴染以外の女子の家にあがるなんて人生で初めてだった。

緊張する。

不意に扉が開いた。
後輩が戻ってきたのかと思ったが、違った。

『ちい姉』だった。

彼女は変な顔で俺を見た。驚いているようにも見える。

言葉もなく扉が閉められる。

なぜ?

もう一度開けられる。

奇妙な間があった。




439:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/02(火) 11:31:35.46 ID:yBf3Hcveo
「……なんでいるの?」

どこかで聞いたことがある声だと思った。
見上げる。
赤い眼鏡。下ろした髪。

「……あれ?」

屋上さんだった。

「お邪魔してます」

挨拶をする。

「……はあ」

互いにわけも分からず見つめ合う。素直におしゃべりできない。

「なぜ屋上さんがここに?」

「私の家だから」




440:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/02(火) 11:32:11.96 ID:yBf3Hcveo
混乱する。

でもすぐに分かった。

――妹が二人。

――姉と妹がひとりずついる。面倒見がいい。頼られ体質。

「……あー」

気付く。
ありえない偶然だった。

少しして屋上さんの背後から後輩がやってくる。

「何やってんの? ちい姉」

ちい姉=屋上さん、だった。




441:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/02(火) 11:33:01.80 ID:yBf3Hcveo
その日は後輩からCDを受け取って帰った。なんだか気まずいまま。屋上さんとは少しも言葉を交わさなかった。
でもよくよく考えると負い目に思うことは何もないし、距離を置くような理由もない。

なぜか話しかけづらいだけで。

家に帰ってからメールをしておいた。

なんかごめん、と謝る。なぜか。
こっちこそ、と返信がくる。なぜか。
なぜか謝りあっていた。

髪型が違うのと、眼鏡があるかないかだけで、人って印象が変わるんだな、と奇妙な納得。

その日はなんだか落ちつかない気分のまま眠った。




453:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/03(水) 11:48:11.38 ID:yBf3Hcveo
借りたものは返さなければ人の道にもとる。

俺は後輩から借りたCD(インディーズのロックバンドだった。微妙に良かった)をどう返すかを悩みに悩んでいた。
彼女の連絡先は知らなかったし、家に直接行くというのも少し抵抗がある。

どうしたものかと悩む。屋上さんにメールすればいいのだと気付いたのは一日悩んだあとの朝だった。

メールをするとすぐに返信が来た。今なら家にいるというので、さっそく押しかけることにした。
許可をとって準備を始める。時間には気を遣った。男友達と遊ぶのに遠慮はいらないが、女子の家はそれとはわけが違う。

遅すぎず早すぎず、あまり邪魔にならない時間帯に留意した。
ちょっと長居できるかもという打算も含めて。

原付で行くか自転車で行くか、迷う。せっかくなので原付で行こうと決めた。
妹に目的と行き先を告げて玄関を出る。彼女は微妙そうな顔をしていた。

後輩と歩いた道をなぞる。夜だったので分からなかったが、意外と悪くない雰囲気だった。

原付で行けるところまで行く。さすがに庭園までは乗り入れられない。道の脇に停めて鍵を抜いた。

玄関まで行ってどうしたものかと悩む。周囲を見回してからインターホンに気付く。
押してから、身だしなみが妙に気になって髪を手櫛で梳かす。すぐに中から声がした。




454:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/03(水) 11:48:41.99 ID:yBf3Hcveo
屋上さんか後輩が出ると思っていた俺は、少しだけ混乱した。出迎えてくれたのは小学生くらいの女の子だったからだ。

「こんにちは」

「こんにちは」

お互い硬直する。あ、俺がなんか言わなきゃダメなんだ。数秒後にそう気付いた。

「あの、アレだ、えっと」

……なんといえばいいんだろう。
そういえば後輩の下の名前は知らないし、屋上さんの方だって分からない。

困った。

俺がどうしたものかと考えていると、すぐに屋上さんが玄関にやってきた。髪は結んでいなかったけれど、眼鏡はしていなかった。

「どうも」

「……どうも」

お互い、気まずい空気になる。なぜか。




455:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/03(水) 11:49:09.47 ID:yBf3Hcveo
「ちい姉の友達?」

「うん、まあ」

「彼氏?」

「ちがう」

屋上さんは妹(と思われる少女)を手を払って追放した。気まずい沈黙が取り残される。

「……あの。上がれば?」

彼女も彼女で対処に困っているらしい。
客間に通される。彼女は麦茶を出してくれた。なんとなくお互いそわそわと落ち着かない。屋上さんはしきりに髪の毛先を弄っていた。

「あ、後輩は?」

「部活」

いないらしい。

「これ、CDなんだけど」

「あ、うん」

渡しておく、と屋上さんは頷いた。

また沈黙が落ちる。
どうすればよいやら。




456:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/03(水) 11:49:45.27 ID:yBf3Hcveo
困っているところに、先ほどの少女がやってくる。

「……彼氏?」

「ちがう」

俺が少女に目を向けていると、屋上さんはそれに気付いて、ほっとした態度で紹介してくれた。

「妹」

「どうも、妹です」

上二人の姉妹はどことなく雰囲気が似ていたが、一番下の妹はまるで違った。
天真爛漫で人見知りしない、ような印象。

「姉のことを末永くよろしくお願いします」

そして人の話を聞かないところがある。

「ちがうってば」

「どこで知り合ったんですか?」

「学校が一緒なんだよ」

「どうして平然と答えてるの?」

屋上さんは疲れきったように溜息をつく。
少しだけ緊張が取れた。なんとなく安心する。二人きりになったら固くなって何も言えそうになかった。とても助かる。




457:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/03(水) 11:50:19.74 ID:yBf3Hcveo
屋上さんは妹さんのことを「るー」と呼んでいた。名前を聞くにもタイミングが分からず、俺もそう呼ぶことにする。
基本的にコミュニケーションは苦手です。

るーちゃんは俺と屋上さんの関係をやたら気にしているようだった。
第三者に説明しようとして初めて気付くことだが、俺と彼女の関係はとても説明しにくい。
クラスメイトというのではないし、友達というには少し距離がある。その割には毎日のように顔をあわせていた。

彼女は俺のことも根掘り葉掘り訊ねた。
仕方ないので、おととし地球を侵略しに来た宇宙海賊ダークストライカーを撃退したことや、
幼少の頃は国中から天子と崇められていたが、魔人・九島秀則の呪術と謀略によって生まれ故郷を後にしなければならなかったことや、
夜な夜な町に出没する、白衣のマッドサイエンティストが作り出した黒き魔物と日夜戦いを続けていることつまびらかに語った。

「すごいですねー」

感心された。悪い気はしない。
屋上さんは呆れたようで、何も言ってこなかった。

「よくそんなに作り話が出てきますね」

感心のしかたが微妙に大人だった。この少女、侮れない。




458:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/03(水) 11:50:51.28 ID:yBf3Hcveo
もっと話して下さい、とるーちゃんはせがむ。

仕方ないので、これは秘密の話なんだけど、と前置きして話を始める。

魔術結社<輪廻>に追われていたときの話。
彼らの扱う魔術は、あまねく人々の命を刈り取ることで生まれる『ガイアの雫』と呼ばれる魔力を源にしていた。
強力な魔術であればあるほど多くの雫を必要とするので、大量の魔力を得るために彼らは多くの人間を犠牲にする。

けれど<輪廻>の最終目標である因果改竄術は、どれだけの人間を殺したところでとても間に合うような魔術ではなかった。
魔力の欠乏を解消しようと苦慮した彼らは、あるとき無限の魔力を持つ魔道人形の噂を聞き、彼女を手に入れようと目論んだ。

くしくも<輪廻>の魔の手がその少女へ伸びる前日、俺は街中で彼女と遭遇し、友達になっていた。
そして彼女とかかわったことで、俺は事件に巻き込まれ、<輪廻>との終わりなき闘争へと身を投じることになったのだが――

――という設定のライトノベルを書こうとしたことがある、と、るーちゃんに話した。
そのすべてを語るには少しばかり余白が足りない。




459:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/03(水) 11:51:22.21 ID:yBf3Hcveo
「正統派ですね」

正統派だろうか。

その後、三人で人生ゲームをして遊んだ。
最下位は俺で、一位はるーちゃんだった。なぜか納得のいく順位。

帰ってきた後輩を交えて四人で話をする。男女比率が夢のようだった。

「また来てくださいね」

るーちゃんはとても良い子です。
別れ際、屋上さんがなんだか困ったような顔をしているのが見えた。

なんだかなぁ。
お互い、上手く距離が測れていないのかもしれない。

でも、悪い気分じゃなかった。




460:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/03(水) 11:53:14.81 ID:yBf3Hcveo
翌朝目覚めたのは八時頃だった。
妹と一緒に穏やかな朝を過ごす。まったりと朝を過ごすのが久しぶりのような気がした。

「……そういえば」

「なに?」

不意に口を開くと、妹はきょとんとした顔でこっちを見る。なんだか最近、態度が柔らかくなった気がする。

「俺はおまえと結婚しなければならないようだ」

「何言ってるの?」

態度が柔らかくなっていたのは錯覚だったようで、絶対零度の視線は健在だったらしい。
とはいえ、至って正気である。回想する。




461:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/03(水) 11:53:39.22 ID:yBf3Hcveo
『姉って何歳の?』

『たしか、俺と同い年だったはず』

『同じ学校かもね』

『ないない。そんな偶然ない。あったらおまえと結婚する』

というやりとりが、以前あった。

「ね?」

「いや、ね、と言われても」

妹は困ったように眉を寄せた。

「同じ学校の人だったの?」

同じ学校の人でした。世の中って狭い。
妹は俺の言葉を無視して家事に励んだ。手伝おうかと名乗りを上げると洗濯物を任される。

洗濯物。
魔性の気配がする。
が、妹なのでなんら問題ない。




462:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/03(水) 11:54:09.71 ID:yBf3Hcveo
正午を過ぎた頃、幼馴染とタクミくんがやってきた。

「また来たよー」

気安げに幼馴染が言う。タクミくんは今日も今日とてゲームをぴこぴこしていた。

なんだかちょっと寂しいので、みんなで映画でも見ることにした。
『七つの贈り物』。ちょっと前に見た。眠くなるほど退屈な序盤。独特の空気。
話は広がるだけ広がり、それはなんの説明も伴わず進んでいく。眠くなる。

のだが、中盤を過ぎた頃に、その流れは一変する。
明かされる主人公の背景。過去。事実。目的。それらが前半に積み重なった伏線と同調して急展開を迎える。
多少の不満点はあるが、それを補ってあまりある勢いがある。
終盤ではストーリーが一気に転じて、ラストシーンへと静かに収斂していく。

おしまい。

見終わった後、しばらく四人で並んで黙っていた。

「いい映画だったねー」

幼馴染が最初に口を開くが、彼女はだいたいの映画に「いい映画だったね」という感想をつける。眠らない限り。
妹と俺は一度見たことがある。二度目なので余計面白い部分もあった。
タクミくんは一本の映画を丸々見たせいで疲れたらしい。




463:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/03(水) 11:54:49.14 ID:yBf3Hcveo
気付くと彼は眠っていた。ソファに寝かせてタオルケットをかぶせる。
妹とは四歳くらい違うのだろうか。ちょうど昨日会ったるーちゃんと同じくらいの年齢。
このくらいの年頃のとき、俺はどんな子供だっただろうか。よく覚えていない。友達がいなかったことだけは覚えている。

ちょっとしてから、屋上さんからメールがあった。

『るーが会いたがってる』

……ええー。

どんだけ懐かれたんだよ、と自問。そこまで好かれるようなことをした記憶がない。

今、親戚の子が来ているのでいけない、と返信する。厳密には違うが、まぁそんなようなものだろう。
これなら引くだろうと思ったのだが、屋上さんは難攻不落だった。

『実はもう向かってる』

俺の家知らないはずなのに。

後輩か。
そういえばこの間送っていったときに、途中で通った。

「……うーん」

まぁ、いいか。
別に問題ないような気がしてきた。

いや、問題はあるのだけれど、そこまで必死になって阻止するようなことでもない。




464:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/03(水) 11:55:51.17 ID:yBf3Hcveo
迎えに行くとメールして、玄関を出た。いったい何が彼女らをそこまで駆り立てるのか。

ちょっと歩くと、三姉妹が歩く様子が見えた。
屋上さんが気まずそうな表情をしているのが分かる。

家に連れて行く。寝ているタクミくんと二人の少女を見て、るーちゃんが「どっちが恋人ですか?」という。どっちも恋人じゃない。

幼馴染は意外にも屋上さんと面識があったようで、すぐに話を始めた。
妹は後輩に挨拶をしながらこちらを睨む。なぜ?

そういえば、幼馴染以外の女子を家にあげるなんて初めてだった。
混乱する。

るーちゃんは俺に会いにきたはいいものの、何を話せばいいのか分からずに戸惑っている様子だった。
仕方ないのでみんなでトランプを始めた。
人数は大したものだった。俺、妹、幼馴染、屋上さん、後輩、るー、それにタクミくんが目覚めると七人になる。

これだけの人数がいるにもかかわらず、なぜか俺が負けた。

昼過ぎに、食料を求めてコンビニへと歩いていくことになった。
ジャンケンによって選出された二名が。

やっぱり負けた。
もう一人は屋上さんだった。

話をしたかったので、ちょうどいい。
が、最近ちょうどいい偶然が起こりすぎているような気もする。

頭の中でずっとエンターテイナーが流れている気分。




465:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/03(水) 11:56:22.85 ID:yBf3Hcveo
「突然押しかけて、ごめん」

彼女は何かを扱いかねているような表情で俯いた。
屋上さんは眼鏡は外していたけれど、髪は下ろしていた。私服が大人しい雰囲気のもので、それが妙に似合っている。
普段のイメージとまるで違うため、違和感はある。こうしていると誰か別人と歩いているようだった。

虎の威を借る狐の化けの皮を剥いだら、やたら可愛い狐が出てきた感じ。
いや、ちょっと違う気もするけれど。

そのせいか、気分がとても落ち着かない。
さっきまで大人数でいたせいでなんとかごまかせていたのだが、
とても、落ち着かない。

なんだかなぁ、と思う。

屋上さんの態度も、なんだか妙だった。
妙というか、変だった。

距離を測りかねている感じ。

「るーが」

と、屋上さんは話を始めた。

「はしゃいでるというか。私が家に友達入れるの、初めてだったから」




466:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/03(水) 11:56:57.01 ID:yBf3Hcveo
友達、と言われて、一瞬、歓喜に浮かれると同時に、暗い罪悪感に包まれた。
そもそも俺はまっとうな友達作りというものができない人種なのだ。

人の輪に入るということができない。自分が邪魔をしているように感じる。
だから、サラマンダー、マエストロ、後輩、部長、屋上さん。
一人でいる人にばかり声をかける。

そもそもやり方が卑怯。
そんなことは、たぶん言っても分かってもらえないだろうけれど。

だから、多人数でいると取り残されたようで不安になる。

置いてけぼりの気持ち。

でもまぁ、そんなことを考えたって仕方ない。

屋上さんはそれっきり押し黙ってしまって、コンビニにつくまでずっと無言だった。
買い物をしている間も、なぜか、なんとなく、話しかけづらい雰囲気。

でも、それは悪い意味ではなくて。
照れくさいような、気恥ずかしいような気持ち。
俺だけかも知れないけれど。




467:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/03(水) 11:57:47.06 ID:yBf3Hcveo
いつのまにか頭の中の音楽がエンターテイナーからジュ・トゥ・ヴに切り替わっている。
単純。

どっちもどっかで聞いたことがある感じのする曲には変わりない。

食べ物、飲み物、アイスを購入し帰路に着く。蝉の声はほとんどしなかった。

帰る間も、互いに言葉を交わすことはなかった。
落ち着かない気持ち。
なんだかなぁ、という気持ち。

何かを言うべきなような気もするし、何も言うべきではないような気もする。

まぁいいか、という気持ち。

その後、昼食をとってから夕方までゲームを交代しながら遊んだりした。
後輩、屋上さん、妹の三人は、ほとんど遊びには参加しなかった。ダイニングのテーブルに腰掛けて話をしていた。

夕方を過ぎた頃ユリコさんが迎えに来た。
タクミくんは遊び足りなそうな顔をしていたけれど、また今度、というと少しだけ表情を明るくした。

「今度バーベキューやろうと思うんだけど」

ユリコさんはまた唐突に言う。普通は親戚同士で盛り上がるのではないのか。




468:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/03(水) 11:58:17.79 ID:yBf3Hcveo
「行っていいんですか?」

「予定ないならだけど」

予定はほとんど白紙だが、普通なら遠慮するところだ。

「じゃあ決定ね」

決定されていた。表情から予定の有無を見抜くのはやめてほしい。

「そっちの人たちも来る?」

と、彼女は三姉妹に声をかける。

「他にも友達呼びたかったら呼んでいいから」

勢いだけで乗り切られる気がした。

「……えー」

人、増えすぎだろう。
この場にいる子供七人大人一人。その段階でも既に多すぎるくらいなのに。

かといって男女比的にこのままでは困る。

「やっぱり俺は遠慮……」

「できません」

「俺、ノーと言える日本人なので」

「イエスと言い続ける日本人の方が潔くて好きです」

ユリコさんには反論できない。




469:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/03(水) 11:58:46.42 ID:yBf3Hcveo
仕方ないので後で連絡の取れる男子三人に予定を訊いてみようと思った。
仮に全員揃ったとして、人数はゆうに十人を超える。

増えすぎだろ。

ちょっと怖い。

そんなふうにして一日が過ぎていった。


翌日、妹は幼馴染と一緒に出かけた。水着を買いに行くらしい。
水着て。

暑いからプールに行きたいらしい。
一人家に取り残されて、俺は暇を持て余していた。

夏休みの過ごし方としては、だらだら家でひとり過ごすというのも正しい気がする。

暇だったのでテレビをぼんやり眺める。
すぐに飽きた。
麦茶を飲みながら静かに時間を過ごす。

課題やってねえ、と不意に思った。
でも、めんどくさい、と思った。

そういえばバイトしようと思ってたのも忘れていた。
まぁいいか、と思う。

ダメ人間ここに極まれり。




470:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/03(水) 11:59:13.10 ID:yBf3Hcveo
暇なのでゲームをする。
なぜかちっとも楽しめない。

仕方ないので昼寝をする。
目が覚めた頃には夕方だった。

一日があっという間。
夏休み、という感じ。

夜は妹と二人で食事をとった。
穏やかな日々。

「今度プール行くってことになったけど、お兄ちゃんも行く?」

「行く」

当然。

いい年して一緒に遊びに行く相手が妹以外にほとんどいないってどうなんだろう。

マエストロは基本的に趣味に没頭するタイプだし。
サラマンダーは自分の世界に閉じこもってるし。
キンピラくんとは微妙に距離があるし。

友達ほしい。

その夜は暑くて寝苦しかった。




478:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋):2011/08/03(水) 13:41:20.37 ID:NHySJbzxo
あれ……幼馴染至高派だったはずなのに屋上さんよくね……?





480:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府):2011/08/03(水) 15:13:31.72 ID:FT3HiX3ao
屋上さん最高




485:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東):2011/08/03(水) 19:58:14.74 ID:NGp2BPtAO
屋上さんやっぱりイイネ(*´∇`*)




486:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/03(水) 23:48:37.72 ID:cULSTqiJo
でもやっぱり妹が可愛いいな




487:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/04(木) 00:09:42.62 ID:HU//MsLDO
では俺は後輩と趣味が合いそうなので貰っていきますね




494:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/04(木) 10:39:08.62 ID:yBf3Hcveo
翌日は部活があった。
最近、ろくでもない生活を送っている気がする。

目を覚ます。食べる。寝る。起きる。食べる。寝る。食べる。寝る。遊ぶ。寝る。
課題してない。

さすがにまずいよな、と学校に課題を持ち込む。どうせやることがない部活。
なんだか気が抜けている。
遊んでばかりだからだろうか。

このままじゃいけない、と思うが、何がいけないのかが分からない。

よくよく考えれば学生の夏なんてだらけているのが当然という気もする。

ひんやりとした校舎。
音が遠く聞こえる下駄箱に響く、上靴が床を叩く音。
自分の起こす音だけが、やけに大きく聞こえる世界。

太陽は相変わらず喧しいような光で地上を照らしている。緑の木々が潤んだ風に揺れて、ひそやかに夏を彩る。
木漏れ日の下の水道に、休憩中の運動部が笑いながら近付いていく。
体育館から響くボールが跳ねる音。掛け声。グラウンドからバッドとボールがぶつかり合う音が聞こえる。
吹奏楽部の練習の音。廊下の途中で通った教室で、誰かが話す気配。




495:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/04(木) 10:39:36.73 ID:yBf3Hcveo
部室に向かう途中で、ちびっこ担任と出会った。以前とあんまり変わった様子はない。

「おう」

「どうも」

言葉を交し合う。あんまり個人的に言葉を交わしたことがない。そもそも教師があまり得意ではなかった。

「どう? 調子」

「何の?」

「いや。いろいろ?」

ちびっこも、訊ねておいて困っているようだった。彼女の立場で想像すると、確かに「いろいろ」としか言いがたいかもしれない。

「まぁ、そこそこ充実した夏を送ってますね」

「妬ましいな。呪われろ」

自分から訊いておいて呪うこともないと思う。

「まぁ、ほどほどにな」

大人っぽい言葉を投げかけられる。




496:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/04(木) 10:40:03.47 ID:yBf3Hcveo
部室に行く。やっぱり来ている部員は少なかった。
それでも部長はいる。彼女は窓際の椅子に腰掛けて本を読んでいた。

ドアを開けて部室に入ったとき、その音に気付いた部長が顔を上げた。
話しかけるのは邪魔になる気がして、頭を下げるだけにとどめる。

適当な位置に荷物を下ろして課題を進める。
開けっ放しの窓から入る風が、日に焼けた薄いカーテンを揺らしていた。

静かな時間。
数人の先輩たちが一箇所に集まって話をしていたけれど、それは気をつければ聞こえないほど小さな声だった。
休み前の騒々しさと比べると、あってないようなものとすら言える。
部室はやけにひんやりと涼しかった。

自分でも驚くほど集中して課題を進められた。静かな時間。こういうのも、たまには必要なのかもしれない。


部活を終えて家に帰る。玄関のドアを開けなくても、中で人が騒いでいるのが分かった。

妹、幼馴染、タクミくん。
屋上さん、後輩、るーちゃん。

すっかり遊び場にされてしまった様子だった。

リビングに入ると、みんながいっせいに俺の方を見た。一瞬動揺する。

彼女らはそろって「おじゃましてます」と言ってから、またがやがやとした騒ぎの中に戻っていった。
なぜこうなった。




497:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/04(木) 10:40:32.90 ID:yBf3Hcveo
幼馴染は俺の方を見て少しだけ申し訳なさそうな顔をした。

「来たらいなかったから」

いなかったから?」

「勝手にあがったの」

だろうね。
妹がいたから勝手とは言いがたいけど。

屋上さんの方を見る。彼女は気まずそうに目を逸らした。

「一応、メールしたんだけど」

ポケットから携帯を取り出す。マナーモード。メールが来ていた。
俺が悪かった。

「うちの兄は人気者のようで大変誇らしいです」

妹は不機嫌を隠そうとするとき敬語になる。
なぜ機嫌が悪いのかはちっとも分からない。




498:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/04(木) 10:41:06.62 ID:yBf3Hcveo
こんなに人数がいては収拾がつかない。

「よし、タクミくん、るーちゃん! ザリガニ釣りに行こうぜ!」

「暑い」

「ジュース買ってくれます?」

ノリの悪い子供たちだった。

るーちゃんに至っては、「遊びに行きたい子供に仕方なくついていく年上の姉」みたいな雰囲気すら滲ませている。
なんだろうこの気持ち。ちょっといいかもしれない。
嘘だ。

「なんだよもう、どうしろっていうんだよ」

「どうもしなくていいんじゃないすか」

後輩が楽しそうに笑う。
じゃあもうどうもしなくていいや。

「先輩、私とオセロします? オセロ」

「なんでオセロ?」

「あったからです」

後輩とオセロをする。
るーちゃんとタクミくんは――もうめんどくさいので「るー」と「タクミ」でいいや。二人は仲良くアニメのDVDを見ていた。
ぶっちゃけサラマンダーとマエストロに押し付けられた深夜アニメなのだが、楽しんでいるならいいだろう。そのうちパンツシーンが来る。
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B0041OT5KW/minnanohima07-22/ref=nosim/




499:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/04(木) 10:41:52.74 ID:yBf3Hcveo
麦茶を飲む。幼馴染と屋上さんが何か話をしていた。今度いくプールの話。幼馴染が屋上さんを誘っているらしい。

「先輩、ひょっとして迷惑でした?」

後輩が言う。

「なにが?」

「来たの」

「まさか」

本音だった。にぎやかなのは嫌いじゃない。騒がしいのは好きじゃないけど、意味が違う。
赤の他人の子供の泣き声と、親戚の子供の泣き声くらい、意味が違う。

「さ、勝負勝負」

後輩とオセロをしている間に、子供たち二人は眠ってしまった。
よく寝るなぁ。もう昼寝が必要な年齢でもないだろうに。
それだけはしゃいでいたのだろうか。

ジャンケンで食料の買出しにいく人間を決める。いっそ準備しておけばいいのかもしれない。

当然のように俺が負ける。
もう一人は後輩だった。

毎日のようにコンビニで金を浪費している気がする。
このままじゃいけない、と思う反面、夏だし、アイスくらい誰でも買うよな、という言い訳がましい部分もあった。




500:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/04(木) 10:42:23.72 ID:yBf3Hcveo
「まぁ、なんだかんだでいい機会なのかもしれないです」

コンビニ帰り、ポッキーをかじりながら、後輩は不意にそんなことを言った。

「何の話?」

「うちのきょうだい」

何の話かが分からず、続きを待って口を閉ざす。後輩の言う言葉の意味がよくわからなかった。

「ぶっちゃけ、そんなに仲良くないんですよね。嫌いとかじゃなくて。なんというか……」

「距離を測りそこねている」

「そう、そんな感じ」

ようやく後輩が言わんとしていることを理解する。三姉妹の間に、どことなく距離がある、というのは俺も感じていた。
互いに直接言葉を交わすことが少ないし、会話するにしてもなぜか他者を中継する。

距離を測りそこねている感じ。




501:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/04(木) 10:43:18.20 ID:yBf3Hcveo
「いわゆる家庭の事情って奴で、まぁいろいろあるんですけど。るーは私にはなついてるけど、ちい姉には微妙に距離があるし」

そのあたりの機微は、会って間もない俺にはわからない。

「ちい姉も、何考えてんのか分かんない……という言い方するとあれですけど、あんまり思ってることを口にしないタイプなんで」

だから、いい機会なのかもしれないです、と後輩は言った。

「俺んちに集まって遊ぶのが?」

「まぁ、そう言われると微妙なんですけど」

後輩は人のよさそうな笑みをたたえた。どことなくほっとしたような微笑。

「先輩には期待してますよってことです」

「そんな抽象的な話をされてもな」

「でも先輩、具体的に事情を説明されてもいやでしょ」

「まぁ、本音を言えばね」




502:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/04(木) 10:43:46.62 ID:yBf3Hcveo
できれば、人間関係に対して責任を負いたくない。
どうしてもというのであれば仕方ないが、個人の問題は個人でかたをつけるべきなのだ。
物見遊山で人の事情に足を突っ込んで、ろくでもないことになるのは目に見えてる。

どれだけ親しくなろうと、一定の距離は保つべき。
こういう考えも、やっぱり卑怯かもしれない。

「先輩、そういうタイプだし。あんまり頼られると、すぐに逃げ腰になる」

「遠まわしに臆病と仰っておられる?」

「あんまり嫌いじゃないですよ、そういうの」

臆病の部分は否定してもらえなかった。
後輩はポッキーをかじりながら軽快に歩く。

なんだかな、という気持ち。
買いかぶりすぎじゃないだろうか。




503:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/04(木) 10:44:19.11 ID:yBf3Hcveo
家に帰ると、るーとタクミはまだ眠っていた。
二人を除く三人は、なぜかテレビゲームで白熱している。

妹と幼馴染の順位は伯仲していたが、屋上さんはぶっちぎりのトップだった。

「おかえり」

おかえり、といわれるのも、なんだか変な気分。

三時頃、眠っていて昼を食べ損ねたるーとタクミのために、妹がホットケーキを焼いた。

「俺にも!」

二人に混じって要求する。

「子供の分を取り返そうとするな、バカ兄」

叱られた。




504:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/04(木) 10:44:54.81 ID:yBf3Hcveo
夕方頃には幼馴染とタクミは家に帰った。タクミはあと二週間ほどはいる予定だと言う。
夏祭りがあるな、と思った。
妹の浴衣のことも考えておかなければならない。

三姉妹は疲れた様子だった。

「遊び疲れた?」

「みたいです」

るーは眠そうに瞼をこする。
ずいぶん馴染んだな、と感じる。
屋上さんは、うちにきている間もたまに眼鏡をかけるようになった。どういう心境の変化かはわからない。
髪は相変わらずほどいていた。法則が読めない。

帰り際、後輩が口を開いた。

「明日あたり、どっか行きます?」

「どっかって?」

「どっかっす」

丸投げ。

「あー、じゃあ、まぁ、そのー、えー。モールとか?」

かなり適当だった。どうでもいいことだが、いつのまにか明日もうちに来ることが決定していた。

「おっけいです」

おっけいが出た。
人ごみを思うと憂鬱になる。




505:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/04(木) 10:45:22.29 ID:yBf3Hcveo
しばらく三人の後姿を見送っていると、不意に屋上さんがこちらを振り向いた。

既視感。
どこかで見たことがあるような表情。

たぶん、錯覚だろう。

少し早い夕食をとってから、静かな家の中でテレビを見ているのが妙に寂しく思えて、洗いものをする妹を後ろから抱きしめた。
「動きにくい」と言われただけだった。

余計寂しくなったので、何も言わずにソファに戻る。

なんだかなぁ。
最近、自分が分からない。
だんだん落ち着かなくなっている。

なんだろう、これ。

変なかんじ。




506:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/04(木) 10:45:48.47 ID:yBf3Hcveo
翌日、揃ってショッピングモールまで足を伸ばす。
大人数で動きすぎて統制が取れない。本来取る必要はないのだが、はぐれそうで不安になる。とくに子供が二人もいると。

後輩とるーが手をつないでいた。なんとなく理解する。
タクミも幼馴染と手をつなぐ。親戚だから当然だった。

「俺たちもつなぐ?」

「その冗談、面白くないから」

妹はやっぱり辛辣だ。

女性陣は浴衣やら水着やらを見たいようなので、気を利かせて子供たちを引き受ける。
あとでこの二人の水着についても確認しておかなければならない。

妹には、あらかじめ多めの金額を渡しておいた。
もともと妹と俺の小遣いは親から別々に与えられているけれど、何か必要になったときの予備費などを、何種類かに分けて管理しているのは俺だった。
ちなみに妹は食費関係を管理している。たぶん妹に全部任せたほうが家計には優しいだろうが、兄として何の責任も負わないのは忍びない。

俺は子供をつれて時間を潰すのにもっとも都合のいい一角へと身を投じた。
アミューズメントパーク。ゲームセンター。

「いいか、このあたりは音がすごいから絶対にはぐれるなよ、二人とも。はぐれたら見つけられないから」

強めの口調で脅かす。二人の表情に緊張が走った。




507:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/04(木) 10:47:04.20 ID:yBf3Hcveo
「まずは修行だ。るー、何か欲しいプライズはあるか?」

「プライズってなんですか?」

「景品って意味だ。用例を挙げると『彼女はUFOキャッチャーのプライズを物欲しそうな顔で見つめていた』となる」

「ひとつ賢くなりました」

「で、あるか? 欲しいプライズ」

「じゃああのぬいぐるみで」

るーはUFOキャッチャーのプライズを物欲しそうな顔で見つめていた。キャラモノのぬいぐるみ。

「タクミ、いいか。男には、女が欲しがっているものを常に提供できる能力が必要とされる」

「なぜ?」

タクミはどうでもよさそうに訊ねた。

「モテるためだ」

「俺、モテなくてもいいよ」

「強がるな!」

俺は渾身の力を込めて叫んだ。
周囲の温度が少しだけあがった。




508:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/04(木) 10:47:43.15 ID:yBf3Hcveo
「男として生まれたからには女にモテたいものなんだよ! 自然の摂理! 本能なの!」

るーが面白そうにこちらを眺めていた。サーカスの観客みたいな顔。俺は珍獣か。
タクミは気圧されたように頷いた。

「わ、分かった」

「では、女にモテるために求められる男としての能力とはなんだろう? タクミ少年」

「え、えっと……」

「そう。その通り。UFOキャッチャーのプライズを手に入れる技術だ」

「まだ何も答えてないんだけど」

「こればっかりは練習してコツを掴むしかない。栄えある未来を手に入れるために立ちふさがる試練だと思え」

「絶対に必要なタイミング来ないよ、その技術」

不服そうにするタクミに、一度実演してみせることにする。

るーが欲しがっていたプライズの入っている筐体を選ぶ。小銭を投入。
挑戦する。

失敗する。

「……とまぁ、こういうこともある」

「先生、頼りないです」

るーが楽しそうにくすくすと笑った。




509:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/04(木) 10:48:22.73 ID:yBf3Hcveo
もう一度小銭を投入する。

失敗する。

「……まぁ、その、なんだ。こういうときもある」

「先生、とれないんですか?」

「とれないんじゃありません。ほら、タクミ、やってみろ」

小銭をみたび投入して、タクミに操作させる。

あっさり取った。

「取れたけど」

「ええー……」

なんだこの状況。神が俺をいじめているとしか思えない。

「ほら」

タクミは取り出し口に落ちてきたぬいぐるみをるーに手渡した。
こいつ、取った後の微妙な駆け引きまでできてやがる。
具体的にいうと、あまり露骨な感じにならず、あくまでそっけなくぶっきらぼうに振舞うが理想的なのだが、そこまで忠実にできている。

負けた。小学生に。完璧に。

これが主人公属性か。生まれて初めて目の当たりにした。末恐ろしい。

「ありがとう」

るーはタクミに笑顔でお礼を言った。

まぁいいか。見てて微笑ましいし。




510:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/04(木) 10:49:20.31 ID:yBf3Hcveo
昼時に一度集合してフードコートへ向かう。ただでさえ混雑していた中で空いている席を見つけるのは困難だった。
モール内のレストランの受付で記名して席が空くのを待つ。

しばらく待ってから席に案内される。昼時とはいえ、時間が流れれば席も空く。

七名。
ぶっちゃけ狭い。

テーブル席に案内されたものの、明らかに人数オーバーだった。食器も置ける気がしない。

仕方ないので、俺と妹だけ他の店で軽く済ませることにした。

「買い物、終わったのか?」

話の種にと訊ねると、妹は小さく頷いた。

「私のはね。お姉ちゃんがまだだけど」

幼馴染は買い物は長い。
対して妹の買い物が短いのは、いつも誰かと一緒に行くせいで、気を遣って早めに済ませるのが癖になっているからだろう。




511:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/04(木) 10:49:48.09 ID:yBf3Hcveo
「そっちはどうだったの?」

「なにが?」

「タクミくんとるーちゃん」

どうしたもこうしたもない。

「二人とも俺よりよっぽど大人です」

「まぁ、だろうけど」

冗談のつもりが、本気で肯定されて落ち込む。

「いや、冗談だよ?」

妹は後になってフォローした。落として上げるのは心臓に悪いのでやめていただきたい。




512:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/04(木) 10:51:01.41 ID:yBf3Hcveo
買い物は結局、夕方まで続いた。
帰る頃には東の雲が紫に染まっていた。肩を並べて歩く。
通行人の邪魔をしないようにと歩道を歩くと、どうしても縦に長い列になる。
すると自然と、会話に混ざれる人間と混ざれない人間が出てきて、俺はどちらかというと後者になりやすい人間だった。

なんだかなぁ、という気持ち。
置いてけぼりの気持ち。

幼馴染、妹、後輩が並んで話をしている。
その少しうしろを、るーとタクミが並んで歩いている。

屋上さんが、そのうしろ。
俺がさらにうしろ。

「屋上さん」

「なに?」

一瞬、何かが頭の隅を過ぎった。
すぐに思い出す。休みに入る前、屋上で彼女に声をかけたときと、反応が似ていた。

でも、似ているだけで、ちょっと違う。髪形とかいろいろ。




513:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/04(木) 10:51:34.29 ID:yBf3Hcveo
「なんでもない」

何かを言おうとしたのだけれど、何を言おうとしたかは思い出せなくて、結局そう言うしかなかった。
屋上さんは特に不審にも思わない様子で、また前を向き直る。
会話はないけど、悪くない。

でも、なんだかなぁ、という気持ち。

もうちょっと。

というのは贅沢か。

まぁ、今はいいか。

帰る途中で幼馴染たちとは別れた。妹と俺も、三姉妹を見送って家に入る。
るーが抱えたぬいぐるみが目に入った。

なんだか、似たような光景を見たことがあった。
思い出そうとしてもなかなかうまくいかないので、仕方なく諦める。
重要なことなら、そのうち思い出す。そうでないなら、忘れていてもかまわない。

その夜は涼しかったが、翌朝は虫刺されがひどかった。




533:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都):2011/08/05(金) 03:28:55.31 ID:JybAU/U+o
なんか絶妙だな。バカすぎず、慎重すぎず。かといって半端でもない。
アンニュイな雰囲気とカラッとした台詞回しが各キャラを生き生きとさせている。




534:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/08/05(金) 10:51:58.03 ID:bB/E4vso0
チェリーと後輩は幼馴染を通して知り合ったから、幼馴染と屋上さんが顔見知りなのは当然。

でもそれだと、屋上さんもチェリーと同じ中学校だったことになるから、チェリーと屋上さんの面識が
なかったのがちょっと不思議になる。そもそも幼馴染は後輩はチェリーに紹介したけど、その姉である
屋上さんは紹介しなかったことになる。




538:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/05(金) 11:33:26.73 ID:yBf3Hcveo
>>534
幼馴染と屋上さんが初めて話をしたのは高校に入ってからで、
描写してませんでしたが、幼馴染が後輩と屋上さんが姉妹だと知ったのは主人公に引き合わされたとき(>>464)です




464:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/03(水) 11:55:51.17 ID:yBf3Hcveo
迎えに行くとメールして、玄関を出た。いったい何が彼女らをそこまで駆り立てるのか。

ちょっと歩くと、三姉妹が歩く様子が見えた。
屋上さんが気まずそうな表情をしているのが分かる。

家に連れて行く。寝ているタクミくんと二人の少女を見て、るーちゃんが「どっちが恋人ですか?」という。どっちも恋人じゃない。

幼馴染は意外にも屋上さんと面識があったようで、すぐに話を始めた。
妹は後輩に挨拶をしながらこちらを睨む。なぜ?

そういえば、幼馴染以外の女子を家にあげるなんて初めてだった。
混乱する。

るーちゃんは俺に会いにきたはいいものの、何を話せばいいのか分からずに戸惑っている様子だった。
仕方ないのでみんなでトランプを始めた。
人数は大したものだった。俺、妹、幼馴染、屋上さん、後輩、るー、それにタクミくんが目覚めると七人になる。

これだけの人数がいるにもかかわらず、なぜか俺が負けた。

昼過ぎに、食料を求めてコンビニへと歩いていくことになった。
ジャンケンによって選出された二名が。

やっぱり負けた。
もう一人は屋上さんだった。

話をしたかったので、ちょうどいい。
が、最近ちょうどいい偶然が起こりすぎているような気もする。

頭の中でずっとエンターテイナーが流れている気分。




539:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/05(金) 11:34:08.17 ID:yBf3Hcveo
やたらと集まる回数は増えたものの、まったく誰とも会わない日だってないわけじゃない。
幼馴染と屋上さんが両方とも部活でいないときは、家には誰も来なかった。

昼過ぎにマエストロからメールが来る。久しぶりに会わないかという内容。
せっかくなのでサラマンダーとキンピラくんも呼んで、ファミレスで会うことにした。ファミレス超便利。

実際に会ってみると、話すべきことがないことに気付いて唖然とする。

「今日まで何してた?」

「寝てた」

「息してた」

「うぜえ死ね」

こんな感じ。暴言を吐きつつも集合してくれるキンピラくんはどう考えてもツンデレです。

男四人で向かい合って沈黙する。
暇を持て余していた。

普段だって何かを話しているわけではないのだが、久しぶりに会ったせいか、何かを言わなくてはならないような気になってしまう。

とはいえ、話すことは何もないので、

「暇だな」

「うん」

こんなやりとりを繰り返すばかりだ。




540:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/05(金) 11:34:42.67 ID:yBf3Hcveo
ふと、ユリコさんに誘われたバーベキューの話をするのがまだだったことを思い出す。
彼らは三者三様の反応を見せた。

「肉あるか?」

「あるんじゃない? バーベキューだし」

「ならいく」

サラマンダーは三大欲求に正直だ。

「女いる?」

「いるけど、おまえその発言はどうなんだよ」

マエストロも三大欲求に正直だ。

「俺、休み中は起きれるかわかんねえから」

キンピラくんも三大欲求に正直だった。
欲の権化。
ある意味男らしい。




541:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/05(金) 11:35:15.92 ID:yBf3Hcveo
「行けたらいくわ」

三人は魔法の言葉で話を終わらせた。

しばらく沈黙が落ちる。
みんな、会話なんてなくてもいいと思ってるのかもしれない。面倒になって考えるのをやめた。
友達ってそういうもんだろうか。話すことが何もなくて、会話が途切れても、不安に思わない関係。

だとすると、沈黙を不安がってしまう俺は、いったい彼らをどう思っているんだろう。
ひょっとしたら気を遣いすぎているのかもしれない。もうちょっと図々しくなってみようかな。

そのあとは、考え事をしながらマエストロの独り言に耳を傾けて時間を潰した。

「分かるか? 俺は彼女が欲しいんじゃない。ただ女の子にちやほやされたいんだ」

マエストロはいつだって欲求に素直だ。




542:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/05(金) 11:35:55.12 ID:yBf3Hcveo
家に帰ると、妹はいなかった。友達とどこかに遊びに行っているのかもしれないし、一人で買い物にいったのかもしれない。

やることがないので、部屋に戻って課題を進める。少しずつではあるが、終わりが見えてきた。
それでも、暑さのせいでなかなか集中できず、結局ベッドに寝転がってだらだらと時間を潰すことにした。

ごろごろと転がる。
最近、周囲がずっと騒がしかったからか、ひとりでいるとなんとなく手持ち無沙汰な感じがする。

暇。

「ひーまー」

口に出してみる。
退屈が増した気がした。

「うあー!」

暑いので無意味に叫ぶ。
よけい暑くなる。

何をやっても逆効果、という日もある。

妹は日没前には帰ってきたが、俺の落ち着かない気分はちっともなくならなかった。
なんだか落ち着かない日。

こういうこともある。




543:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/05(金) 11:36:32.68 ID:yBf3Hcveo
夕食を済ませた後、妹とリビングでだらける。

「なんかないの?」

妹も妹で暇を持て余している様子だった。「なんか」といわれても困る。
映画でもかけようかと思ったが、大抵のものはもう観てしまっていた。

仕方なく『2001年宇宙の旅』をかける。妹は開始三十分で眠ってしまった。
途中で最後まで見るのを諦める。時間を浪費している気がした。

ひどく蒸し暑い。寝るかという時間になっても、なかなか睡魔がやってこなかった。
夜中にベッドから起きて台所に下りる。冷蔵庫を開けて、麦茶をコップに注ぎ、いつものように飲み干した。

落ち着かない気持ちのまま、ふたたびベッドに潜り込む。
実際に眠れたのは、結構な時間が過ぎてからだった。




544:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/05(金) 11:37:31.75 ID:yBf3Hcveo
ある朝、妹に体を揺すられて目を覚ますと、部屋には幼馴染とタクミがいた。

「プールに行こう」

幼馴染が楽しそうに言う。
仕方なく起き上がり、全員を追い出して着替える。プール。そういえば水着はどこにやったんだったか。

準備を終えてリビングに下りる。妹が朝食を作っていた。
なぜだか幼馴染たちの分まである。食べて来い。いや、別にいいのだけれど。

どうやら屋上さんたちには既に連絡してあったらしい(というより俺以外の人間にはあらかじめ知らされていたようだ)。

集合時間に合わせて移動する。主導したのは幼馴染だった。
彼女は妙にはしゃいでいる。もともと暑いのが苦手で、泳ぐのが好きというタイプだからか。

市民プールにつくと、駐輪場の屋根の下に三姉妹がいた。

このあたりにはあまりプールがないので仕方ないのだが、このプールはあまりよろしくない。

男子更衣室の窓が割れてたりする(ダンボールで補修されている)。
けっこう狭い(というか狭い)。
人気があまりない。人があまりいない。

言っても仕方ないことだし、とりあえずプールには違いないのだが。言い方を変えれば穴場でもある。




545:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/05(金) 11:38:30.13 ID:yBf3Hcveo
学生の身分では入場料は高くつく。妹の分と自分の分を払う。タクミの分は幼馴染が払った。
俺が出すかとも考えたが、それは少し違うだろう、と自分で否定する。

更衣室はとうぜん男女で分かれているので、タクミは俺が引き受けることになった。
よく考えると男女比が2:5。
倍以上。恐ろしい。

やっぱり更衣室の窓は割れていた。まさか女子更衣室の窓まで割れているとは思わないが、これはちょっとした怠慢ではないだろうか。

着替えを終えてプールに出る。

タクミと一緒に軽めの準備運動をする。女勢はまだ時間がかかりそうだった。少しの間待機する。待つ時間は苦にはならなかった。

更衣室から最初に出てきたのは後輩とるーだった。
次いで妹。少し間をおいて幼馴染。一番遅かったのは屋上さん。

立ち並ぶ女性陣からとっさに目を逸らすと、幼馴染が不思議そうに首をかしげた。

「なんでそっぽ向いてるの?」

「眩しいから」

童貞には強すぎる光なのです。




546:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/05(金) 11:39:38.35 ID:yBf3Hcveo
当然といえば当然だが、水着姿を積極的に見られたい女子はいないようで、みんなあちこちに散らばっていった。
おかげで目のやり場に困るようなことはなくなったが、少しばかり残念という気もする。
まじまじと見ることなんて、どうせ出来やしないのだが。小心者だから。

「でも先輩、ちゃんと見ないとだめですよ」

後輩がからかうように言う。

「よせ、俺を弄ぶな。分かってるんだぞ、どうせ実際に見たら見たで変態扱いされて両方の頬に平手打ち食らう展開が待ってるんだ」

「やー。でもほら、水着って見られることを想定して選ぶものですし」

「そんなわけあるか。男にあんな露出の激しい格好見られたいと思う女がどこにいる」

俺は目を覆った。童貞には刺激が強すぎる。下手をすると大変なことになる。主に下腹部周辺。

「そこまで拒否されると、何としても見てもらいたくなるんですけど」

「じゃあほどほどに見るから早く泳ぎに行くんだ」

後輩は仕方なさそうに去っていった。
取り残されたのは俺とタクミの二人で、彼は俺の方をちらりと見て、やれやれというみたいに肩をすくめた。
子どもに子ども扱いされた。

そう間を置かず、幼馴染とるーがタクミの名前を呼んだ。彼は返事をして駆け出す。プールサイドを走るな。

一人取り残される。

「……なんだろう、この寂しい感じは」




547:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/05(金) 11:40:15.22 ID:yBf3Hcveo
仕方ないので一人で泳ぐことにする。
子供たちは底の浅いプールで水をかけあってはしゃいでいた。
楽しそう。

幼馴染と後輩が、るーとタクミの面倒を見ていた。

妹がいないことに気付いて探す。流れるプールで流されていた。

屋上さんはどこだろう、と周囲を見回すが、みつけられない。

「何してるの?」

と思ったら、後ろから声をかけられた。

「いや、何してるのというか」

普通に驚く。
とっくにどこかに行ったものと思っていた。

「屋上さんこそ何をしておられるのか」

「いや、みんながどこにいるかわかんなくて」

「なぜ?」

「視力が……」

そういえば、彼女は眼鏡をしていたっけ。

「普段はコンタクトなの?」

「そう」

納得する。確かにプールで泳ぐのにコンタクトをするわけにもいかないだろう。
視力が悪い人って、水泳のときはどうしているんだろう。度の入ったゴーグルでもあるんだろうか。




548:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/05(金) 11:40:44.07 ID:yBf3Hcveo
「ぜんぜん見えない」

彼女は目を細めてなんとか周囲を見ようとしていたが、効果があるようには思えない。相当悪いらしい。
とりあえず屋上さんを幼馴染たちと合流させる。さすがに近くまで行けば分かるだろう。

「お兄さん、どこにいくんですか?」

すぐさま退散しようとした俺を、るーが目ざとく見咎めた。侮れない。

「泳いでくる。二〇〇メートルくらい」

「二往復ですか。がんばってください」

別に水着だからと過剰に意識しているつもりはないのだが、かといってあんまり近付くのも気まずい。
いや、だって、ねえ?

