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アニメSSまとめ速報

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アニメSSまとめ速報 TOP  >  咲-Saki- >  穏乃「ウルトラマンギンガ?」 前編

穏乃「ウルトラマンギンガ?」 前編

1 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/08/30(金) 09:56:37.81 ID:M1Ni6tzf0

第一話『星の降る町』


―――阿知賀女子学院・麻雀部

憧「はぁ……」


玄「憧ちゃん……」

灼「今日はずっとあんな感じだね……」

宥「しょうがないよ……だって……」


ガチャッ!

穏乃「こんにちはー!」バーン

宥「あ」

玄「し、穏乃ちゃん」

穏乃「どーしたんですか?こんなにしけちゃって」

2 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/08/30(金) 09:57:08.93 ID:M1Ni6tzf0

穏乃「憧もさ!暗いぞー?どうかした?」

玄「穏乃ちゃん……もしかして知らないの?」

穏乃「?何がですか?」

憧「新聞くらい読みなさいよ……はぁ……」

穏乃「な、何だよ……」

憧「………」

玄「憧ちゃんの家……新子神社で火事が起きたんだよ」

穏乃「……え?」





3 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/08/30(金) 09:57:35.21 ID:M1Ni6tzf0

憧「ま、母屋の被害は最小限で済んだけど。境内は全滅かな」

穏乃「そ……そうだったんだ。ごめん、無神経なこと言って」

憧「……んーん。私も変にイライラしちゃってごめん」

憧「ま、命があるだけマシと思わないとね。神社も御神体は無事だったし」

穏乃「無事だったの?」

憧「うん。そんで……仮の神社はここの空き教室を使わせてもらえるって話だから、明日にでも運んでくる予定」

穏乃「へえ……。御神体か」





4 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/08/30(金) 09:58:14.73 ID:M1Ni6tzf0

玄「ところで……。家事の原因って隕石だったみたいだね」

穏乃「隕石?」

玄「うん。昨日の夜、隕石が憧ちゃんちの近くに落ちてその影響で火事……なんだって」

宥「でも……隕石は見つかってないとか……」

穏乃「……『見つかってない』?何ですかそれ」

宥「さぁ……」

憧「意味わかんないよね。隕石も焼けて消えちゃったのかな」





5 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/08/30(金) 09:58:51.93 ID:M1Ni6tzf0

―――翌日、阿知賀女子・空き部室

ガチャッ

穏乃「こんにちは」

憧「あ、シズ」

望「穏乃ちゃん。久しぶり」

穏乃「……。憧が巫女服着てる……」

望「あはは。バイトだからね」

憧「……あんまり見ないでよね。こっちも恥ずかしいんだから」

穏乃「あ、ああ。うん」





6 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/08/30(金) 09:59:29.96 ID:M1Ni6tzf0

憧「それで何しに来たの?」

穏乃「ちょっと気になることがあってさ」

憧「なに?」

穏乃「この祠の御神体って、見させてもらっちゃダメですか?望さん」

望「……?どうして?」

穏乃「いや……興味本意なだけなんですけど」

望「じゃあダメ。大切なものだから」

穏乃「そうですか……」

憧(……?)

望「さて、そろそろ切り上げていい頃合いだね。憧、部活の方に行ってもいいよ」

憧「はいはーい。お疲れさま。穏乃、着替えてくるから一緒に行こ」

穏乃「うん」





7 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/08/30(金) 10:00:00.69 ID:M1Ni6tzf0

―――廊下

憧「何で急に御神体なんか見たいって思ったの?」

穏乃「なに突然」

憧「突然はそっちもでしょ。何でいきなりあんなこと言い出したの?」

穏乃「うーーーん……。言って信じてもらえるかなぁ」

憧「なに?言っとくけど今の私は大抵のこと信じられるよ?」

穏乃「なにそれ……。じゃあ話すけど」

穏乃「私って山の中て遊ぶのが好きじゃん」

憧「うん」

穏乃「それでさ、遊んでたら……何だろう……恐竜?怪獣?みたいな人形が落ちてたんだ」

憧「………」





8 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/08/30(金) 10:00:28.98 ID:M1Ni6tzf0

穏乃「一つだけじゃないよ?何個もいっぱい。あと、人の形の宇宙人みたいな人形もあった」

穏乃「それでここからが謎なんだけど。それを拾ってから、一週間に一回くらい変な夢を見るようになったんだ」

憧「夢?」

穏乃「うん。説明しづらいんだけど……。映画みたいに、その人形たちが戦ってる夢」

憧「それが何で御神体と関係あんの?」

穏乃「分かんない。何となく……ほら、ビビって感覚がくる時あるじゃん。それ」

憧「……変なの」

穏乃「ま……変なのだよね」





9 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/08/30(金) 10:00:56.49 ID:M1Ni6tzf0

―――その日の夜

カツーン、カツーン……

穏乃(……結局、来てしまった)

穏乃(でも夜の学校ってホント怖いな……)

ガチャ……

穏乃(良かった、開いてる)

穏乃(望さん、ごめんなさい)

ゴトッ

穏乃(……これが御神体?)

祠に納められていたのは短剣のような形をした銀色の物だった。
穏乃がそっとそれに手を触れたその時――





10 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/08/30(金) 10:01:29.39 ID:M1Ni6tzf0

穏乃(……っ!?)

彼女の脳裏にあの夢の映像が流れ込んできた。そして、その続きも。
怪獣や宇宙人が戦っている中で、黒いモヤがかかった巨大な影法師が現れた。
それの左手が何かを振り下ろす。戦場に紫の光が走り、その波動を受けた戦士たちの動きが急に停止する。

全ての戦士たちが止まった直後、白い光に包まれた、あの宇宙人たちに酷似した一人の戦士が降り立った。
彼は銀色の短剣を振りかざしながらその影に走っていき――

穏乃「――ハッ!」

穏乃(……この、御神体。さっき夢で見たのと同じだ)

御神体をよく確認するために裏返した時だった。
穏乃は息を飲んだ。自らの左手の甲に光が刻まれていたのだ。
それは六芒星だとか、その系統の意匠の紋章。目を見張っていると、それは光を失って消えてしまった。





11 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/08/30(金) 10:02:01.02 ID:M1Ni6tzf0

穏乃(いったい何なの……これ)

??「それは、選ばれし者の紋章」

その時。
男の声と共に背後に気配が現れた。

穏乃「!?」

??「君だったのだな。選ばれし者は……」

声のする方を振り向き、懐中電灯の光を向ける。
そこに人はおらず――代わりに『宇宙人の人形』によく似た小さな人形がひとつ立っていた。

穏乃「うわぁっ!?」

??「落ち着け。私はウルトラ兄弟No.6、ウルトラマンタロウだ」

穏乃「に、人形がしゃべってる……」





12 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/08/30(金) 10:02:30.62 ID:M1Ni6tzf0

タロウ「早速で悪いが君にやってほしいことが……」

穏乃「……スピーカーでも内蔵されてんのかな?」

不思議に思って人形を掴みあげる。
懐中電灯に当ててよく観察してみたが、別段変なところは無いただの人形だった。

タロウ「お、おい。やめろっ」

穏乃「もしかして憧や望さんが仕掛けた罠かもな。約束破った私をおどかそうとしてとか……」

タロウ「ハッ!」

穏乃「!?」

気がつくと、人形は既に手の中から消えていた。
慌てて周囲を懐中電灯で照らしてみるが、どこにもその姿はない。





13 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/08/30(金) 10:02:57.44 ID:M1Ni6tzf0

タロウ『明日、神社があった山に来てくれ。その御神体を持ってな』

穏乃「『御神体を持って』って……持ってったら泥棒なんだけど……」

穏乃はそう突っ込むが、ウルトラマンタロウを名乗る人形からの返事はなかった。
気配もなくなったことを感じ取り、穏乃は手元の御神体に視線を落とした。

穏乃(……望さん、すいません)

穏乃は内心謝りながら御神体をポーチの中に仕舞い、祠の窓をそっと閉め、教室から出ていった。





14 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/08/30(金) 10:03:27.74 ID:M1Ni6tzf0

―――翌日、山

穏乃「あっ、いたいた」

山の浅いところ、一本の木の洞の中にその人形はいた。

タロウ「来たか。さて、君に話すべきことがある」

穏乃「本当に、どういう仕組みになってるんだろ、これ……」

タロウ「真面目に聞け!」

穏乃「…………。はい」





15 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/08/30(金) 10:04:08.06 ID:M1Ni6tzf0

タロウ「嘗て、宇宙のある地点で、怪獣と我々ウルトラマンたちの大規模な戦いが起こった」

穏乃「ちょっと待って。ウルトラマンって何?」

タロウ「詳しいことは後ほど話すが……そうだな。君たちが『地球人』と定義されているように、私たちは『ウルトラマン』と呼ばれていると考えると簡単だ」

穏乃「あぁ。宇宙人って説は当たってたんだ」

タロウ「そういえば君は『人形をたくさん拾った』と言っていたな。それは後回しにするとして」

タロウ「その戦いの最中、『ダークスパーク』の力によってそこにいたウルトラマンと怪獣の全てが人形に変えられてしまったんだ」

穏乃「『ダークスパーク』……?」

タロウ「そうだ。我々の故郷『光の国』に伝わる二つの伝説のアイテム」

タロウ「一つは、生きるものの時を止める『ダークスパーク』。それと対をなす存在を私は知っている」





16 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/08/30(金) 10:04:37.30 ID:M1Ni6tzf0

タロウ「それこそが闇の呪いを解く唯一の希望。今、君が持っている『ギンガスパーク』だ」

穏乃「……『ギンガスパーク』」

タロウ「ギンガスパークは選ばれし者にしか使えないとされている。それが……」

穏乃「私ってこと……?」

タロウ「そうだ。君の手に浮かび上がった紋章、それが何よりの証拠だ」

穏乃「………」

タロウ「さて、君にやってもらいたいというのは、私を元の姿に戻してほしいということなんだ」





17 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/08/30(金) 10:05:06.88 ID:M1Ni6tzf0

「シズーー!」


穏乃「!」

木の向こうに目をやると、憧が駆け寄ってくる姿が見えた。
咄嗟にポーチにギンガスパークを仕舞おうとする。しかし、焦ったのが悪かったのか手を滑らせ落としてしまった。

憧「久々に私も来ちゃった。まだ浅いところで落ち合えて良かったよ」

穏乃「あ……あぁ!えっと、そうだね!」

憧「と・こ・ろ・で。何でうちの御神体をシズが持ってるのかな?」

穏乃「……ごめんっ!この人形が……!」

憧「……やっぱりタロウが絡んでたんだ」

穏乃「え?」





18 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/08/30(金) 10:05:37.03 ID:M1Ni6tzf0

タロウ「アコか。彼女とはついこの間……」

憧「私も御神体を見たくてさ、お姉ちゃんがいないときに祠を開けてみたんだ。そしたら変な人形がそこに立ってたんだもん。驚いたよ」

タロウ「変な……」ズーン

穏乃「へ、へえ。憧はタロウの言うこと信じたの?」

憧「……まぁ、玄やシズ見てたらこの世界なにが起きてもおかしくないなって思えるようになったからさ」

穏乃「?」

憧「ま、そんなこんなでさ。タロウも元に戻りたいって言ってるし、リクエストに答えてあげたら?」

穏乃「あーーーうん……。わかった」





19 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/08/30(金) 10:06:02.42 ID:M1Ni6tzf0

―――一方、その頃

やえ「………」ウロウロ

小走やえは駅の前でぐるぐる歩きながら考え事をしていた。
その駅は阿知賀郡の最寄りの駅。

やえ(あーーーもう、どうしよう。『ねえ、ちょっと話があるんだけど』)

やえ(『あんたらが強くなるために練習試合を組んだげる』……いや、何でこんなに上から目線なんだ)

やえ(『あんたらが無様な戦いをしないように練習試合を』……いや、もっと上からになってる)

やえ(『負けることなんて許さないんだから、強くなるために協力したげる』……ダメだ、変わってない)

やえ(……あぁもうっ!何でこんなに考えなきゃなんないのよ!)

やえ(それもこれもあいつらが私たちに勝つから――)

やえ(……そうじゃないか。私たちがあいつらに負けたからか)





21 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/08/30(金) 10:06:41.79 ID:M1Ni6tzf0

やえ(……はぁ。もっと強ければなぁ)

やえ(もっと強ければ、あいつらなんか……)

??「どうしたんですか?何かお困りですか?」

若い女性から声をかけられた。
駅前で悶々としているやえを見て何かに困っていると勘違いしたらしい。やえはあたふたと取り繕った。

やえ「!い、いえっ!別にそんなんじゃないです!」

??「隠さなくったっていいんですよ?力が欲しいんでしょう?」

やえ「は?」

??「自分より上の『力』にジェラシーを感じてるんですね……。そのダークなハート、使わせてもらいますよ」

そう言うと、彼女の眼が赤く輝き始めた。
やえは動くこともできず、その光に囚われて――





22 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/08/30(金) 10:07:22.70 ID:M1Ni6tzf0

―――山

タロウ「さて、始めよう」

タロウ「まず、私の足の裏を見てみてくれ」

足の裏には小さな模様が刻まれていた。

タロウ「紋章があるだろう?ギンガスパークの先端をそれに近づけてみてくれ」

穏乃「わかった……」

タロウ「ふふ。驚くなよ?」

憧「………」ゴク

穏乃「じゃ、行くよ……」

人形をギンガスパークにそっと宛がう。
しかし――





23 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/08/30(金) 10:07:51.62 ID:M1Ni6tzf0

憧「………」
穏乃「………」

タロウ「……え?」

穏乃「確かに、ちょっとは驚いたかも」

タロウ「そ……そんな筈は!もう一度、もう一度試してくれ!」

穏乃「はいはい」

二、三度同じことを繰り返す。
しかし、何かが起こる気配など微塵もなかった。

タロウ「な、何故だ……!?」

憧「……やっぱり内蔵スピーカーなのか」

穏乃「タチの悪いイタズラだね」





24 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/08/30(金) 10:08:24.29 ID:M1Ni6tzf0

タロウ「ま、待て!もう一度――」

その時、ギンガスパークから小さな音がした。
穏乃は不思議そうにしていたが、何かに導かれるように近くの草むらに足を向けた。

憧「シズ?」

草むらをかき分ける。するとその中から黒い恐竜のような人形が現れた。

タロウ「そ、それは……ブラックキング」

穏乃「この人形はどうかなー?」ピタッ

『ウルトライブ!ブラックキング!』

穏乃「え?」

憧「え?」

タロウ「なに――」

人形を触れさせたギンガスパークの先から紋章の光が大きく飛び出してきた。
驚く間もなく穏乃の目の前を光が包んでいき、思わず目を閉じた。





25 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/08/30(金) 10:09:07.34 ID:M1Ni6tzf0

「………」


そして次に目を開けるとそこは、『空の中』だった。
いや違う。足はしっかりと地面についている。だが、目線は恐ろしく高く、森がまるで緑の絨毯のように見えた。


タロウ「バカな!なぜ私へはダメだったのに怪獣へのライブはできるんだ!?」

憧「ライブ?」

タロウ「ギンガスパークの力によってその人形の姿に『変身』することだ。本来なら今ごろ私の姿になっている筈だったのだが……」

憧「……あれがシズってこと?」

タロウ「ああ。あれは“用心棒怪獣”ブラックキングだ」

その怪獣はゴリラのようにドラミングしてみたり、尻尾を振り回してみたりしている。





26 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/08/30(金) 10:10:04.84 ID:M1Ni6tzf0

憧「何やってんのー!シズー!」

ブラックキング「?」

憧「タロウ!早くシズを元の姿に戻してよ!あんなのがシズだなんて……」

タロウ「す……すまない。実は戻り方は知らなくて……」

憧「はぁ!?こっの、役立たず!」ポイー

タロウ「早く大きくなりたーい!」アーレー

憧「シズーー!誰かに見つかる前に何とか元に戻る方法を……」

――その時。ブラックキングの背中に痛みが走った。

ブラックキング「グォォォン!?」

ブラックキングがたたらを踏む。前へ倒れると憧が危ない――穏乃の意識はそう感じ、精一杯のところで態勢を持ち直す。
そして背後を振り返る。そこにはもう一体、別の怪獣の巨体が立っていた。





27 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/08/30(金) 10:11:14.90 ID:M1Ni6tzf0

憧「あれは……?」

体躯は黄ばんだ白で、網目のような黒いラインが流れている。
頭の左右にはアンテナのような角がくるくると低速回転している。そこから背筋に沿って見ていくと、すらりと延びた尻尾がその巨体の終着点だ。

タロウ「あれは……“宇宙怪獣”エレキング!」

一方で穏乃の意識は、エレキングの中に一人の人間の意識が存在するのを『視認する』ように感じ取っていた。

穏乃(あれって……晩成の先鋒の……?!)

凶悪な顔つきをしている小走やえの右手にはギンガスパークによく似た物が握りしめられていた。
それを見た穏乃はハッとした。それは夢の中で見た『大きな影法師が持っていた物』に酷似していた。





28 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/08/30(金) 10:11:56.11 ID:M1Ni6tzf0

しかし次の瞬間、彼女の意識は現実の風景に引き戻された。
ブラックキングの体にエレキングの怪光線が命中し、鋭い痛みが走ったのだった。

ブラックキング「グォォォン……!」

足がよろけ、背後に倒れ込んでしまう。
穏乃の肝は思わず冷えきったが、背に感覚が無かったことに心底安堵した。憧は安全な場所へ逃げたようだ。

穏乃『こっの!』

ブラックキング「グォォォ!!」

体全体に勢いをつけ、肩でエレキングの腹にタックルした。
その衝撃でエレキングは後ずさりしたが、その尻尾がブラックキングの蛇腹に巻き付いた。

エレキング「ピギャァァァ!」

エレキングの甲高い鳴き声が木霊する。尻尾から電撃が流れ、ブラックキングの体を伝っていった。

ブラックキング「グ、グォォォォォ……」





29 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/08/30(金) 10:12:32.19 ID:M1Ni6tzf0

エレキングは尻尾をほどき、体を回転させて尻尾をブラックキングにぶつけた。
ブラックキングは体に走る電流に痺れ、動くことができずに倒れてしまう。

やえ『あっはっはっは!やっぱり王者はこの私ただ一人だけなんだよ!』

エレキングの閉じた口から半月状の光弾が発射された。
それはブラックキングに激突し、そして気をよくしたエレキングは周囲に光弾を放ち続ける。

そして、その内の一発が憧のいる場所へ向かっていった。

憧「きゃぁーーっ!」

タロウ「ウルトラ念力!」

今にも命中しようとしたその時、憧の前方の宙に虹色の波紋が広がった。
タロウがその力で光弾の方向を変えたのだ。しかし直前であったため、光弾はすぐ近くに着弾し、その衝撃波で憧の体勢が崩れ、タロウも吹き飛んでしまう。





30 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/08/30(金) 10:13:03.14 ID:M1Ni6tzf0

タロウ「うわーーっ!」

憧「きゃぁぁっ!」

エレキング「ピギャァァァ!!」

エレキングが憧の方へ光弾を乱射した。
万事休すかと憧が思ったその時、大きな影がその場所を覆った。

ブラックキング「グォォ、ォォォォ……」

憧とタロウが目を向けると、ブラックキングが両手を広げて二人を守っていた。
そしてそのダメージは本体である穏乃に伝わっていた。

穏乃『あ、がは……っ!』

頭がぐらりと揺れ――意識が遠退きそうになる。
しかも今なお攻撃は彼女の背中を襲い続けていた。一撃一撃が彼女の肉体と精神を削り取っていく。





31 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/08/30(金) 10:13:33.26 ID:M1Ni6tzf0

憧「シ……ず……」

地面に倒れる憧がブラックキングの巨体を見上げた。それを見た穏乃は何かに目覚めるように歯を食いしばる。

穏乃(このまま……こいつの攻撃を止めることができなかったら、私も憧も危ない)

穏乃(きっと、そのあとは学校や町だって……!)