恥ずかしいし。
男の恥じらいなんて気持ち悪いだけだけど。

水着って露出多いじゃん。
見てるこっちが恥ずかしい。
小学生の頃、漫画を読んでいるとき、誰に見られているわけでなくとも、ちょっとエッチなシーンがあったら読み飛ばしていたものだ。
ああいう気持ち。

競泳用プールをきっちり二往復してから、周囲を見回す。ちょうどウォータースライダーから落ちてくる後輩の姿が見えた。
そういえば、大人びてはいるけれど、あいつだって中学生か。俺たちとはひとつしか違わないけれど。

……今年受験じゃね?

考えないことにした。




549:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/05(金) 11:41:36.55 ID:yBf3Hcveo
子供向けの浅いプールに、膝まで浸して座った。
運動自体久々だったせいか、全身がさっそく痛み始める。

これはまずくないだろうか。
運動不足。
何か手を打たねばなるまい、とひそかに思った。

不意に、足が引っ張られる。
何事と目を向けると、るーが俺を水の中に引きずり込もうとしていた。

目が合うと、彼女はにっこりと笑った。
天使の笑顔だった。超癒される。でもやってることは小悪魔レベル。
もし深いプールだったら洒落にならないところだ。

「るー、泳げるの?」

「泳げません」

彼女はにっこりと笑った。

「……練習しようか」

「いやです。怖いです」

「中耳炎か何かとか?」

「健康そのものですけど」

「泳ごう」

「だめです! 水の中って息できないんですよ? 宇宙みたいなものじゃないですか! 息ができないと人間って死んじゃうんですよ!?」

意味不明の言い訳をされる。宇宙とはわけが違う。泳げるようにできてるわけだし。




550:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/05(金) 11:42:32.65 ID:yBf3Hcveo
「いいじゃん、教えてもらいなよ」

後輩が気安げに言うと、るーは絶望的な表情になった。
だんだんかわいそうになってくる。

「溺れなければ大丈夫だから」

「泳げないから溺れるんだよ?」

「練習しないから泳げないんだよ」

るーはしばらく抵抗を続けていたが、結局諦めたようにうなだれた。力が抜けて体が浮く。おもしろい。

「ひとごろしー……」

「人聞きの悪い」

「ひとごとだと思って」

「ひと繋がりはもういいから」

水の中で遊ぶこと自体に抵抗はないようだし、犬掻きくらいは出来ている。
つまり、顔をつけるのが怖いのだろう。

顔を洗うときに洗面器で息とめてみたりしないのかな。
いや、普通の人がするものかは分からないけれど。

力を抜いて身体を浮かすくらいのことはできている様子。
借りてきたビート板を持たせる。

「はい、手を伸ばす」

「……怖いんですけど」

「水はともだち。怖くない」

なるべく優しい声音で言う。
逆に警戒されてしまったようだった。なぜ?




551:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/05(金) 11:43:31.41 ID:yBf3Hcveo
「息を止めて顔を水につける。ちょっとでいい」

るーは本当にちょっとだけしか顔を水につけなかった。
どうしたものか。
根気か。根気しかないのか。

俺がどう教えたものかと途方にくれていると、横合いからタクミが現れた。

「無理しなくてもいいんじゃない? 泳げないと死ぬってわけでもないし」

るーは救いの神を見つけたかのように瞳を輝かせた。
なんだこの態度の違い。

「いいこと言った。今、タクミくんはいいことを言いました。お兄さん、スパルタはもう終わりです」

「あれー? なんだろうねこの俺が悪者みたいな空気は」

スパルタというつもりはなかったのだが。というか、最大限の優しさをもって接したつもりだったのに。
ビート板か。ビート板が悪いのか。やっぱり浮き輪にするべきだったか。

打ちひしがれてプールからあがる。なんだこの徒労感は。
うしろから、るーに声をかけられる。

「冗談ですよー?」

分かってます。プールサイドでは屋上さんと妹が並んで休んでいた。
るーとタクミは幼馴染たちに任せて、ふたりのところに行くことにした。




552:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/05(金) 11:43:59.72 ID:yBf3Hcveo
「つかれた」

妹がぼやいた。
濡れた髪。一通り泳いだ様子だった。もともとあんまり運動が得意な奴じゃないので、長時間泳ぎ続けるのはつらいのだろう。
屋上さんの方は髪の毛先が少し濡れている程度で、あまり水泳後という感じがしない。

「泳がないの?」

「私、からだ動かすの苦手だし」

今日の目的の根底を覆す発言だった。いつも陸上部で軽快に走ってるのに。

「せっかくなのに?」

「うん。せっかくだから流されてきた。流れるプールで」

「どうだった?」

「寒い」

そりゃあ身体を動かさなければそうだろう。




553:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/05(金) 11:44:45.02 ID:yBf3Hcveo
満足行くまで遊んでから、プールを出る。ふたたび更衣室前で別れて、ロビーで集合した。
一緒に昼食をとることになったが、人数と時間帯の面で考えるとあまり行ける場所が思いつかない。

仕方が無いので、俺の家に集まることになった。なぜか。
帰りに食料を求めてコンビニに寄る。近頃本当にコンビニばかりだ。まずいような気がする。

幼馴染とタクミは一度帰ることにしたらしく、まっすぐ帰路についた。

残された俺と妹、三姉妹は、暇を持て余す。

「つかれたー」

家に帰ってすぐ、妹がソファに倒れこむ。珍しいことだ。普段だったら客人の前でこんな姿を見せたりはしないのに。
それだけ疲れていたのか、それだけはしゃいだのかのどちらかだろう。

しばらくゆっくりとした時間が流れる。妹はともかく、るーと後輩まで、いつのまにか眠っていた。

残された俺と屋上さんは、互いに何も言わずに押し黙った。

何を言えばいいやら。
付けっぱなしのテレビの音量を下げる。台風が近付いているらしい。

沈黙に耐えかねて、屋上さんに声をかける。

「アイス食べる?」

「うん」

彼女の返事は短い。
落ち着かない。

距離が縮まっているようで、やっぱり縮まっていないような。




554:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/05(金) 11:45:14.06 ID:yBf3Hcveo
アイスをかじりながら、また黙る。

ふたたび口を開く。どうも気まずい。

「屋上さん、課題進んでる?」

「終わってる」

「……あ、そう」

早めに済ませるタイプらしい。
どう話を続けるべきか。

……こうなると、そもそも会話する必要があるだろうか、という気分になる。
屋上さんは会話がなくても平然としていて、むしろ俺が話しかけたときほど居心地悪そうにしている気がする。

「あのさ」

不意に彼女は口を開いた。緊張したように表情が強張っている。
まずいことしたかな、と思考を巡らせた。そう考えると山ほど落ち度があるように思えてしまう。

「いや、別にそういうんじゃなくて」

「そういうのって?」

「だから、その、さ」

彼女は何かを言いたそうにしていた。何かを言いたいのだけれど、上手く言葉にできないような、もどかしそうな表情。




555:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/05(金) 11:45:40.41 ID:yBf3Hcveo
「私、あんまり人と話すの、得意じゃないというか」

「……うん」

相槌を打って、続きを待つ。急かすような態度をとらないように、そっけなくなりすぎないように注意しながら。

「だから、別に、話すのが嫌とかじゃなくて」

ゆっくりと、なんとか伝えようともがくみたいに、彼女は言った。
――人と話すのが、あまり得意じゃない。

「……うん。なんかもう、上手く言葉にできないけど、そんな感じだから」

彼女はそれを最後に、また言葉を切った。
また沈黙。その静けさには、さっきまでとは違う意味があるように思えた。

彼女が、人との会話を難しいと思っていることは分かった。
でも、それを今言ったのはなぜだろう。

深読みすれば、とても都合いいように解釈すれば、「話すのを嫌がっていると思われたくない」となるわけで。

それはつまり。
深読みすれば。
過大解釈すれば。




556:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/05(金) 11:46:09.63 ID:yBf3Hcveo
自惚れるなよ、と内心で自分に言ったが、頬がゆるむのはどうもこらえられそうにない。

「何ニヤニヤしてんの?」

屋上さんが怪訝そうに眉を寄せる。

「いや」

短く否定する。彼女は仕方なさそうに溜息をついた。言ったことを後悔しているのかもしれない。

俺は浮かれそうになる気持ちを意識して押さえ込んだ。
どうせこの後、なんかよくないことが起こるに決まってる。

予定調和。

あるいは、俺の勘違いでしかないとか。
屋上さんの発言に、俺が考えてるような意図はなかったとか。

そのはずなのに、何分経っても、妹が起きて、後輩が起きて、るーが起きて、三人が並んで帰るときも、そのあとも、ちっとも悪いことは起こらなかった。

けれどその翌日、妹が風邪を引いた。




596:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/06(土) 11:40:43.42 ID:yBf3Hcveo
「油断した」

と、ベッドの中で唸りながら妹は言った。顔は火照っていて、息も少しつらそうだ。
うちの家族は、風邪になりにくいわりに、実際にかかると弱い。

「いつから調子悪かったんだ?」

「昨日の夜から、なんだか頭痛がするなぁ、とは」

「プールかな」

ほとんどプールサイドに上がって休んでたし。

「たぶん」

妹は疲れきったように溜息をついた。

「しんどい……」

「だろうな」

変に強がられると困ったことになるので、つらいときはつらいと正直に言うのが我が家のルールです。
それでも正直に言わなかったりするのが妹の困ったところではあるのだが。

「間接痛い。頭ぼんやりする。洟つらい。喉がいがいがする。全身だるい」

妹が鼻声で列挙した症状を頭の中で繰り返す。
俺の推理が正しければ風邪だ。
ていうか風邪だ。




597:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/06(土) 11:41:10.34 ID:yBf3Hcveo
「ゆっくり休むように。食欲は?」

「あんまりー」

間延びした声。ひょっとして俺もこんな感じだったんだろうか。

「でも、雑炊なら食べれる、かも」

「後で作る。欲しいものは?」

「愛とか」

うちの人間は自分がつらければつらいほど冗談を言いたくなる人種です。
俺の場合は周囲を茶化してるだけだけど。

「愛ならやるからさっさと治せ」

「うん」

妹はしおらしく頷いた。普段より態度が軟化していて、どうも調子が狂う。それだけ弱っているのだろうか。
たかだか風邪、と言えばそうだけど。
風邪を引いたときの、あの妙に心細い感じは、結構つらい。

台所に下りて冷蔵庫の中を確認する。玉子。野菜室。ネギ。
炊飯ジャーの中を覗く。問題ない。

作れなくはない。




598:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/06(土) 11:41:44.27 ID:yBf3Hcveo
正直、料理はあまり得意ではない。妹はもちろん幼馴染も食べさせたことがあるが、あまり評判もよろしくない。
味が濃すぎたり薄すぎたりするそうな。

粉末かつおだし(万能)を駆使して雑炊を作る。俺の料理は基本的に大雑把だ。

炊飯ジャーから茶碗一杯分のご飯を取る。ザルに移して軽く水で洗い、ぬめりを取る。
小さめの鍋に水を入れる。沸かす。ダシを入れる。米を投入。醤油、塩コショウ、めんつゆなどで味付け。刻んだネギ、卵でシメる。

完成。
五分クッキング。

味見する。

「熱ィッ!」

舌を火傷した。
味は悪くない。

昔は水の分量なんかで手間取ったものだ。料理を教える側だった祖母が感覚で作るタイプだったというのもあるが。

「具体的にどのくらい入れればいいの?」

「だから……このくらい?」

「このくらいってどのくらい?」

「だいたい勘でやってるから」

「勘なの?」

「うん。この量だから、たぶん……このくらい」

そんな祖母に教わっても上達はしたのだから、習うより慣れろというのは案外的を射ていると思う。
出来上がった雑炊を大きめの椀に取り分ける。スプーンの代わりにレンゲを用意した(形から入るタイプ)。




599:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/06(土) 11:42:25.01 ID:yBf3Hcveo
妹の部屋に持っていく。レンゲで雑炊をすくって冷まし、妹の口元に運んだ。

「自分で食べれるから……」

「火傷するから」

「大丈夫だって」

「俺なりの愛だから」

「愛はもうおなか一杯だから」

「いいから食べろって」

妹は仕方なさそうにレンゲを口に含んだ。
餌付けの感覚。
微妙に楽しい。

「塩コショウききすぎ」

妹は味に関しては手厳しい。

「まずいですか」

「そうは言ってないです」

催促されて、手を動かす。嫌がったのは最初だけで、二口目以降は食べさせられることに抵抗はなかったようだった。
半分くらいまで減ったところで、もう食べられないというので、残りは俺が食べた。




600:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/06(土) 11:42:55.80 ID:yBf3Hcveo
「熱測った?」

「七度二分」

微熱。そうひどくはないようだ。
とはいえ、甘く見ていたら悪化しかねないわけだし、どうせ休みなのだから、じっくり休んで治すべきだろう。

「ミカンとか桃とか、それ系の缶詰とか食べる?」

「今はいいや。それより、喉渇いた」

「他には何かある? 水枕いる?」

「大袈裟。そこまでしなくても大丈夫だから」

とりあえず水と薬を用意する。冷蔵庫の中にスポーツドリンクがあったので、それも持っていった。
どうしたものか、と思う。

ずっと傍にいるのも落ち着かないだろうと思い、自室に戻る。
なんとなくそわそわする。

三十分ほど時間をおいて部屋を覗きに行くと、妹はすやすやと眠っていた。
特に寝苦しそうな様子もない。ひとまずほっとする。もういちど部屋に戻ろうとしたところで、インターホンが鳴った。

玄関に出ると幼馴染とタクミがいた。

俺は妹が風邪を引いて寝込んでいることをふたりに告げる。
幼馴染はお見舞いをしたいと食い下がったが、眠っていることを言うとすぐに引き下がった。

「うつったらあれだし、今日のところは悪いけど」

「うん」

お大事にと言い残して、二人は去っていった。




601:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/06(土) 11:43:22.21 ID:yBf3Hcveo
三姉妹も来てしまうかもしれないと思い、屋上さんにメールを入れておく。
返信はすぐに来た。「了解。お大事に」短くて分かりやすい。

さて、と溜息をつく。
家事しないと。

洗濯、食器洗い、簡単に掃除をして……まぁそのくらいか。

だいたい二人分なので洗濯物は少ない。食器に関してもさっき使ったものだけだが、やっておいても問題ないだろう。
掃除といっても全体的に片付いているので、軽く掃くだけでそこそこ綺麗に見える。

こうしてみると、うちの妹さまは年齢の割にあまりに優秀な性能をお持ちだということがよく分かる。

せっかくなので布巾を使ってテレビ台の脇やカーテンのレールなんかの埃をふき取る。
はじめると楽しい。

掃除を満足するまで続けていると、いつのまにか昼過ぎになっていた。




602:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/06(土) 11:44:07.33 ID:yBf3Hcveo
そろそろ起きる頃かと思い妹の部屋に向かう。そのまえに用を足そうと思い、トイレに向かった。

ドアを開ける。

閉める。

幻を見た気がした。

少しして、水を流す音が聞こえる。
妹が出てきた。

鍵を閉め忘れたのは彼女の方なので、俺に落ち度はない、はずだ。
なんだろう、この罪悪感。

「……気配で察してください」

言い終えてから、妹は小さく咳をした。気配とは無理を言う。

「音で気付くっていうのも、なんか微妙な話じゃない?」

「音とか言うな」

よくある事故だった。
二人でいることが多いので、風呂の時間がかぶることはなかなかない。
そのせいか、妹はトイレでも脱衣所でも鍵を閉め忘れることが多かった。

いや、トイレで遭遇したのは初めてだけれど。
寝てるものだと思ってつい。




631:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/06(土) 20:20:37.96 ID:yBf3Hcveo
「悪かった」

謝る。

「いや、私が悪いんだけど、さ」

気まずい。
困る。

「調子どうだ?」

話題を変えるついでに訊ねる。
顔色を見ると、少しはマシになったようだった。

額に触れる。

「な、なにをするか」

今日の妹は口調が安定しない。
熱はまだ少しあるようだった。

「まぁ、今日一日休んでれば治るだろ」

「うん」

素直に頷く。
普段もこのくらい分かりやすければいいのだけど。
家事だって黙々とこなすし、学校のことだって何も教えてくれないし、基本的に自分のことを話したがらないし。
お互い様といえば、そうなのだけれど。




603:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/06(土) 11:44:36.03 ID:yBf3Hcveo
「寒気とかない?」

「少しだけ」

「なんか飲む?」

「ココア」

妹を部屋に帰して、そのままココアを入れに行く。黒いカップ。猫のうしろ姿。
ついでに自分の分のコーヒーも入れる。
ゲームキャラを真似してブラックで飲んでいたら、いつのまにか癖になり、何もいれずに飲むことが多くなった。

中身をこぼさないように注意しながら妹の部屋に向かう。
椅子を借りて、ベッドの脇に腰掛けた。

妹はベッドから半身を起こしてカップを手に取る。
パジャマの袖に隠された手の甲。
ひょっとして狙ってやってるのか。

会話がない。
少しずつコーヒーが減っていく。ゆっくりとした時間。




604:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/06(土) 11:45:17.71 ID:yBf3Hcveo
空になったマグカップを持って、妹の部屋を出る。夜まですることがなくなる。
ギターを弾いたら寝るのに邪魔だろうし、映画を見るには気分が乗らない。

部屋に戻って課題を進めることにした。

夕方になっていから、夕食をどうするかを訊ねに行く。だいぶ楽になったようで、食欲もあるらしい。
簡単に、消化によさそうで、あまり食べにくくないものを作ろうとしたが、そんな料理思い浮かばなかったので、適当に済ませた。

食事の後、妹がシャワーを浴びたいと言い出す。
やめておけと言いたかったが、こういうときだけは困る。
性別の壁。女性的な感覚が分からないので、あんまり口うるさくも言えない。

あまり長くならないことと、体をしっかり拭いて髪を乾かすことだけ言いつける。
分かってる、と頷いた妹の顔は、朝よりはずっと普段のそれに近かった。

妹はシャワーを浴びたあと部屋に戻って早々に寝入ったようだった。
俺は部屋に戻って課題を進めた。だいたい半分近くは済んでいる。期間的に余裕はまだあるが、そろそろ終わらせてしまいたい。

しばらく机に向かってから、風呂に入って寝ることにした。

ベッドに入る。なんとなく落ち着かない気分。
明日には妹の風邪が治っているといいのだが。




605:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/06(土) 11:46:31.81 ID:yBf3Hcveo
そろそろ祭りも近い。ユリコさんの言っていたバーベキューの日取りも、幼馴染が言ってくる頃だろう。
食材の費用とか、どうしよう。俺たちが渡そうとしても素直に受け取らないだろうし。
一応、両親にも話をしておくべきだろう。母ならなんとかできるはずだ。

目を瞑って考え事をしていると、自然とここ最近のことに思考が集約していく。

幼馴染、タクミ、妹、屋上さん、後輩、るー。近頃良く会う顔ぶれ。

いつからこうなったんだっけ。幼馴染が家に来るようになったのは夏休みのちょっと前だ。
タクミを連れてくるようになったのは夏休みに入ってから。

屋上さんが家に来るようになったのは、たしかるーが来たがったからだ。
そこまで考えて、不意に疑問に思う。

後輩はたしか、るーと屋上さんとの間には、微妙に距離がある、というようなことを言っていなかったか。
後輩自身も含まれるような言い方で。

だとしたら、るーはどうして俺のところに来たがったのだろう。
素直に受け取るなら気に入られたということになるだろうが、あまり仲の良くない姉妹の友人相手なら、距離をとるはずじゃないだろうか。

考えすぎかもしれない。




606:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/06(土) 11:47:02.16 ID:yBf3Hcveo
その夜、久しぶりに夢を見た。

夢の中の俺はまだランドセルも背負っていないような年齢だった。
公園の砂場で、幼馴染と一緒に遊んでいる。

俺はそこで、彼女を問い詰めている。

「俺、おまえと結婚の約束したよな?」

けれど幼馴染は首を振る。冗談などではない。彼女は本当にそのことを知らないのだ。

俺は混乱する。たしかに、そういうことをした記憶がある。
じゃあ、ひょっとしたら、と考えて、俺は質問を変えた。

「俺、おまえに指輪をあげたことがあるよな?」

この質問には、彼女は頷いた。

少ない小遣いをはたいて買った玩具の指輪。スーパーマーケットの小物店。

でも、おかしい。




607:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/06(土) 11:47:28.34 ID:yBf3Hcveo
俺と幼馴染が結婚の約束をしたとき、俺たちはランドセルを背負っていなかった。
その頃は、ちょうど祖父母の家から両親の家に戻ってきた時期。
両親の仕事は落ち着いてきたけれど、毎日のように祖父母やユリコさんが様子を見に来た時期。

その頃、俺はまだ自分で金を持ったことがなかった。あるにはあったが、ごく少ない金額だったはずだ。

少なくとも、その頃の自分に、小物店で玩具の指輪を見つけて、レジに持っていく、なんてことができたとは考えにくい。

そこまで考えて、結婚の約束と指輪との間に関連性がなかったのかもしれないと気付く。

だとすれば幼馴染は指輪のことだけを覚えていて、約束のことを忘れているのだろうか?