穏乃の脳に仲間たちとの日々が蘇る。
久しぶりの再開。必死の特訓。そして県予選の試合。

穏乃『みんなの夢を……潰されてたまるかぁっ!!!』

その時。穏乃の視界が急に開け、ありったけの光に包まれた。
その中で、右手に握りしめられていたギンガスパークの刃の両端が開き、三ツ又の形状に変化した。





32 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/08/30(金) 10:14:29.87 ID:M1Ni6tzf0

穏乃は目を見張った。その先端から小さな光が飛び出し、一つの人形を象った。
それはウルトラマンとよく似た人形。穏乃の頭に彼の名前が刻まれる。

穏乃『ウルトラマン、ギンガ……』

意を決したように、穏乃はそれを掴んでギンガスパークに宛がった。


『ウルトライブ!ウルトラマンギンガ!!』


一方、外界ではエレキングが死体のように固まったブラックキングへ間を置かず攻撃を続けていた。
しかし急にブラックキングの体が光り始めた。エレキングはそれに怯み、攻撃の手が一旦途絶える。

その光は球体となって空へ飛び上がり、そして地面に衝突した。
大地が揺れ、土埃が立つ。強い風が吹き荒れ、竜巻のようにその中心へ廻っていく。





33 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/08/30(金) 10:15:03.86 ID:M1Ni6tzf0

憧「……なにあれ」

タロウ「何だ……!?あのウルトラマンは!」

光が晴れ、風が弾けるように止んだ。
そこに佇んでいたのは、黄金に輝く瞳を持ち、銀の肌に燃えるような赤のラインを流す巨駆。
頭にはギンガスパークの三ツ又を思わせる大きなクリスタルが存在し、胸や腕、脚にも透き通るような水色の結晶が取りついていた。

その蒼き光りの戦士の名は――“ウルトラマンギンガ”!

エレキング「ピギャァァァ……!?」

ギンガ「ハァッ!」

ギンガがエレキングの懐にボディーブローを入れる。怯んで頭が下がった怪獣の頭を首から掴み、その体を背に乗せる。





34 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/08/30(金) 10:15:39.95 ID:M1Ni6tzf0

ギンガ「ショ……ラッ!!」

怪獣の巨体が宙に舞い、弧を描いて地面に叩きつけられた。しかしエレキングはそのままの体勢で自らの尻尾をギンガに巻き付ける。
尻尾から電流が巨人の身体に流れた。ギンガは少し苦しがっていたが、すぐに腕を思いきり広げ、尻尾を撥ね飛ばして解いた。
ギンガは後方に転がって怪獣と距離をとった。エレキングは攻撃の手を緩めず、半月状の怪光線を放つ。

ギンガ「ハッ!」

振り向き様に、ギンガが前方に手を翳す。するとそこに渦巻銀河のような見た目の光の盾が現れ、光弾を防いだ。

憧「スゴい……」





35 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/08/30(金) 10:16:14.40 ID:M1Ni6tzf0

ギンガ「シュ……ハァァッ!!」

大地を蹴り、ギンガが跳躍する。エレキングの光弾を宙で一回転して躱し、すれ違いざまに手刀を繰り出す。
ギンガがエレキングの背後に着地すると同時に右の角が弾け飛んだ。

エレキング「ピギャァァァ!?!?」

連続でバク転し、ギンガが怪獣との距離をとる。
直立したギンガは左腕をゆっくりと空に上げた。それにつれて身体中のクリスタルは青色から黄色に変わり、輝きを解き放っていく。

憧とタロウは息を飲んで見守っていた。
エレキングは悲鳴を上げながら痛がっていたが、ギンガの掌から空に向かっていく電気の渦に気づいた。

エレキング「ピギャァァァ!!!」





36 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/08/30(金) 10:17:18.19 ID:M1Ni6tzf0

全身の力を振り絞り、口から光弾を発射する。猛スピードでそれはギンガへ向かって行ったが、それは巨人が技を発射するのと同時だった。


ギンガ「――ギンガサンダーボルト!!」


空高くから集めてきた雷撃の渦状光線――“ギンガサンダーボルト”はエレキングの光弾をいとも容易く消し飛ばし、そしてその身体に激突した。
その衝撃は凄まじく、命中した怪獣の体を宙に浮かび上がらせていく。

エレキング「ピ……ギャァァァァ!!!」

一際大きい悲鳴と共に青空の中に爆炎が展開された。
緑の稜線の中に紫色の光の筋が細く落下していく。それを見たギンガは腕を構え、少しの光の中に消えていった。





37 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/08/30(金) 10:17:47.19 ID:M1Ni6tzf0

憧「……シズ!」

巨人が消えた跡には穏乃がぽかんとした様子で佇んでいた。
それを見た憧は一目散に駆け寄り、その小さな身体に抱きついた。

穏乃「……憧」

憧「もう……心配させて」

穏乃「そんなに心配した?すっごく……漲ってたんだけど」

笑い声をあげた穏乃に釣られて憧も笑い出す。
暫くそうしたあと、二人は紫の光が落ちたところへ歩いた。





38 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/08/30(金) 10:18:19.63 ID:M1Ni6tzf0

やえ「うっぷ……」

穏乃「晩成の……」

憧「小走やえさん!?怪我してる!?」

小走やえがそこに倒れていた。
普通の様子ではなく、その顔は真っ黒に煤けており、口が開くたびに煙が吹き出されていた。

穏乃「違う……。さっきの怪獣はこの人だったんだ」

憧「え……?」

穏乃「私は見たんだ。この人も私と一緒で怪獣に変身する力がある……」

しかしふと、穏乃は気付いた。
戦闘中に見た『黒いギンガスパーク』が彼女の手に握られていなかったのだ。
辺りを見回してみるが、見当たらない。

穏乃「……どういうことだ?」

憧「何が……?」





39 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/08/30(金) 10:18:50.49 ID:M1Ni6tzf0

やえ「えほっ、けほっ」

穏乃「!気がつきましたか?小走さん」

やえ「……わ、私は?」

穏乃「覚えてないんですか?」

やえ「えっと、確か私は駅にいて……」

しかしいくら待っても次の言葉は返ってこず、しまいには頭を抱え込んでしまった。

穏乃(とにかく、私がウルトラマンに変身したことは知られてないみたいだな)

穏乃「憧、とりあえずこの人を病院に運ぼう」

憧「うん」








40 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/08/30(金) 10:19:40.95 ID:M1Ni6tzf0

―――翌日、通学路

穏乃「憧ー!」

憧「シズ」

穏乃「ねえ、あの晩成の小走さんのこと、なんか分かった?」

憧「なんか?何で晩成の小走さん?」

穏乃「え?あの人が怪獣になったことの原因を調べようって話だったじゃん」

憧「……は?何の話?」

穏乃「………」





41 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/08/30(金) 10:21:13.90 ID:M1Ni6tzf0

憧「どうしたの?まだ寝ぼけてるんじゃない?」

穏乃「あ……あぁ。そうかもしんない」

憧「うん。早く学校行こう。練習しなきゃ」

穏乃「うん……」

穏乃(……?)


To be continued...





42 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/08/30(金) 10:24:43.80 ID:M1Ni6tzf0

登場怪獣:ウルトラセブン第三話より、“宇宙怪獣”エレキング
帰ってきたウルトラマン第三十七話、三十八話より、“用心棒怪獣”ブラックキング


続きまた今度書きます
次からは咲-Saki-っぽく…





48 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/08/31(土) 16:53:22.99 ID:UR6Tl+PH0

第二話『灼熱の復讐』


穏乃(あの日から一ヶ月くらい経った)

穏乃(あの場に居合わせていた憧、そして倒れていた小走さんも何も覚えていないらしい)

穏乃(つまり、私がウルトラマンに変身することができると知っているのは私とタロウだけになった)

穏乃(私たちは記憶が無くなった謎について考えたけど、結局納得のいく説明はつけれなかった)

穏乃(ただ、ひとつ分かったこともある)

穏乃(小走さんのライブが解けた後、そこには『エレキング』の人形が転がっていた)

穏乃(私が見た『黒いギンガスパーク』と合わせて推測すると、恐らく小走さんは何者かの手によって怪獣へライブする能力を与えられたのだろう)

穏乃(記憶が消えていることにも何か関係があるのでは――私たちはそう考え、正体が分からない敵を待ち受けることになった)

穏乃(だけどその後は怪獣は現れず、私は麻雀部の遠征練習に専念することができた)

穏乃(そして八月。私たちはインターハイへ出場するために東京へ来ていた)





49 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/08/31(土) 16:53:54.98 ID:UR6Tl+PH0

―――東京のホテル

穏乃「ふお~……」

晴絵「デラックスツインを三部屋取ってある」

憧「うおっ、豪華!」

晴絵「部屋割り決めてちゃっちゃと休みましょう」








50 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/08/31(土) 16:54:27.48 ID:UR6Tl+PH0

―――玄・宥の部屋

玄「おねーちゃん、外出ない?」

宥「え?何しに?」

玄「コンビニとか探しに。……やっぱり都会のコンビニって違うのかな。田舎と」

宥「おんなじだと思うけど……。じゃあ一緒に行くね」

玄「うん。先生に外出許可とってくる」

宥「うん」





51 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/08/31(土) 16:54:53.95 ID:UR6Tl+PH0

―――灼・晴絵の部屋

晴絵「東京かぁ……」

灼「どうしたの、ハルちゃん」

晴絵「んー……。10年前も来たなぁっていう?おばさんっぽいかな?」

灼「そんなことないよ」

コンコン

晴絵「はーい?」





52 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/08/31(土) 16:55:25.97 ID:UR6Tl+PH0

ガチャッ

玄「先生、おねーちゃんとコンビニ行ってきたいんですけど、いいですか?」

晴絵「うん。日がそろそろ落ちるから早めにね」

玄「はい。灼ちゃんも行く?」

灼「いや……今からシャワー浴びるから」

玄「わかった。じゃあ、行って参ります」

晴絵「車に気を付けてね」

玄「はい!」





53 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/08/31(土) 16:55:51.56 ID:UR6Tl+PH0

バタンッ

灼「じゃあ、先にシャワーもらうね」

晴絵「うん」

ガチャッ、バタンッ

晴絵(10年前か……)

晴絵が窓の外の景色に思いを馳せていた中、彼女の携帯が着信音と共に振動し始めた。
ディスプレイに記されていた名前に晴絵は思わず息を飲んだ。

晴絵「………」

晴絵は携帯をぱたりと閉じ、カーテンを引いた。





54 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/08/31(土) 16:57:06.89 ID:UR6Tl+PH0

―――ホテルロビー

宥(クーラー効いてて寒い……)

玄「おねーちゃん、大丈夫?」

宥「う、うん。平気」

ウィィーーン

宥(……やっぱりお外はあったかくて良いなぁ)

玄「あ、なんだ。向こうに見えるね」

宥「そこそこ近くて……便利で良いね」

玄「うん」





55 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/08/31(土) 16:57:36.05 ID:UR6Tl+PH0

宥「そういえば何買うの?」

玄「アイスとかジュースとか。ホテルの中で買うと高そうだし」

宥「うちの旅館でもそうだしね……」

玄「………。そ、そうだね……」

ウィィーーン

店員「いらっしゃいませー」

宥「っ!」ブルッ

玄(うーん、あんまり変わったところはないかなぁ)キョロキョロ

宥「く、玄ちゃん……」

玄「ん?」





56 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/08/31(土) 16:58:07.53 ID:UR6Tl+PH0

宥「さ、寒いから……私、お店の外で待ってる……」ガクガク

玄「うん。大丈夫……?」

宥「何とか……。それじゃあね」

ウィィーーン……


宥「……はぁ」

宥(おこたがないからあったまれるところがないなぁ……大丈夫かなぁ私)

宥(それにしても、冷房効きすぎじゃないかなぁ……?こんなに電気使ってたら地球の環境が破壊されちゃうよ)

宥「はぁ……」

??「何かお困りですか?」

宥「え?」





57 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/08/31(土) 16:59:20.55 ID:UR6Tl+PH0

いつの間にか、宥のそばに若い女性が立っていた。
ため息を繰り返していた宥を見て何かに困っていると勘違いしたらしい。宥は慌てて取り繕った。

宥「い、いえ……。何でもないんです」

??「隠さなくってもいいんですよ。寒いのが辛いんでしょう?」

宥(え、何で……この人……?)

??「あなたのヒートなハート、使わせてもらいますよ」

そう言うと、彼女の瞳が赤く輝き始めた。
宥の心はその光に取り込まれるように囚われてしまい――





58 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/08/31(土) 16:59:48.18 ID:UR6Tl+PH0

―――穏乃・憧の部屋

東京の空は茜色と黒が混じり、日没が訪れていた。
部屋の中の浴衣に着替えた穏乃は、火照った体をベッドに押し付けて全身を冷ましていた。

憧「遂に来たね、東京……」

憧「全国大会……」

穏乃「うん……」

憧「和に会いに行く?」

穏乃「いや……向こうが来ないならこっちも行かない」

憧「まず清澄と戦ってみたいね」

穏乃「……うん」





59 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/08/31(土) 17:00:24.15 ID:UR6Tl+PH0

その時。穏乃は肌から違和感を感じた。

穏乃「……ねえ、憧」

憧「なに?」

穏乃「暑くない……?」

憧「……確かに。エアコン壊れてるのかな?」

立ち上がり、憧は空調の方を見に行った。
それを見た穏乃は自分の荷物の中から人形を二つ、そっと取り出す。

タロウ「やっと出てこれた……」

できるだけ声を絞り、ウルトラマンタロウの人形が声を出した。
穏乃の右手にはもう一つの人形、エレキングのそれが握られている。





60 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/08/31(土) 17:00:59.40 ID:UR6Tl+PH0

穏乃「……タロウ。何か様子が変な気がする。外の様子を探ってみてくれない?」

タロウ「……分かった。何か異常があったらすぐに知らせる」

穏乃「車に気を付けてね」

タロウ「私は子供じゃないぞ?!」

穏乃「ばっ……!」

思わずタロウの声が大きくなる。
憧がこちらに近付いてきたが、既にタロウは少しの光と共に穏乃の左手の中から消えていた。

憧「異常は無さそうだったけど……。さっき……何か、男の人の声がしなかった?」

穏乃「気のせいじゃない……?はは」

憧「……?もしかしたらここのホテル、案外壁が薄いのかもね。あんまり大声出しちゃダメだね」

穏乃「うん……」

――その時。けたたましいベルの音が部屋の中に響いた。





61 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/08/31(土) 17:01:34.95 ID:UR6Tl+PH0

―――外

玄「う……わぁぁぁっ!!??」

コンビニの中は阿鼻叫喚に包まれ、店員と客が揃って逃げ出していた。
コンビニだけではない。道路にも人が溢れかえり、人々が逃げ惑っていた。

ビルに火がついていた。そのとき空を裂く轟音がし、それは何かの生物の声にも世界の終わりの音にも聞こえた。
ビルがひとつ崩れ去った。残った瓦礫は炎に包まれ、その余りの高温にコンクリートが溶けていく。

玄「おねーちゃん!おねーちゃん!どこ!?」

またひとつ、崩れ去る。崩落の凄まじい音がうねるようにビル群の中を吹き抜け、逃げ惑う人々の恐怖心の火を煽った。
そして不運なことに、姉を探していた玄は落下してくる瓦礫の雨に襲われてしまった。

玄「きゃぁぁぁぁっ!!!」





62 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/08/31(土) 17:02:06.10 ID:UR6Tl+PH0

タロウ「ウルトラ念力!」

暫く経っても何も起こらず、玄は恐る恐る逸らした顔を戻した。
彼女の前方には赤く小さい妙な人形が空に浮かんでいた。その頭上には虹色の波紋が広がり、降り注ぐ瓦礫を撥ね飛ばしていた。

タロウ「ここは危ない!早く逃げろ!」

玄「え……?え……?」

混乱する玄は足が木になってしまったようにそこから動くことができなかった。
そして、崩れ去ったビルの炎と埃と瓦礫の向こうに、この凄惨な事態の元凶が現れた。

四つ足で歩くその巨体は爬虫類のようであり、ゴツゴツとした黒い皮膚に覆われている。
その背にはヒレ、頭には短く突き出す角が伸びており、それらはそれぞれ燃え盛る炎のような赤色に染められていた。

タロウ「あれは……“灼熱怪獣”ザンボラー……!?」





63 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/08/31(土) 17:02:51.62 ID:UR6Tl+PH0

―――ホテル

ホテルの中にけたたましい警報の音が絶えず鳴り響いていた。
人々は一目散に階段を降りていく。
格好は浴衣であったり、バスローブであったりしたが、それぞれの目的は変わらず『逃げる』というもの以外には何も無かった。

憧も浴衣姿で慣れない格好に悪戦苦闘しながら逃げていたが、ふと気づく。

憧「シズ……!?」

廊下までは一緒にいた穏乃が居なくなっていた。
憧はホテルの中に戻ろうとしたが、激流のように押し寄せてくる人の波に逆らえず押し流されていく。

憧「シズ……!?どこ!?シズーーー!!」





64 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/08/31(土) 17:03:31.98 ID:UR6Tl+PH0

穏乃は部屋に戻っていた。窓の向こうに見える空が、夜だというのにとても明るい。その下には立ち上る炎と黒煙が見える。
そして、その中を闊歩する黒い怪獣の姿も、火に照らされて視認できた。

穏乃はギンガスパークを取り出し、エレキングの人形をそれに宛がった。

『ウルトライブ!エレキング!!』

窓の縁を蹴り、穏乃は空に身を投げ出した。
彼女の体は光に包まれ、次第に形が変わり、サイズも巨大になっていく。





65 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/08/31(土) 17:04:13.79 ID:UR6Tl+PH0

ザンボラー「グオォォォン!!!」

ザンボラーが一声上げる。それに呼応するように炎の勢いが巨大化し、怪獣の周囲はまるで不知火のような景色が展開された。

エレキング「ピギャァァァア!!」

そこに、少し離れてエレキングが降り立った。

「な、何だよあれ!」

「またもう一体出やがった!」

群衆が声を張り叫ぶ。
エレキングは足元に気を付けながらザンボラーに近づいていった。





66 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/08/31(土) 17:05:00.02 ID:UR6Tl+PH0