違う気がした。

俺や幼馴染が忘れていても、そんなことをしていればユリコさんが知っているはずだ。
そんなことがあれば、今の歳になったってからかうに決まっている。




608:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/06(土) 11:47:57.68 ID:yBf3Hcveo
だとすると、ユリコさんは知らない。

じゃあ約束なんてなかったんだろうか。

夢はいつのまにか静止していた。砂場で俺と幼馴染が硬直している。少し遠くにあるベンチから、ユリコさんがこちらを見ている。
妹は、ユリコさんのところから、こちらへ向かって走ってくる。あいつはひどく元気で手の付けられない子供だった。

夢の中の俺は、そこで考えるのをやめた。
子供の頃のことだし、実際に約束したかどうかなんてどうでもいいことだ。
実際、子供の頃の約束を理由に何かが変わるわけでもない。

そんなものを持ち出したからといって幼馴染と結婚できるわけでもないし、結婚しなければならないわけでもない。

約束なんてことを言い出せば、妹とだって子供の頃から数え切れないほどの約束を交わしてきた。
具体的に覚えてるものなんてほとんどないけど。

夢はそこで途切れて、俺の意識はふたたび眠りに落ちていった。




609:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/06(土) 11:49:10.50 ID:yBf3Hcveo
翌朝、リビングに下りると、妹が既に起きてキッチンに立っていた。
病み上がり。

「ご飯、すぐにできるから」

嫁みたいな台詞を言われる。
顔色はいつもと変わらない。治ったようではある、が。

「熱はかった?」

「計ってないけど」

「休んでなさい」

料理を引き継いで妹をリビングに座らせる。不満そうにしていたが、ぶり返しでもしたらそれこそ困る。
それでも一応、風邪は治った様子で、多少動いても平気そうにしていた。

あまり無茶をしなければ、もう大丈夫だろう。

妹が部屋に戻って課題をやるというので、俺は暇を持て余した。昨日の今日なので誰もうちには来ない。




610:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/06(土) 11:49:36.51 ID:yBf3Hcveo
部屋に戻ってギターで「太陽は夜も輝く」を弾き語る。かっけえ。俺超かっけえ。
すぐに鬱になる。いったいいつになったら上達するんだろう。

ふと気になってテレビを見る。台風は大きく逸れていったそうだ。期待させやがって。

ギターをスタンドに立てかけて課題を進める。

昼時まで集中すると、結構進んだ。あと二日もあればだいたい終わるだろう。

妹と一緒に昼食をとり、また部屋に戻る。
昼過ぎに幼馴染が一人でやってきた。

「リンゴ持って来たよ」

妹の様子をみて、幼馴染も少しばかり安心したようだった。リンゴを剥いて三人で食べる。美味い。

「バーベキュー、明日だって」

「明日?」

また急な話だ。
ていうか妹はまだ病み上がりだ。




611:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/06(土) 11:50:06.39 ID:yBf3Hcveo
「思い立ったが吉日だって言ってた」

思い立ったのはだいぶ前だと思うが、ユリコさんに理屈は通用しない。

「連絡しておく。みんなに」

その前に、明日は部活があるのだが。

「うん。そんな感じで」

幼馴染はリンゴをしゃりしゃりかじりながらぼーっと周囲を見回した。
特に意味のある行動ではなさそうだが、妙に気になる。
訊いてみることにした。

「どうかした?」

「え? なにが?」

無意識だったらしい。

「そういえばさ」

ふと夢のことを思い出して、訊いて見る。

「指輪を渡したこと、あったよな?」

幼馴染は一瞬変な顔をして、

「ああ、うん」

小さく頷いた。




612:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/06(土) 11:50:33.38 ID:yBf3Hcveo
「ちゃちな玩具の」

「ちゃちって言わない」

なぜか怒られた。やっぱり指輪のことは覚えているらしい。

「それがどうかしたの?」

「別に」

そこで会話が終わると、幼馴染は不満そうな顔になった。なぜ?
リンゴを食べ終える。
幼馴染は早々に立ち上がって、帰る準備をした。

「じゃあ、明日のこと、よろしく。一応必要なものは揃えとくみたいだから」

「はいはい」

彼女が帰ったあと、夕食の準備を始めた。妹が手伝いたがった。仕方がないので分担する。

夕食を食べ終えたあと、部屋に戻った。
課題を進める。一問でも解いておけば、あとで使える時間が一問分増える。時間を貯金している気分。

その夜は雨が降った。




618:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/08/06(土) 12:01:27.92 ID:OqxlklB70
この人たちかなりスペック高え。。。

家事も課題も完璧とかw




646:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/07(日) 14:59:30.69 ID:yBf3Hcveo
翌日の午前中、部活があったので学校に顔を出した。
雨は夜中降り続いていたようで、朝になってようやく止んだらしい。地面が濡れていた。

部室につくと、やっぱり部長がいた。

「どうも」

「おはようございます」

そういえば部長と話をするのも久しぶりだ。

「何か良いことでもあったんですか?」

彼女は俺の顔を見てすぐにそう言った。

「なぜ?」

「機嫌良さそうな顔してるから」

「そうですか?」

無自覚。意識していなかった。




647:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/07(日) 14:59:58.34 ID:yBf3Hcveo
「恋人でもできたんですか?」

部長が真顔で突飛な質問をする。なぜ恋人か。

「休み前にそんなようなことを言ってたじゃないですか」

そういえばそんな話をしたような気もする。
恋人つくるにはどうしたらいいか、みたいな話。

すっかり頭から抜けていたけれど、別に恋人ができたわけじゃない。
やたら周囲の女子率が上がっただけで。

「毎日楽しくて仕方ないです」

男として本音を言うべきだと感じた。

「女の子を侍らせて毎日楽しんでるわけですか」

「部長、その言い方だと、なんか俺が悪い人みたいです」

「好きな人はできたんですか?」

部長は疑問が直球です。

好きな人。
好きな人て。

「やだそんな恥ずかしい」

照れた。




648:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/07(日) 15:00:25.03 ID:yBf3Hcveo
「好きな人、いないんですか?」

「ぶっちゃけよくわかんねえっす」

正直に答えた。

好きな人とか言われても困る。
しいていうならみんな好きです。

「部長は、いないんですか?」

「私のことはいいじゃないですか」

誤魔化された。
好きとか好きじゃないとか、難しい。

幼馴染はずっと一緒にいるせいで、きょうだいみたいなものだし。
屋上さんとは友達と言えるかどうかも微妙なところだし。
妹は、いや、妹は妹だし。

しいていうなら、

「全員ひとりじめしたい……?」

「最低の論理ですね」

軽蔑された。いや、男なら思うって。
もちろん、そんなことできないのはわかってる。




649:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/07(日) 15:01:07.17 ID:yBf3Hcveo
でも選べないってことは、少なくとも特定の誰かに恋愛感情を持っているわけではないってことだろうか。
なんかそんな気がする。

「俺はずっと女に囲まれて過ごすのですぐへへ」

うわあ、と部長が声をあげた。

言い方はともかく、割と正直な気持ちではあった。

俺は嘘もつくし失敗もするけれど、できるだけ正直であろうと思うし、真摯でありたいと思う。
言ってることは最低かもしれないけど。

……真摯じゃないかもしれないな、これは。

そういえば、とふと思う。
部長に「好きな人は」と聞かれたとき、頭を過ぎった、幼馴染と屋上さん。妹……のことはおいておいて。

いつのまにか、屋上さんと幼馴染をほとんど同列に置いている自分に驚いた。
ちょっと前まで屋上さんは、ただのよく会う人だったのに。苦手にすら思っていたのに。
ちょっと前まで、幼馴染に彼氏ができたとかいってひどく落ち込んでいたのに。

深く考えないことにした。




650:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/07(日) 15:01:41.59 ID:yBf3Hcveo
部活を終えて家に帰る頃には、地面はすっかり乾いていた。

太陽、まばゆい。張り切りすぎだ。暑い。
汗を拭うが、きりが無い。さっさと着替えてしまいたい。帰ったらシャワーを浴びよう。

家についたのは一時過ぎだった。幼馴染の家には夕方までに行けばいいので、まだ余裕がある。

シャワーを浴びて着替える。昨日のうちに男子三人にはメールを出しておいた。
返信はすべて「行けたら行く」だったけれど、たぶん三人とも来るだろうと思う。
マエストロはエロ小説の肥やしにでもするかもしれないし、サラマンダーは肉食だし、キンピラくんはツンデレだし。

案の定、一時を過ぎた頃に、三人とも俺の家にやってきた。
それぞれ、手にビニール袋を持って。

どこかで一旦集合したらしい。結局乗り気だったんじゃん。

荷物の中身を訊ねてみる。

「サラマンダー、なにそれ」

「花火。食べ終わったらやるかなーと思って」

サラマンダーの面目躍如である。

「マエストロ、なにそれ」

「おまえに見せようと思ったエロ小説」

そんなもんみせんな。マエストロの面目躍如である。

「キンピラくん、それはなに?」

「いや、初めて会いにいくわけだし、親御さんいるんだから、菓子折りでも持ってくべきかと思って」

やけに礼儀正しい。高校生の発想じゃなかった。侮れない。




651:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/07(日) 15:02:25.95 ID:yBf3Hcveo
「これだと、俺もなんかをもってかなきゃいけない気がする」

とりあえず何かないかと家中を探す。妹が怪訝そうな目でこちらを見ていた。照れる。
冷蔵庫の中にスイカがあった。これだ。
俺だけ手土産なしという最悪の事態は回避される。

三時までゲームをして遊んだ。
キンピラくんはやたらと強かったが、マエストロには敵わない。最下位は俺だった。

少ししてから五人で幼馴染の家に向かう。庭では既に幼馴染の父であるアキラさんが準備を始めていた。
三姉妹は既に来ているらしく、幼馴染やタクミと一緒に中で待機しているという。
アキラさんを手伝おうと思ったのだが、なぜだか拒否される。あまり強くも出れない。

ユリコさんなら、強引にでも手伝うことはできる。でもアキラさんは難しい。
この人はなんというか、「いいっていいって」という言葉だけで万人を納得させる力を持っているのだ

「いいっていいって」

仕方なく家の中にお邪魔する。

リビングに入ると、五人は座ってトランプをしていた。
男勢の多さに、るーが少しだけ警戒したようだったが、後輩と話すのを見て少しは安堵したようだった。
基本的に無害な人たちですし。

男子勢はむしろ、見知らぬ女子がいることを疑問に思っていた。そういえば説明してなかった。
軽く紹介する。彼らはすぐに納得した。

「花火持ってきたから後でやろう」

サラマンダーが株をあげた。




652:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/07(日) 15:02:52.82 ID:yBf3Hcveo
キンピラくんはキッチンに立つユリコさんに菓子折りを礼儀正しく渡した。すげえ。
でもキッチンで渡すことないのでは? やっぱりキンピラくんはキンピラくんだ。
勝手知ったる人の家で、俺はユリコさんに一声かけてからスイカを冷蔵庫に入れた。

俺、妹、幼馴染、タクミ、屋上さん、後輩、るー、サラマンダー、マエストロ、キンピラくん。

増えすぎ。

さらに、ユリコさん、アキラさん、と、見知らぬ誰か数名。

見知らぬ誰か数名。

知らない人がいることに気付いて動揺する。キッチンでユリコさんと並んでせわしなく動いていた。

「だれ?」

「るーちゃんたちのお母さんだって」

幼馴染が答えてくれた。人のよさそうな表情、若々しい見た目、少し聞こえる話し声は、落ち着きがあって控えめ。
いい人っぽい。
どことなくるーに似ている。
親しみを持つために脳内呼称をつけることにした。シミズさん。申し訳ないけど適当だ。

もう一人、キッチンには誰かが立っていた。

「タクミの?」

うん、と頷いたのはタクミだった。
そういえば、さっきアキラさんの隣に誰かがいたような。あの人がタクミの父親だろうか。
こっちは「タクミのお母さん」でいいや。うん。それで混乱しないし。

大人多い。
微妙に緊張する。




653:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/07(日) 15:03:22.84 ID:yBf3Hcveo
でも緊張していたって仕方ない。今日は余計なことを考えず、子供として楽しむことにした。
いわば妹と同列。

それはそれで間違っている気がする。

しばらく話をする。屋上さんが後輩のことを「すず」と呼んだ。
記憶にある限り、屋上さんが後輩の名を呼ぶのははじめてのことだ。

るーはいつも後輩を「お姉ちゃん」と呼んでいる。その違いはなんなんだろう。
「すず姉」でもいいはずなのに。

それはどちらに対して距離があると受け取れるんだろう。

俺が考えるべきことでもない、と、思考を区切った。

今はバーベキュー。

四時頃、ユリコさんに呼ばれて庭に出る。サンテーブル、紙コップ、紙皿、ジュース、ビール。
鉄板に重ねられた網の上で焼かれていく肉、野菜。

垂涎。

幼馴染と妹が積極的に動いて皿の準備をした。ユリコさんは早々に椅子に座りビールを飲んでいた。

トングはもっぱらアキラさんが持っていた。

「代わりますよ」

シミズさんが名乗り出る。

「いいからいいから」

アキラさんは当然のように断る。ユリコさんがシミズさんを強引に座らせて、酒を紙コップに注ぐ。強引な人。




654:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/07(日) 15:04:19.12 ID:yBf3Hcveo
サラマンダーとマエストロは遠慮がなかった。焼けたそばからばくばく喰う。ちょっとは遠慮しろ。

二つ目のトングを握った妹に、俺は野菜ばかりを食わされた。ひどい。
でもほとんど食べられていない妹の手前、何もいえない。

るーやタクミはサラマンダーたちに負けじと張り合っていたが、後輩や屋上さんはマイペースで箸を進めていた。
幼馴染は、なぜか大人たちと酒を飲んでいた。謎。

これだけの人数がいると、場は騒がしくなる。
頃合を見て妹と役割を交代する。子供の網は子供の管理。
マエストロたちに肉があまりいかないように誘導しながら具材を焼く。

大人たちが微笑ましそうにこちらを見ていた。落ち着かない。
アキラさんも大人たちに混じって酒を飲み始めた。もう酒盛りがしたいだけだったんじゃないか。いや、そういうものか?

大人たち五人を放置して、子供たちはばくばく食べる。そのままだろうが串だろうがどんどんなくなる。早い。

でも食材は大量にあった。……いいのかこれ。

敷かれていたレジャーシートの上に、屋上さんたちが正座していた。小さなテーブルの上に置かれた皿。

少し休むことにする。なぜだかあまり食べる気にはなれなかった。

俺が座ったのと同時に、後輩が立ち上がる。
網に近付いてトングを握った。気遣いタイプだなぁ。




655:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/07(日) 15:04:51.69 ID:yBf3Hcveo
屋上さんはあんまり食べていない様子だった。

「遠慮してるの?」

と訊ねると、首を横に振る。そういえば、いつも彼女は昼食にサンドウィッチを食べていた。少食なのかもしれない。

会話の糸口を見失う。何を言えばいいのやら。
紙コップに炭酸を注いで飲む。なんだかなぁ、という気持ち。

周囲を見る。マエストロがトングを握ってタクミの皿に肉を分けていた。大人っぽい。

サラマンダーは大人たちに混ざって酒を片手に談笑している。何者だアイツは。なぜか和やかな笑いを作り出している。
キンピラくんはマエストロの脇に立って、空いた皿や肉の入っていた容器の片付けをしている。気遣い屋。

後輩はるーの脇に立って、マエストロ作業を眺めていた。

妹は、皿を持ってこちら側にやってきた。俺の隣に腰掛ける。正面に屋上さん、隣に妹。

不意に衝撃があった。
何事、と動揺すると同時に、なにか心地よい匂いが鼻腔をくすぐった。
幼馴染が後ろから抱き付いてきたのだと気付いたのは、数秒経ってからだった。

「ふへへ」

妙な声で笑いやがる。
酔ってる。
こいつは酔うと抱きつく。抱きつき癖がある。




656:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/07(日) 15:05:17.59 ID:yBf3Hcveo
「離れなさい」

大人っぽく言う。

「ごめんなさいー」

謝りながらも、彼女は離れようとしない。

困る。
背中に当たる感触とか。
微笑ましそうな大人たちの目とか。
隣に座る妹の視線とか。
屋上さんの何か言いたげな顔とか。
るーがこっちを指差してけたけた笑っている様子とか(酒でも飲まされたんだろうか)。
困る。

しばらく流れに身を任せていると、幼馴染は飽きてしまったようで、なんとか離れた。暑苦しかった。




657:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/07(日) 15:05:51.69 ID:yBf3Hcveo
なんとか解放されたと溜息をつくと、今度は膝の上でぽすりという感触がした。

なぜか、妹が眠ろうとしていた。

「ちょっと疲れた」

「……あ、そう。中で休めば?」

「ここでいい」

言いながら妹は目を閉じる。
なんだろうこの理屈。自分がひどくおかしな空間に巻き込まれている気がした。

気付く。

夢オチだ。

そろそろなおとが現れて、「時間だぜ、そろそろ起きろよ相棒」とか言いながら都合のいい夢の邪魔をするのだ。
目が覚めるとまだ七月の上旬で、テスト前。キンピラくんも屋上さんも辛辣で、幼馴染には彼氏がいる。
そうだ、きっとそうに違いない。




658:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/07(日) 15:06:20.15 ID:yBf3Hcveo
どうせ夢なら何してもバチは当たらないだろう。
髪を撫でると、妹は瞼を閉じたままくすぐったそうに首をすくめた。
猫みたいに頭を動かして眠る姿勢を変える。ちょっとかわいい。

胸に触る。

殴られる。

「何をしやがりましたか」

動揺のあまり、妹の口調はいろいろ混じっていた。

「痛い。ってことは夢じゃないのか」

「何を言ってるの?」

痛いからといって夢じゃないとは限らない。夢の中で痛いと感じることもあるだろう。たぶん。
もし現実だったとしたら幸いなことに、他の誰にもさっきの行為は見られていなかったようだった。

幼馴染はどこにいった、と周囲を確認すると、いつのまにか屋上さんと世間話に興じていた。




659:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/07(日) 15:06:47.74 ID:yBf3Hcveo
妹は眠る気をなくしたのか、落ち着かないような顔をして居住まいを正した。

現実。
まずいことした。

「ごめんなさい」

謝る。夢の中なら何をしてもいいなんて考えた時点で最悪だった。

「いや、うん。さっきのはナシで」

なかったことにした。誰も傷つかない平和的な解決。

屋上さんと、ふと目が合う。
彼女はきょとんとした表情でこちらをみた。

なんだかなぁ。

変な日だ。

たぶん夢オチに違いない。

けれど、バーベキューを終えて、片付けをして、庭を綺麗にして、スイカを食べながら休んだあと、花火をするためにまた庭に出て。

そのあとも、ちっとも夢はさめてくれなかった。




660:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/07(日) 15:07:55.44 ID:yBf3Hcveo
ユリコさんたちの酒盛りに付き合わされて、次に目が覚めたのは翌日の朝だった。
一晩、明かしたっぽい。

どうやら子供勢がリビングで雑魚寝した様子。

不思議とサラマンダーたち三人の姿はなかった。昨日のうちに帰ったのかもしれない(なぜ俺だけ取り残されたんだろう)。
どういう法則が働いたか分からなかったが、寝転がる俺のふとももに、妹の頭が乗っていた。結局俺を枕にするのか。

頭痛をこらえながら起き上がる。
シミズさんたちはどうしたのだろう。姉妹を残しているということは、どこか別の部屋を借りたのか。

タクミとるーもいなかった。最年少組を雑魚寝させるのを親たちが避けたのだろう。

つまりこの場で寝ていたのは。

俺、妹、幼馴染、屋上さん、後輩、の五人。

男が俺ひとりだった。

毛布がもぞもぞと動く。誰かが動いたらしい。
慌てて立ち上がって、勝手に洗面所を借りる。

二日酔い。顔色は悪くないものの、飲まされた気配がする。夜のことはほとんど覚えていない。




661:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/07(日) 15:08:24.22 ID:yBf3Hcveo
顔を洗うと少しだけ意識が冴えたが、頭痛と体のだるさのせいで眠りたくて仕方なかった。
リビングに戻って時計を見ると、針はまだ五時半を差している。

寝なおそう。
床に敷かれた毛布の一枚に潜り込んで、俺はふたたび眠りに落ちた。


再び目を覚ましたとき、なぜか屋上さんが腕の中にいた。

混乱する。
心臓がばくばくする。

このままじゃまずい、と思う。

とりあえずできる限り静かに、ゆっくりと、腕を引き抜いていく。起こさないように。

動揺のあまり「せっかくだし観察しよう」とか思える状況じゃなかった。
ていうかいっそ恐怖すら覚えた。
このラブコメ的イベントの連続はなんなのか。

絶対なんかの予兆だろ(被害妄想)。




662:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/07(日) 15:08:57.98 ID:yBf3Hcveo
なんとか体を引き抜いて、屋上さんからじりじりと離れる。
立ち上がる。達成感。よくぞここまでがんばった。

でも振り返るとみんなが起きていた。

めちゃくちゃ見られてた。

ユリコさんがニヤニヤ顔でこちらを見ている。やっぱこういうイベントか。
なぜかからかったりしてくる人はいなかった。逆に怖い。

その後、片付けやらなにやらが始まったので、なんだかんだでうやむやになる。

相当後になってから分かったことだが、このとき屋上さんは狸寝入りをしていたらしい。




663:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/07(日) 15:09:28.73 ID:yBf3Hcveo
日が出て、それぞれが身繕いを終わらせてから、ちょっとのあいだ空白の時間ができた。

大人たちはテーブルについて談笑している。るーとタクミはそこで一緒にお茶を飲んでいた。

暇を持て余す。とはいえまだ帰るには早い。

昨日の夜の記憶がほとんどない。
そこまでひどいことにはなってないはずだが、なんとなく嫌な予感もする。

幼馴染に昨日の夜の出来事を尋ねてみる。

「昨日の夜、俺、どんなんだった?」

「結婚を前提にお付き合いしてくださいって言われたよ」

簡単そうに言った。
それって親の前でか。
恥ずかしすぎる死にたい。




664:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/07(日) 15:10:13.18 ID:yBf3Hcveo
ホントに? と屋上さんに聞いてみる。

「私も、僕と同じ墓に入ってくださいって言われたけど」

どうでもよさそうに彼女は言った。
冗談だろ、と思った。
他人事のように横で見ていた後輩が、けらけら笑い出す。笑い事じゃない。

妹を見る。

「私も、毎朝俺のために味噌汁を作ってくださいって言われた」

「それもう作ってるじゃん」

急に冷静になった。
でももう酒は飲まない。

「別にお兄ちゃんのために作ってるわけじゃないから」

否定される。ツンデレ(希望的観測)。




665:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/07(日) 15:10:40.26 ID:yBf3Hcveo
「この女たらし」

幼馴染が笑いながら言う。
ひょっとしてからかわれたんだろうか。

昼前に解散になって、みんな家に帰った。

家に戻ると、なんだか急に静かになりすぎて落ち着かない。
二日酔い。腹の辺りに何かが埋まっているような不快感があった。そして頭痛。
なんだか疲れているのを感じて、寝なおすことにする。

目が覚めたのは夕方で、ちょうどすさまじい勢いの夕立が降り出したときだった。

その日は何もする気になれず、結局ほとんど寝っぱなしだった。




694:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/08(月) 11:34:26.35 ID:yBf3Hcveo
ある日、祖父母の家に遊びにいくことにした。
暇は持て余していたし、親戚たちが帰ってくる盆までは日がある。

うちにいるよりも山に近い祖父母の家の方が涼めるのではないか、という考え。

裏の山を通ると、舗装された道路が丘沿いに進み、その左右には向日葵畑が開けている。
田舎、夏、という風景。
ちなみに舗装されていない山道を通って山頂に向かうともれなく虫に刺されたり筋肉痛になったりする。

ついてすぐ、犬を散歩に連れて行くように言われる。

暑いのに。
わざわざなぜ外に。

文句は黙殺され、結局、妹とふたりで‘はな’を連れて散歩をすることにした。

「暑い」

「暑いな」

適当に歩く。なだらかな傾斜に沿って丘を登る。車がぎりぎりすれ違えるような狭い道路、はみ出た木々。
太陽は疲れ知らずで、夏を延々と燃やし続けている。

台風でも来ればいいのに。
それはそれで蒸し暑いのだが。




695:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/08(月) 11:35:01.87 ID:yBf3Hcveo
丘を登り、向日葵畑の間を歩く。

子供の頃も、こうやって散歩をしたような。

向日葵はまだ咲いていなかった。満開ともなれば声を失うほど綺麗なのだが、あいにく今年は開花が遅い。

ぼんやり歩く。
リードを持った手がぐいぐいと引っ張られた。急ぐこともないので、力をこめて抑え、ゆっくりと進む。

丘を登りきってから引き返す。ふと横を歩く妹の顔を覗き見た。
別に何も考えてなさそうな表情。散歩なんてするのも久しぶりだ。
最近じゃコンビニかファミレスくらいまでしか歩かない。たまにはこういう時間も必要だろう。

祖父母の家に戻る。
昼寝がしたくなって座敷に寝転がる。祖母がタオルケットを出してくれた。子供の頃使った奴。懐かしい。

せっかくなので妹も誘ってみる。

「一緒に寝る?」

「なんで? 暑いのに」

「いいから」

強引に隣に寝かせる。タオルケットを共有する。天井。縁側から流れ込む風。風鈴の音。

「超落ち着く」

「私は落ち着かないけど」

感覚の違いがあるようだった。




696:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/08(月) 11:35:33.64 ID:yBf3Hcveo
「このタオルに一緒にくるまって、怖い話したこともあったな」

「あったっけ?」

「あったんだよ。そしたらおまえがすごく怯えて、夜中にトイレにいけなくなって」

「それはない」

「まぁそれはなかったけど、怖がってたのは本当」

「そうだったっけ」

「そうだった」

怪談とはいえ子供がするものなのだから、そこまで怖い話なわけがない。
それなのに、そもそも妹は聞こうとすらしなかったのだ。

懐かしい気分。




697:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/08(月) 11:36:00.53 ID:yBf3Hcveo
「おまえがお祭りでもらってきた風船を俺が割っちゃって、わんわん泣かれたこともあったな」

「それは覚えてる。私が買ってもらったお菓子を半分以上食べられたりとか」

「嫌なことだけ覚えてるんだな」

そう考えると、あまり嫌な思いをさせるわけにもいかないと思う。

昔の話をしてみると、忘れていたことを結構思い出したりもした。
自分では覚えているつもりだった記憶も、妹の記憶と比べてみると齟齬があったりする。

なんとなく物思いに耽る。

夏と田舎は人をノスタルジックな気分にさせるのです。

しばらく黙っていると、いつのまにか妹は眠ってしまったようだった。
俺だけ起きててもしかたないので、瞼を閉じて眠ろうとする。

気付くと、起きているのか寝ているのか自分でも分からないような状態になっていた。
しばらくまどろみの中で溺れる。眠っている、という感覚。




698:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/08(月) 11:36:26.90 ID:yBf3Hcveo
目が覚めたとき、だいぶ時間が経っていたような気がしたが、実際には三十分と経っていなかった。
それなのに、少し疲れが取れたような気がする。
こういうときは少しうれしい。

ふと見ると、妹は隣ですやすやと寝息を立てていた。
落ち着く。

普通の兄妹って、こういうことしたりするのかな、と思う。
するかもしれないし、しないかもしれない。よく分からない。

考えてみれば、俺と妹はふたりきりでいる時間が長すぎたのだ。

祖父母と一緒に暮らしていた頃は、料理も出たし面倒も見てもらえた。
それでも両親がいないのは寂しかった。

家に戻って暮らすようになると、今度は自分たちのことは自分たちでやらなければならない。

本来なら、母の仕事が落ち着いてきて、子供の様子を見れるから、という理由で家に戻ったはずだった。
一年を過ぎた頃に、ふたたび母の仕事が忙しくなった。
たぶん、人生でいちばん、毎日楽しくて仕方なかった時期だった。
それ以前も以降も、寂しかったり忙しかったり落ち着かなかったりで大変だったし、今だってやることが増えて大変だ。
多少、余裕は出てきたけれど。




699:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/08(月) 11:37:04.15 ID:yBf3Hcveo
年上だからという理由で、祖母は俺に家事を仕込んだ。自然な考えだと思う。
そこから少しずつ、俺が妹に教える。祖母に協力してもらいながら。

一通りの家事を祖母の手伝いなしでこなせるようになる頃には、兄妹で協力しあうという考えはごく自然に身についていた。

協力することを自然に思っているからか、あるいは両親がいない時間が多いからか。
そのどちらのせいかは分からないけれど、どうやら他の人間からみると、俺と妹の距離は普通より近いらしい。

実際、今になって思えばたしかに普通ではない、と思うようなことは多々ある。

妹が小学校高学年になる前くらいまで、一緒に風呂に入ったりしていたし。一緒に寝てたし(1、2年前まで)。

一緒に風呂に入っていたのは、祖母が俺たちをまとめて風呂に入れたから。
一緒に寝ることが多かったのは、祖父母の家では全員が同じ場所で寝ていたからだ。

でも、いつのまにかそういうことはなくなった。たぶんそういうものだからだろう。距離はとれるようになっていく。
それなのに、なんとなく、未だに、どこかで距離を測りかねている。

油断すると、距離が詰まりそうになる。

それが普通ではない、と、いつのまにか知ったから距離をとるようになっただけで。

距離を測りかねている。
たまに、困る。




700:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/08(月) 11:37:31.16 ID:yBf3Hcveo
そういうときに助かったのか幼馴染の存在だった。
子供の頃からユリコさんと一緒にうちに来て、俺たちと遊んだ。

彼女は「ふつう」の基準を教えてくれる。どこがおかしくて、どこが間違っているかをはっきりとさせてくれる。
とはいえ、幼馴染にも男兄弟はいないから、そのあたりは適当だったりしたのだが。

自分たち兄妹以外の誰かがそばにいるというのは、上手な距離のとり方を把握していくのに一役買った。

結果的に余計混迷とした気がするけど。
なぜか幼馴染まで一緒に風呂に入りたがったり、一緒に寝たがったり。

小学に入って少しした頃には、多少の分別がついて、幼馴染と入るときは水着を着てたりもした。そういうこともある。
それが妹との関係に適応されたかどうかを考えると、微妙なところだ。

いろいろがんばってはみたけれど。
いまさら、「普通の兄妹の距離感」を手に入れるには、ふたりきりでいる時間があまりに長すぎた。

もやもやする。
困る。

妹なのに。

でもまぁ、考えても仕方のないことではある。




701:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/08(月) 11:37:58.26 ID:yBf3Hcveo
起き上がって祖父母が休んでいる居間へと戻る。昼時らしかった。

「出前取ろうと思うんだけど、何がいい?」

チャーハンとラーメンくらいしか選択肢がない。ラーメンは多彩。チャーハンは大盛りが有効。

「チャーハンとラーメン一個ずつ」

「妹は?」

「寝てる。どっちか分からないから、一個ずつ」

「はいはい」

出前が届いてから、妹を起こした。四人で一緒に食事を取る。
妹がラーメンを選んだので、俺はチャーハンを食べた。

「ちょっとちょうだい」

要求される。食べさせた。

「俺にもくれ」

分けてもらう。

よくあること。




702:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/08(月) 11:38:38.28 ID:yBf3Hcveo
夕方頃に、祖父に送られて家に帰る。泊まっていけとも言われたけれど、やめておいた。
家に帰ってから、なんとなく手持ち無沙汰になってぶらぶらと散歩をすることにした。

妹もついてきた。一緒になって歩く。ちょっと遠くまで。

しばらく歩くと堤防があって、一級河川と書かれた看板が立っている。
でかい川。前、幼馴染と一緒にここにきて、浅いところで遊んだ。

「台風、近付いてるらしいよ」

不意に妹が言った。

「また?」

この間もそんなことを言っていた。結局逸れていったけれど、今度はどうだろう。

家に帰ってから、簡単なもので夕食を作った。
料理は妹に任せる。その間風呂掃除を済ませて、お湯を張っておく。

余った時間で課題を進める。もうほとんど終わっていた。
部活動の日程を確認する。あと三回ほどしか活動はなかった。

夕食の後、映画を見ようとして、祖父にDVDを返し忘れたことに気付く。今度また、いかなくてはならない。




703:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/08(月) 11:39:08.45 ID:yBf3Hcveo
翌日、暴風警報だか強風警報だか大雨警報だかが出た。

にもかかわらず、幼馴染とタクミの二人も、三姉妹も、なぜか俺の家にやってきた。

「風、強いなぁ、とは思ってたんですけど」

後輩がぼそりと呟いた。

「台風とは知らなかったなぁ」

「テレビくらい見ろよ」

「夏休みのテレビなんてアニメの再放送スペシャルくらいしか見ないっす」

それもそうかもしれない。

強い雨が窓を叩いていた。風が木々をしならせている。
とてもじゃないが外に出れる天気じゃない。

「帰りどうすんの?」

「まぁ、たぶんなんとかなりますよ」

そういいながら三姉妹も幼馴染たちも、勢いが弱まったタイミングを無視し、完全に帰るタイミングを逸した。
タクミとるーのテンションがやたらと高い。分かる。台風とか超ワクワクする。




704:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/08(月) 11:39:35.31 ID:yBf3Hcveo
「いざとなったら、泊まっていいですか?」

「おまえそれ最初から狙ってたろ」

言動とか、どう考えても面白おかしく騒ぎたくてやってきたようにしか思えない。

けれど実際、夕方を過ぎても、台風も勢いを弱めなかった。すごい雨。
テレビをつけると、川が増水して洪水の恐れがあると言っていた。恐ろしい。
車で迎えでも頼まないと帰るのは難しそうだ。

後輩は夕方頃に家に電話して、外泊の許可を取ったらしい。恐ろしい行動力。
タクミと幼馴染は無理をすれば帰れなくはないが、便乗してうちに泊まりたいらしい。

もうどっかに集まってお泊りしたいだけにしか見えません。

仕方ない。

とりあえず普段使っていない和室をあけて、押入れにしまってあった敷布団を敷く。
人数分はなかったので雑魚寝してもらうことにした。この間と同じだし問題ないだろう。

俺は自分の部屋に寝るからいいとして、妹も和室で寝たがった。
狭くはなるが無理ではない。女に囲まれて寝ることのできるタクミが羨ましくてたまらない。

夜になると妹、幼馴染、後輩がキッチンに立った。やっぱりもともと計画していたんじゃないだろうか。

というか、やけに多い荷物とか、よくよく考えるとおかしな点がいくつかある。
そういえば冷蔵庫の中に、普段より圧倒的に多い量の食材が用意されていた。
共犯か。妹を見る。目をそらされる。こいつだ。




705:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/08(月) 11:40:02.03 ID:yBf3Hcveo
食事をしてから、全員で集まって騒ぐ。
ゲームする。話をする。遊ぶ。

順々に風呂に入って、早々に寝床へと向かう。
俺以外。

一人でリビングに取り残される。廊下から聞こえてくる話し声。楽しそう。

置いてけぼりの気持ち。

でも、参加するのもまずい。いろいろ。湯上り、布団、雑魚寝。

なぜだか気分が落ち着かない。

仕方ないので冷蔵庫に入っていたチューハイを出す。缶一本。
俺は酒を飲むとエロいことを考えられなくなる体質をしている(バーベキューのときも何もしていないと信じている)。

ちびちびとチューハイを飲んでいると、少しずつ話し声が静かになっていく。
時計の針を見ると八時を過ぎていた。そろそろタクミやるーは寝た頃だろうか。

少しして、屋上さんがリビングにやってきた。




706:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/08(月) 11:40:32.70 ID:yBf3Hcveo
「どうしたの?」

「落ち着かなくて」

落ち着かないらしい。それはそうだ。俺だって落ち着かない。意味が分からない。唐突だし。

寝巻きは妹のものを貸そうとしたが、サイズが合わなかった。
るーや後輩のものはどうにかなった。幼馴染に関しても。
屋上さんだけは合うものがなく、結果的に俺のシャツとジャージを貸すことにした。

おかげでなんか薄着。
でも酒を飲んだ俺は無敵だった。

「屋上さん」

「なに?」

「一緒に寝ようか」

「……いっぺん死ねば」

久しぶりにその言葉を訊いて、なんとなく安心する。
彼女は椅子に腰掛けて周囲をせわしなく眺めた。




707:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/08(月) 11:41:17.00 ID:yBf3Hcveo
いい機会なので、前から気になっていた疑問をぶつけることにする。

「屋上さんって、どこの中学に通ってたの?」

「遠く」

と彼女はすぐに答えた。

「中学の頃は別の街に住んでたから」

「へえ」

と俺は相槌を打った。でも、後輩はこの街に住んでいた。変なの。
後輩の言葉を思い出す。家庭の事情。

難しい。

屋上さんはしばらくリビングで休んでいた。麦茶を出す。飲む。休む。まったりする。

「暑い」

思わず呟くと、屋上さんは「うん」と頷いた。
よく分からない。距離感が。




708:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/08(月) 11:42:08.78 ID:yBf3Hcveo
その夜、また、変な夢をみた。
夢の中で俺は教室にいた。机をはさんだ正面に、メデューサが座っている。

「それで、君は」

彼女は神妙そうな表情で口を開いた。

「こう言うわけね。つまり、ハーレムを築きたいと」

「いえ、その言い方だと語弊があります。俺はですね、みんなと仲良くやれたらなぁと」

「あわよくば全員と淫らな関係を持ちたいと」

「そんな童貞の妄想みたいなこと考えてません」

「ほんとに?」

「ちょっと考えました」

男の子ですから。

「救いがたい童貞ね」

メデューサは静かに溜息をついた。




709:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/08(月) 11:42:40.84 ID:yBf3Hcveo
「貴方の悩みを分かりやすく解決する手段があるわ」

「なんでしょう」

夢の中のメデューサはどこか妖しげな雰囲気があった。
俺は彼女の言葉の続きを、固唾を呑んで待つ。

「二股をかければいいのよ」

「最悪だ!」

できれば絶対にしたくない行為だった。

「妹さんは妹なわけで、ほっといても一緒にいるでしょ。あとは二人、他の女性と付き合えばいいのよ。三人もいれば、まぁハーレムじゃない?」

「なぜ妹がハーレムに入るのかが謎なのですが」

「だってアンタ、妹のこと好きでしょ」

「え?」

「ぶっちゃけ、好きでしょ?」

何言ってんだこいつ。




710:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/08(月) 11:43:10.00 ID:yBf3Hcveo
「大丈夫大丈夫。なんとかなるって。アンタ、愛してるの響きだけで強くなれちゃうタイプだから」

「それ、暗に童貞だってバカにしてますよね?」

「別にそんなことないわ」

素直に話を聞くのがバカらしくなって立ち上がる。教室から出るとき、うしろからメデューサが声を掛けてきた。

「相談料、億千万円」

小学生かよ。
俺は廊下に出てから周囲の様子を見る。隣の教室から、なんだかすごそうなオーラが漂っていた。
クラス表記のプレートには、「なおとの館」と書かれていた。彼に相談してみるのも悪くないだろう。

教室に入ってすぐ、窓際の席に座りアンニュイな表情を浮かべているなおとを見つける。
俺は彼の隣の席に腰掛けた。

「どうした、若人よ」

夢の中で彼はオッサンチックな口調になっていた。
俺は真剣に相談した。

「恋に悩んでいるのです」

「おまえ、考えすぎるタイプだもんなぁ」

なぜか見透かされていた。
まったくその通りです。




711:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/08(月) 11:43:52.88 ID:yBf3Hcveo
「で、誰なん、誰が好きなん? 歳は? 相手の年収は?」

オッサンからオバサンになったが、ツッコんでもしかたないので無視する。

「三人」

「三人。三人か」

「……三人?」

自分で言っておいて、なんで三人なのか分からなくなる。
幼馴染、妹、屋上さん。

三人。

「なぜ妹がハーレムに入るのか分からない」とかいいながら、しっかり妹をカウントしていた。
俺はあほです。

「難しいな、三人は」

いや、難しいとか以前に、倫理的にないと思うのだが。
いろいろ。

「でも、可能ならハーレム作りたいだろ?」

作りたいけど。
でもそういう問題じゃなく、自分の姿勢として、それはよくないと思う。
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4048689746/minnanohima07-22/ref=nosim/




712:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/08(月) 11:44:37.56 ID:yBf3Hcveo
「なんだかんだで、うやむやにしたまま女に囲まれていたいわけだ」

「やめて言わないで」

本音を突付かれた。
居心地が良すぎるのです。

「あわよくばいい思いもしたいと」

なおとは言葉を区切った。

「最低だな」

最低だった。

「そんな貴方に朗報です」

急に営業っぽい口調になる。
どこぞの通販番組みたいだ。

「ハーレムルートが開放されました」

「何ギャルゲーみたいなこと言ってんだ」

真面目に相談した俺がバカみたいだ。




713:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/08(月) 11:45:15.77 ID:yBf3Hcveo
「だいたいさ、悩むことがおかしくね? おまえ」

なおとは急に荒っぽい口調になった。

「おかしいって?」

「なんかさ、『女の子がいっぱいいすぎて誰かひとりなんて選べないよー』みたいなこと言ってるけどさ」

語弊があるが、まぁだいたい正しい。

「ぶっちゃけ、誰もおまえのこと好きだなんて言ってないじゃん」

「そういえばそうだ」

急に冷静になる。

「別に告白されたわけでもないし、おまえだって誰かと恋人になりたいってわけでもないんだろ?」

「うん、まぁ」

「だったら今のままでいいじゃん」

「うん。……うん? そうか?」

納得できるような、できないような。




714:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/08(月) 11:45:49.37 ID:yBf3Hcveo
「とりあえず、今はこのままでいいんじゃねえの? そのうち女の子たちにも彼氏ができて、おまえはひと夏の淡い思い出を手に入れる。

あんまり想像したくないことだ。
でも、実際、そうなるのが普通だ。

置いてけぼりになる。自然と。

二兎追うものは一兎を得ず。

「そうだな、このまま居心地のいい空気を楽しんでおくといい。何年かあとには傍には誰もいないわけだ」

なおとは嫌な感じに笑った。憫笑。

「そんな殺生な」

「どこが殺生なものか。この浮気者。貴様はいったい誰が好きなんだ」

「そんなことを訊かれましても」

「ちやほやされるのが気持ちいいだけだろう!」

「ちやほやされてないです」

「されてないっけ?」

「されてないです」

されてなかった。




715:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/08(月) 11:46:31.54 ID:yBf3Hcveo
「まぁとにかく、どうせ長くは続かないんだから、今のうちにいい思いしとけってことだ」

なおとが話を終わらせた。
そんなことを言われても困る。

考えても仕方ない。が、なんかこう、あるだろう。
不安みたいなものが。

なおとが嫌な感じに笑う。
いつのまにか現れた先輩が、俺の方を見てにっこりと笑った。

「じゃあ、彼女は僕がもらっていくから」

幼馴染がさらわれる。
どうしたものか。

ひとりを選べないなら、自分のところにつなぎ止める権利などないわけで。
本当にこうなったとしても文句はいえないわけで。

だが感情的なことを言わせてもらえるなら。

ひとりじめしたい。
最低の発想だった。

その晩俺はひどくうなされていたらしい。
意識がはっきりしたあとも、起き上がることはなかなかできなかった。
目を覚ますと誰もいなくなっていたりするんじゃないかな、と思うと、どうしても目を開けるのが怖い。

置いてけぼりの気持ち。

それでもとにかく目を開ける。




716:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/08(月) 11:46:58.22 ID:yBf3Hcveo
と、なんか人がいた。

最初に目に入ったのは幼馴染だった。
その少しうしろに、妹と屋上さんが並んで立っている。

「……なにやってんの?」

部屋に侵入された挙句、寝姿を観察されてたっぽい。

「起こしにきたらうなされてたから」

幼馴染が答える。たしかにひどい悪夢だった。

とにかく起き上がる。三人は硬直していた。

「……なに? 寝言でも言ってた?」

三人はそろって首を横に振った。

なんだろう、と思って、気付く。




717:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/08(月) 11:48:00.57 ID:yBf3Hcveo
時間は朝。

季節は夏。
寝相が悪いと、タオルはすぐ落ちる。
薄着だから、いろいろ見られる。

察される。
お約束だった。

「先輩、起きましたか?」

後輩がドアの向こうから現れる。るーも一緒にやってきた。

……えー。

「とりあえず、出て行ってください。全員」

追い出した。

ベッドから起き上がって伸びをする。
服を適当に選んで着替えた。

それが終わる頃には、夢の内容は思い出せなくなっていた。




725:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/08(月) 13:03:15.25 ID:6KEFLOPDO
俺 一生チェリーでいいからこんな生活したい




732:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/08(月) 15:05:44.39 ID:LBAmxzwDO
>>725
「一生チェリー」って部分だけ現実になると予想




760:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/09(火) 12:00:34.05 ID:yBf3Hcveo
恋は唐突なものだとよく言うけれど、大抵の場合は恋心に気付く瞬間が唐突なだけだ。
恋自体は既に存在する、という場合が多い。

そんなようなことを誰かから聞かされたことがある。
たぶん、小学校の頃ひそかに憧れていた近所のサチ姉ちゃんだ。当時十六歳。
今は二十三歳くらいだろうか。まだまだ若い。

美人で綺麗で黒髪ロングヘアだった。

男が好きそうな仕草をわざと選んだりしていて、自分の可愛さを分かってる感じがあった。
黒髪ロングヘアも狙っていたところがありそうだったが、かといってそのことが男の気持ちを醒ましたかというとそうではない。

むしろ学校では人気があったらしい。
県内でも有数のバカ高校に通っていた彼女の周囲にいる女と言えば、茶髪、マスカラ、ピアス、煙草、酒好き。
あるいは、陰気、野暮眼鏡、オタ女、腐女子(特に最後の種族は机の中に男子を必殺する薄い本を保管している)。

好きになろうとするなら数週間にわたるコミュニケーションが必要になるタイプが多かった。

そんな中、多少あざとくは見えても、男子から見ても「可愛い」女子であるサチ姉ちゃんはまさに掃き溜めに鶴。
女に縁がない男たちが亀の頭をもたげて鶴たる彼女に求愛した。後に言う鶴亀合戦である(てきとう)。




761:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/09(火) 12:01:14.67 ID:yBf3Hcveo
そんな彼女に俺が夢を見れていた時間は、一週間もなかった。
サチ姉ちゃんは俺を、薬局の入り口に置いてあるカエルの置物か何かと勘違いしていたらしい。

いわば愚痴聞き機。腹を割った付き合いといえば聞こえはいいが、大概の本音なんて聞くに堪えない。

たまに帰り道で見かけたとき、彼女はクラスメイトと思しき男子(茶髪・雰囲気イケメン)を連れていたことがあった。
その次にサチ姉ちゃんと会ったとき、俺はその男子に対する文句や愚痴を延々と聞かされるのである。

息が臭いとか髪が長くてうっとうしいとか自意識過剰で気持ち悪いとか勘違い野郎とかそういう類の言動を。
夕方に公園のブランコにまたがって、日が暮れるまで。

子供だった俺には彼女の気持ちなんてろくに分からず、

「そんなに嫌なら、はっきり嫌だって言えばいいんじゃないの?」

と、突き放そうとしたことも一度や二度じゃない。
そのたびにサチ姉ちゃんは、

「歳をとったら君にも分かる」

少し強張った声でそう語った。




762:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/09(火) 12:01:40.00 ID:yBf3Hcveo
たしか、あれは暑い夏の日のことだったと思う。その日の彼女の言葉がやけに印象に残ったのだ。

「だいたいさ、おかしいのよ。ぶりっ子ぶりっ子って、ぶりっ子のどこが悪いのよ」

彼女は心底不満そうに毒づいた。

「どうせ人と関わりあっていかなくちゃならないんだから、嫌われるより好かれたほうが都合いいじゃない!」

魂の叫びだった。
男を舐め腐ったような安い上目遣いにも、彼女なりの理念があったのだな、と考えさせられた。

「可愛く見せて何が悪いっつーのよ! 何の努力してないよりマシでしょ!? むしろ努力しないで彼氏欲しいとか言ってる奴はどんだけ自分に自信があんのよ!」

その言葉だけはやけに俺の心を打った。
自分をよく見せようとするのも、理にかなったことなのかもしれないな、と。

そう思えば、身だしなみを整えたり、髪形を気に掛けたり、やけに鏡を確認したりするのも、自然に思えた。
単なるナルシズムではなく、自分に自信がないことの表れだったのかもしれない。

今でも数ヶ月に一回くらい、サチ姉ちゃんと街で遭遇することがある。
近所にある寂れたコーヒーショップに入って、気取った古臭い環境音楽をバックに、彼女の愚痴を聞かされる。

そして彼女は、いつも最後に、「ごめんね」「ありがとう」と二つの言葉を並べる。
たぶんそれが彼女なりの礼儀なのだろう。

なぜこんなことを今思い返しているかと言うと。
ひょっとしてこれが恋か? 的な感情が俺の胸の中で急激に膨らみ始めたからである。




763:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/09(火) 12:02:32.03 ID:yBf3Hcveo
三姉妹と幼馴染とタクミが我が家に泊まった翌日のこと。

雨はまだぽつぽつと降り続いていたけれど、風はだいぶ弱くなった。
それでも誰も家には帰ろうとせず、ただ時間が流れるのに任せて、取り留めのない話を続けている。

気持ちは分かる。
泊まりの翌日の寂しさ。

友達の家に泊まったことがないのでそんな気持ちは分からないけれど。
なんとなく想像はつく。

だから、あんまり急かすことはないだろうと考えていた。

のだが。
一晩泊まって怖いものなしになったのか、皆が我が家に馴染んだようで、やたら無防備になっていた。
くわえて、雨のせいで窓が開けられず、蒸し暑い。おかげでみんな薄着。

正直目のやり場に困る。

るーは薄着すぎて、ちょっと動くたびに見えてはいけない部分が見えそうになった。
小学生相手なのでさすがに困ったことにはならないが、それでも動揺はしてしまう(童貞だから)。

後輩はさすがにしっかりとしていて、姿勢や服装が乱れることはなく、むしろ周囲を諌める立場だった。
それを残念に感じてしまうあたり、俺という人間の低俗さがよく分かる。死ねばいいのに。




764:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/09(火) 12:03:07.40 ID:yBf3Hcveo
幼馴染と妹は服装からしてアウトだった。ノースリーブ。その時点でなんかもう挑発してるんじゃないかって気になる。性癖。

幼馴染は暑さに耐えられなくなったようで、髪を結んだ。
正面にいたため、腋が見える。

何かに目覚めそうになる。
マエストロが腋とか膝裏とか騒いでたことを思い出した。これか。
髪を結ぶと今度はうなじが見える。
女って怖い。魔性。

妹はみんなにお茶を出したりしていた(なぜか熱いお茶を飲みたくなって、みんなにも入れた。暑い中で飲むと意外に美味い)。
よく動くせいで、服があんなことやこんなことになる。
具体的に言えば、屈んだ拍子に胸元から下着が見えたりする(が、毎年のことではある)。

エロス的な意味ではなく、背徳感から心臓が揺さぶられる。
意外な成長が垣間見えたりするのも、それに一役買っていた(気付くと意識させられる)。

屋上さんはというと、特に動くわけでもなく、ソファに座っている。
疲れたのは、あるいは気を回すのが馬鹿らしくなったかは分からないが、彼女は昨日寝たときと同じ格好をしていた。
シャツ、ジャージ。

ジャージのハーフパンツって、なんというか、こう、一種の魔力を持っていて。
しかも、彼女の姿勢がその魔力を強めた。
体育座りというか三角座りというかはどうでもいいが、それに近い座り方をしている。
実際に見てみると分かるものの、正面からだとやたら太腿がまぶしい。

こうしていろいろ考えると、なんだか嫌な方面でばかり自分が大人になっていくのを感じる。実質的にはまだまだ子供なのに。

とにかく、そんな光景がリビングの至るところで繰り広げられるわけで。
やたらと胸がときめく。どきどきする。
これが恋か、と微妙に納得した。
なんだろう、この、もどかしいような心地良いような気恥ずかしいような感覚は。
恋です。




765:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/09(火) 12:04:11.48 ID:yBf3Hcveo
雨が止んだので、コンビニにジュースを買いにいくことにした。
一人で行こうと思っていたら、屋上さんがついてくる。

「……その格好で?」

「ダメかな」

ダメじゃないけど、それじゃほとんど寝巻きです。
仕方ないので俺のジーンズを貸して着替えさせた。

「なんか服借りてばっか」

「なんかまずいですか」

「着心地悪くないし、別にいいよ。ていうか、お礼言う側だし、私」

最近、屋上さんの態度が微妙に軟化している気がする。
言動が優しくなってる。

最初はあんなに無愛想だったのに。
まさかただの人見知りだったとか。

微妙になつかれてしまった感がある。
猫的な。

家を出るとき時計を見ると、まだ九時にもなっていなかった。
いつの間にか雨は上がっていた。灰色の雲が裂けて、太陽の光が遠くに差し込んでいる。
天使の梯子。何かの本で読んだ。

幻想的ではあるのだけれど。
ふとした瞬間に目の当たりにすると、少し寂しい気持ちにさせられる。
それは綺麗というより、悲しげで、示唆的だ。儚さの。だからあんまり好きじゃない。




766:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/09(火) 12:04:51.65 ID:yBf3Hcveo
コンビニを目指す途中で、屋上さんは不意に足を止めた。どうしたのかと視線の先を追うと、公園がある。

「どうしたの?」

「いや、うん」

昔ここで遊んだな、って。屋上さんはそう言った。

「え?」

「え?」

「昔って、いつの話?」

「……小学校入るまえだから、四、五歳の頃だと思うけど」

「四、五歳の頃?」

その頃なら、俺と幼馴染もここに来て遊んでいたはずだ。
ひょっとして、と思う。
まさか、と思う。

記憶がおぼろげで思い出せない頃だから、とても困る。
確信がもてない。
祖父母の家に預けられていたのが、三、四歳の頃。
五歳の頃には母が面倒を見ていた。

俺は母に連れられて、幼馴染や妹と一緒にこの公園に来ていた。
そこで、屋上さんに会ったことはなかっただろうか?