ある程度近づいたとき、ザンボラーの中にライブしているであろう人物の姿が見えた。
怪獣の正体は――

穏乃『ゆ……宥さん!?』

真夏だというのにピンクのコートとマフラーに身を包む少女は、紛れもなく松実宥だった。
表情は恍惚としており、瞳は生気が溢れんばかりに輝いている。その手には『黒いギンガスパーク』が握られていた。

穏乃は宥への攻撃に少し躊躇いを覚えた。
しかしビル群の破壊によって多くの人の命が奪われたことを考えると手に汗が滲んだ。

穏乃『宥さんがこんなことを……』

そう呟いた直後、穏乃はハッと我に返った。
両腕を広げ、ザンボラーの突進を受け止める。――が。

エレキング「ピギャァァァア!?!?」

ザンボラーの背中に回した手に痛みが走った。手だけでなく、ザンボラーの体に触れている部位に永続的な痛みが襲っている。





67 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/08/31(土) 17:05:49.55 ID:UR6Tl+PH0

タロウ「シズノ!ザンボラーの体温は5000度だ!迂闊に触れると逆にダメージを負うぞ!」

玄「し……穏乃ちゃん?穏乃ちゃんがどうかしたの……?」


エレキングは尻尾を回してザンボラーの胴体を攻撃したが、逆に焼けるような熱さが痛みに変わって神経に流れた。
接触攻撃は無理だと判断したエレキングは距離を取り、口から半月状の怪光線を吐き出した。

ザンボラー「グオォォォン……」

クリーンヒットし、ザンボラーが呻き声を上げる。エレキングは続けざまに光弾を放ち続けた。

晴絵「玄ーーー!!」

玄「先生!」

晴絵「無事だったか――」

駆け寄ってきた晴絵の視線は宙に浮かぶタロウの人形に釘付けになった。

晴絵「……ウルトラマン」

玄「先生……?」





68 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/08/31(土) 17:06:55.65 ID:UR6Tl+PH0

ザンボラーがエレキングに突進を始めた。
エレキングは光弾を浴びせるが、意に介せずザンボラーは突進をやめない。

触れると危ない――そう思った時には手遅れで、ザンボラーはエレキングの腹に乗り掛かり押し倒した。

エレキング「ピギャァァァア!!!」

ザンボラー「グオォォォン……!グオォォォン!!」

エレキングが悲鳴を上げる。口から光弾を放つが、ザンボラーは首を抑えているため向きが変えれず、光弾は虚空へ消えていく。
ザンボラーが鳴き声を廃墟に響かせる。呼応するように炎が起こり、二つの巨体を取り囲む。

穏乃『あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁ……っ!!』

エレキングへの攻撃はそのままライブする穏乃に伝わり、彼女の体を焼き尽くす高温で包んでいく。





69 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/08/31(土) 17:07:32.22 ID:UR6Tl+PH0

穏乃(……どうしてこうなったんだ)

穏乃(みんな、ただ夢を追っていただけだったのに……今や宥さんは大量殺人鬼)

穏乃(誰が、こんな、酷い真似を……!)

穏乃(許せない……絶対に!)

その時、穏乃の視界が光の中に包まれた。
彼女の右手の甲に紋章が浮かび上がり、ギンガスパークが三ツ又へと形状を変える。

その先端から飛び出した小さな光はひとつの人形を象り、穏乃は勢いよくそれを握りしめた。

穏乃『お願い、ギンガ!』





70 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/08/31(土) 17:08:15.35 ID:UR6Tl+PH0

ギンガの人形をギンガスパークに宛がう。


『ウルトライブ!ウルトラマンギンガ!!』


エレキングの体が光に包まれ、空へ飛び上がった。
その体を押し倒していたザンボラーは弾き飛ばされ、背中から倒れ込む。

そして、光が勢いよく地面に衝突し、逆巻く風は煙と粉塵を巻き込んで黒い天の彼方へ消し飛ばした。

黒煙と極光の螺旋の中から現れた銀と赤の戦士の名は――“ウルトラマンギンガ”!

ギンガ「ハァッ!」

ザンボラー「グオォォォン……!」





71 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/08/31(土) 17:08:53.99 ID:UR6Tl+PH0

ザンボラーは起き上がり、ギンガへ突進する。ギンガは宙返りしてザンボラーの上空ですれ違い、勢いのままに蹴りを繰り出した。
――が。着地したギンガはうずくまり、足に手をやった。

タロウ「ダメだ、触ったら無条件にこちらにダメージが向かう……。それは、どんな姿に変わろうともだ……」

晴絵(どういうことだ……。またウルトラマンが……?)


ザンボラー「グオォォォン!!」

ギンガ「!」

ザンボラーのヒレが光り出し、ギンガの周囲から炎が立ち上った。
ギンガの強靭な肉体はその炎によって燃えることはない。だが確実に、ライブする穏乃の肉体から体力を奪っていく。





72 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/08/31(土) 17:09:32.51 ID:UR6Tl+PH0

蓄積された疲労に耐えきれず、ギンガは膝をついた。
それを見たザンボラーが突進する。受け止めるギンガの手に高熱が伝わり、怯む。その拍子にザンボラーが首でギンガを撥ね飛ばした。

ギンガ「ハァァッ……!!」

よろよろとギンガが立ち上がり、首を振った。二、三回バク転し、ザンボラーから距離を取る。
ギンガは腕を交差させ、そしてファイティングポーズを取った。全身のクリスタルが赤く光り輝いていく。

それと同時に周囲の炎がギンガの近くに集まっていき、彼の側に現れた六つの隕石に纏った。


ギンガ「――ギンガファイヤーボール!!」


拳を前へ突き出す。
導かれるように隕石はザンボラーの体に向かって一直線に向かっていき――ザンボラーのヒレが発光すると同時に消滅した。





73 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/08/31(土) 17:10:23.52 ID:UR6Tl+PH0

ギンガ「ヘァッ!?」

ザンボラー「グオォォォン……!」

ザンボラーの体温は周囲の気温に絶大な影響を与えている。
隕石はその温度に耐えきれず、砕け散ってしまったのだ。

そして、呆然とするギンガの胸の宝石のような装飾が音を立てて点滅し始めた。

ギンガ「ヘァ……?!」

タロウ「それは『カラータイマー』だ!ギンガが我々のようなウルトラマンと同じ存在なら、恐らく地球上では三分前後しか活動できない!」

ギンガ「!」

気付くとザンボラーの姿がすぐ前にあった。
頭で腹を殴り、角で突く。ギンガは背後へ倒れ込む。そして、その合間にもカラータイマーは絶え間なく点滅を続ける。





74 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/08/31(土) 17:11:09.76 ID:UR6Tl+PH0

穏乃『く……そ……っ』

タロウ「……シズノ!水だ!ウルトラ水流を使え!」

穏乃『……??』

タロウ「もし仮に――ギンガが我々と同族なら、我々の基本技であるウルトラ水流も使える筈だ!」

ギンガが力を振り絞り、立ち上がる。
ザンボラーは炎の中、歪んで見える空間の中で足音を立てながら歩んでくる。

ギンガ「ウルトラ水流!」

両手を広げ、そして体の前方で両掌を合わせて指を敵に向ける。
その一連の動作は穏乃の頭の中に刻まれていた。初めから知っていたかのようにその技を出すことができた。





75 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/08/31(土) 17:11:48.29 ID:UR6Tl+PH0

合わさった指から勢いよく水流が放射され、ザンボラーの身体に降りかかった。
まさに『焼け石に水』という言葉が相応しいが、怪獣へライブする人間にそのままダメージは伝えられる。つまり――

宥『うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!』

寒がりの宥にとっては、傷口に塩水を当てられているようなものだった。

宥『やめ……っ!うわぁあぁぁ……!やめて!やめてぇぇぇぇ!!寒いぃぃぃ!!』

穏乃『……。宥さんはとばっちりを受けただけかも知れないですけど……』

穏乃『これは罰です。受けてください。ちゃんと』

宥『いやぁぁあぁぁぁぁああ゛あ゛ぁ…………』

暫く放水とザンボラーの悲鳴が続いたのち、怪獣は力なく倒れ、動かなくなった。
ザンボラーの体が煙に包まれるように消えていく。それを見たギンガも膝をつき、霞むように消えていった。





76 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/08/31(土) 17:12:36.04 ID:UR6Tl+PH0

穏乃「はぁっ!はぁ……っ!」

タロウ「……よく頑張ったな。シズノ」

穏乃「……。でも……怪獣の正体は……宥さんだった……」

タロウ「ユウ?マツミ・ユウか?」

穏乃「うん……」

タロウ「そうか……。大変なことになるな」

穏乃「せっかく、ここまで来たのに……」


穏乃(その後、私と宥さんは赤土先生に助けられてホテルに帰った)

穏乃(私は――この日に起きた出来事を信じたくなくて、ベッドに倒れ込んだらいつの間にか眠ってしまっていた)









77 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/08/31(土) 17:13:05.24 ID:UR6Tl+PH0

―――翌朝

ガチャッ

玄「おはようー。二人とも、起きて」

穏乃「………」

憧「ん~~……。おはよ……」

玄「そろそろミーティングだよ」

穏乃「ふぁい……」





78 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/08/31(土) 17:13:46.45 ID:UR6Tl+PH0

―――灼・晴絵の部屋

穏乃「おはようございまーす……」

憧「おはようー」

晴絵「おう。おはよう」

灼「おはよ……」

穏乃「……宥さん、大丈夫ですか?」

宥「?何が?」

穏乃(やっぱり覚えてないのか)





79 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/08/31(土) 17:14:30.89 ID:UR6Tl+PH0

穏乃「いえ、何でもないです……。ミーティングしましょう」

晴絵「今日の予定は抽選会。昨日、地震で手抜き工事だったビルが倒壊するという事故が起きたけど……それは関係なしに予定を進めるらしい」

穏乃「……え?」

晴絵「なんだ知らないのか?まぁ、新聞もニュースも見る時間なかったかぁ」

穏乃「え……?え?地震?」

晴絵「あぁ……そうだ。しずも一緒に避難したじゃないか」

穏乃(え……?どういう……?)





80 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/08/31(土) 17:14:58.28 ID:UR6Tl+PH0

憧「もしかしてシズ、まだ寝ぼけてるんじゃないのー?」

穏乃「……そ、そうかも……な。うん……」

晴絵「………」


穏乃(宥さんは怪獣に変身してたくさんの命を奪った)

穏乃(法で裁くことができないとは言え、私はその事を秘密にしておくことはできないと思っていた)

穏乃(だけど命が奪われたのは『怪獣』のせいじゃなく、『手抜き工事』のせいだという事実が既に作り上げられていた)

穏乃(私は結局、本当の事を胸の中に仕舞っておくという選択肢を取ってしまった……)





81 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/08/31(土) 17:15:58.03 ID:UR6Tl+PH0

―――抽選会

晴絵「じゃあ灼、抽選頼む」

灼「はい」

憧「ぶちかませー!」

玄「灼ちゃん、ファイト!」

灼「ただの抽選におおげさな……」





82 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/08/31(土) 17:16:28.25 ID:UR6Tl+PH0

晴絵「じゃあうちらは観客席行こう」

穏乃「なー。もしぐーぜん和に会っちゃったらどうする?」

憧「それはもうしょうがないんじゃない?」

コツン……

穏乃「んー……会っちゃうかもなー……」

憧「ホントは早く会いたいからね」

コツン…………





83 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/08/31(土) 17:17:07.54 ID:UR6Tl+PH0

晴絵「……!」

晴絵が何かしらの気配に気づく。
“それ”は前方より歩行してくるセーラー服の一人の少女。
しかしそれとすれ違う瞬間、凄まじいほどの寒気が、まるで電撃のように彼女の全身を駆け巡った。

晴絵「……っ!?」

穏乃「え?なに……」

憧「……あの制服!」

穏乃「!清澄――」

穏乃が振り向く。静かに廊下を歩いて行く小さな後ろ姿が見えた。
そしていつかの、龍門渕の天江衣の言葉を思い出す――





84 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/08/31(土) 17:17:36.29 ID:UR6Tl+PH0

『衣に土をつけたのはののかじゃない』

『清澄の嶺上使いだ――』

穏乃(同い年)

穏乃(なんて言ったっけ名前――)

穏乃(たしか――)

咲……! 宮永咲……!!

穏乃(私の倒すべき相手だ――!!)


To be continued...





85 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/08/31(土) 17:18:55.71 ID:UR6Tl+PH0

登場怪獣:ウルトラマン第三十二話より、“灼熱怪獣”ザンボラー

続きまた今度書きます





89 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/01(日) 18:18:00.05 ID:7MRShe0t0

第三話『東京大龍巻』


―――開会式終了後、清澄の宿舎

久「今日は抽選会と開会式お疲れ様。取材を受けてた和と迷子になってた咲は特にね」

まこ「あんたもな」

優希「開会式までに見つかってよかったじぇ」

久「うちの初戦は三日目だから明日と明後日は試合がありません」

久「その間にダラけてダメにならないよう最低限の調整は行います……が。明日の午前は休養とします」

久「開幕カードを観戦するも良し、東京見物も良し」

まこ「ここで寝て過ごすも良し」

優希「メヒコ料理屋でタコスランチを食べるも良しだじぇ」





90 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/01(日) 18:19:26.39 ID:7MRShe0t0

咲「あ……そうだ……。染谷先輩にスカート返さなきゃ」ガタ

久「え……何、どーゆーこと?」

咲「今朝、寝ぼけて急いでたら間違えちゃって」カチャカチャ

まこ「……。それ似おーとるからはいときんさい」

優希「似合うじぇ」

和「アリですね」

咲「んん……そうかな」

ストン

まこ「じゃけえはいとけゆーとるんに!」

咲「あわわ」

久(……。これが最後の楽しい休息になるのかしら……)








91 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/01(日) 18:20:08.67 ID:7MRShe0t0

―――翌朝、インターハイ一日目、阿知賀のホテル

玄「おはよー!あと五分でミーティングだよっ」

穏乃「ふぁ」

憧「おわーマジだ……。シャワー浴びらんない」

穏乃「……。何……?ここどこ……?」

憧「ホテルだよ、東京の!」

穏乃「……ああ!」

穏乃・憧「………」





92 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/01(日) 18:20:36.29 ID:7MRShe0t0

穏乃「インハイだっ……!」ガバッ

憧「忘れちゃダメそれ!」

シャッ

穏乃「ふおー。夜景じゃなくなってる」

憧「うん」

憧「……朝だからね」





93 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/01(日) 18:21:04.66 ID:7MRShe0t0

―――灼・晴絵の部屋

晴絵「もう見てると思うけど、昨日の抽選の結果……。今年のトーナメント表」パサッ

穏乃「!これって……。清澄って完全に逆側!」

憧「そうだよ……。昨日玄が『決勝まで行かないとだね!』って言ってたでしょ」

穏乃「でもこれじゃ和のチームと戦う前に……とんでもないのと当たる……!」

穏乃「白糸台高校……日本で一番強い高校……!」

憧「うちらが誰も勝てなかった三箇牧の…………」

玄「荒川憩さん?」

憧「うん。あの人が……」

憧「白糸台の宮永照はヒトじゃない、って言ってた」

一同「………」





94 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/01(日) 18:21:30.12 ID:7MRShe0t0

晴絵「ま。暗くなったところでどうなるわけでもない。とりあえず最初のタスクひとつずつ!」

穏乃「東京見物!」ビシッ

憧「切り替えはやっ!?」

晴絵「はいはい。それはインターハイが終わってから。今日はホテルの前でテレビの前!」

宥「左上ブロックの一回戦を観戦……でしょうか……?」

晴絵「いや。富山・福島・岡山の地区大会の映像だよ」

晴絵「初戦の相手をチェック。確実に倒せるようにね」

晴絵「それじゃ、朝食を取ったら少し休憩を挟んだ後、この部屋に集合。いいね」

一同「はい!」


穏乃(……今日は缶詰か。外の様子が分かんなくなるな)

穏乃(タロウに頼んでパトロールして来てもらうか……)





95 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/01(日) 18:22:05.23 ID:7MRShe0t0

―――龍門渕のホテル

透華「は・ら・む・ら、のどかー!」キャー

和「その……二人称がフルネームっていうの変じゃないですか?」

透華「そ、そうですの?」

和「はぁ」

透華「こ、こほん。なら……『原村さん』で良いでしょうか……?」

和「はい。っていいますか、そちらが年上なんですからお好きに……」

透華「……!なら、の、のど……」

透華(い、いや!いきなり呼び捨てとか何を考えているのですか私は?!)

透華(そのまま!これから親交を深めるにつれて呼び方を変えればよろしいのですわっ)

一「……。それにしてもごめんね、原村さん。うちの透華の変な趣味に付き合わせちゃって……」

和「い、いえ。私も楽しいですし」





96 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/01(日) 18:22:43.37 ID:7MRShe0t0

透華「さ、原村さん!この服も似合うと思いますわっ」

和「わぁ、かわいい服……」


一(………)





和「それでは、そろそろ時間なので」

透華「はいですわっ!」ニコニコ

一「重ねて言うけどごめんね。それじゃあ」

和「はい。それでは」





97 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/01(日) 18:23:09.95 ID:7MRShe0t0

透華「…………はぁーー……」

一「……。なに?そんなに緊張してたのー?」

透華「き、緊張ですって!?してませんわ、そんなのっ」

一「………」

透華(はぁ……メイド服姿の原村和、めちゃくちゃ可愛かったですわ……。頼み込んで写真とらせてもらえば良かったでしょうか)

透華(は、原村和ではなくて……原村さん。そう、これからは原村さんですわ)

一「………」

一「それじゃ、これから衣たちと合流してファミレスだね」

透華「そうですわね。一、着替えていらっしゃい」

一「はーい」





98 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/01(日) 18:23:43.59 ID:7MRShe0t0

ヌギヌギ

一(……全く、透華のヤツ鼻の下伸ばしちゃって)

一(ボクがあんなにアピールしてるのに原村さん一直線は変わんないでやーんの)

一(……。そうだ、この服着て……)


一「着替えてきたよ、行こう」

一(ふふ、この露出度。限りなく黒に近いグレーゾーンな服!必ずや透華を振り向かせて見せるっ)

透華「………」

透華「それでは行きましょうか」クルッ

一(む、無反応……!?)ガーン





99 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/01(日) 18:24:22.12 ID:7MRShe0t0

―――ファミレス

純「あ、こっちこっちー」

透華「お待たせしましたわ」

一「お待たせー」

華菜「私らも今来たところだし……って何だその服?」

一「ボク?」

華菜「ああ……スゴい露出度だな。多分私がお巡りさん呼べば捕まるレベルだぞそれ」

一「うっ……」

純「国広くんには露出狂のケがあるからな。多目に見てやってくれ」

一「な、なにそれ!」





100 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/01(日) 18:25:04.84 ID:7MRShe0t0

未春「確かに、目のやり場に困るというか……」

一「ちょっ」

智紀「……冷静に考えると、異常」ボソッ

一「ともきーまで!?」

透華「確かに、今日はいつにも増して露出が酷いですわね」

一「そ、それは……!」

一(ボクは透華を振り向かせるために……)

透華「これから少し矯正を考える必要性がありますわね」

一「こ、衣!衣はどう思う?!」





101 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/01(日) 18:25:40.29 ID:7MRShe0t0

衣「それも一の個性と考えると然したる問題では無いだろう」

一「ころもぉ……!」ウルウル

衣「だが……」

一「!?」

衣「一が捕まるというのを考えると痛嘆だ。透華の言うように癖の矯正をした方が……」

一「う……うわぁぁぁぁぁぁ!!!」

ダダダ……

一同「………」

華菜「……誰か追わないのか?」

透華「純、お願いしますわ」

純「はぁ……しゃーねーな」





102 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/01(日) 18:26:14.08 ID:7MRShe0t0

―――路地

ダダダダダ……

一「はぁ、はぁ……」

一(何で、何でみんな認めてくれないんだ!露出はボクのかけがえのないアイデンティティーなのに!)