――三度。

見知らぬ女の子と一緒に遊んだ記憶があるような。
何をして遊んだかはよく覚えていないけど、たしか、結構仲良くなって、そして、ある日、来なくなった。




767:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/09(火) 12:05:16.91 ID:yBf3Hcveo
「屋上さん、小学校はどこだったの?」

「親戚の家から」

彼女はそこで一拍置いた。

「小一から中三まで、親戚の家」

その答えを聞いて、少しのあいだ考え込んだ。
そして驚愕する。九年間。

俺はそれまで考えていたことを横において、その年数に愕然とした。

「その頃、るー、生まれたばっかりじゃん」

「あー、うん」

彼女は困ったみたいに笑った。

「実は、また一緒に暮らすようになったのも、今年の頭からだから」

その言葉で、自分が馬鹿な質問をしたことに気付いた。
いつのまにか踏み込んでいた。我を忘れて、距離をとるのを忘れていた。

失敗した。

謝ろうかと思って、やめる。そうするのが嫌だったからだ。
俺を落ち込ませようとか、謝ってほしいからとか、そういった理由で彼女は質問に答えたのではない。
謝ってしまうのは、とても身勝手に思えた。

そもそも質問自体が身勝手だったのだけれど。

あまり暗くなってもしかたない。
もう何も訊かないことにして、自分の中の感情に区切りをつけた。

俺は失敗もするし嘘もつくけれど、できるかぎり失敗しないように努力しているし、嘘をつかないでいようと思っている。
一度した失敗は二度と繰り返さないように努力する。それでも失敗することもあるけれど、そのときはさらに注意する。
そういうふうにありたいと思っている。

馬鹿らしいかもしれないけど。




768:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/09(火) 12:05:45.62 ID:yBf3Hcveo
似たようなことを繰り返さないように心に留めながら、考える。
気付くと歩調がずれはじめていて、彼女は俺の少し先を歩いていた。

「ねえ」

声をかけると、屋上さんは不思議そうな顔で振り返った。

「俺と結婚の約束ってした?」

まさかな、と思いながら訊く。
声が微妙に震えているのは、気のせいだと信じたい。

「約束はしてないけど、申し込まれた」

「いつ?」

「こないだ」

「……バーベキューのときですか?」

「うん」

まぁそうだよな、と納得する。
さすがにそんな少女漫画みたいな展開はない。

まさか、そんな、ねえ?




769:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/09(火) 12:06:19.93 ID:yBf3Hcveo
それに。
そんな約束、もししてたとしても、今となっては時効なわけで。
いつまでも気にする方が馬鹿げてる。

誰も覚えてないことだし。

うん。

「でも、そういえば」

屋上さんは言葉をつないだ。

「子供の頃、公園で、近所の男の子と、そんな話をしたような」

……まさか、そんな、ねえ?
でも。
この近所、俺たち以外には同年代があんまり住んでないんですけど。




770:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/09(火) 12:06:52.03 ID:yBf3Hcveo
コンビニで買ってきたアイスをみんなに配る。るーとタクミはひとつのアイスを取り合って喧嘩していた。
最終的に分け合うことになったらしい。素敵な話。泣けてくる。

椅子に座って買ってきたジュースを飲む。後輩が話しかけてきた。

「ちい姉と、何話してきたんですか?」

「何って、結婚の約束の話だけど」

俺は正直に話した。

「まじで?」

後輩の言葉から敬語が取れた。
俺には聞き返される意味が分からない。

「マジでも何も」

そのままの意味です。




771:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/09(火) 12:08:01.15 ID:yBf3Hcveo
「兄さん」

妹に呼びかけられる。なぜか呼び方が普段と違う。

「その言い方は語弊があると思います」

なぜか敬語がついていた。

「正確に言ってみてよ」

「……屋上さんが、子供の頃、近所の男の子と結婚の約束をしたことがあるそうな」

へえ、と後輩は感心したように頷いた。
なんだったんだ、さっきの態度は。

「現実にあるんですね、そういうの」

え、ないの?
――とはさすがに言えず。

「あるみたいだね」

他人事のように返すことしかできなかった。




772:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/09(火) 12:09:03.47 ID:yBf3Hcveo
「私たちもあるしね」

妹が不意に言った。

「誰と?」

「お兄ちゃん」

「……まじで?」

「まじで」

まじでか。後輩がからから笑っていた。どう反応すればいいか分からない。

「お嫁さんにしてくれるって言った」

「言ったっけ」

「言ったのです」

子供の頃の俺っていったい何者だったんだろう。
深く考える気にはなれなかった。




773:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/09(火) 12:09:48.94 ID:yBf3Hcveo
だらだら過ごしても仕方ないので、昼過ぎに出かけることになった。といっても、またファミレスなのだが。
全員で座る。七名。大人数向けの席に案内された。

注文を済ませる。家の中にいると忘れそうになるが、外に出ると夏を感じる。
夏休みも、半分近く消化した。そこそこ充実した毎日だったんじゃないだろうか。

課題も終わらせたし、憂いはない。
後は遊ぶだけなのだが、最近は遊びに行くというよりも、みんなでがやがや騒いでいるばかりだ。
というか、だいたいのイベントは消化してしまったため、何をして遊べばいいか分からない。

残っている目ぼしいイベントなんて、夏祭りくらいしかなかった。

どこにいたって、七人もいると、話に入れない奴は出てくる。
俺だ。

幼馴染、妹、屋上さん、後輩、るー、タクミ。

それぞれ二つぐらいに分かれて話をしている。
混ざろうと思えば混ざれなくはない、が、なんとなく憚られる。

仕方なくドリンクバーに立った。どれにしようかと悩んでいると、肩を叩かれる。
振り返ると茶髪がいた。

「よう」

声を掛けられる。

「よう」

驚きながらも返事をする。
茶髪の後ろには、部長もいた。
ホントに仲いいんだ、この人たち。




774:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/09(火) 12:10:41.76 ID:yBf3Hcveo
せっかくなので一緒するかと思って、席に連れていく。
追加注文。昼時の忙しい中、店員さんには申し訳ないことをした。

「なに? この人数」

茶髪はまず最初にそこに触れた。七人。子供二人、女四人、男一人。そりゃあ戸惑う。

「この女たらし」

不本意なあだ名をつけられた。
茶髪と久しぶりに話をすると、なんだかひどく落ち着く。

部長はメロンソーダをすすりながら俺と茶髪の話を聞いて、時折口を挟んだ。

話の内容はもっぱら会わなかった間のことで、どんなことがあったのかとかを互いに話した。
茶髪はろくに出かけなかったし、ろくに課題もしていない、と言う。

彼女は自分がバーベキューに誘われなかったことにひどく憤っていた。たしかに好きそうだけど。

部長の方もほとんど同じだったようだ。とはいえ、勉強などは忙しかったらしいが。

食事を終えてさあ帰るか、となったとき、彼女ら二人も俺の家に来ると言い出す。
……九人。

多ければいいってもんじゃない、と俺は思う。




775:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/09(火) 12:11:31.39 ID:yBf3Hcveo

結局その日は夕方まで騒いだ。
遊んだり喚いたりしながら時間を過ごし、帰るときにはみんな疲れきっていた。

夜、数日後に夏祭りが迫っていることを思い出す。
期間は三日間。それが終わると、今度は隣街で大きな祭りがある。
全部行く気にはなれないが、それだけ続くとなると気分が盛り上がるのも仕方ないだろう。

少しだけ楽しみだったけど、今のところ誰とも約束はしなかった。
今のままなら、たぶん、みんなで集まることになるだろうけど。

それを思うと、少しだけ気分が楽になる。次がある、というのは、ある種の安心を産む。

その夜はひどく蒸し暑く、夜中に何度も目が覚めた。起きるたびにキッチンに行って水を飲む。
なんだか落ち着かない。

その日、眠れるまでだいぶ時間がかかった。




776:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/09(火) 12:20:43.87 ID:yBf3Hcveo
ここらへんで夏祭りと言えば、駅前の商店街で開催されるものを言う。
最近では商店街自体が寂れはじめているので、どことなく哀愁漂う祭りではあるが、まぁ地方の祭りなんてそんなものかもしれない。

商店街全域に出店が立ち並んでいる。その列はやたらと長い。
人々は浴衣を着たりして、家族や友人や恋人と一緒にやってくる。
やたらと高いカキ氷やらお好み焼きやら焼きそばやらを食べて、「美味しい」という。

商店街から脇道を逸れて街中を歩いてみると、家々の立ち並ぶ道の間に、石造りの水路があることに気付く。
水路が街中を貫いて存在している雰囲気は、なんとなくいい感じ。昔風で美しい。
しかもそれに沿って桜の木が伸びていたり。

歩くと癒される。

夜。
俺たち(七人)は、賑わいだ雑踏から遠くの、そんな道を歩いていた。
祭りに行く人数が多かったので、アキラさんに車を出してもらったのだが、当然、駐車場なんてなかなか空いていない。

そんなわけで、割と遠くで下ろしてもらって、そこから歩いていくことになったのだ。

ちなみにアキラさんとユリコさんは今日は二人で夏祭りを楽しむらしい。仲が良いのはよいことだ。

女子勢は浴衣率が高かった。
着ていないのは屋上さんと後輩の二人。妹と幼馴染はせっかくなのでと浴衣を着ていた。

巾着まで持って草履まで履く徹底ぶり。懐からがま口財布でも出しかねない。

空には月が出てきたが、街灯の明かりが周囲を照らしていた。
なんとなくしんみりする。




777:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/09(火) 12:21:25.83 ID:yBf3Hcveo
るーとタクミは祭りに行くのが楽しみで仕方ないらしく、ずっとは騒いでいる。
それを見て、後輩と幼馴染があんまりはしゃいで、はぐれないように、と諌める。

妹と屋上さんはその少し後ろを歩いている。少しずつ馴染んでいるようで、ふたりだけでも話をするようになった。
いまいちどんな話をしているのかは想像できないのだけれど。

出店のある通りに辿りつく。人の話し声が連なって、周囲を覆っていく。
ともすれば隣を歩く人の声も聞こえないような喧騒。

通るのに難儀するほどではないものの、それでも多くの人が祭りにやってきていた。
浴衣を着ていたり、水ヨーヨーを持っていたり。

射的だのくじ引きだのが並んで、広場ではステージの上で和太鼓の演奏がされていた。

食べ物を食べたり、ステージを眺めたり、遊んでみたり。

女性陣がタクミとるーを連れて盛り上がったので、俺はひとり置き去りになる。
こういうときのテンションだと、あんまり話に入れない。なんとなく。

仕方ないのでフランクフルトやアメリカンドッグやチョコバナナやお好み焼きをひとりで食べた。

すぐに腹がつらくなった。

「なにやってんだ俺は……」

もはや自身を犠牲にしたギャグにしかならない。




778:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/09(火) 12:21:59.40 ID:yBf3Hcveo
出店の中には普段見ないようなものもあった。
最たるものとして、飴細工が挙げられる。割り箸大の一本の棒に、干支の動物の形をした飴を作って売る出店。
注文を受けてから作り始めるため、待ち時間は長いが、物珍しさも相まって人は列を作る。

るーとタクミが欲しがって、長時間待たされることになる。
出店なんて多少は待たされるものだし、そうすることが祭りのメインなのだから、あんまり苦にはならない。
慌てたっていいことはない。

人波の中を歩いても、夜なので少し涼しい。

買ってきた飴を舐めながら、ふたりは笑いながら歩いていた。なんか癒される。

でも。

後輩と幼馴染はその少し後ろを歩いていて、
妹と屋上さんは、さらに後ろを歩いていて、
俺は、一番後ろを一人で歩いている。

なんだかなぁ、という気持ち。

結局、集団の中にいても、俺は取り残されている気がする。
馴染めていない気がする。自分だけ。

置いてけぼりの気持ち。
子供っぽい疎外感。

綿飴でも食うかな、と思って立ち止まる。
携帯があるし、はぐれたらはぐれたでなんとかなる。

出店に並んで、綿飴を頼む。
少し待たされる間、手持ち無沙汰になる。

そのとき、服の裾を引かれた。




779:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/09(火) 12:22:43.41 ID:yBf3Hcveo
「なにやってんの?」

屋上さんがやたらと近くにいた。
遠くでみんなも立ち止まっている。
なんだろうねこれは。
この微妙にうれしい感じ。気恥ずかしい感じ。なにやってんだ俺は、という感じ。

「綿飴、私も欲しい」

屋上さんがそういうので、二つ目を注文する。ちょっと待って、受け取って、一緒にみんなを追いかける。
なんか。
ちょっとうれしかった。

置いてかれてないや、っていう。
まぁ、それだけのことなのだけれど。
ちょっとどきっとした。




780:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/09(火) 12:23:17.47 ID:yBf3Hcveo
そろそろ帰る頃合かな、と思って引き返そうとすると、妹が屈みこんだ。

「どうした?」

と、見てみると、草履の鼻緒に擦れたのか、指と指の間が赤くなっていた。

「痛い」

まぁ、こういうこともある。

「ほれ。おんぶ」

「なんで?」

「痛いんだろ」

「でも浴衣だし」

「……何か問題が?」

「恥ずかしいです」

埒が明かないので、強引に負ぶった。

「この馬鹿兄。周りの目を少しくらい気にしろ」

なぜか怒られる。

後輩が微笑ましそうにこっちを見ていた。
……なんで一番年上みたいな雰囲気をかもし出しているんだ、あいつは。

どうせ駐車場までだし、ちょっとくらい我慢してもらおう。
来た道を遡って駐車場に戻る。大人ふたりには幼馴染が電話した。




781:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/09(火) 12:23:44.52 ID:yBf3Hcveo
なんとなく落ち着かない。

「どうしたの?」

そわそわしていると、背中に乗る妹に声を掛けられた。肩越しに返事をする。

「浴衣って帯とかで胸が当たらないもんだと思ってたんだけど、意外と当たるんだな」

「最低だこの兄」

比較的真面目な意見です。
それでも妹は、強引に離れようとはしなかった。疲れてるらしい。
しばらく歩くと、不意に背中にかかる重みが増した。
寝たっぽい。

「……この状況でよく寝れるなこいつは」

呆れる。
三分かからないって。
世界中の赤ん坊がこうだったら、育児ノイローゼも半数がなくなるだろう。

駐車場につくと、ユリコさんたちは既に車に乗っていた。

帰りの道の途中で、るーとタクミは眠ってしまった。
妹も目を覚まさないまま幼馴染の家につく。アキラさんは家まで送ると言ってくれたが、近いので断ることにした。

屋上さんたちはアキラさんに送られていくことにしたらしい。それがいい。
別れ際、屋上さんと目が合った。

なんか、変な気持ち。
そわそわする。




782:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/09(火) 12:24:11.05 ID:yBf3Hcveo
家に帰って妹をベッドに寝かせようとしたところで、浴衣のままではまずいだろうと気付く。
どうすることもできないので、とりあえず起こすことにした。

妹はしばらく眠そうにしていたけれど、やがてしっかりと起きたようだった。

自室に戻ってベッドに倒れこむ。
疲れた。

人の多いところはあまり得意じゃないし、騒がしい場所にいると混乱する。気疲れもあった。
でもまぁ、楽しかった。

明日も行ってみようかな、と思う。

全身がほどよく疲れていたら、その日は心地良く眠ることができた。




815:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/08/09(火) 23:01:19.03 ID:jWWDVt1l0
実は冒頭でも主人公は屋上さんに結婚を申し込んでたね >>43




825:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/10(水) 11:04:30.51 ID:yBf3Hcveo
翌日は誰も家に来なかった。起きたのは昼過ぎ。暇だったので、適当に街をぶらつくことにした。

レンタルショップや本屋なんかをぶらりと回って暇を潰す。こういうことをしていると時間はあっという間にすぎる。
とてもじゃないが、有意義とはいえない。かといって家でだらだら過ごすのも有意義ではない。

今この瞬間も、課題を全部終わらせた上で、一学期の復習やら二学期の予習やらをやってる奴がいるんだろうか。
ちょっと想像がつかない。
アリとキリギリスの寓話(ホントはアリとセミらしいが、語感的にはキリギリスの方がいい)。

遊んでばっかりの俺は、いつかそのツケを食らうことになるのかな、とか。
柄にもなく真面目なことを考えたりもした。

ボディーソープを詰め替えたばかりだったことを思い出して、近所のホームセンターに向かった。
生活用品は一通り何でも揃う店。いつも使っているものを購入する。妹の選択。

ひとりで買い物してるときって、なんか和む。特に生活用品の場合は。
なんかこう、生活してるや、って気分になる。
俺だけかもしれない。

帰りにペットショップを覗くと、やっぱり幼馴染がいた。

「……かわいい」

ガラス窓の向こうの子犬を見つめて瞳を輝かせていた。
よく飽きないものだな、と思う。




826:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/10(水) 11:04:57.52 ID:yBf3Hcveo
ガラス窓の向こうの子犬を見つめて瞳を輝かせていた。
よく飽きないものだな、と思う。

幼馴染は昔から犬を飼いたがっていた。ユリコさんがそれを認めなかったのは、遠出ができなくなるから。
旅行好きな一家としては、やっぱりそれは痛かった。
幼馴染も、犬を飼うことの責任と旅行にいけなくなることを考慮したうえで、納得はしていたが、やっぱり犬は好きで仕方ないらしい。

暇を持て余すとここに来て窓を覗いてる。

一度、祖父母の家に連れて行って‘はな'に会わせたことがある。すごく喜んでいた。
帰り際に泣いてた。そこまでいくとちょっと怖い。

声をかけると、幼馴染はハッとして振り返った。

「いつからいたの?」

「さっきから」

実に十分間、彼女は俺に気付かずに子犬を眺めていた。

「一緒に帰ろうか」

「うん」

並んで歩く。なぜだか赤信号に多くぶつかった。
家につく頃には二時頃になっていた。幼馴染の家までつくと、ユリコさんに強引に誘われてお茶を飲まされた。




827:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/10(水) 11:05:51.19 ID:yBf3Hcveo
「トウモロコシ茹でたから」

「いただきます」

好物。

「麦茶もどうぞ」

「いただきます」

好物。

「あ、昼間お祭り行ってリンゴ飴買ってきたの。いる?」

「いやなんつーか」

なんていえばいいんだろう、この人には。
やりすぎって言葉がある。ユリコさんも知ってるだろうけど。

ユリコさんは食べ物を置いていったあと、用事があるといって家を出て行った。幼馴染とふたりで取り残される。

「タクミは出かけてるの?」

「うん」

タクミの両親もいないようなので、多分どこかに出かけてるんだろう。
せっかくなので涼しい場所に行こうと思い、縁側に麦茶とトウモロコシを持って腰掛ける。

幼馴染とふたりで並んでトウモロコシをかじる。

「美味い」

「うん」

さっきから幼馴染が「うん」しか言ってない。
しばらくだんまり。ゆるやかに流れる時間。




828:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/10(水) 11:06:18.78 ID:yBf3Hcveo
最近じゃ珍しく、涼しい。
明日からはまだ暑いらしい。残暑は九月半ばくらいまで続きそうだという。

不意にポケットの中の携帯が鳴った。歌を設定すると外で鳴ったときになんとなく恥ずかしいので、初期設定のまま。

画面を開く。メール一通。開く。屋上さんからだった。
本文はなく、画像ファイルが添付されている。
浴衣姿のるーが、カキ氷を食べながら出店の並ぶ商店街を歩いていた。かわいい。今日も祭りにいったらしい。

「タクミ、こっちにいつまでいるんだ?」

「たぶん、今週末くらいまで」

両親の仕事の都合ってどうなってるんだろう。少しだけ疑問だった。

「……今週末」

意外に近い。
屋上さんのメールに対する返事を打っていると、幼馴染が何かを言おうとした。

「あのさ」

こんなふうに、彼女は何かを言いかけることが多い。なぜか。
そして最後には、「なんでもない」と言って話を終わらせる。

「……なに?」

続きを促す。幼馴染は戸惑ったような表情をした。

「メール、誰から?」

「ああ」

話している相手の前で携帯を弄るのは、さすがに失礼だったかな、と思う。
でも、そういうことを気にする奴じゃない。

親しき仲にも礼儀ありとはいえ、そんな瑣末な事柄で不愉快になるような間柄ではない。
もちろんそれに甘え切ってなんでもしていいと思っているわけではないが、これは「そこまでのこと」とは思えなかった。




829:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/10(水) 11:06:51.57 ID:yBf3Hcveo
少し考えてから、添付されてきた画像ファイルを見せる。

「ほら」

幼馴染はディスプレイを見て少しだけ表情を強張らせた。なぜ?