一(このまま露出を減らされ続けたら、透華は……絶対ボクに振り向いてくれなくなる)

一(露出が認められる世界に……そんな世界になれば……っ!)

??「なにかお困りですか?」

一「!?」

一が振り向くと、路地裏の口に一人の若い女性が立っていた。

一(い、いつから……。全く気配はしなかったのに……)





103 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/01(日) 18:26:47.02 ID:7MRShe0t0

??「露出が認められないのはね、『みんなが服を着てる』のが普通のことだからですよ」

??「だから……剥いじゃえばいいんです。みんなが露出してれば、露出はみんなから認められるカルチャーになります」

一(な、何でこの人……!)

??「あなたのレボリューションなハート、使わせてもらいますよ」

そう言うと、彼女の瞳が赤く光り輝いた。
一はその光に魅入られ、その心も囚われて――





104 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/01(日) 18:27:20.47 ID:7MRShe0t0

―――龍門渕のホテル

ハギヨシ「……それでは、この辺で少し休憩としましょう」

京太郎「ありがとうございました!」

ハギヨシ「いえいえ、飲み込みが早くて教え甲斐がありましたよ」

京太郎「そうですか?あはは、麻雀はからっきしってみんなに言われてるんですけどね」

京太郎「やっぱりハギヨシさんの教え方が上手なんですよ」

ハギヨシ「いえいえ、勿体ないお言葉です」

京太郎(かっこいいなー……。俺も大人になったらこういう人になりたいな)

京太郎「じゃ、少し出てきます」

ハギヨシ「はい。お気をつけて」





105 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/01(日) 18:27:55.24 ID:7MRShe0t0

―――エレベーター

京太郎(……すげー。このエレベーターって外の景色が見えるんだな)

京太郎(……って、何だあれ?)

ビルを二、三、越した先に得たいの知れない物の存在が目に映った。
形はキノコのようだ。ビルに隠れてよく見えないが、ふわふわと上下左右に揺れていて、空に浮かんでいるようにさえ見える。

そしてそれの一番異常な点はその色と大きさだった。
色は深い青。それは銀色のビル群の中に凄まじい違和感を演出していた。
大きさは、それはもうとてつもなく大きく、縮尺を考えると高層ビルの半分ほどの大きさは持っていそうだった。





106 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/01(日) 18:28:29.06 ID:7MRShe0t0

京太郎(え……何だあれ――)

呆然としている内にエレベーターは下に降りていく。
今にも視界から消えてしまいそうなその時――その謎の物体が、くるりとこちらを振り向いた。

京太郎は思わず、あっ、と声を出した。
キノコの柄の部分に大きな赤い目が二つ、ぎょろりとこちらに向いていたのだ。

京太郎(何だよ……何だよあれ……!?)


チーン、ウィィーーン

京太郎(ぶ、部長に電話を……!)

Prrrrr...

久『もしもし。須賀くん?』

京太郎「部長!と、都内に――でかいキノコみたいな、せ、生物が!怪獣がいます!」

久『………』





107 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/01(日) 18:29:02.14 ID:7MRShe0t0

京太郎「部長!?聞いてますか!?」

久『……見間違えじゃないの?』

京太郎「本当にいるんです!エレベーターから見てて、ビルとビルの間に!本当に見たんです!信じてください!」

久『………』

京太郎「部長!」

久『ねぇ、須賀くん。須賀くんはまだ夏休みは取ってなかったわよね。部活の雑用とか押し付けちゃって』

京太郎「は……?」

久『このインターハイの間くらいゆっくり夏休みを堪能してもいいわ。今まで私たちを陰で助けてくれたんだもの。それくらいは』

京太郎「!?違うんです!幻覚とかじゃなくて!」

久『それじゃ』プツッ

京太郎「部長ぉぉぉぉおおお!」





108 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/01(日) 18:29:46.57 ID:7MRShe0t0

ロビーに京太郎の声が虚しく響いたその時、ロビーの中に轟音が吹き抜けた。

京太郎「!?」

その音は外から来ているようだった。
風が吹く音、そして窓に雨粒が当たる音。それらは段々と荒々しく、大きくなっていく。

京太郎「台風……?」

ロビーの中の他の客やホテルのスタッフたちも驚いた表情に変わっていた。
自動ドアの向こうを見ると、雨粒が激しくアスファルトに打ち付けられていた。


タロウ「急にどうしたのだ!?これは……」

一方で、人目に付かないようにテレポートを繰り返してパトロールしていたタロウもこの事態に直面していた。





109 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/01(日) 18:30:38.08 ID:7MRShe0t0

タロウ(いや、この現象は知っているぞ。これは恐らく――……)


「ピュララララララララ!!!」


タロウ「!」

その時、巻き笛のような甲高い声が暴風雨の轟音の中に響き、その主はビル群の中からゆっくりと浮上し、姿を現した。

深い青に染められた体躯はキノコのような形状で、漁り火のような光を発する赤い点が傘の上に乗っている。
その傘は二段構造となっており、上段は固定されており、その下の段はぐるぐると急速に回転している。
傘の下からは多数の触手が伸び、その中の二本は鞭のように太い。
柄には凶悪に鋭い眼が二つ。その下にはすぼめた唇のような赤く丸い口が閉じられていた。

タロウ「やはり。これは“台風怪獣”バリケーンの仕業だったのか!」





110 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/01(日) 18:31:10.21 ID:7MRShe0t0

―――阿知賀のホテル

TV『中堅戦終了です。依然、讃甘高校のリードは変わらず!』

晴絵「さて、次は富山の中堅だ」ピッ

ゴウン、ゴウン……

憧「なんかいきなり風が強くなってきたねー。今日は快晴じゃなかったのかしら」

穏乃(………)

『……ズノ!シ……ノ!』

穏乃(!タロウ?)





111 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/01(日) 18:31:41.07 ID:7MRShe0t0

『今、ホテルの外からテレパシーで君に話しかけている。大変だ、怪獣が現れた!』

穏乃(また……?!)

『ああ。場所はここから少し遠い。あの怪獣の人形を使う必要があるだろう』

穏乃(わかった。今行く)

穏乃「せ、先生」

晴絵「何だ?」

穏乃「えーー……っと。ちょっと、トイレ行ってきてもいいですか?」

晴絵「いいよ」





112 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/01(日) 18:32:20.28 ID:7MRShe0t0

穏乃「ありがとーございます!憧、部屋の鍵貸して」

憧「え?」

晴絵「ここのトイレを使えばいいじゃないか。何で部屋に戻る?」

穏乃「あ……えっと……」

晴絵「………」

穏乃「えっと……その……」

玄「どうしたの?忘れ物?」

穏乃「そ、そうです!部屋に忘れて……」

憧「なに忘れたの?」

穏乃「え?っと……それは」





113 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/01(日) 18:32:49.17 ID:7MRShe0t0

晴絵「……そうか。誤魔化して抜け出さなきゃいけないほど恥ずかしい何かか」

穏乃「え?……はい。そうです!」

憧「何それ?すっごい気になる」

晴絵「憧、詮索せずに鍵を渡してやれ」

憧「はーい」

チャラッ

穏乃「ありがとう!すぐ!戻ってきますから!」

晴絵「ああ。できるだけ早くな」





114 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/01(日) 18:33:40.01 ID:7MRShe0t0

―――穏乃・憧の部屋

ガサゴソ……

穏乃「これか」

穏乃が取り出したのは今までの敵を倒して回収した人形ではなかった。
彼女はタロウと出会う前、山の中で偶然にも『スパークドール』を見つけていた。今手に持っているのはその中のひとつ。
タロウと相談し、東京へ持っていく人形を決めていたのだった。

窓を開ける。強い風が部屋の中に入り込み、穏乃の髪をなびかせた。
ギンガスパークに人形を宛がい、窓の縁を蹴って空中に飛び出す。





115 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/01(日) 18:34:20.01 ID:7MRShe0t0

『ウルトライブ!バジリス!』

ギンガスパークから放たれた光は穏乃を包み、そして巨大な超獣に姿を変えた。
その体躯は全身が銀色に美しく輝き、両手は鋭い鎌、背には骨のような銅色の翼が四枚左右に開いている。

穏乃(……すごい)

全くもってどういう理論で空を飛んでいるかは分からない。
無重力というわけでもなく、自分の体に何らかの力が加わっているのが分かる。
そして『翼を広げた』。その行為は無論生まれて初めて行う動作であったが、腕を動かすのと同様にいとも容易くそれは行えた。

そしてバジリスは、向かい風を突っ切ってそのまま飛んでいった。





116 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/01(日) 18:35:06.12 ID:7MRShe0t0

―――現場

TV『緊急速報です。14時現在、都内に巨大な台風が発生しています』

TV『北上してきたものではなく、突然都内に出現した模様です。気象庁ではその原因を早急に突き止め――』

しかしアナウンサーが言い終わらないうちにテレビの電源が落ちた。
ここは現場にある電器店の中。フロアの照明が消え、子供の泣き声や人々のどよめきが響いた。

次の瞬間、フロアのガラスが一斉に割れた。
悲鳴が上がる。建物の外から、大きな二つの目玉が店の中を覗き込んでいた。


バリケーン「ピュララララ……」

バリケーンは気配を感じ、彼方から飛来する影の方に目を向けた。

バジリス「キュァァァ!」

その影は瞬く間に大きくなり、気がつけばバリケーンとすれ違っていた。
すれ違う際、バジリスは鎌でバリケーンを切りつけた。バリケーンはよろけ、バランスを崩して地上へ落下した。




117 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/01(日) 18:35:36.37 ID:7MRShe0t0

バリケーン「ピュララ……」

バジリスも着陸し、翼を下ろした。
ビルの壁を背景に対峙する両者。そしてこの時も、穏乃の目には怪獣にライブした相手の姿が映った。

それは一見裸にしか見えないほどの大きな露出をした少女だった。
左の頬には星のタトゥーが入り、リボンで可愛らしく後ろ髪を留めている。

穏乃『あなたは……龍門渕の!?』

穏乃たち阿知賀女子のメンバーは、国広一が属する龍門渕高校と練習試合をしたことがあった。

穏乃『な、何でこんな真似を……』

一『うぁぁぁぁああぁあぁ!!!』

穏乃『!?』





118 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/01(日) 18:36:34.70 ID:7MRShe0t0

バリケーン「ピュララララララララ!!!」

バジリス「キュァアッ!?」

バリケーンが風に乗って蹴りを繰り出してきた。
不意を突かれたバジリスはよろけるが、すぐ向き直りバリケーンに対して鎌を振り上げる。
しかし、バリケーンの口から白い煙が吹き出され、それを浴びたバジリスは苦しみもがき始めた。

バジリス「キュゥゥァ!」

バジリスは苦しみながらも鎌をぶんぶんと振り回した。
しかし風に煽られて思うように腕が動かせず、攻撃はバリケーンに容易く躱されていく。

逆にバリケーンが攻撃に入る。傘の赤い模様がチカチカと光ると空に稲妻が流れた。
落雷はバジリスを襲い、アスファルトの上に爆発をもたらした。悲鳴を上げ、バジリスが倒れる。

バリケーン「ピュラララ、ピュラララララ」

はしゃいだ子供のようにバリケーンがぴょんぴょんと飛び跳ね、バジリスに近づいた。
バジリスは起き上がり、空中へ逃れようとした。しかし、足にバリケーンの鞭が絡まり地上へと引き戻される。





119 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/01(日) 18:37:14.92 ID:7MRShe0t0

バジリス「キュァァ……」

バリケーン「ピュラララララ!!ピュラララララ!!」

地上に倒れるバジリスをバシバシと鞭で叩いていく。

穏乃『う……うぅ……ぁぐぅっ』

一『あはははは……!嵐よ巻き起これ!このまま全人類の衣服を剥いでくれるよ!!』

穏乃『……は?』

一『その後に!ボクは透華を振り向かせてみせるんだぁぁぁぁ!!』

一『あはははは!あはははははは!!』

穏乃『くっそぉ……っ!こんな意味の分からない露出魔に、負けてたまるかぁっ!!』

その時、穏乃の視界が光に包まれた。
ギンガスパークの刃が三ツ又に分かれ、先端からウルトラマンの人形が現れる。





120 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/01(日) 18:37:50.57 ID:7MRShe0t0

穏乃『ギンガ……!待ってた!』

勢いよくそれを掴み、ギンガスパークに宛がう。


『ウルトライブ!ウルトラマンギンガ!!』


地面に這いつくばっていたバジリスが光り始めた。
その光はバリケーンを押し退け上空に躍りだし、ビルの壁の狭間で停止する。

そして光が地面に激突する。その周囲だけ風が竜巻のように吹き荒れた。
雨を巻き込んだ風は突如爆ぜ、空中に投げ出された雨粒は出現した巨人の光に照らされ煌々と輝いた。

立体的な星空を纏って立つその光の戦士の名は――“ウルトラマンギンガ”!

バリケーン「ピュラララ!ピュラララララ!!」

ギンガ「シュァッ!」





121 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/01(日) 18:38:25.28 ID:7MRShe0t0

ギンガの爪先が地面を蹴った。
地響きが天にまで届く速さで彼は走っていく。その速度のままバリケーンの顔に拳を叩き込んだ。

バリケーン「ピュラララララララララ……!」

その衝撃でバリケーンが空に投げ出されたが、風で体を安定させてふわっと浮いた。
それを見たギンガは――穏乃は、バジリスの時のように宙へ飛び立った。

バリケーン「ビュラララ!」

バリケーンの赤い模様が光る。
雷撃がギンガを襲い、ビル群の狭間に身を落としていく。しかし、その度にギンガは宙を蹴り、バリケーンとの距離を詰めていく。

ギンガ「――ギンガスラッシュ!!」

今度はギンガのクリスタルが光り、紫色に染まった。
頭部のクリスタルから、それと同じ形状の光弾が翔ぶ。バリケーンの体にヒットして爆発を起こし、怪獣は地上へと落下した。

バリケーン「ピュラ、ピュラララ、ピュラララララ……」





122 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/01(日) 18:39:01.40 ID:7MRShe0t0

穏乃『国広さん、聞こえますか?国広さん』

一『……誰だ!?』

穏乃『国広さん。あなたの行動は間違ってる点が二つあります』

一『な、なに……!?』

穏乃『まず、あなたは龍門渕さんを振り向かせようとしてるみたいですが……』

穏乃『みんなが露出してる世界になれば、例え露出が認められたとしても、その露出の価値は全く無くなる!!』

一『!』ガーーーン

穏乃『更に!国広さん……あなたは“北風と太陽”というお話を知ってますか?』

一『ま……まさか……!』





123 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/01(日) 18:39:34.40 ID:7MRShe0t0

穏乃『あなたがいくら風を起こそうとも!それで服を脱ごうとする人はいないし!剥ごうとすればするほど人は着込む!』

そう言うとギンガはバリケーンに向けて指を向けた。ビシッと。

穏乃『つまり……あなたは言ってることもやってることも……全てがバラバラなんだ!!』

一『う……うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!』


バリケーン「ピュラ……ララ……ラ……」

バリケーンは力なく倒れ伏した。

タロウ「……いったい何を話していたんだ」





124 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/01(日) 18:40:25.17 ID:7MRShe0t0

バリケーン「ピュラ……ピュラララ……!」

ギンガ「!?」

バリケーン「ピュラララララララララララララララララ!!!!!!!」

一際大きい、悲痛な程に大きい怪獣の声が響いた。
むくりと起き上がると、傘の下部が高速回転を始め、それまでとは比にならない強風が吹き荒れた。

ギンガ「シュ……ヘァ……ッ!?」

その風は憎しみをぶつけるかのようにギンガに激突する。
彼のそばのビルの窓ガラスが次々と割れ、風に煽られた建物も植物の茎のようにしなった。

更に、怒り狂うバリケーンの赤い模様全てが光り出した。
それを合図にするかのように稲妻がギンガ向かって急な湾曲を見せ、その体に襲いかかった。

ギンガ「ハァァァァッ……!」

ギンガは思わず膝をついた。
しかしこの落雷攻撃にヒントを得て、ギンガのクリスタルもまた黄色に光り出す。





125 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/01(日) 18:41:15.53 ID:7MRShe0t0

左手を天に向かって振り上げると、同じ方向に光の渦が昇り、雷がそれに集まっていく。

ギンガ「――ギンガサンダーボルト!!」

雷撃を集合させた渦状光線がバリケーンに向けて放たれる。
しかし――バリケーンは口を向けて迎え撃つ。激突したかと思うと、光線はみるみる内にその口の中に吸い込まれていった。

ギンガ「ヘァッ!?」

傘の回転の勢いが更に増す。
ずるずるとギンガの身体は後方へ引き摺られる。彼が通ると同時に両脇のビルの窓ガラスが弾け飛んだ。

そして追い討ちをかけるように、迫り来るタイムリミットが忍び寄ってくる。
彼の胸のカラータイマーが点滅を始めた。





126 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/01(日) 18:41:44.05 ID:7MRShe0t0

ギンガ「シュ……ァァ……!」

『シズノ!回転だ!』

ギンガ「!?」

突然胸に響いてきたのはタロウのテレパシーだった。

タロウ『レッスン2……!ウルトラマンの基本技だ!回転するんだ!』

穏乃『レッスン1はウルトラ水流のこと!?ウルトラマンの基本って意味わかんないよ!』

タロウ『いいから!時間がなくなる!』

その間にもカラータイマーは点滅を刻んでいた。その点滅音はまるで血の滴る音のように。





127 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/01(日) 18:42:43.96 ID:7MRShe0t0

ギンガ「ハ……ァァ!」

ギンガは最後の力を振り絞り、地面を思いきり蹴りつけた。
空へ飛び出す。微かに感じる足場を更に蹴りつけて飛ぶ。
バリケーンの上空へ行くと、ギンガはそこで横の回転を始めた。

ギンガ「ウルトラプロペラ!!」

その回転は加速し、渦を作っていく。
バリケーンの回転はそれに釣られ、傘の下部だけではなく、全身が回転し始めた。

ギンガが回転をやめる。しかしバリケーンの回転と巨大な竜巻の渦は止まらない。
その勢いのままにバリケーンは竜巻を抜け、更に高く高く飛んでいき――そこで爆発四散した。

バリケーンの人形と国広一が落ちてくる。
ギンガはそれらを掌で受け止めてビルの一つの屋上に乗せた。

いつの間にか黒雲は消え、気持ちのよい日差しが濡れたビルに当たり銀色に輝かせていた。





128 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/01(日) 18:43:14.53 ID:7MRShe0t0

―――阿知賀のホテル

穏乃が徒歩でホテルまで帰ってきたときには、腕時計は既に16時を指していた。
灼と晴絵の部屋のドアを開き、入るや否や穏乃は床に頭を擦り付けた。

穏乃「遅れてすいませんでしたっ!」

憧「……しずっ!!」

叫び声に背中が吊り上がったが、穏乃は違和感を感じた。
その声色は叱咤ではなく、どこか安心と感動が混じったものだった。
そう思った直後、体が起こされ、憧が抱きついてきた。

憧「バカ……!どこ行ってたの!部屋に行っても窓が開いてるだけだったから……もしかしてなんて……!」

憧「警察に言っても……!今、緊急事態でそれどころじゃないとか言われたし……!外は台風とかだったし……!」

語尾は涙で掠れていた。もう一度、水色が混じった暖かい声色で「バカ」と叫ぶと、憧は穏乃を力強く抱き締めた。





129 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/01(日) 18:44:53.42 ID:7MRShe0t0

玄「穏乃ちゃん……本当に何をして……」

みんなが二人の元に駆け寄ってくる。
憧はふと気づいたように顔を上げ、胸の中の穏乃に目を向けた。

晴絵「……しず!?」

憧「だ、大丈夫。寝てるだけ……みたい」

宥「よかった……」

灼「でも……何をしてたんだろ……」

晴絵「………」


一方で、後になって到着したタロウは考え込んでいた。

タロウ(やはり16歳の少女にウルトラマンとしての戦いは厳しすぎる……)

タロウ(このままでは彼女もだが、この少女たちの夢まで潰しかねない……)








130 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/01(日) 18:45:27.98 ID:7MRShe0t0

―――その夜、とある料理店

ガラッ

晴絵「……こんばんは」

トシ「久しぶり。元気にやってるかい」

晴絵「そういうのいいですよ。あなた方が私を監視してるなんてとっくに知ってますから」

トシ「あらまあ」

晴絵「……今日は何の用件ですか?また私を使って人体実験でもしたいんですか?」

トシ「人聞き悪いこと言うわねえ。今日は別にそんなんじゃないよ」

トシ「あんた今、母校の監督やってるんだって?」

晴絵「おかげさまで」





131 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/01(日) 18:46:17.69 ID:7MRShe0t0

トシ「そんなことよりプロに戻る気はないのかい?話くらい来てんだろ?」

晴絵「……今度は何が目的ですか」

トシ「もう、だからそういうんじゃなくって――」

晴絵「残念ですが。私は金輪際あなた方を信用しません。覚えておいてください」

トシ「………」

晴絵「でも安心してください。10年前のあの事は、絶対に、誰にも話しませんので」

晴絵「……教え子をあんなことに巻き込みたくないですしね」

トシ「……それなら結構」

晴絵「それじゃあ」

トシ「おごるわよ?何か食べていきなさいよ」

晴絵「結構です。あなた方に借りを作るなんてまっぴらごめんですから」

そう吐き捨てると、晴絵はピシャッという音を立てて戸を閉めた。


To be continued...





132 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/01(日) 18:49:34.76 ID:7MRShe0t0

登場怪獣:帰ってきたウルトラマン第二十八話より、“台風怪獣”バリケーン
劇場版ウルトラマンガイアより、“骨翼超獣”バジリス


ダークスパークウォーズで人形になった怪獣なのに地球産がいるのは大目に見てください
本編にもゴルザとかいましたし…

それ以外にも本編やウルトラシリーズとは設定が違う場合もありますが、目を瞑ってもらえば幸いです

また今度続き書きます





136 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/03(火) 16:28:02.78 ID:O5yIZqp+0

第四話『青春の光と影』


暗く、黒い天井。
部屋の中にどこから入ってきたのか、虫の羽音がする。新免那岐は闇の中に小さく溜め息を漏らした。

「部長……起きてるんですか?」

「なに?」

「明日、帰るんですよね。岡山に」

「うん……」

「短かったですね」

「そうだね……」





137 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/03(火) 16:28:51.10 ID:O5yIZqp+0

「もう終わりなんですね……」

「……うん」

『終わり』、『帰る』。自分たちの青春の終わりをストレートに示す単語が並ぶ。
しかし那岐の心はどこか浮わついていた。

那岐は目を閉じた。瞼の裏に光が広がる。
そこは大会会場の廊下だった。両脇にカメラマンが大勢並び、シャッター音とフラッシュが絶えなかった。

目を開く。音は一気に深遠に消え去り、目の前に広がるのもまた、虚しい暗闇の中だった。


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138 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/03(火) 16:29:31.64 ID:O5yIZqp+0

―――時間は戻って、インターハイ二日目の朝

穏乃「………」パチ

憧「シズ、起きた?」

穏乃「うん……」

憧「昨日シャワー浴びずに寝たでしょ?早く浴びてきて」

穏乃「うん……。あ、そうだ。昨日、何かあった?」

憧「何かって?穏乃が勝手にいなくなったこと?」

穏乃「それもだけど、他に」

憧「あぁ。都内で竜巻が起きた。けっこうな被害になってるんだって」





139 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/03(火) 16:30:02.30 ID:O5yIZqp+0

穏乃「原因は?」

憧「原因?さぁ、竜巻発生のメカニズムとか知らないから……」

穏乃(またか……)

穏乃は昨日、ギンガになって怪獣と戦った。
バリケーンは台風を起こす怪獣であり、当然街には被害が出た。しかしその原因は自然的な竜巻だという。

つまり、また怪獣に関する記憶が無くなっている。更にはその埋め合わせもされているのだ。

憧「でさ。昨日は帰ってきたらすぐ寝ちゃったから聞けなかったけど、何してたの?」

穏乃「……それは」





140 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/03(火) 16:30:44.97 ID:O5yIZqp+0

穏乃は口ごもり、何とか誤魔化そうと言葉を探していた。
そうして暫く沈黙が続いたあと、憧が口を開いた。

憧「……まぁいいわ。ハルエはあんまり問い詰めるなって言ってたし」

穏乃「ごめん……」

憧「なに?謝らなきゃいけないような事をしてたの?」

穏乃「!そ、そんなことない。私はただ……みんなに迷惑かけたことを謝ってるだけ」

憧「それならもういいよ。早くシャワー浴びてきなさいよ」

穏乃「うん。……ありがと」





141 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/03(火) 16:31:39.20 ID:O5yIZqp+0

―――風呂場

シャァァァ

穏乃「ふー……」

『シズノ……』

穏乃「!?」

シャワーを浴びている時、突然男の声がした。
驚いた穏乃は思わずタオルを引き寄せたが、それがテレパシーだと気付いて溜め息を吐いた。

穏乃(タロウ……シャワー浴びてるときに話しかけないでよ……。まさか見てないよね?)

『すまない、君に落ち着いて話せるタイミングが中々見つからなかったものでな。それと、覗きなどしていない』

穏乃(それならいいけど……。そんなに急の用?)

『ああ。落ち着いて聞いてくれ』




142 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/03(火) 16:32:25.90 ID:O5yIZqp+0

『次、怪獣が現れても……君はもうライブする必要はない。戦わなくていい』

穏乃「え……?」

『私が迂闊だったのだ。16の少女がこんな激務をこなせる訳がない』

穏乃「ま、待ってよ……」

『君の疲労はこの二日の連戦で限界に達しているだろう?これ以上戦うと君の命も危ない』

穏乃「でも!」

憧『しず?どうしたの……?』

ノックの音がし、憧の声がドアの向こうから聞こえてきた。
興奮して思わず声が出てしまっていた。それが憧に不審がられたのだろう。

穏乃「ごめん。何でもない」

憧『うん……』





143 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/03(火) 16:33:01.44 ID:O5yIZqp+0

穏乃(……タロウ。私はライブしてたら外傷は無くなるんだ。だから大丈夫だよ)

『ダメだ。先程も言ったように、外傷は無くともダメージは内に溜まっていく。昨日、すぐに倒れてしまったのが良い例だ』

穏乃(だからって……!)

『シズノ。私は君のことを心配して言っている。それに君の夢のこともあるだろう?』

穏乃(私の夢……)

『そうだ。君は話してくれたよな?全国大会の舞台で昔の友達と再会するのだと。君が倒れたらそれも叶わなくなるんだぞ』





144 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/03(火) 16:33:47.48 ID:O5yIZqp+0

穏乃(でも……怪獣と戦えるのは私だけじゃないの……?)

『……この国にも自衛隊というものがあると知った。他国からの支援だってあるだろう。防衛のことは彼らに任せた方がいい』

穏乃(でも……でも……)

『……これでさよならだ、タカカモ・シズノ。君といた日々は短くとも楽しく有意義だった』

穏乃「タロウ!」

しかし、次の言葉はもう返ってはこなかった。
シャワーを頭から被る。耳の裏側に水が打ち付けられ、煩わしく中耳に響いていく。流れる水が、頬から滴り落ちていった。








145 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/03(火) 16:34:21.04 ID:O5yIZqp+0

―――夜、千里山女子高校のホテル

セーラ「はーあっついあっつい」パタパタ

ウィィーーン

セーラ「うはー、やっぱホテルは涼しいなぁ」

「先輩、お疲れさまです!」

セーラ「おう」

泉「園城寺先輩は大丈夫っすかね?」

浩子「観察しに行きましょうや」





146 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/03(火) 16:34:48.55 ID:O5yIZqp+0

―――怜・竜華の部屋

三人が部屋に入ると、ベッドに腰かける竜華とその膝に顔を埋めて寝転がる怜の姿があった。
そろそろと音を立てないように近づくが、怜はむくりと顔を上げた。

怜「起きてるで」

セーラ「体調はどうや」

怜「今日はええかも」

竜華「東京見物はどうやった?」

セーラ「それが暑うて暑うて」

怜「学ラン着てるからやろ」

泉「ずっとファミレスでダベってました」





147 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/03(火) 16:35:17.18 ID:O5yIZqp+0

浩子「おばちゃ……もとい、監督が今日あった試合と牌譜を見とけって。サーバーにあげてあるって」

竜華「おわー……。ほな試合までの二日間はホテルでテレビとにらめっこかー」

怜「生きるんてつらいなぁ」ゴロン

セーラ「若くして真理に到達したな」

泉「さっさと見てしもたほうがよくないっすか?すぱーっと」

浩子「おお、前向き精神!」

セーラ「見習いたいわ……」





148 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/03(火) 16:35:59.40 ID:O5yIZqp+0

怜「ほな今から見ようや~」

竜華「今!?」

セーラ「汗かいてるし腹へってるし」

竜華「シャワー浴びたい……」

泉「ほな30分後にここに集まりましょう。食事はルームサービスで」

浩子「仕切るねぇ、下級生やのに」

泉「す、すいません……」





149 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/03(火) 16:36:28.21 ID:O5yIZqp+0

セーラ「でもーそれじゃ一人15分しかシャワーできなくね?」

竜華「?一緒に入ればええやん」

セーラ「……ここバスタブ広いけどさすがに二人はきついやろー」

怜「ん?」

竜華「あわわ……」

泉「……。ほな一時間後で……」








150 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/03(火) 16:36:59.36 ID:O5yIZqp+0

怜「最初はどの試合見るん?」

セーラ「んー」

竜華「トーナメント表でうちに近いとこ!」

怜「じゃあ第六試合やなー。岡山・福島・奈良・富山」

セーラ「えーと、ここで勝ったんは……」

竜華「あー言わんといて!!」

セーラ「え?」

竜華「だって結果わからん方が楽しく見れるやん」

泉「いやーでも次に対戦する相手をはっきりマークした方が……」

竜華「う……」





151 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/03(火) 16:37:27.73 ID:O5yIZqp+0

怜「あ。あの子……」

竜華「なに?」

TV『阿知賀女子学院――先鋒・松美玄!』

竜華「ああああ!高速道路のサービスエリアで会った――!」

怜「あの子たちも出場校やってんな……」

竜華「なんちゅう偶然……すてき……。私この子応援するでっ!」キラキラ

怜「………」

竜華「頑張れー!玄ちゃんファイト!」

セーラ「勝ったら敵になるっちゅうのに……」








152 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/03(火) 16:38:01.94 ID:O5yIZqp+0

穏乃『ツモ!1000オール!』

TV『――大将戦、終了!阿知賀女子学院、二回戦進出です!』

竜華「……お、め、でとーーっ!」キャー

怜「はしゃいでるようやけど、次にこの子たちと戦うんはうちらやで」

竜華「……………」

竜華「どっち応援しよ?!」ガーン

怜「なにゆってんの……?」





153 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/03(火) 16:38:31.61 ID:O5yIZqp+0

セーラ「あの姉妹は厄介そうやけど穴があるな」

竜華「松実姉妹!」

怜「うん。特にドラローさんは手が窮屈そうや」

セーラ「とりあえずこの阿知賀ってのは、うちの敵じゃなさそうや」


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154 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/03(火) 16:39:06.38 ID:O5yIZqp+0

―――朝、インターハイ三日目、讃甘高校の宿舎

引率「起きた起きたー」

那岐「……ん」

引率「ほら、起きて。朝ごはん終わったら駅に直行だよ」

那岐「はい……」ムク

引率「さっさと顔洗ってきなさい。30分後に下のバイキングで集合ね」

那岐「はい……」

那岐(………)








155 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/03(火) 16:39:48.57 ID:O5yIZqp+0

TV『今日のお天気は快晴でしょう。くれぐれも熱中症にはお気をつけください』

TV『さて、この次は麻雀のインターハイの情報です』チャララ~♪

那岐「………」

部員「部長?そろそろ集合ですよ?」

那岐「……ごめん。朝食いらないって先生に言っといて……」

部員「……。わかりました……」

バタン

那岐(………)





156 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/03(火) 16:40:26.39 ID:O5yIZqp+0

TV『昨日行われた第四試合。中堅戦にて滋賀の富之尾は追い上げを見せますが、埼玉の越谷女子がリードを守りきりました』

TV『第五試合。序盤から劔谷がリードを作ります…… ……』

那岐(………)

TV『第六試合。奈良代表阿知賀女子の先鋒・松実選手が大活躍を見せます』

那岐(……私がテレビに映ってる)

TV『松実選手のドラを生かした高火力攻撃に他校はなすすべもなく、現時点で松実選手は今大会最高得点を記録しています』

TV『この試合は序盤のリードを守りきった阿知賀女子が勝ち抜けました』





157 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/03(火) 16:41:07.69 ID:O5yIZqp+0

TV『そしてこれが今日行われる試合です。第七試合では銘苅選手擁する真嘉比高校、第九試合では南大阪代表の姫松高校が登場です』

那岐「そうだよな……」

敗者にスポットが当たることはない。
そして『私は敗者』である。那岐は受け入れ難いその現実を突きつけられた。

那岐「私たちは負けて――」

テレビに映るのは『次がある少女たち』。
自分は、負けた自分は、これから故郷へ帰らなければならない。
受験勉強、進路決定、センター試験……今まで考えてこなかった現実が、これから津波のように襲いかかってくる。

那岐「嫌だ…………」

体育座りしていた那岐は、膝に顔を埋めた。涙が頬から脚へ伝わっていく。





158 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/03(火) 16:41:47.99 ID:O5yIZqp+0

那岐「まだ……もっと……」

もっと、ここにいたかった。
その言葉は声にならず、水気含んだ嗚咽の中に消えていった。


??「――泣かなくたっていいんですよ?」


那岐「!?」

思わずぐしゃぐしゃの顔のままで振り向いた。
背後に若い女性が立っていた。ドアの開く音など聞こえなかったのに――

??「あなたのそのブレイクダウンなハート……使わせてもらいますよ」

そう言うと、彼女の目が赤く光り出した。
那岐の心は囚われ、そして――





159 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/03(火) 16:42:19.87 ID:O5yIZqp+0

―――阿知賀のホテル、灼・晴絵の部屋

玄「今日は和ちゃんたちの試合だね!」

穏乃「そうですね。見たいですけど……」

晴絵「ああ。もちろん今日も缶詰だ」

憧「だよねー」

晴絵「次の相手は越谷女子、劒谷、千里山女子。特に千里山は全国ランキング二位。ここの対策に時間を多く割く」

晴絵「朝食が済んだらまたここに集合。では、一旦解散」





160 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/03(火) 16:42:47.54 ID:O5yIZqp+0

憧「しずー。今日は下のレストランで食べない?」

穏乃「良いね!……あ、でも財布部屋に忘れてきた」

憧「あー……じゃあ鍵は渡すから取ってきて。私はテーブル確保しとく」

穏乃「りょーかい。じゃ、頼んだ」

憧「うん。またあとで」





161 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/03(火) 16:43:17.15 ID:O5yIZqp+0

―――讃甘高校の宿舎

ガチャッ

引率「おーい、新免さん!なにも食べないなんて――」

しかし、部屋に入ってもそこには誰もいなかった。

引率「……どこ行った?せっかくパン買ってきてあげたのに」

カーテンを開く。その時、目に飛び込んできた光景に彼女は目を見張った。

そこにあったのは巨大な足だった。
肌は燻んだ赤で染められており、その先には爬虫類のような鋭く黒い爪が伸びている。
足首は黒い具足が取り付けられており、その上は窓ガラスの枠の外で見えない。

引率「あ、あわわわ……」





162 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/03(火) 16:44:01.15 ID:O5yIZqp+0

―――阿知賀女子のホテル、穏乃・憧の部屋

穏乃「どこ置いたっけ……?」

テーブルの上にも財布は無い。
最後に使ったのはいつだったかと考えを巡らすと、ポーチの中という結論が出た。
穏乃はポーチのジッパーを開いたが、目に入ってきたギンガスパークを見て動きを止めた。

『君はもうライブする必要は無い。』

タロウはそう言っていた。そして、穏乃自身にも迷いがあった。
一年前からずっと見てきた夢。まだまだ登っている最中だが、『山に登る』ところまで来たことに間違いはない。

『怪獣』、『被害』、『消えていく記憶』……。
積み上げてきた彼女たちの夢は今、こんな意味の分からない現実に壊されそうになっている。





163 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/03(火) 16:44:39.39 ID:O5yIZqp+0

『防衛のことは彼らに任せた方がいい。』

穏乃は黙ってギンガスパークを握った。
その時――頭の中に激流のように流れ込んでくるものがあった。
驚いて手元に目を落とす。ギンガスパークに埋め込まれた宝石が七色に光り、穏乃にあることを伝えていた。

穏乃「……ごめん、憧」

携帯を取り出し、憧へ謝罪と先に食事してていいという旨のメールを送った。
それから穏乃はポーチから銀色の人形を取り出し、窓を開けた。
朝特有の乾いたさっぱりした空気が入り込む。射し込んだ光は穏乃の頬を決意の色に染め上げた。