「メールのやりとり、結構してるの?」

「そこまでではない。たまに来たり、送ったり」

それも最近になってからだ。教えてもらったのがそもそもつい先日。
メールをしたといっても、大した期間じゃない。キンピラくんとの回数の方がよっぽど多い。

大抵が、こういう画像だったりとか、どうでもいいことだったりとか、家に行ってもいいかとか、そういう類のものだ。

「ねえ、好きなの?」

「え?」

驚く。どうしてそうなる。

「何が?」

「彼女」

判断に困る。

「メールのやりとりがあると、イコール好きなのですか」

「そうじゃないけど」

幼馴染はもどかしそうに唸った。

「なんか、そんな感じがする」

「そんな感じ、とは」

「……そんな感じ」

そんな感じがするらしい。
話の流れから判断すれば、幼馴染には、俺が屋上さんのことを好きであるように見えるらしい。




830:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/10(水) 11:07:18.24 ID:yBf3Hcveo
ぶっちゃけ、嫌いではないけれど。
というか、好きではあるけれど。
それが恋愛感情かと訊かれれば、どうだろう。

でもたしかに、好意の種類としては、るーや後輩に向かうものとは別のもの、という気もする。

「よく分からない」

大真面目に答える。
でも、最近なんか気になる。ふとしたときにどきっとする。
そういうことはある。それが恋愛感情なのかどうかは、まだ分からない。まだ。

「……じゃあ、私のこと好き?」

「何言ってるのか君は」

唐突な質問に呆れる。

「真面目に。シリアスに」

と幼馴染が言うので、シリアスに考えてみる。
幼馴染。

「……おまえとは、なんか、好きとか嫌いとかじゃないような気がするんだけど」

「というと?」

「きょうだいみたいなもので」

「……都合の悪いときばっかりそれだよね」

彼女は少し棘のある声音で言った。強張った表情。距離を測りかねている。

「本当に妹ちゃんと同じように扱ってくれれば、納得もいくけど」

そうは言われても、妹と幼馴染は同じ人物ではないし、立ち位置も違う。
もし仮に、本当に幼馴染が俺の妹のひとりだったとしても、妹とまるで同じ扱いにはならないだろう。

個人個人に対して態度が変わってしまうのは当然のことだし、仕方ないことだ。




831:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/10(水) 11:07:44.92 ID:yBf3Hcveo
「ねえ、今さ、私が告白したらどうする?」

「……はあ」

少し考えて、返事をする。

「え、なんの?」

「だから、好きです、っていう」

硬直する。
冗談か、と思って幼馴染の顔を見る。
目が合った。

緊張で強張った表情。
戸惑う。

しばらく、互いに黙り合った。西部劇の決闘みたいな雰囲気。というのは嘘。

「……困ってる?」

「困ってる」

そう答えた俺より、幼馴染の方がよっぽど困った顔をしていると思う。
困ってる。
でも、何かは言わなくちゃいけない。

考えなかったことではない。想像していたことでもある。
けれど、そのとき自分がどう答えるか、まるで想像ができなかったのだ。
俺は幼馴染をどう思っているのか。

罪悪感が胸のうちで燻る。なぜだろう。これは誰に対する罪悪感なんだろう。

たぶん、幼馴染に対するもの。
罪悪感があるということは、つまり、俺の中では、幼馴染に対する感情は、恋愛的なものではない、ということだ。

自分の中で絡まっている感情を、少しずつ解いて言葉にしようとする。
その作業を進めているうちに、つくづく自分が嫌になっていく。保険をかけようとするからだ。
この期に及んで、正直に、思ったことだけを告げることができないからだ。




832:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/10(水) 11:08:13.90 ID:yBf3Hcveo
やがて、なんとか考えを言葉にする。できるだけ慎重に。

「たぶん」

なんというか。
たぶん。

「おまえは俺にとって、家族なんだよ」

言ってから、言葉が足りないことに気付く。
そうじゃない。でも、難しい。どういえば伝わるだろう。
好きじゃないわけじゃない。でも、それは恋愛感情というよりは、家族に対するそれに近いのだ。

お互い、押し黙る。心臓が痛んだ。何かを言おうとするけれど、やめる。
言葉を重ねれば重ねるほど、言いたいことが伝わらなくなってしまう気がしたからだ。

彼女は少しの間、ずっと息を止めていた。顔を逸らして俯いた。
俺は何も言えない。
しばらくあと、幼馴染は軽い溜息をひとつ吐いて、拗ねたみたいな声音で言った。

「好きだから」

そういう空気はずっと感じていたのに、実際に言われてみるとひどく戸惑う。
俺が何も言えずにいると、幼馴染が立ち上がった。どたどたと大きな音を立てながら、階段を登っていく。

ついさっきまでとは、自分の体を構成しているものがまるで別のものになってしまった感じがする。

不意に、屋上さんの顔が脳裏を掠めた。

現実感がまるでない。
手のひらの中に、受信したメールを表示したまま操作していない携帯があった。
折りたたんでポケットに突っ込む。やけに鼓動が早まっている。落ち着こうとして麦茶をコップに注いだ。

ユリコさんが帰ってきてから挨拶を済ませて家を出た。
帰り道を歩いているはずなのに、どこをどう歩いているのかが分からない。

やけに重苦しいような痛みが胸を突いた。

家に帰ってから、リビングのソファに倒れこんだ。ひどく疲れている。
現実感が、まるでない。

夕食は半分も腹に入らず、体調でも悪いのかと妹に心配されたが、そうではない。
その日は動く気になれず、ほとんど何もしないまま眠った。




833:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/10(水) 11:09:02.63 ID:yBf3Hcveo
翌日は朝から昼過ぎまでじめじめとした雨が降り続いていた。湿気で暑さが煩わしく疎ましい感触を伴う。
しっかりと覚醒してからも、起き上がる気にはなれずベッドの上でごろごろと寝転がった。

昼過ぎに妹に強引に起こされた。あまりだらだらするなと言いたいらしい。

仕方ないので起き上がる。汗がべたついて気持ちが悪いので、シャワーを浴びることにした。

濡れた髪を簡単にタオルで拭いて服を着替える。少しさっぱりとした。
リビングにはタクミがいた。傘を差してひとりで来たらしい。

「なんかあったの?」

タクミにすら気付かれる。なにかはあった。

「世の中には、どれを選んでも正解じゃない問題だってあるんだなぁ、というお話です」

分かったようなことを言ってみる。
タクミは呆れたように鼻を鳴らした。小学生にして、なんなのだろうこの貫禄は。

なにがあったというわけでもないのに、落ち込んでしまう。
なんだろうこれは。上手く言葉にならない。

タクミは少し休んだ後、雨の中を帰っていった。

俺は部屋に戻ってまたベッドの中で寝返りを打ち続けた。

考え事が上手くまとまらない。

なんというか。
告白、されたわけで。

うれしくないわけではないけど、どちらかというと後ろめたさの方が大きかった。
それが誰に対するものかは分からない。その由来の知れない罪悪感が、ひとつの答えになっているような気がする。




834:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/10(水) 11:09:37.91 ID:yBf3Hcveo
家でぐだぐだと考えていても仕方ないので、出かけることにした。
街を適当にぶらつく。本屋、レンタルショップ。暇を持て余した休日のルート。

本屋でマエストロと遭遇する。少し話をして別れた。彼は以前となんら変わらない。
でも、以前とは何かが違う。変わったのはなんだろう。状況か、環境か、あるいは俺自身か。

何か、落ち着かない。
家に帰ろうと歩いていたところで、サチ姉ちゃんに捕まった。

近所のコーヒーショップに連れて行かれる。古臭い環境音楽。適当に注文を済ませてから、サチ姉ちゃんは俺を見て変な顔をした。

「……どうかしたの?」

不思議そうな顔。この人でも他人を気遣ったりするんだな、と妙なことを思った。

「いや、なんといいますか」

困る。上手く言葉にできない、のです。自分でもよく分からない。
だが、今の感情を分かりやすく説明するなら、

「……二股かけたい」

「最低だ」

サチ姉ちゃんは呆れたみたいに吹き出した。

「なんかもう、考えるのめんどいっす」

「何があったのよ、いったい」

何があったか、と言われれば、幼馴染に好きだと言われただけなのだけれど。
「だけ」というには、ダメージが大きすぎた。

「なんというか、いつかこういうことになるのは分かってたんですけど」

どういう形であれ、みんなで楽しく遊ぶのをずっと続ける、なんて形にならないのは自然なことだ。
仮に曖昧なままで進んだって、結局いつかは何かの形で別れることになるわけで。




835:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/10(水) 11:10:03.74 ID:yBf3Hcveo
「なんというか」

どうしたものか。
どうしたものかも何も、俺の中で結論は出ているのだけど。

いま俺が落ち込んでいるのは、明確な答えが出せないからではない。
答えが出た上で、どう動くべきかを悩んでいる。
昨日、幼馴染が最後にああ言ったとき、俺の頭に浮かんだのは、屋上さんのことだった。

なんなんだろう。

なんというか。

どうやら俺は屋上さんのことが好きらしい。昨日、気付いたのだけれど。たぶん幼馴染よりも。
あわよくばもっと近付きたい。付き合いたい。下心。

でもそれは、幼馴染と比べてどうとかいうわけじゃなく、どこがどうだというのでもなく、単にタイミングの問題。
彼女は俺が欲しがっているものを、欲しがっているタイミングで差し出してくれる。大抵、偶然なのだけれど。
立て続けにそんなことが起こったから、どうしても、好きになってしまうのだ。
結果からいえば、だけれど。

こんがらがってる。いろんなものが。

「なんていうかさ、いろいろ考えすぎなんじゃない?」

サチ姉ちゃんは、俺を励まそうとしているようだった。似合わない。

「一個一個見てけば、意外と簡単に片付くものって多いよ」

一個一個。
やってみよう、と思った。

幼馴染は俺が好きだと言った。聞き間違えたのでなければ。
で、俺はどうやら屋上さんが好きらしい。
でも、今までの関係も居心地良く感じていた。

多分そこだ。

俺は、今までの状況を居心地良く感じていた。このままでもいいや、って思っていた。
でも、たとえば誰かを好きになって、仮に付き合うなんてことになったら、今のままじゃいられない。

選択。

サチ姉ちゃんの言葉をもう一度考える。「一個一個」。でも、もう遅い。
今までのぬるま湯みたいな関係を続けるには、もう幼馴染が行動を起こしてしまったわけで。
俺は自分の好意に自覚的になってしまったわけで。




836:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/10(水) 11:10:34.11 ID:yBf3Hcveo
恋愛としての「好き」が屋上さんに向いているとしても、幼馴染のことを「好き」じゃないわけじゃない。
だから、選べといわれても困る。
でも、選ばざるを得ない状況に、いつのまにか追い込まれている。

これがぐだぐだ過ごしてきたことのツケだろうか。

なんというか。

ままならない。

悪いことではない、はずなのだが。

「どうにかなりませんかね、こう、みんな俺のこと大好き! みたいな感じで終われません?」

「それはねーよ」

サチ姉ちゃんはさめた声で言った。

「ですよねー」

まぁ、冗談なのだけれど。

でも、俺としては、誰に対しても真摯にぶつかるしかない。
幼馴染に考えてることを伝えてみるしかない。

サチ姉ちゃんはちょっと笑った。

「アンタね、ちょっと傲慢なところがあるから」

「傲慢。傲慢ですか」

「なんか、自分がなんとかしなきゃどうにもならない! みたいに思ってそうな」

「そんなことは」

めちゃくちゃあります。

「いくら自分に関わりのあることだからって、自分がなんとかしなきゃ何一つ問題が解決しないと思ってるなら、思い上がりだから」

サチ姉ちゃんは偉そうなことを言った。
そうだろうか。少なくとも自分にかかわることなら、自分が行動を起こさないとどうにもならない気がする。




837:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/10(水) 11:11:01.29 ID:yBf3Hcveo
「案外、なんもしなくても状況が動いたりするんだよね。あと、アンタはいろいろ溜め込みすぎ」

「溜め込んでないっす」

溜め込んでない。つもりだ。

「たまには言いたいことぶちまけちゃった方いいよ。猫の毛玉みたいなもんでさ」

なんかえらそうなことを言ってる。
けど、この人が俺に会うたびに「上司の目がいやらしい」だの「結婚した同級生がうっとうしい」だのという愚痴を言ってくるのには変わりない。

いまさら、ちょっといいこと言おうとしても手遅れです。

サチ姉ちゃんと別れて、家に帰る。
なんとなく頭が疲労している。

たとえば、幼馴染に、俺って屋上さんが好きなんだよ、と言ったとして。
「そっか、じゃあ仕方ないね」って納得して、今まで通りの付き合いをしてくれるというのは、とうぜん、ありえない。
それを考えると憂鬱だ。

でもどっちにしろ、二人を同時に取るなんてことはできないわけで。
いつか屋上さんのところに成績優秀頭脳明晰運動神経抜群の怪物が現れて、彼女を誘惑しないとも限らない。

それなら。

でも。

やっぱりなぁ、と考えてしまう。不安。
今までずっと一緒にいた幼馴染と、話もできなくなったりしたら、俺はどうなるか。

それでも、どうにかしないわけにはいかなかった。
俺は、誰に対してもできる限り真摯でありたいと思っているのだ。




839:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/10(水) 11:12:44.55 ID:SkGJlR4do
おい
幼馴染
おい




845:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋):2011/08/10(水) 11:50:46.64 ID:ZbI7AgzTo
おい、どーしてくれんだこれ




851:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都):2011/08/10(水) 12:49:30.61 ID:ez6wfpiZo
いやああああ幼馴染がああああ

といって屋上さんもいいからなあ

妹もね




882:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/11(木) 12:13:18.79 ID:yBf3Hcveo
何かを言わなければならない、と決意はしたものの、どこから手をつけたものか分からない。

結局悩みに悩んだ挙句、誰にも何も言えずに、タクミが帰る日になった。
俺と妹は一緒に幼馴染の家に行って、別れを惜しんだ。三姉妹も来ていた。俺と幼馴染は一言も話せなかった。

何かを言わなければならない、のだけれど、何をどう言ったものか、分からない。

タクミは平気そうな顔をしていた。何を考えているのか、つくづく分からない奴だ。
それでも、初めて会ったときのようにゲームを手放さないなんてことはなくなっていた。

るーは後輩の背に隠れて、何かを言いたそうにしている。寂しそうな表情。
タクミはそれを見て困った顔をする。

暑さがおさまり始めた昼下がりに、タクミたちの両親は幼馴染の家を出た。

タクミはるーを手招きして呼び寄せて、小声で何かを言った。
それを聞いたるーがくすくすと笑う。ふたりはそれっきり話をしなかった。

「またな」

と俺が言った。うん、とタクミは頷いた。
そのまま車に乗ってしまうのかと思ったら、彼は、今度は俺を呼び寄せた。

「なに?」

「ねえ、姉ちゃんと早めに仲直りしときなよ」

諭されてしまう。やっぱりこいつは大人だ。

「けっこう、落ち込んでたよ」

なんというか。まぁ、そうなのだろうけれど。

「まぁ、がんばるよ」

苦笑しながら答える。どうなるかは分からないし、どう言えばいいかも分からないけど。
でもまぁ、がんばる。




883:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/11(木) 12:14:12.30 ID:yBf3Hcveo
彼は最後に、俺たちに向かって小さくお辞儀をした。大人だ。もうちょっと子供っぽくてもいいのに。

タクミを乗せた自動車は、あっという間に見えなくなった。

蜃気楼が道の先を歪ませていた。うっとうしいような蝉の声だけが、いつまでもそこらじゅうに響いている。

少し、落ち着かない空気が流れる。ユリコさんが、それを吹き飛ばそうとするみたいな大きな声をあげた。
彼女は俺たちを家の中に招こうとしたけれど、全員が断った。
なんとなく、もうちょっと黙っていたいような気分だった。

全員で俺の家に向かい、リビングで寝転がる。誰も何も言わなかった。
やがて、るーはソファに寝転がって顔を隠したまま眠ってしまった。

後輩は困ったみたいに笑った。

「るー、泣きませんでしたね」

彼女は少し意外そうだった。るーもタクミも、強がりなタイプで、弱いところを見せたがらない人種だ。
まだ子供なのに、俺よりもずっと大人だ。参る。

幼馴染も、俺たちの家にやってきていたけれど、俺とはちっとも言葉を交わさなかった。
黙っているというわけではなく、終始、妹に話を振っている。

このままじゃまずい、と思う。
窓の外から、まだうるさい蝉の声が続いている。

腹を決めるしかない。
タクミに言われてしまったわけだし。

幼馴染を誘ってコンビニに行く。彼女は少し緊張したような顔つきでついてきた。

こういうことはどう伝えるべきなのだろう。
下手に取り繕っても無意味だという気がした。

けれど、実際に考えを口に出す段階になると、どうしても躊躇してしまう。
蝉の鳴き声。赤く染まりかけた西の空。揺れる木々。かすかに肌を撫でる風。

隣り合って歩く。

言葉というものは、考えれば考えるほど混乱していく。
だから思ったことを単刀直入に言うべきなのだ。

でも。
言うとなると、難しい。




884:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/11(木) 12:14:39.72 ID:yBf3Hcveo
結局、コンビニに着くまで何も話すことができなかった。飲み物とアイスを買って店を出る。また並んで歩く。

帰りに公園に寄った。幼馴染は黙ってついてくる。
ブランコに座る。落ち着かない気持ち。

考えても仕方ないし、ずっとこうしていても仕方ない。

「俺さ」

幼馴染が息を呑んだ気がした。
間を置くのもわずらわしい気がして、はっきりと告げる。

「屋上さんのこと、好きだ」

声に出してみると、その言葉は俺の頭の中にすっと融けていった。いま言ったばかりの言葉が、心に自然に馴染む。
好きだ。

なんかもう、そうなってしまっている。
手遅れな感じ。
惚れたからにはしかたない。

長い時間、沈黙が続いた気がした。幼馴染の方を見ると、顔を俯けていて表情がよく分からない。

「私は」

と、しばらくあとに彼女は口を開いた。

「やっぱり、家族なの?」

否定しようとして、口をつぐんだ。どう言ったところで同じことだ。
俺は何も言わなかった。胸が痛む。緊張のせいか、息苦しささえ覚える。

そうじゃない。
家族だと思っているからとか、そういうことじゃない。
でも、それを言ったところで、何も変わらない。

彼女はじっと俯いたまま動こうとしなかった。ふと、トンボが飛んでいることに気付く。
それを追いかけていると、視線が上を向いた。夕月が青白く澄んだ空にぼんやりと浮かんでいる。夏の終わりが近付いていた。




885:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/11(木) 12:15:35.92 ID:yBf3Hcveo
不意に、幼馴染が、今までに聞いたことがないほどはっきりとした声で言った。

「納得いかない」

「……は?」

「納得いきません」

納得いかないらしい。
何が?

「だって、ずっと一緒にいたでしょ、私たち」

「はあ」

「人生の半分以上の時間を共に過ごしてるわけで」

「……いやなんつーか」

「その間中、私はずっと好きだったわけで」

「……ずっと好きだったんですか」

「ずっと好きだったんです」

頭の中で斉藤和義が歌っていた。
なんか、開き直ったっぽい。

「ね、屋上さんにふられたら、私と付き合ってくれる?」

「何言ってんだおまえは」

「いいじゃん。保険。キープ」

こいつ、自分で何言ってるのか分かってるんだろうか。

「あのな、仮に振られたとして」

言いかけて考え込む。
そういえば、振られるかもしれないんだった。
何も解決してない。

「……いや、それは今はいい。仮に振られたって、あっちがダメだったからこっち、みたいな真似できるわけないだろ」




886:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/11(木) 12:16:12.16 ID:yBf3Hcveo
「なんで? 別に私はいいけど」

「いいけど、って」

「だから、別にそういう扱いでもいいよ、って」

ダメだ。
言葉が通じなくなってしまった。

「なんなら二号さんでもいいよ!」

……あれ?
なんか二股できる感じの雰囲気?

いや違うだろう。

「ダメだって」

何が悲しくて、こんなことを必死に否定しなければならないのか。

「でも、それじゃ私、告白し損じゃん。もし君が先に屋上さんに告白して、それで振られてたら、私にもチャンスがあったわけでしょ?」

「いや、え?」

「先に告白しちゃったから付き合えませんって、どう考えてもおかしいよ」

……いや、なんつーか。

「振られる前提で話を続けないでください」

そこまで自信がないので。

「いいじゃん、振られてよ」

無茶を言う。そこは俺の意思でどうにかなる部分じゃないです。
言ってることがむちゃくちゃだ、さっきから。




887:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/11(木) 12:16:50.66 ID:yBf3Hcveo
「いや、だからさ――」

「あ、アイス溶けてる」

「――あっ」

「もう帰ろうよ」

言うが早いか、幼馴染はブランコから跳ね上がるように立ち上がった。

「いや待てって」

「もう何も聞きたくないです」

結局、その後は何を言っても聞いてもらえなかった。
家に帰ってからドロドロに溶けたカップアイスを冷凍庫に突っ込む。

幼馴染はその後すぐに帰ってしまったので、あの態度にどういう意図があったのかが分からない。
本気で言っていたのか、ただの強がりだったのか。

まさか、とは思う。

でも、もし本気で言っていたら、少し気が楽になるのに。
どう考えても希望的観測。

もう以前通りとはいかないだろう。
……そのはず、だ。うん、たぶん。

その後すぐに、幼馴染は自分の家に帰った。三姉妹も同様に、揃って帰路につく。

特別騒がしかったわけではないはずなのに、妙に静かになったように感じる。
困る。

台所で洗い物を始めた妹が、不意に俺に声をかけた。

「ねえ、お姉ちゃんの何かあった?」

鋭い。
が、どう答えるべきか迷う。
何も言うべきではない気もするし、何かを言っておくべきだという気もする。

結局、何も言わなかった。

「いいんだけどさ」

ちょっと拗ねたみたいに、妹は言った。




888:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/11(木) 12:17:18.01 ID:yBf3Hcveo
部屋に戻ってベッドに寝転がる。
さて、どうしたものか。

ひとまず、幼馴染に自分の考えを伝えることはできた。
なんだか、非常に疲れる結果になったけれど、まぁ贅沢は言わない。
妙に気に掛かるところではある。が、今は気にしてたって仕方ない。

――で。

これからどうすればいいんだろう。

告白?
というのは、唐突だ。
別に、今すぐ急いでどうにかしようとしなくても、なんとかなるんじゃないかな、と思う。
サチ姉ちゃんもそんなこと言ってた。

……いいのか、それで。

どうなんだろう。
でも、今日は疲れた。とりあえず眠りたい。
ここのところずっと考えてばかりだったから、少し休んでいたい。

その日は何の考えも浮かばないまま眠る。

翌日になって、サチ姉ちゃんが実はエスパーなのではないかと疑いたくなるような出来事が起こった。

前日、早めに眠りについたにもかかわらず、ぐっすりと眠って十時過ぎに起床した俺は、起きてすぐ携帯を手に取った。
メールが来ているのに気付く。慌てて開くと、屋上さんからのものだった。十五分ほど前のもの。

心臓の鼓動がやけに騒がしいことに、気恥ずかしい気持ちを覚えながら本文を読み進める。
内容は単純で、近々後輩の誕生日が来るため、プレゼント選びを手伝って欲しい、という内容。

二人でお出かけしませんか、的なお誘い。

「うおお……」

喜んだりする前に、強く動揺した。どうしよう。
とりあえず深呼吸をする。深く息を吸って、息を吐く。
後輩の誕生日って夏だっけ、と考える。思い出そうとしたけれど、記憶に引っかかるものはない。

夏休み中に誕生日が来ていたなら、知らなくても無理はない。

でも、なんで俺なんだろう。
幼馴染とか、妹の方がいいんじゃないだろうか。後輩、女の子だし。

とはいえ、そんなことを言ってせっかくの機会を棒に振ることになるのも嫌だったので、即座に了解の返事を打った。

サチ姉ちゃんはエスパーです。




889:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/11(木) 12:17:58.60 ID:yBf3Hcveo
その日。
俺は朝五時半に目覚めた。むしろほとんど眠れなかった。やけに緊張していた。たぶん受験のときより緊張している。
眠れなかったからといってベッドにすがりついていても仕方ないので、さっさと起き上がる。

準備を終えて時間に余裕ができる。三時間以上。
そわそわする。

「……どうしたの?」

妹に心配される。

「なんでもない」

「なんでもないなら貧乏ゆすりをやめて」

無意識です。

時間になってから、忘れ物がないかを確認して家を出る。一応、決めた時間に迎えに行くことになっていた。
結構距離がある、が、毎日のように三姉妹は歩いてきていたわけで。恐るべし。
幸いなことに、暑さはそこまでではなかった。