『ウルトライブ!バジリス!!』

窓から飛び出した穏乃の姿は白い光に包まれ、怪獣に変わっていく。
バジリスの銀色の体は太陽の光を受け、鋭い白の反射を解き放ちながら飛んでいった。





164 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/03(火) 16:45:18.97 ID:O5yIZqp+0

バジリスが飛行している最中、街の中にいたタロウは上空を移動する影に気づいた。

タロウ「あれは……バジリス?!ということは……」

都市部を抜け、山の緑が少し見えてきたところまで飛ぶ。麓に歩く一体の怪獣がこちらに眼差しを向けていた。

バジリス「キュァァ!キュァァ!」

翼を畳み、高度を下ろし、加速する。
近づくにつれて怪獣の姿がよく確認できるようになった。

一言で言うなら「鬼」。
肌は赤黒く、耳があるべきところには角が伸び、顔の中央に位置する一つのみの眼と牙が露出した口は凶悪な印象をもたらした。
裸なのは上半身と足のみで、下半身はふさふさした袴に覆われている。





165 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/03(火) 16:45:50.40 ID:O5yIZqp+0

更に近づくにつれ、鬼の手に何かが握られていることが分かった。
それは太陽の光を受けて鈍く輝く細く鋭利な武器――刀だった。

鬼「シャァァッ!!」

すれ違い様に鎌で切りつけようとしたが、逆に切りつけられた。
甲殻に包まれたバジリスの体にもダメージが通る。バジリスは悲鳴を上げながら地面へと落下した。

バジリス「キュァァ……」

『シズノ!なぜ変身したんだ!』

穏乃『タロウ……?』

タロウ『ああ。何故だ!君には仲間も夢もあるだろう!それを全て投げ捨てる気か!』

穏乃『……。ウルトラマンの言う台詞じゃないと思うな……』

タロウ『君は……!』





166 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/03(火) 16:46:52.75 ID:O5yIZqp+0

対峙する怪獣と鬼。穏乃の目にその中にいる人間の姿が映る。
それは、昨日対戦した相手校の選手だった。

穏乃『そうか……』

今まで怪獣にライブしてきた人たちは何かしらの欲望を持った人だった。
それはきっと何者かの手で増幅され、こうして怪獣の姿になってその欲望を果たそうとする。

恐らく、この人の欲望は――


鬼「グルルルル!!ガァッ!!」

動物の唸りのような声を歯の間から漏らし、鬼が飛びかかってくる。
空間に一閃が走る。バジリスは鎌の刃の部分でそれを受け、剣戟が小気味よい金属音を立てた。





167 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/03(火) 16:47:27.93 ID:O5yIZqp+0

鬼「シャァッ!」

無防備になった腹に蹴りを入れられる。鬼は後ずさったバジリスに斬りかかり、それを受け止められ、そして再び蹴りを入れる。
二度目に後退りしたバジリスはそのまま地面を蹴り、空中へ身を踊らせた。その下を剣の切っ先が通っていく。

バジリス「キュァァ!」

空へ飛んだバジリスは赤く丸い光弾を発射した。
鬼はバク宙でそれを躱し、更に続く連弾をも華麗な側転で避ける。光弾は地面に激突し、爆発と共に土埃が舞った。

鬼「ガルルル……シャァァッ!!」

鬼の大きく裂けた口が開く。赤い光線が吐き出され、滞空していたバジリスの肩に命中した。
バジリスは大きくバランスを崩し、高度が下がっていく。





168 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/03(火) 16:47:56.83 ID:O5yIZqp+0

鬼「ガァァッ!!」

鬼が走り、地面に置いてあった刀を手に取り、大きく跳ねた。
ふらふらと落ちてくるバジリスの背中に飛び移る。その体重にバジリスは耐えきれず、地面へ無様に落下した。

そして鬼は、刀を両手で握り締め、バジリスの首に思いきり突き立てた。

タロウ「シ……シズノーーー!!!」

すると、バジリスの体が光り始めた。

光球となって宿那鬼の体を突き飛ばし、空中に飛び上がり、地面に衝突した。
大地が揺れ、土埃が立つ。静かに舞う風はそれを吹き流し、戦場を静寂に満たした。

静穏の中に立つ神秘な趣をしたその戦士の名は――“ウルトラマンギンガ”!





169 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/03(火) 16:48:40.29 ID:O5yIZqp+0

穏乃『タロウ、私は戦うよ』

タロウ『!』

穏乃『この人はね、きっと……夢に敗れたから、他の人の夢を奪おうとしているんだ』

タロウ『夢に敗れた?』

穏乃『うん。私たちが夢を追い続けられるのは、他の人の夢を潰してきたから』

穏乃『だからこそ私はこの手で倒さなくちゃいけないし、だからこそこの手でみんなの夢を守りたい』

穏乃『だから私は戦う。ごめんね、タロウ』

タロウ『………』

タロウ『その怪獣は二面鬼“宿那鬼”だ。その名の通り二つの顔を持つ。気をつけろ』

穏乃『うん……。ありがと』





170 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/03(火) 16:49:25.41 ID:O5yIZqp+0

宿那鬼「シャァッ!」

刀を構え、宿那鬼が走り迫ってくる。

ギンガ「ハァッ!」

ギンガが腕を交差させると、全身のクリスタルが白く光り始めた。
右腕のクリスタルから矢印のような形が飛び出してくる。そこからクリスタルへ刀身が伸び、腕から伸びる青白い光の剣を形成した。


ギンガ「――ギンガセイバー!!」


剣を構え、宿那鬼を迎え撃つ。
宿那鬼は走りながら、刀を袈裟懸けに降り下ろした。それと同時にギンガの剣が刀とは真逆の方向に振り上げられる。





171 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/03(火) 16:50:15.82 ID:O5yIZqp+0

美しい金属音が辺りの静寂に響き渡る。
宿那鬼の刀は先が欠け、ギンガの体に届かなかった。切っ先はストン、と音を立て、ギンガの背後の地面に突き刺さった。

宿那鬼「ガァァァ……!」

宿那鬼の口が大きく開き、ギンガに光線を吐き掛ける。しかしギンガは体勢を落としてそれを躱し、顎を蹴り上げた。

宿那鬼「グフッ!」

ギンガ「ショラッ!」

体勢を戻し、宿那鬼に向けて突きを入れる。しかし鬼は身軽に宙返りしてそれを躱し、ギンガの背後に着地した。
ギンガは背を向ける鬼に向けて剣を振り上げる。





172 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/03(火) 16:51:06.05 ID:O5yIZqp+0

タロウ「危ない!」

その時、宿那鬼の後頭部の白髪が捲れ上がった。
髪の奥にはもう一つの顔が隠されていた。口から吐き出される白煙を受け、思わずギンガは仰け反った。

ギンガが怯んでいる隙に宿那鬼が切っ先の無い刀を拾い上げ、構えた。
すると剣に紫の光が纏っていき、地面に刺さっていた切っ先が浮かび上がり、刀の先にピタリとくっついた。

ギンガ「シュッ……!」

宿那鬼「ガルル……!」





173 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/03(火) 16:51:37.02 ID:O5yIZqp+0

地上には少し離れて群衆ができていた。
その中には那岐に力を渡したあの女性もいた。

??(宿那鬼は復讐の鬼。いくら切られてもその怨恨が残る限り、何度でも蘇る)

??(まして『ダークスパーク』で増幅した心の闇を消し去ることなんてできない)

??(これで終わりですよ。ウルトラマンギンガ……!)


宿那鬼「ガァッ!ガァッ!」

何度も何度も宿那鬼が刀を降り下ろす。
ギンガも剣でそれを受けるが、刀の強度は上がっているようで弾き飛ばすことはできなかった。





174 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/03(火) 16:53:06.69 ID:O5yIZqp+0

宿那鬼「シャァァアッ!!」

ギンガ「ショラァッ!」

両者が同時に蹴りを繰り出す。衝撃でどちらともが後ずさりするが、鬼の眼の殺気は消えず、即座に切りかかってくる。

タロウ(まずい、このままでは――)

タロウが案じたその時、ギンガのカラータイマーが音を立てた。
肩で息をするギンガ。対する宿那鬼はその怨念によって無限の力を得ている。
このままいけばギンガの方が先に力尽きてしまう。それは火を見るよりも明らかだった。

タロウ『シズノ!早くトドメを刺すんだっ!』


穏乃(いや……いくら攻撃したって……この人の心は元通りにはならない……)

穏乃(お願いギンガ……。私は、みんなの夢を守りたい……!)

穏乃がそう願った時、彼女の心に、電流が走るように、風が吹くように、何かが通りすぎていった。





175 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/03(火) 16:54:03.40 ID:O5yIZqp+0

ギンガ「……シュッ」

ギンガが腕を交差させると、クリスタルの光が元通りの青に戻った。それと同時に光の剣が消滅していく。

宿那鬼「シャァァッ!!」

宿那鬼が駆けてくる。しかしギンガは微動だにしない。

宿那鬼「ガルルッ!ガァッ!」

ギンガのクリスタルが緑に染まっていく。
宿那鬼は気にせず、その刀を力任せにギンガの胸に突き立てた。

タロウ「!」

傷からキラキラと光る粒子が零れ出す。
もう一度突き刺すため、宿那鬼は刀を引き抜こうとした――が、寸前、ギンガに腕を掴まれ引き留められた。





176 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/03(火) 16:54:46.28 ID:O5yIZqp+0

ギンガ「――ギンガコンフォート」

ギンガが差し出した右掌から光が天に昇っていった。
その柔らかい光の粒は宿那鬼の頭上から降り注ぐ。
宿那鬼は暴れて刀を引き抜こうとするが、ギンガの腕が離れない。

宿那鬼「……ガァッ!」

ギンガの顔に光線を当てる。だが腕は離れない。
宿那鬼が刀を持つ手に力を入れる度、その傷からは血のように光が溢れてくる。

しまいには肩に牙を突き立てた。凄まじい痛みが次々とギンガに襲いかかる。
だが彼は、絶対に腕を離さなかった。





177 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/03(火) 16:55:28.13 ID:O5yIZqp+0

穏乃『……目を覚ましてください。確かに誰かの夢の成就には誰かの夢の犠牲が伴います』

穏乃『でも……あなたは本当にこんな形で他人の夢を蹴落としたかったんですか?』

穏乃『正々堂々戦って、その末に自分の夢を叶え、結果的に相手を踏み台にする。あなたが望んだ形はそんな形でしょう?』

宿那鬼が動きを止め、俯いた。
降り注ぐギンガコンフォートを受け、その体色が薄くなっていく。

那岐『――でも』

穏乃『?』

那岐『私には、もう――……』

しかしその言葉を言い終える前に宿那鬼の体は小さな光に萎んでしまった。
ゆっくりと光が落ちていった場所には倒れた少女の姿が見える。ギンガは腕を構え、変身を解いた。





178 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/03(火) 16:56:00.21 ID:O5yIZqp+0

穏乃「新免さん……」

那岐「……君は、阿知賀の……」

那岐「私、何でこんなところで寝転がってるんだろう……」

穏乃(………)

やはり、怪獣になっていた時の記憶は消えてしまうのか。
穏乃がそう落胆した時だった。那岐の顔に笑みが浮かび、頬に涙が流れ落ちた。そして、小さく、こう言った。

那岐「私たちの分まで、頑張ってね……」

穏乃は目元に腕を擦り付けながら頷いた。
確かに私の心は届いていたのだ――彼女は強くそう思った。顔全体が熱くなっていくのを感じた。





179 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/03(火) 16:56:34.02 ID:O5yIZqp+0

タロウ(……タカカモ・シズノ)

タロウ(君の行動には勇気と覚悟がある。その二つは、どんな逆境においても絶対に諦めない心の証明だ)

タロウ(少女だからと言って、私は彼女のことを見くびっていたのかもしれないな……)

穏乃「タロウ!」

タロウ「シズノ……」

穏乃「考えてたんだけどさ、唯一ギンガスパークを使える私の協力抜きでどうやって元の姿に戻ろうとしたの?」

タロウ「そ、それは……」

穏乃「タロウは私のことを心配してくれたみたいだけど、タロウだって今大変な状況なんだよ?分かってる?」

タロウ「う……」





180 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/03(火) 16:57:09.85 ID:O5yIZqp+0

穏乃「タロウはさ。ウルトラマンだからって、人間のことを考えすぎなんだよ」

穏乃「私は夢のことを『他人の夢を潰さないと達成しないもの』って言ったけど、他人と協力して達成する夢もある。当然ね」

タロウ「………」

穏乃「だから一緒に行こう。私はみんなの夢も、タロウの夢も、それに自分の夢も守ってみせるから」

タロウ「分かった。君を信頼しよう」

タロウ「これからもよろしく頼む。シズノ」

穏乃「うん!こちらこそ」








181 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/03(火) 16:57:36.93 ID:O5yIZqp+0

―――帰りの新幹線の中

那岐は帰郷のため新幹線に搭乗していた。

那岐(………)

列車が動き始めた。
みるみる内に速度は上がっていき、駅を抜け、景色が次々と変わっていく。
やがて、銀色に輝くビル群は車窓の隅から消えて無くなった。

那岐「……さようなら」


To be continued...





182 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/03(火) 16:58:07.77 ID:O5yIZqp+0

登場怪獣:ウルトラマンティガ第十六話より、“二面鬼”宿那鬼

続きまた今度書きます





188 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/06(金) 14:40:22.38 ID:9w9ZsgW30

第五話『インターハイ中止!?』


―――朝、インターハイ四日目、宮守女子のホテル

塞「起、き、ろーーーっ!!」

白望「試合無い日くらい寝かせて……」

塞「なに日曜日のお父さんみたいなこと言ってんの!次の試合の対策考えなきゃでしょ!」

白望「………」

塞「………」

白望「……ダルい」ボソッ

塞「……このっ!」





189 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/06(金) 14:41:15.40 ID:9w9ZsgW30

塞「起きろーーーーー!!!」バサッ

白望「あ、布団……」

塞「って!何て格好してんのシロ!?」

白望「ん……。ほら、何だか暑くて……」

白望「でも布団のけたら寒いから……。裸で布団にくるまれば丁度の温度に……」

塞「そういうとこだけダルくないんだ?っていうか風邪引くでしょ?早く服着て!」

白望「んー……」

塞「ほら、さっさと起きる!」

白望「鬼……悪魔……」





190 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/06(金) 14:42:01.33 ID:9w9ZsgW30

白望「蛇……姑……小皺……泥棒猫……」

塞「何かちがくないそれ?!」

白望「……はぁ、ダルい」ムクリ

白望(試合……明後日かぁ……)

白望(雨降って中止になってくれないかなぁ……)





191 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/06(金) 14:42:36.38 ID:9w9ZsgW30

―――阿知賀女子のホテル

穏乃(インハイ四日目。一回戦の最終日ということで今日も私たちの試合は無い)

穏乃(しかし強豪の千里山の対策を考えるため、私たちはホテルに缶詰状態になっていた)


晴絵「これが千里山の大将、清水谷竜華。春や地区大会でもかなりの成績を残してる」

穏乃「めっちゃ強そう!」

晴絵「……見た目?中身も強いぞ」

穏乃「あ、でも見た目なら中堅の江口セーラさんも強そうだったなー」

憧「はいはい、それはもういいから。映像に集中するっ」

穏乃「はいはーい」





192 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/06(金) 14:43:06.86 ID:9w9ZsgW30

玄(なんか穏乃ちゃん、元気だね……?)ボソボソ

灼(いつもどおりじゃ……?)ヒソヒソ

宥(でも何か、昨日一昨日とは違う気がする……)ボソボソ


晴絵「清水谷竜華はとにかく相手の和了牌を抑えるのが上手い。……けど、あまり気にしすぎるのもね。そのバランスが難しい」

穏乃「んーー……」

憧「それって相手の情報収集とかも優れてるってことだよね」

晴絵「ああ。千里山はIT麻雀になってから常勝校になったからな……」

灼「あぁ、『板のようなもの』……」

宥「まな板……?」

灼「クロと同じこと言わなくてもいいから」





193 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/06(金) 14:43:36.60 ID:9w9ZsgW30

晴絵「まな板といえば……いつの間に昼だな。一旦休憩にしようか」

憧「ん~~……ずっとテレビ見てると疲れるね……」

晴絵「午後からは実際に打ってみよう。灼、お昼終わったらフロントに卓頼みに行くよ」

灼「うん」

穏乃「それじゃ、私はちょっと外出てきます」

ガチャッ バタン

憧「え?ちょっと待ってよシズ!」

バタンッ





194 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/06(金) 14:44:07.55 ID:9w9ZsgW30

憧「たまには一緒に食べようよ……」

穏乃「たまにはって……昨日のお昼からずっと一緒じゃん」

憧「ずっとってねぇ。その前は全く一緒じゃなかったんだよ?」

穏乃「まぁ、そうだけど……」

憧「それとも、私と食べるの嫌?」

穏乃「?!そ、そんな訳ないよ!一緒に食べようよ!」

憧(よし)

憧「じゃ、今日はどうする?ルームサービスにしよっか?」

穏乃「うん。ちょっとテレビ見たいしね」

憧「あー確かに。まだ一回も生でインハイ見てないよね」





195 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/06(金) 14:44:55.05 ID:9w9ZsgW30

―――宮守女子のホテル、白望・塞の部屋

どさっ

白望「やっと終わった…………」

塞「午後から練習でしょ?終わってないって」

白望「生きるのって辛い……」

塞「なーに若くして真理に辿り着いちゃってんのよ。花盛りの女子高生でしょ?」

白望「さえ……ご飯買ってきて……」

塞「パシらせる気?」

白望「一生のお願い……」

塞「それ何十回も聞いた気がするけど」





196 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/06(金) 14:45:25.53 ID:9w9ZsgW30

白望「お願いします……動けません……」

塞「……はぁ、しょうがないなぁ」

塞「その代わり、お昼からまた動きたくなくなったとか言わないでよね?」

白望「約束します……」

塞「それじゃ、そこのコンビニで買ってくるから。じゃあね」

バタンッ

白望「はぁ……ダルい……」

??「……聞いててこっちまで呆れますね」





197 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/06(金) 14:46:45.79 ID:9w9ZsgW30

白望「さえ……?まだ行ってなかった――」

白望がで寝返りをうって声の方に顔を向けた。しかし、視界に入ってきたのは塞ではなかった。
それは見知らぬ若い女性。呆れかえった視線をこちらに投げ掛けている。

白望「……どなたですか」

??「ま、別に私も頭が固い人間じゃないですけどね」

そう言うと彼女は白望のベッドに腰かけた。
寝転がる白望の頬をなぞる。白望は煩わしそうに、その指を払い除けた。

??「あなたのそのレイジーなハート、使わせてもらいますよ」

目が赤く輝き始める。
白望の瞳の奥にその光は忍び込み――





198 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/06(金) 14:47:18.91 ID:9w9ZsgW30

―――エイスリン・トシの部屋

エイスリン「……!」

何かに感づいたように、エイスリンはパソコンの画面から顔を上げた。

エイスリン「トシサン……」

トシ「!なんか見えたのかい?」

エイスリンは頷き、手元にホワイトボードを引き寄せマジックのキャップを開けた。
トシが固唾を飲んで見守る。

しかし、エイスリンはそれ以上動こうとはしなかった。

トシ「……どうしたんだい?エイスリン」





199 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/06(金) 14:47:55.74 ID:9w9ZsgW30

エイスリン「……ヤメタ」

トシ「は?」

エイスリン「ダルイ……」

それだけ言うと、彼女はホワイトボードもパソコンも放り出してベッドに飛び込んだ。
トシは首を傾げてそれを見ていたが、やがて同じようにベッドに倒れ込んだ。

トシ「ダルいわね……」

エイスリン「ダルイ……」

そしてその窓の外には――黄土色の巨大な何かがのそのそと横切る姿があった。





200 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/06(金) 14:48:32.69 ID:9w9ZsgW30

―――穏乃・憧の部屋

穏乃「………」

憧「………」

TV『………』

憧「これ……何だと思う?」

部屋に戻ってきた二人はインハイの中継を見るためテレビを付けた。
まだお昼休みでは無い筈だ。その通り画面には『LIVE』の文字が確かにあり、番組は中継の途中だった。

だが、何故か全てが止まっていた。
選手たちは床に寝そべったり卓にうつ伏せたりしている。チャンネルを変えて別の試合を見ると卓の上で寝ている人すらいた。

そんな異常事態なのに実況や解説、審判の誰もそれを咎めなかった。むしろ審判も一緒になって寝転がっていた。





201 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/06(金) 14:49:14.59 ID:9w9ZsgW30

穏乃「……何だろう。放送事故?」

憧「ふわぁ……何だかこんなの見ると……」

欠伸を漏らしながら憧が背伸びした。穏乃もそれに釣られて大きく欠伸をする。
そんな二人の顔には、その整った顔立ちにそぐわない黒子が散らばっていた。

穏乃「眠くなってきちゃうね……」

そう言うと、穏乃と憧は二人同時にベッドに倒れ込んでしまった。
そのまま時間が経ったが、頼んだルームサービスもいつまで経っても来る気配すらなかった。

そしてその後ろ、窓の外には黄土色の巨大な何かが横切っていた――

穏乃「――って、ええ!?」

憧「すぅーー……くーー……」

穏乃(か、怪獣!?タロウの奴、何で報告してくれなかったんだ!?)





202 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/06(金) 14:49:59.77 ID:9w9ZsgW30

―――一方、ホテルの外

タロウ「それでなぁ、全然大きくなれないわけなんだよ」

猫「ニャー?」

タロウ「君にーー君に、この苦しみがわかるかっ!」

猫「フーッ!」ビシッバシッ

タロウ「うわっ、やめろっ!早く大きくなりたーい!」





203 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/06(金) 14:50:31.86 ID:9w9ZsgW30

―――穏乃・憧の部屋

穏乃(は、早くライブして倒さないと――)

しかしそう思った三秒後には穏乃の顔はすっかり緩んでしまっていた。

穏乃(……でも、まだ何の被害も出てないしなぁ)

穏乃(うんうん。後にしよ……)

そう思うよりも先に、穏乃はベッドに寝転がっていた。





204 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/06(金) 14:51:06.43 ID:9w9ZsgW30

―――街

それは道路の上をのそのそと、摺り足のように歩いていた。
肌は濃い緑色で、上半身は紙袋を被ったように黄土色に染められている。その組み合わせは一見野菜の一種にさえ見えた。

頭の横からは両方向に大きな耳が広がっている。中央からは細い触覚が二本伸び、放物線状にだらんと垂れ下がっていた。
目は45度程の角度の下り坂で、その坂から滑り落ちたかのように瞳は目尻にくっついていた。

「ヌオ~~……」

その怪獣の名は“なまけ怪獣”ヤメタランス。

スパークウォーズで戦おうとする怪獣ではないのだが、恐らくその性質を活かそうとどこかの宇宙人が持ってきていたのだろう。
しかし味方にまで影響してしまうその力は結局なんの役にも立たなかったに違いない。





205 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/06(金) 14:51:50.93 ID:9w9ZsgW30

その力とは、見ての通り『人のやる気を奪う』ことである。

やる気が強いほどその効力は強くなり、だらけるスピードが上がる。インハイ会場の選手たちが揃ってだらけていたのはその為だ。
逆に、やる気がなくいつもだらけている人間は『だらけているのをやめ』、『やる気を出す』ようになる。

この場に小瀬川白望がいれば。きっと顔全体に生気を満たし、きびきびと動く彼女が見られたに違いない。
しかし悲しいかな、ヤメタランスにライブしているのはその白望本人であった。

ヤメタランス「ヌオ~~」

近くのビルの中、日々熱心に働いている会社員たちも机に突っ伏したりして昼寝していた。
道路を走る自動車はなくなり、こんな怪獣が歩いているというのに交通事故は起こらない。
穿った見方をすると、やる気がなくなったことで世界は平和になっていると言っても過言ではなかった。

しかしインターハイに夢を馳せる少女たちにとってはただの災難に過ぎないだろう。
インターハイは僅か四日目にして中止の危機に瀕していたのだ!





206 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/06(金) 14:52:32.61 ID:9w9ZsgW30

―――穏乃・憧の部屋

「ヌオ~~」

窓の外から怪獣の声が聞こえてくる。
穏乃はベッドの上で体を動かす。だらける気持ちと、このままではいけないと思う気持ちが彼女の中で争っていた。

穏乃「このままじゃ……でも……あぅー」

体を起こそうとして腕に力を入れ、即座にだるくなってシーツに顔を埋める。
いやいやダメだ。そう思って再び体を起こそうとする。それを繰り返しているだけで結局状況は全く好転していなかった。

穏乃「ふぁ~~あ……」





207 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/06(金) 14:53:13.39 ID:9w9ZsgW30

―――外

ヤメタランス「ヌオー」

ヤメタランスの体はどんどん大きくなっていた。
奪ったやる気のエネルギーが怪獣の中に蓄えられ、それに伴って体が巨大化しているのだ。

更にはその体を維持するため、ヤメタランスは巨大になるにつれてエネルギーを摂取しなければならない。
ヤメタランスは道路に座り込み、近くの小高い建物に目をつけた。

ヤメタランス「ヌオー」

建物を両手で掴み、地面から引き抜いた。
跡地から火花が飛び、建物の中から住人が飛び出してきた。流石に身の危険を察したらしい。

ヤメタランスはその鉄塊を齧り始めた。
全て口に入れ終わると、ゆっくりと立ち上がった。その体は食べ始める前より一回り大きくなっていた。

ヤメタランス「ヌオ~~」

ヤメタランスが動き始める。一歩歩くごとに地面が揺れ、地響きを鳴らした。





208 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/06(金) 14:53:47.15 ID:9w9ZsgW30

―――穏乃・憧の部屋

怪獣の声と地響きが遠ざかっていく。

穏乃(いけない……このままじゃ……)

穏乃(……はぁ。まぁいいか……)

穏乃がもう何十度目にもなるベッドへの倒れ込みをした時、テレビから陽気な声が聞こえてきた。

TV『では~~これにてインターハイ中継を終了いたします~~』

穏乃「」ピタッ

穏乃(……中止?まだお昼なのに……)

当然だ。大会の体を為していないのだから。
テレビの中でもみんなだらけていた。恐らく、実況や解説の人も仕事を放棄してしまったのだろう。





209 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/06(金) 14:55:06.91 ID:9w9ZsgW30

穏乃(このままじゃ……インハイが……!)

腕に力を入れようとする。だが表向きの情熱とは裏腹に、深層の怠け心は言うことを聞かない。

――その時、穏乃の頭に和の顔が流れた。

穏乃の心に火が灯った。一年前、テレビの中の和を見たときのように。

穏乃「う……あぁぁっ!」

力を振り絞り、足の裏でシーツを蹴り飛ばした。
身はベッドの外へ投げられ、近くの壁に頭をぶつけた。鈍い痛みが全身を伝っていく。

それが奇跡を起こしたのか、痛みに対する本能が現れたのか、穏乃は力を込めて立ち上がった。





210 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/06(金) 14:55:43.07 ID:9w9ZsgW30

穏乃「目ぇ……覚めたぁっ!!」

振り返ると憧はベッドの上で寝息を立てていた。
穏乃はポーチからギンガスパークと人形の一つを取りだし、窓を開けて外へ飛び出した。

『ウルトライブ!宿那鬼!』

穏乃を包んだ光は大きな影となり、地面へ華麗に降り立った。
前方にはのそのそと歩く怪獣。宿那鬼は刀を持つ手に力を入れ、誰もいない道路を駆け出した。

ヤメタランスが走り来る宿那鬼に気づく。
しかしその鈍重な体で攻撃を躱すことなどできる筈もなく、宿那鬼の袈裟斬りをまともに浴びた。

ヤメタランス「ヌオオーー……!」

ヤメタランスが大袈裟に転び足をばたつかせる。宿那鬼は第二撃を構えたが、怪獣の中に少女を見て動きを止めた。

白望『やめて……わたしはただ……』

穏乃(!)





211 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/06(金) 14:56:21.18 ID:9w9ZsgW30

穏乃(で、でも……倒さないとみんなが……!この人には悪いけど――)

しかし刀を振り上げた次の瞬間、宿那鬼の腕が力なく垂れ下がり、刀が手を離れた。
穏乃が情けをかけたのではない。いつの間にか宿那鬼の顔には黒子がぶつぶつと浮かび上がっていた。

穏乃『……やーめた』

そう言うと、宿那鬼は道路の上に寝そべり始めた。それを見た白望はこう呟く。

白望『私はただダルいだけなんだ……』

ヤメタランスはそのままのそのそと歩を進めていく。

穏乃(……あぁっ、そうじゃない……!)

穏乃(やらなきゃ……やらなきゃ……!)

この怪獣を止められなければ、東京に集ったたくさんの人たちの夢が壊れてしまう。
穏乃は自分が背負っているのが自分の夢だけでないことを思いだし、勇気を奮い立たせる。





212 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/06(金) 14:56:55.23 ID:9w9ZsgW30

穏乃(私がやらなきゃ……!)

その時、穏乃の視界が開けた。
顔が思わず良い意味で緩む。現れたギンガの人形を手に取り、ギンガスパークに宛がった。


『ウルトライブ!ウルトラマンギンガ!!』


宿那鬼の体が光に包まれ、一人の巨人の姿に変わった。

気怠い空気を弾くような風を纏い立つその戦士の名は――“ウルトラマンギンガ”!

ヤメタランス「ヌオ~~?」

ギンガ「ショラァッ!!」

側転して一気に距離を詰め、その勢いでヤメタランスを蹴り飛ばす。
道路に尻餅をついたヤメタランスに乗り掛かり、更に打撃を加えていく。





213 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/06(金) 14:57:33.39 ID:9w9ZsgW30

ヤメタランス「ヌオ~~、ヌオ~~!!」

ヤメタランスが悲鳴を上げ、ギンガを突き飛ばす。ギンガは難なく体勢を戻したが、まるで大ダメージを受けたかのように膝をついた。
苦しそうに顔を上げるギンガ。その顔にも黒子がちらほらと浮かび上がっていた。

その隙にヤメタランスが動く。街路樹を何本も抜き、せわしなく自分の口に突っ込んだ。

ギンガ「ヘァ……!?」

それらを飲み込んだヤメタランスの体が巨大化した。
それは――ギンガの全長を悠に越え、そばの高層ビルの高さと同じほど。
ギンガは自分の二倍ほどの大きさのヤメタランスを見上げ、思わず後ずさりする。





214 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/06(金) 14:58:08.84 ID:9w9ZsgW30

ヤメタランス「ヌオーーー」

一層野太くなった声を上げ、ヤメタランスの足が上がる。
ギンガは咄嗟に構えたが、腹に鈍痛が走り、蹴り飛ばされた身体は背後に吹っ飛んだ。

ギンガ「ハ……ハァ……ッ」

地響きを鳴らしながらギンガは倒れ込む。しかしヤメタランスは攻撃をやめず、足をギンガに振り下ろした。
自分を取り囲む大きな影にギンガが気づく。地面を蹴り、前方に飛んで躱した。

ヤメタランス「ヌオ~~!」

空に浮かび上がったギンガ――穏乃は、東京の街を見下ろした。
銀色のビルが立ち並ぶ中、超巨大な異分子が紛れ込んでいる。

ギンガ「ショラァッ!!」

ギンガは腕を交差し、右手を前に差し出した。それと同時に全身のクリスタルが緑色に染まっていく。





215 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/06(金) 14:58:53.19 ID:9w9ZsgW30

ギンガ「ギンガコンフォート!」

光の粒はヤメタランスを襲い、その動きを止めた。
呆気に取られた表情をするヤメタランスの体が急速に小さくなっていく。

最終的にヤメタランスは自動車くらいの大きさになり、道路に倒れた。
ギンガはそれを拾い、少し考えた後、空に思いきり放り投げた。


ギンガ「――ギンガファイヤーボール!!」


ギンガのクリスタルは烈火のような赤に染まり、周囲に炎弾を浮かび上がらせた。
ギンガが腕を突き出す。操られるように炎弾は小さなヤメタランスを次々と襲い、ヤメタランスは膨張し、それに耐えきれず爆破された。





216 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/06(金) 14:59:32.31 ID:9w9ZsgW30

―――コンビニ前

塞「……ん?」

目を開けた塞は顔を真っ赤にして起き上がった。

塞(な、ななな、何で私、道路に寝転がってたの!?何で!?)

誰かに見られなかっただろうか――周囲をキョロキョロと確認する彼女の目に、違和感ある光景が飛び込んできた。
道路を挟んだ向こうの歩道によく見知った少女が寝転がっていた。塞は自動車の有無を確認し、白望の所まで走り寄った。

塞「シ……シロぉ!?何してるの!?っていうか怪我してない!?」

白望「……してない」

塞「してるでしょ!?顔真っ黒だよ!?」

白望「どこも痛くないし……ダルいから、救急車とか呼ばないで……」

塞「……わ、分かったわ。じゃあ早くホテルに戻ってシャワー浴びよ」

白望「……うん」





217 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/06(金) 15:00:14.04 ID:9w9ZsgW30

―――エイスリン・トシの部屋

エイスリン「……ッ!」

トシ「ううーん……?」

エイスリン「……シマッタ」

トシ「ど、どうやら……そのようね……」

エイスリン「ミタ……『ビーストガ、アラワレル、ミライ』……」

トシ「ビーストが?」

エイスリン「ハイ……」





218 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/06(金) 15:01:22.82 ID:9w9ZsgW30

エイスリンがパソコンの画面を見る。そこには折れ線グラフがいくつも並んでいた。

エイスリン「パルスモ、ノコッテマス」

トシ「はぁ……ぬかったわね……」

トシ(ウルトラマンは来たのかしら……?)


この後――

謎の集団ボイコットが起きた『インターハイ四日目』の日程は五日目にスライドすることになった。
しかしこの事件の真相は大衆には明かされることはなく、結局、謎のままで終わってしまった。


To be continued...





219 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/06(金) 15:02:19.81 ID:9w9ZsgW30

登場怪獣:帰ってきたウルトラマン第三十八話より、“なまけ怪獣”ヤメタランス

投下遅れて申し訳ないです
また今度続き書きます





224 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/08(日) 15:08:33.01 ID:dnCr2DDT0

第六話『私はだぁれ?』


―――朝、インターハイ五日目、長野

インターハイは五日目。スライドした四日目の日程をこなしていた。
そんな中、長野のとあるマンションにて……


緋菜「東京にいくし!」

城菜「いくしー」

菜沙「いけるの?」

緋菜「おねえちゃんもいけたんだからいけるし!」

菜沙「おかねはどうするし?」

緋菜「ちょきんばこもっていけばなんとかなるし!」

城菜「なるしー」

菜沙「じゃあいくし」

緋菜「いくし!」





225 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/08(日) 15:09:02.91 ID:dnCr2DDT0

―――駅

菜沙「ここどこだし」

城菜「ひといっぱいだし」

緋菜「うーむ」

駅員「ねぇ、君たち?」

菜沙「なんだし?」

駅員「君たち、お母さんかお父さんは?こんな朝から何してるの?」

緋菜「えーと、えーと」





226 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/08(日) 15:09:46.70 ID:dnCr2DDT0

城菜「おかあさんが東京にいるんだし」

緋菜「そう!それで東京にあいにいくんだし」

駅員「あぁ……行き方とかわかってるの?」

菜沙「あんまわかってないし」

駅員「そっか、じゃあ教えてあげるよ」

菜沙「ありがとうだし!」

緋菜「だし!」

菜沙「しんせつなひとにあえてよかったし」








227 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/08(日) 15:10:32.99 ID:dnCr2DDT0

―――列車内

菜沙「おべんとうかってきたし」

城菜「ありがとうだしー」

緋菜「だし!」

菜沙「このままおねーちゃんとこまでいくし」

城菜「いってなにする?」

菜沙「いって……」

緋菜「………」

三つ子「………」





228 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/08(日) 15:11:11.58 ID:dnCr2DDT0

緋菜「……いってからきめるし!」

菜沙「ひなにしてはめいあんだし」

城菜「さんせいだしー」

緋菜「はやくつかないかなー」











229 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/08(日) 15:11:40.95 ID:dnCr2DDT0

―――東京

城菜「くー……すー……」

菜沙「しろな!おきるし!」

城菜「むにゃ」

緋菜「ここが東京だし!」

城菜「とおかったし……」

緋菜「これでおねーちゃんにあいにいけるし」

菜沙「……おねーちゃんどこにいるんだし?」

三つ子「………」

緋菜「とりあえずえきからでるし」

城菜「でるしー」





230 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/08(日) 15:12:46.97 ID:dnCr2DDT0

―――街

ワイワイガヤガヤ

菜沙「ひとめっちゃおおいし」

緋菜「まいごにならないようてをつなぐし!」

城菜「つなぐしー」

菜沙「それでもってどこいったらおねーちゃんいるし」

三つ子「………」

??「君たち、どうしたの?」

三人が振り向くと、若い女性がこちらを見下ろしていた。
視線が合うと女性はしゃがみこみ、目線を同じ高さにした。





231 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/08(日) 15:13:19.65 ID:dnCr2DDT0

??「もしかしてお母さんとはぐれたりしてない?」

緋菜「してないし!」

??「そう?でも普通の様子じゃない気がするけど」

城菜「たしかにちょっとまよってるかもだし」

??「やっぱり。お姉さんが一緒に探してあげようか?」

菜沙「しらないひとについてっちゃだめっておねーちゃんにいわれたし」

??「それなら……」

女性は自分の財布から名刺を取りだした。
三つ子はそれを受けとるが、漢字が読めずに首を傾げた。





232 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/08(日) 15:14:24.40 ID:dnCr2DDT0

緋菜「なんてよむんだし?」

城菜「えーと、えーと」

??「……私は『戒能良子』。麻雀のプロですよ」

三つ子「!!!」

城菜「それならしんじてもよさそうだし」

緋菜「おねーちゃんのところにいきたいんだし!」

良子「お姉ちゃんはどこにいるの?」

菜沙「それはしらないんだし」





233 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/08(日) 15:15:03.96 ID:dnCr2DDT0