相変わらずでかい家だった。
玄関でインターホンを鳴らす。やっぱり緊張する。でも押さなきゃならない。怖い。ジレンマ。

呼び出しベルが鳴った後、家の中からどたばたという物音が聞こえた。

がらりと引き戸が開いて、なかば飛び出すみたいに屋上さんが出てくる。

「……どうも」

「あ、うん」

言葉が途切れる。
なんか言わなきゃ、的な空気が飽和する。

でも、互いに言葉はない。
困った。
というか、困っている。

そういえば屋上さんとふたりきりになるなんて久々なわけで。
一緒に出かけるなんて初めてなわけで。

そう考えると目すら合わせられない。彼女の方を見るのが怖い。

なぜか普段と雰囲気が違って見えるし。

なんかこう。
……どうしたものか。

持て余す。いろいろ。




890:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/11(木) 12:18:27.37 ID:yBf3Hcveo
ずっとそうしていても仕方ないので、とりあえずモールに向かって歩く。言葉がない。
何を言えばいいやら。
今までどんな話をしていたんだっけ。

……平然とセクハラまでしていたような。

何者だ、以前の俺。
ていうか、ぱんつまで覗いてたような。

……なんだろうね、この気持ち。
なんていうか、昔の自分に腹が立ってくるよね。おまえ、どんだけ調子乗ってんだ馬鹿野郎っていう。
見詰め合ってなくても、素直におしゃべりできません。
馬鹿みたいだけど。

モールに着くまで、結局会話らしい会話はほとんどなかった。

「何か考えてるのはあるの?」

「え?」

「プレゼント」

「あ、ああ」

突然話しかけたからか、屋上さんは少しきょとんとしていた。

「何も考えてない」

「……何も考えてないのに、とりあえずモールに来たの?」

「……うん」

深くは追及するまい。
とにかく、店を回る。後輩の趣味を屋上さんに訊ねながら店を回る。

「ぬいぐるみとか好きかも」

まじかよ。
予想外でした。

「鞄に小さめのストラップ付けてる。いつも」

そういえばそんなのもあった気がする。
ちょっと想像してみる。ぬいぐるみ的ストラップをつけた鞄を背負う後輩。

――なんか普通にスタイリッシュだ。チューインガム噛んでそう。
もう何をやってもスタイリッシュなんじゃなかろうか、あの子。




891:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/11(木) 12:19:01.53 ID:yBf3Hcveo
ともかく、小物が置いてある店とか、ぬいぐるみ系統の店とかを回る。
男の居心地の悪さは女性向け服飾店にも劣らない。

適当に歩いてみるものの、これだというものは見つからないらしい。

仕方ないので他の案を探すついでに店を回ってみることになった。
雑貨屋。マグカップ、写真立て。このあたりは経験則的に悪くないが、誰かに贈ったものを提案するのも気が進まない。

ああでもないこうでもないと言い合いながら、いろいろ見て回る。

結局目ぼしいものが見つからないまま昼になり、とりあえず昼食をとることにする。
フードコートのなかのハンバーガーショップ。学生の財布にやさしい場所。

妹ときたときとまるで同じルートって、自分の行動範囲の狭さを自分で示しているような。
なんとなく生まれる後ろめたさ。
いや、深く考えないようにしよう。

対面に座ってハンバーガーをかじる屋上さんの顔を覗き見る。
特に退屈ではなさそう、では、あるのだが。

気を遣う。

なんか、こう、ねえ。
下手打ってないかな、とか、まずいことしてないかな、とか、失敗してないかな、とか、全部同じ意味なんだけど。

気付くと、屋上さんがこっちを見ていた。

「……なに?」

「え?」

「見られてると食べにくい」

「あ、はい」

無意識でした。

とはいえ。
どこに目を向けたものか困る。普段はどうしていたんだっけ。

ああなんかもう、おかしくなってる。




892:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/11(木) 12:20:38.60 ID:yBf3Hcveo
軽い食事を終えた後、次はどこの店を回ろうかと考えはじめたところで、屋上さんがゲームセンターで足を止めた。

UFOキャッチャー。
たしかにぬいぐるみはあるけれども。

以前の失敗が頭を過ぎる。今はタクミもいないのです。

でもまぁ、仕方ないので筐体に小銭を突っ込む。

「え」

と屋上さんは変な声をあげた。

「どれ?」

「いや、いいって」

「もう入れちゃったし」

「……それ」

彼女が指差したぬいぐるみの位置を確認する。
難しくはない、が。

一度やってみるしかない、と思う。

失敗する。

屋上さんが居心地悪そうに体を揺すった。

「こういうのは最初に一、二回失敗するものなのです」

本当はあんまり詳しくないけど、それっぽいことを言う。
また硬貨を投入する。二度目。失敗する。位置と向きが変わる。

三回目。取る。

「はい」

ぬいぐるみを受け取るまで、彼女はずっときょとんとしていた。

「エアホッケーしようぜ!」

ついでだから誘う。あっさり負けた。




893:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/11(木) 12:21:07.61 ID:yBf3Hcveo
他の店を適当に見て回る。特に心惹かれるものもなく、無難に浮かぶものもない。
役に立ててるんだろうか、俺。

「なんも思いつかないっす」

「うん」

無口になる。なんか言わなきゃ、的な雰囲気。でも言うことねえや。

なんかもう、ね。
何を言えばいいやら。今までどんな話をしていたやら。

ちょっとした会話はあっても、話が弾むことはない。
居心地悪いわけではないんだけど。

これはこれでいいのかもしれないけど。
あと一歩、という感じの。

結局、特に何があるわけでもなく、夕方近くに帰ることになった。

並んで帰る。ひょっとして今じゃね? って思う。
何かを言うにはちょうどいい時間。
どうしたものか。隣を歩く屋上さんは、UFOキャッチャーで取ったぬいぐるみを抱えて視線を落ち着かないように彷徨わせていた。

考え事をしながら歩く。
それでも結局、何もいえない。肝心のところでダメ人間。

あーあー。
どうにかせねば、と焦る。なんか言わなきゃ。

会話がないまま道を歩く。夕方。トンボが飛んでる。蝉の声。
どうしたものか。

距離を測りそこねている。

屋上さんの家につく頃には、四時半を回っていた。

なんか言わなきゃ、が、ずっと頭の中でぐるぐる巡っている。
そうこうしているうちに、屋上さんは一歩踏み出した。

「それじゃ」

短く言って、彼女は歩いていってしまう。
ああもうめんどくさい。言っちゃえよ。
衝動に従う。

「ストップ」

屋上さんは戸惑ったみたいに立ち止まった。振り返った彼女の表情が、今までで見たことのないものに思える。




894:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/11(木) 12:21:38.55 ID:yBf3Hcveo
さて、何でもありません、とは行かない。
何かを言わなきゃならない。

とはいえ。
どう伝えたものやら。

「あのさ」

ひとまず何かを言おうと口を開く。
でもダメだった。何も浮かばない。混乱する。言いたいことは明快なはずなのに、言葉が出てこない。
自分が、怖がっていることに気付いた。

心臓が鳴る。どうしたもんか。正面から屋上さんの顔を見ることができない。どうしようもない。

「あのさ」

……繰り返しになる。
馬鹿みたいに見えるかもしれない。

でも、仕方ないんです。
告白なんて初めてなんです。

「あー」

何も言えなくて、焦る。時間だけが過ぎていく気がする。このまま何も言えずに、彼女が帰ると言い出してしまったらどうしよう。
ていうか、仮に言えたって、振られるかもしれないわけで。そっちのほうがむしろ可能性としては濃厚だ。

「ごめん、ちょっとまって」

彼女は困ったみたいな顔で頷いた。表情が少し強張っている。緊張が伝染したのかもしれない。

逃げたい。

嫌な想像ばかりしてしまう。
変な汗をかいてる。どうしよう。

「おまえ、考えすぎるタイプだもんな」

頭の中で、誰かが言った。
そうなんです。
考えすぎて、足を取られて、身動きが取れなくなるタイプなんです。

好きだ、っていうのは、なんか偉そうだし。
好きです、っていうのも、なんか馬鹿らしいし。
付き合ってください、だと、意味が通じないし。

でも、完璧な告白文なんてものがあれば、みんながそれを使う。
結局、どれを選んだって、自分の気持ちをそのまま表現することなんてできないのだ。

壊れるほど愛しても三分の一も伝わらないわけですし。

だったらとりあず、後先考えずに言葉にしてみるしかない。




895:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/11(木) 12:22:11.17 ID:yBf3Hcveo
「好きだ」

言った。
時間が止まった気がした。
そのまま続ける。

「付き合ってください」

なんか間抜けだった。
でもしょうがない。言うしかなかった。

屋上さんは間もおかず、

「は、はい」

即座に返事をした。

「……え?」

「え?」

お互い、きょとんとする。

いやなんつーか。
反応早すぎじゃね?

こういうのって、永遠にも思える五秒、とかそんなんじゃないの?
なんか、一秒なかったんですが。
というか、「付き合ってください」の「さ」のあたりで既に「はい」って言ってたんですけど。

「……え、あ、いや、え、なに?」

屋上さんも屋上さんで、俺がなぜ硬直しているかが分からないらしく、混乱していた。

「……ひょっとして、返事する準備してた?」

「え、あ……」

彼女は「ああ」とか「うう」とか唸りながら顔を真っ赤にして俯いた。
いやなんつーか。

「……うん」

雰囲気でだいたい感じ取れるものなのかもしれないけど、もし違う話だったらどうするつもりだったんだろう。
いつのまにか、さっきまで全身を支配していた緊張がどこかに消えていることに気付く。

この人には敵わない。




896:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/11(木) 12:22:53.65 ID:yBf3Hcveo
「えっと、それってさ」

とりあえず、話をまとめてしまおう、と口を開く。

「つまり、その……」

口に出すのが照れくさくてどうにもまずい。
言ったあと、実は違う意味でした、みたいに言われたら、目も当てられない。
また緊張する。

「うん」

屋上さんは、今にも逃げ出してしまいそうなほど真っ赤になって、小さな声で頷いた。

「その」

どうにか、必死に言葉を寄せ集めるみたいな顔をして、

「よろしく、おねがいします」

告げた。

なんていうか。
なんていうか。

なんだろう、この可愛い生き物。

「えっと。……こちらこそ?」

現実感がない。
はっとして、夢オチを疑う。
頬をつねる。

「……なにやってんの?」

呆れられる。
痛かったけど、痛いからって現実とは限らない。




897:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/11(木) 12:23:35.40 ID:yBf3Hcveo
どうしましょうか。
頬が勝手に持ち上がる。

「いや、どうしたもんかねこれ」

手のひらで自分の頬をこね回して表情を戻そうとする。でも、どんなに抵抗しても無駄だった。
どうしたものか。

不意に、屋上さんが笑った。

「顔、真っ赤だけど」

お互い様です、とは言わないでおいた。

なんかもう夢でもいいや。
でもやっぱ夢じゃ嫌だ。

頭が回らない。

その日、どのタイミングで屋上さんと話すのをやめて、どのように家に帰ったのかがどうしても思い出せない。
そのあとの記憶がひどく曖昧で、次に目をさましたとき、ひょっとして全部夢だったんじゃないかと疑った。

あんまりにも不安になったので、屋上さんにメールを送った。

――昨日の出来事は夢でしたか?

返信は少し遅かった。

――夢じゃないみたいです。

夢ではないらしい。




901:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/11(木) 12:36:29.16 ID:dVFuZsISO
やばい…告白シーン見てるだけでこっちがドキドキした…

乙!




910:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都):2011/08/11(木) 13:13:31.84 ID:rtLil05vo
ああああ幼馴染頑張れえええ

ってもう遅いか…


二号でもええやん(T ^ T)




913:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/11(木) 13:52:35.97 ID:xHcdEwkjo
幼馴染健気過ぎ泣いた
俺が慰めてあげよう




919:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/11(木) 15:05:50.15 ID:yBf3Hcveo
――その後の顛末。

俺と屋上さんは、特に際立った進展があるわけでもなく、夏休みの残りを消化した。
デートは三回した。一回目がモール、二回目が映画、三回目もモール。
レパートリーなんてありはしないので、相当苦労した。

その結果、彼女と俺との間でいくつかの約束ごとがなされることになる。
話し合いは近所のコーヒーショップで行われた。

曰く、

「あんまり、無理にデートとかしようとしなくてもいいんじゃない?」

という話。
どこにいったって緊張してろくに話せるわけでもない。それだったら、今までみたいにぐだぐだ過ごしたほうがいいんじゃないのか、と。

でもせっかくだし、デートとかしたいんだけど、と俺が言う。

「それは、もうちょっと現状に慣れてからの方が」

その言葉は、俺を簡単に納得させた。
お互い、思うところはあるのだが、かといってそれを一気にやろうとしても間が持たない。
焦ってもろくなことにならないのは見えているし、と合意した上で、話はまとまった。

帰り道で手を繋ぎたいと提案されて、それを受け入れた。とりあえず、夏は暑い。

さて。

俺と屋上さんが付き合うことになったという話は、簡単ながらも早々に広がった。

まず、礼儀として幼馴染に。
彼女とはその後三日間、連絡がとれなくなったが、四日目、俺の家に押しかけてきた。
ちなみにそのとき屋上さんもいた




920:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/11(木) 15:06:16.62 ID:yBf3Hcveo
「夢を見ました」

と幼馴染は言った。

「なんか、人気のあるラーメン屋なら行列くらいあって当然だ、みたいな天啓を受けました」

どっかで聞いたことのある話だ。

「というわけで、諦めないことにしました」

「そこは祝福してください」

話は簡単には終わらないようだった。

それとは別に、ユリコさん側からも話があり、

「アンタに彼女ができようが彼氏ができようが、私としてはこれまで通り、面倒みたり連れまわしたりします」

とのこと。
それ、いいんだろうか。そろそろ年頃だし、別に面倒見てもらわなくても。
どこかに行くとなれば幼馴染も一緒になるわけだし、さすがに気まずい。
とはいえ、ユリコさんには逆らえない。どうしたものかと策略を練っているところだ。

妹の反応はというと、ひどくシンプルだった。

「あ、そう」

短く頷く。もうちょっと、なんかないの? と訊ねると、彼女は簡単に答えてくれた。

「お兄ちゃんに彼女ができようができなかろうが、私はお兄ちゃんの分のご飯を作るし、新学期になればお弁当も作るんです」

ちょっとよく分からない理屈だが、自分の態度はなんら変わることがない、と言いたかったらしい。
周囲の反応はといえばそんなふうだった。




921:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/11(木) 15:06:43.92 ID:yBf3Hcveo
それから、後になって後輩から聞かされた話がある。

「ぶっちゃけ、ちい姉から告白するように仕向けてたんですけどね、私は」

なんでも、後輩の誕生日というのは単なる口実だったらしい(実際に誕生日は近かったらしいが)。

「ちい姉がね、新学期始まったら、これまでみたいに会えなくなるんじゃないかって心配してたんですよ」

もちろん初耳だった。

「そんで、じゃあ告っちゃえば? と私が言ったんです。で、だったらまずデートだろ、と」

軽い。開けっぴろげな言い草に苦笑する。そういう裏があったらしい。
これは直接関係ない話だが、タクミとるーは双方とも携帯を持っていて、今もメールのやりとりを続けているという。
時代も変わったもんだ、と奇妙な気持ちになる。

男たちの反応はどうだったかというと、彼らには報告が遅れた。
屋上さんと二度目のデートに行ったあと。そろそろ報告しておくか、と久しぶりに三人を呼び出した。

サラマンダーはなぜだか笑い転げて、キンピラくんはどうでもよさそうに窓の外を眺めていた。
マエストロだけが呆然と俺の顔を睨んでいた。

その日の夕方、丘の上の公園に、ひとりの男の咆哮がこだましたとかしてないとか。
後になってサラマンダーから聞いたので、まぁ、実際に叫んだんだろう。

そんなこんなで、夏休みが終わった。




922:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/11(木) 15:07:11.03 ID:yBf3Hcveo
二学期が始まって、また忙しない学校生活が始まる。長い休みでだらけきった生活リズムを正すのは困難を極めた。
とはいえ、学校にいかないわけにはいかないし、いきたくないわけでもない。

起きなければならないことはわかっているが、それで眠気が吹き飛ぶわけでもない。
ベッドの中で寝転がる。学期が始まって何日かたった今でも、体はまだ眠さに負けそうになる。
そうこうしているうちに、休み中ずっと眠っていたなおとが、それまで休んでいた分を取り戻そうとするみたいに騒ぎ始めた。

目覚まし時計のアラームは融通がきかない。
が、ここ数ヶ月で親しくなれた感があるし、起こしてもらっているわけなので、殴ったりはしなかった。
ここ最近の俺は特にゴキゲンです。

起き上がって学校に行く準備をする。残暑はまだまだ続きそうだ。
リビングに下りると妹が朝食を並べていた。一緒になって食べる。
休み中はだらだらと過ごしていた妹も、学校が再開されてからはまたきっちりとし始めた。

一緒に家を出る。そのうち屋上さんと一緒に登校したいな、と思うのだが、いまいち言い出すきっかけがない。
距離的にも道的にも、できないわけではないのだが。

まぁそれより先に、未だに強引に一緒に登校しようとする幼馴染をなんとかするのが先かもしれない。

最近ではわざと屋上さんを挑発するみたいなことを言い出す始末。ひやひやする。女って怖い。
とはいえ、俺がいない場所ではそこそこ仲良くやっている、らしい、が。
どうだろう。そこらへんの機微は良く分からない。問題があるというわけではないようだが。

教室につくと、マエストロが俺の席で薄い本を読んでいた。
またかよ、と思うと同時に、なんとなく嫌な予感がする。

静かに声をかける。

「マエストロ、何読んでんの?」

彼は表紙だけをこちらに向けた。
好きなヒロイン。
やっぱこいつは敵だ、と思う。




923:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/11(木) 15:07:39.35 ID:yBf3Hcveo
「……まぁいいや」

なんでもないつもりでそう言い放つと、マエストロの眼光がぎらりと歪んだ。

「まぁいいや、だと?」

怖い。
なんか踏んだ。

「おまえ、彼女できたからって調子に乗りやがって! 自分はソンナモノ興味ないですよ、みたいな顔しやがって!」

彼はガタイがいいので、大声で騒ぐと迫力がある。
困る。

「いや、落ち着け」

「落ち着け、じゃねえよ!」

彼は俺が何かを言うたびに声を荒げた。
どうしろっていうんだ。

「なんか最近上から目線になりやがって! おまえだって依然として童貞だろうが!」

――そりゃそうなんだけど。
彼の叫びが終わると、教室は耳鳴りのしそうな静寂に包まれた。

周囲のクラスメイトたちから、ああ、この夏もこいつはダメだったのか、みたいな目で見られる。
済、のハンコが全員に押されてる気がした。馬鹿にしやがって。

ふと視線に気付いて振り返ると、教室の入り口に、幼馴染と屋上さんがふたりで立っていた。

「……」

「……あー」

言葉をなくす。
デジャビュ。

やがて屋上さんは、困ったみたいな声音で言った。

「……童貞、だもんね」

……なんというか。
否定しようのない事実だった




924:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/11(木) 15:08:10.91 ID:yBf3Hcveo
とりあえず、目下のところ、火急の解決を要するような要件はないのだが、ひとつ考えはあった。
別に急いで変えるようなものでもないのだけれど、まぁ、今のままよりは、というもの。

呼び名。
いつまでも、屋上さん、と呼ぶのもどうか、という気がした。
なので近々、そのことについての提案をしようと思うのだが、学校に来るたびに、別にこのままでいいんじゃないか、という気になってしまう。

なにせ彼女は、昼休みのたびに、やっぱり屋上でサンドウィッチをかじっているのだ。
屋上に続く鉄扉を開ける。彼女はフェンスの近くに座って、サンドウィッチをかじりながらツバメでも探してる。
今日も今日とて。

話しかけるわけでもなくその横に座って、彼女と一緒に昼食をとる。
こういうことをしていると、夏休みの前となにひとつ変わっていないような気がした。

でもまぁ。
なんとなく、という幸せ。
問題があるとすれば、近頃やたら、屋上さんにイニシアチブを握られているというところだ。

「ねえ」

不意に屋上さんが口を開いた。

「キスしよっか」

「え」

突然なにいってるんだこの人は、と思った。
ともあれ。
そこらへんの顛末は、あまり語るべきことでもない。




925:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/11(木) 15:10:08.04 ID:yBf3Hcveo
おしまい
誤字脱字、見直しただけでも多すぎるので、申し訳ないんですが訂正しきれません
投げっぱなしの伏線とか突っ込みどころとか不満とかあると思います、が、たぶんこれ以上は書きません
ありがとうございました




926:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都):2011/08/11(木) 15:16:21.20 ID:gqiMOpLg0
お疲れ様でした




927:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/11(木) 15:16:27.50 ID:jatzpOyc0
イッツビューティフルワァールド!!!
感動した!!
映画になってしまえ!!






929:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県):2011/08/11(木) 15:20:38.17 ID:KL1n7Prbo
乙乙
終わっちまったか…




932:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(山形県):2011/08/11(木) 15:21:47.18 ID:FIaXDDMQo
乙です!最初から最後まで、クオリティ高かったです。
幼馴染には幸せになってほしいな。




936:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋):2011/08/11(木) 15:42:48.40 ID:Np4jROxLo
よかった、凄くよかった

とりあえず幼馴染を応援して飛び降りる





941:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/11(木) 16:08:06.22 ID:Ub4OnDQDO

面白かったです、結婚してください




943:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区):2011/08/11(木) 16:20:11.09 ID:psfaA3XEo
乙だけど
このオチならスレタイ 屋上「・・・・・・童貞、なの?」でよかったんじゃないの?




945:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県):2011/08/11(木) 16:40:35.98 ID:9tM/rqo1o
>>943
そのスレタイにしたら落ちが読まれるだろうが……




951:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区):2011/08/11(木) 17:03:41.80 ID:psfaA3XEo
>>945
幼馴染ルート期待して見てたから、ちょっとがっかりしたんだ

まあ面白かったです。




948:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank):2011/08/11(木) 16:53:27.14 ID:r1gM7hGvo
>>943
それじゃ意味通じないだろwwwwwwwwww

>>1乙
次回作も絶対見るからな。




944:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区):2011/08/11(木) 16:25:43.58 ID:o2dzeUjBo
もつかれ
久しぶりに読後感良くちゃんと終わったものを読んだわ
これで毎日の楽しみが無くなるのがさびしーが




955:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都):2011/08/11(木) 17:15:07.34 ID:rtLil05vo
大変乙した

幼馴染あきらめず頑張れ‼屋上さんも頑張れ!妹も!


幼馴染と妹を他の男とくっつけないのがよかったっていうより心の底から安心した自分…




958:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/11(木) 17:46:16.44 ID:Oy1h5A19o

面白かった
あとでもう一回読み返そう




959:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道):2011/08/11(木) 17:51:26.12 ID:F1qe0nXAO

素晴らしかった




965:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/08/11(木) 18:10:08.73 ID:i5OOfnwn0
乙です!

このクオリティは凄い。
日常の描写が多いのにダレない所とか。

次回作超期待!!




966:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/11(木) 18:29:39.12 ID:yGb5ryGIO
乙!面白かった!俺は昨日フられた!




975:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府):2011/08/11(木) 20:30:42.72 ID:PY+5ax6/o

かなり面白かったけど、幼馴染かわいそう…
付き合ってるふりなんかしなけりゃよかったのに…




978:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/11(木) 21:06:44.96 ID:M/Tr2BwHo
伏線掘り下げ欲しかったがスレ丁度終わるしキリ良いか
二週間程楽しめた乙




980:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank):2011/08/11(木) 21:24:59.49 ID:Dlz4+g+Qo
今、読み返してみたけど
最初から男にとって屋上さんは特別?別物?みたいな
意識してた感があったね
まあ、読後も爽やかな感じでありがとうございます
>>1乙!




984:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/11(木) 21:30:35.53 ID:dVFuZsISO
果たして屋上さんはいつから好きだったんだろね
最初のうちからパンツ見られても普通に接するとかはあったけど




991:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都):2011/08/11(木) 22:28:54.83 ID:DYtNrrYDo

最後まで面白かったよ
良い作品をありがとう




993:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県):2011/08/11(木) 22:42:01.71 ID:8Q6rX6D6o
面白かった…!乙




999:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/11(木) 23:14:42.05 ID:lsIBNLJOo
乙でした




1000:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(岩手県):2011/08/11(木) 23:20:40.97 ID:CWgH7gKro
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損切り