城菜「インターハイにでるっていってたし」

良子「あぁ、選手ってことね……」

緋菜「あ、でもしあいにはでないっていってたし!」

良子「?補欠か付き添いかな。どこの選手かわかる?」

三つ子「ながの!」

良子「長野の宿舎は確か……。そうだね、私が車で連れていってあげる」

緋菜「よろしくたのむし!」

良子「オーケイ。任せてね」





234 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/08(日) 15:15:46.74 ID:dnCr2DDT0

―――白糸台高校

白糸台高校麻雀部、チーム虎姫の部屋。
チームメンバーは五人しかいないのだが部屋は広々としていて、大きな窓から差し込んでくる日で白く明るい。

部屋の隅には天井まで届く巨大なロッカーが五つ並び、それぞれにネームプレートが取り付けられている。
麻雀部であることの証明のように雀卓が一つ設けられているが、しかし何故だか巨大なモニターが壁に掛かっていたりもしている。

今、虎姫の五人はテーブルを囲んでインターハイについてのミーティングを行っていた。

照「次は……新道寺のあのコンビ」

誠子「鶴姫とシローズですか」

照「うん」

菫「有名どころだな」

堯深「」ズズ…





235 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/08(日) 15:16:23.94 ID:dnCr2DDT0

誠子「あれですよね。二人の和了りがリンクしてるっていう」

淡「ん~……退屈ー」

菫「ミーティングごときで順番までに退屈するんだったら本番は待ちきれないぞ」

淡「本番は……だってほら、観戦してればいいじゃん?」

菫「ならミーティングも黙って観てろ」

淡「はーーい」

誠子「えーっと、どこまで行きましたっけ」

淡「ツルヒメとかあーだこーだのとこ」

菫(一応ちゃんと聞いてるんだな)





236 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/08(日) 15:17:31.24 ID:dnCr2DDT0

―――一方、戒能良子の車

緋菜「東京もあんまりひといないし」

城菜「だいとかいなのに」

良子「ここらは東京とは言っても田舎の方の東京だからね」

緋菜「なるほどだし!」

菜沙「だし!」

良子「ここは『白糸台』って言うんだ」





237 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/08(日) 15:18:20.24 ID:dnCr2DDT0

良子「……少し確かめたいことがありましてね。ここなら丁度いいでしょう」

三つ子「?」

良子「幼少期にありがちな欲求。ここ最近、心の闇がある人がいなくて困っていたけれど……これで代用できそうですね」

城菜「なにいってるし?」

良子「あなたたちのそのトリックなハート、使わせてもらいますよ」

そう言いながら戒能良子は後部座席を振り向いた。
彼女の両目は赤く光り、三つ子の意識はそれに取り込まれ――





238 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/08(日) 15:19:07.63 ID:dnCr2DDT0

―――宮守女子のホテル、エイスリン・トシの部屋

エイスリン「!」

トシ「どうしたんだい?」

エイスリン「……ヘン」

トシ「変?」

エイスリン「ナニ、コノミライ……」

トシ「分かるように説明してくれない?」

エイスリン「トラヒメニ、キキガ、セマッテマス……」

トシ「虎姫に?」

エイスリン「シライトダイニ、ビーストガデテクルミタイ、デス」

トシ「……!」





239 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/08(日) 15:19:50.16 ID:dnCr2DDT0

―――白糸台高校

菫「よし。次は大将だ」

淡「待ちくたびれたぁ……」

照「お疲れ」

誠子「ええっと、次の対戦相手校は……」

菫「新道寺と……」

堯深「………」ズズ…

照「……資料見ればいい」

誠子「あぁ、そうでした。苅安賀と……」





240 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/08(日) 15:20:27.84 ID:dnCr2DDT0

誠子「この……何て呼ぶんでしたっけ」

照「……えっと」

淡「アハハ、二人ともどーしたの?ボケが来ちゃった?」

誠子「う、うっさいな。慣れない漢字が多いんだよ」

照「堯深、菫、読める?」

堯深「いえ、私も……」

菫「恥ずかしいが私も……」

照「……じゃあいいや。A高校と仮定しよう」





241 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/08(日) 15:21:15.00 ID:dnCr2DDT0

淡「ちょっと待って!私に聞かないの!?」

照「……。読めるの?」

淡「いや?まったくもって」

照「知ってたから聞かなかった」

淡「なるほどーテルってば賢い!漢字は読めないけど」

菫「お前が煽れることじゃないぞ」

淡「それを言うならテルだってそうじゃん」

照「む……」

菫「はいはい。とりあえず先に進めるぞ。とりあえずこの学校をXと置いとくぞ」

誠子「はい。えーっと、それで……」

一同「………」

誠子「……何をするんでしたっけ?」





242 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/08(日) 15:21:43.69 ID:dnCr2DDT0

―――阿知賀のホテル、灼・晴絵の部屋

晴絵「よし、とりあえずこれから一時間お昼休憩」

穏乃「ん~~……っ!」ノビッ

憧「シズ、お昼一緒に――」

『シズノ!』

穏乃(!タロウ?)

『ああ。君に伝えたいことがある』

穏乃(なに?)

『………』

穏乃(………)





243 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/08(日) 15:22:25.96 ID:dnCr2DDT0

『えーっと……何だったか……』

穏乃(忘れたの?)

『いや、ちょっと待ってくれ。ええっと……』

穏乃(……タロウには外のパトロールを頼んでた。伝えたいことがあるってことは、何かあったってことだ)

憧「……シズ?お昼一緒に……」

穏乃「ごめん、用事あるから出てくるね」

憧「え?」

ガチャッ バタンッ





244 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/08(日) 15:23:31.81 ID:dnCr2DDT0

憧「……おかしい」

玄「やっぱり最近、何か変だよね……」

晴絵「……二人とも。変に勘繰るのはやめろ。しずにはしずの用があるんだろ」

憧「でもさ、東京だよ?初めて来たのに『用がある』って……おかしくない?」

晴絵「それでもだ。詮索するのもやめといた方がいい」

憧「何で?ハルエはシズが心配じゃないの?」

晴絵「………」

憧「前も『詮索するな』って言ってたよね。もしかしてハルエは何か知ってるんじゃないの?」

宥「あ、憧ちゃん……」

憧「……ごめん。でも私は納得できない」





245 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/08(日) 15:24:11.80 ID:dnCr2DDT0

晴絵「私から言えるのは『勘繰るな』『詮索するな』だけだ」

憧「……っ!」

憧はドアを乱暴に閉め、出ていってしまった。

晴絵「……はぁ」

灼「ハルちゃん……」

晴絵「お昼休み無くなるよ。ちゃんと昼ご飯食べときな」

灼「……。うん」

晴絵(……考えるだけ無駄なことなんだけどな)

晴絵(どうせ全部、忘れてしまうんだから……)





246 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/08(日) 15:24:48.94 ID:dnCr2DDT0

―――穏乃・憧の部屋

憧(あぁもう!何でハルエはあんなに呑気なのよ!都会なんて、何が起きてもおかしくないでしょ!)

ガチャッ

憧「……!」

部屋に入った憧は思わず息を飲んだ。
窓が開けられ、カーテンが靡いていた。
あの『謎の竜巻の日』のように。

憧「……シズ?」

窓に近づいてよく見てみる。そこにあったものに気付くと同時に憧の肝は冷えきった。
窓の縁にあったのは、白くぼんやりと残されている靴の足跡だった。

咄嗟に窓から顔を出して目を細める。
その下に広がっていたのは人々が歩行する他愛ない光景だけで、憧は心から安堵した。
しかしそれと同時に疑問も浮かび上がる。

憧「何で、こんなとこに足跡が……」

それは勿論、この場所を靴で踏んだからだろう。だがこんな所を踏む場面というのはどんなものだろう?
考えれば考えるほど、憧は気分が悪くなるのを感じた。

憧「………」





247 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/08(日) 15:25:29.48 ID:dnCr2DDT0

―――外

バジリスが空高くを飛んでいた。

怪獣の居場所は分かっていた。
穏乃がギンガスパークに触れたとき、以前にもあったように、怪獣の出現とその場所が頭の中に刻まれたのだ。

それが一体どういう理屈で起こっていることなのかは見当もつかなかったが、穏乃はその啓示に従っている。

バジリス「!」

そうしている内に怪獣の姿が見えてきた。
その怪獣はまるで栗のイガのような黒い球状で、三体いた。

一つきりの大きな目が存在し、球体の下部からは頼りないくらいに細い紐のような脚が二本伸びている。
その内の一本は山菜のゼンマイのようにぐにゃりと丸まっていた。




248 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/08(日) 15:26:01.50 ID:dnCr2DDT0

その怪獣の名はそれぞれ“宇宙化猫”ミケ、タマ、クロ。
白黒黄の尻尾が生えているのがミケ。
球体の後部に猫の足があるのがタマ。
そして、黒い猫耳が小さくついているのがクロだ。

ミケ「フニャア゛ァァ~~?」

タマ「ニャーー」

クロ「フッシャアァァ!」

三体は飛来するバジリスを見て驚いたり、尻尾の毛を逆立てて威嚇したりしていた。

降り立ったバジリス――穏乃の目に怪獣にライブした人間が映る。
それはとても小さな、まだ幼稚園児くらいの女の子たちだった。

穏乃(こんな小さな子たちまで利用するのか……)





249 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/08(日) 15:26:34.35 ID:dnCr2DDT0

穏乃(ごめんね。痛いかもしれないけど、私は――)

そこまで思ったが、何故だか次の言葉が出てこなかった。神経が遮断されているかのように、急に言葉に詰まった。

穏乃(……あれ?私、何するんだっけ?)

目の前には三体の不気味な、変な生物がいる。だが――こいつらに対して何をするつもりだった?

クロ「ニャオ゛ォォォン……」

一つしかない目(というより瞳)を細めてクロは欠伸のような声を漏らした。
ミケもタマも呑気そうに立っているだけだ。

穏乃(……そもそも何で私、変身してるんだ?)

穏乃がそう思った途端、バジリスの体が霞がかって消え、穏乃は街路に降り立っていた。

穏乃「……あれ?」





250 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/08(日) 15:27:20.13 ID:dnCr2DDT0

―――白糸台高校

『Scramble!Scramble!Point1-4-1!Point1-4-1!』

サイレンが鳴り響く。
虎姫の五人は顔を見合わせ、ロッカーへと駆け寄った。

ロッカーを開き、その側のボタンを押すと――突然、その中身が昇降機のように上がっていき、下からその代わりが上がってきた。
鞄などが納められていた女子高生らしいロッカーは鳴りを潜め、浮上してきた中身は『黒いジャケット』、『大型銃』、『ヘルメット』……と、とても女子高生とも麻雀部とも結び付かない物だらけだった。

五人はジャケットを身に付け、大型銃を取り出す。
……が。

照「……これ、どうやって使うんだったっけ」

誠子「えっと……」





251 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/08(日) 15:27:55.33 ID:dnCr2DDT0

淡「この穴から弾が出てくるんだよね」

菫「おい、そこの……。銃口を覗き込むな。危ない」

淡「はーい……って、それは覚えてるんだ」

菫「……ああ。しかし妙だな」

堯深「記憶障害が起きてるみたい……」

その時、巨大モニターが点灯した。
五人が顔を向けると、そこには金髪の少女の顔が映っていた。

菫「イラストレーター……」

“イラストレーター”と呼ばれた少女が英語で話し出す。
何らかの機器を介してそれは日本語に翻訳され、モニターから英語と日本語の二重音声が流れてきた。





252 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/08(日) 15:28:41.61 ID:dnCr2DDT0

『どうやら、妙なことになってるみたいです』

菫「妙なこと?」

『はい。私が見た未来でも妙でしたけど、これで確信しました』

誠子「……記憶が曖昧になっていることですか?」

『そうです。Point1-4-1、そこはどこか覚えていますか?』

一同「………」

『やはり覚えていないんですね。学校のすぐ前です』

菫「学校?まさかここのことか!?」

『はい。窓の外を見てください』





253 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/08(日) 15:29:22.46 ID:dnCr2DDT0

五人が一斉に窓に目を向ける。
そこにあったのは――黒い球体のような怪獣が三匹立っている光景だった。

菫「!」

『どうせ忘れているでしょうから、聞いてください』

少し嫌みったらしい語り口でその少女が話す。

『倒すのはあの“ビースト”。ディバイトランチャーの使い方はこのあとモニターに送ります』

菫「す……すまない」

『あのビーストはかなり大人しいです。凶暴なら今ごろあなたたちは全滅していたでしょうし』

菫「大人しいビーストなんて存在するのか?」

『活動休止期間であったりするかもしれませんから注意は忘れないでください』





254 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/08(日) 15:30:04.12 ID:dnCr2DDT0

『しかし本体が大人しくとも、都内に現れたビーストというだけで駆逐対象です。どころか……』

菫「どころか?」

『恐らく、奴らが発する放射線は有機生命体の“記憶能力”に影響を及ぼすものだと思われます』

『現に、ビーストから半径1km内で交通事故が多発しています。恐らく運転の方法を忘れたのでしょう』

『記憶を奪う……こんなビースト、倒すのが勿体ないんですけどね。あ、日本には“猫の手も借りたい”なんて諺がありましたね』

菫「……作戦は?」

『チェスター搭乗は危険すぎるので地上より攻撃、殲滅してください』

菫「了解。通信を切っても大丈夫だ」

『はい。それでは、ディバイトランチャーの使い方をそちらに転送します』

画面は暗転し、彼女たちが抱えている大型銃――ディバイトランチャーの使用法の図解が映った。





255 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/08(日) 15:30:51.65 ID:dnCr2DDT0

誠子「やった。これで使える」

照「……それにしても、あのビースト呑気だね」

窓の外に目を向けていた照が口を開いた。

タマ「ニャア゛ォォン……」

怪獣の足元には逃亡していく人たちの姿が見える。

菫「しかし、どうして最近はこんなにも立て続けに都内にビーストが出るんだ?」

誠子「ポテンシャルバリアーは効いてないんですかね?上は何も話してはくれないですけど……」

一同「………」

菫「まぁいい。とりあえず私たちの仕事は、目の前のビーストを殲滅することだ」

淡・誠子「はい!」





256 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/08(日) 15:31:26.44 ID:dnCr2DDT0

―――路上

人が道に溢れ返っている。
その背後に立つ怪獣から逃れるためであるが、その波の中にいる穏乃はぼうっと立ち尽くしていた。

穏乃(何か……何かしなくちゃいけないんだけど……思い出せない……)

腕を組んで怪獣を眺めていたその時。突然、その体に火花が弾けるのが目に入ってきた。

穏乃「!?」

何が起きたかは分からない。しかしその数秒後、再び怪獣の体に何かが衝突し、火花が飛んだ。
クロが思わず地面に倒れ込む。それによって、目の前で起きている現象が何であるかを穏乃は理解できた。

穏乃「誰かが……怪獣を攻撃してる……」

タロウが言っていた通り自衛隊や他国の支援が来てくれたのだろうか。
そして、『攻撃』――この言葉で穏乃は自分の為すべきことを思い出した。

穏乃(そうだ。私は……怪獣を倒さなきゃいけないんだ!)





257 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/08(日) 15:32:16.80 ID:dnCr2DDT0

そう思うと同時に足が動いていた。
近くの小高いビルに入り、階段を駆け上がる。幸い、避難していたからか人は出払っていた。

屋上に出て、ポーチからギンガスパークと人形を取り出す。
……が。

穏乃(どうやって変身するんだっけ……?)


ミケ「フシャアァァァ!!」

攻撃に怒ったのか、三体が攻撃に入った。
ミケの口から青色の光線が放たれた。それはレーザーのように地面を沿い、奇しくも穏乃がいるビルを襲った。

穏乃「うわぁっ!!」

ビルの壁に爆発が起き、建物が崩れていく。
体勢を崩した穏乃の手から人形が飛び出し、そして――

幸運にも、その紋章がギンガスパークの先端に宛がわれた。

『ウルトライブ!スキューラ!!』





258 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/08(日) 15:32:50.92 ID:dnCr2DDT0

―――一方、虎姫サイド

ピッ

菫「イラストレーター。怪獣が反撃してきた。作戦の指示に変更は」

『ありません。そのまま攻撃を続行し、殲滅してください』

菫「了解」ピッ

怪獣たちの悲鳴と怒号が聞こえてくる。
菫は機を伺い、建物の物陰から出て銃を構えた。

菫「……!?」

その時、菫の目の前が光に包まれた。
少しすると光は弱まり、彼女は翳していた腕をどけた。





259 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/08(日) 15:33:27.59 ID:dnCr2DDT0

菫「なんだと……」

目の前には、何の脈絡もなしに巨大な怪獣がもう一匹出現していた。

その怪獣は魚を平たくしたような体躯を持ち、ヒレのような四足が地面についていた。
体色は上部が肌色で、頭には髪のような緑色のヒレが生えている。

菫「イラストレーター。ビーストがもう一匹出現した」

『もう一匹?』

菫「ああ。魚のようなビーストだ。作戦の指示を」

『……どのように現れました?』

菫「突然、辺りが光ったと思ったら目の前にいた。今、距離をとっている」

『なら……そうですね。それについては様子を見てください。攻撃対象は初めに現れた方で変更ありません』

菫「了解」





260 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/08(日) 15:34:17.77 ID:dnCr2DDT0

スキューラ「シェァアァァ!!」

スキューラが滑るように地面を走っていく。
それに気付いたクロは目を丸くしたが、その細い足に体当たりを受けて倒れた。

クロ「フーッ!」

尻尾を震わせるが効果はなく、スキューラはクロの体に乗り掛かり、ヒレで叩き始めた。

ミケ「ニャア゛ォォン!!」
タマ「フッシャアァァ!!」

離れていた二体もまた尻尾を震わせ、口から電撃光線を発射した。
スキューラに攻撃がヒットするが、スキューラはその口でクロの脚を噛み、スイングして二体の方へ放り投げた。

クロ「ニ゛ャッ!?」

タマ「シャギャニュァアア……」
ミケ「ニギャア゛ァァァ!!」





261 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/08(日) 15:35:21.54 ID:dnCr2DDT0

勢いよく投げられたクロは二体にぶつかった。
よろよろと立ち上がる三体へスキューラが突っ込んでくる。

ミケ「ニャアォォン!」
タマ「シャァアァ!」
クロ「フーッ!」

三体が同時に、それぞれ青・黄・赤の光線を放った。
流石に耐えきれず、スキューラは体勢を崩した。

更になお、三体の光線は続いた。その勢いに押され、遂にスキューラは背後に弾き飛ばされた。

スキューラ「ウ゛ルルルル……」

頭を振り、敵の方へ目を向ける。
しかしそこに三体の姿はなくなっていた。

穏乃(……?)





262 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/08(日) 15:36:27.28 ID:dnCr2DDT0

次の瞬間、身体中に激痛が走った。
両脇腹、背中。そこに光線が命中していた。

三体は軽い身体を活かしてビルの上に乗り込み、三方向から攻撃していたのだ。
光線の包囲に縛られるように、スキューラは身体を動かすことができずに苦しむ。

穏乃『はぁっ……はぁっ……!』

――しかしその時。衝撃が急に止んだ。痛みはまだ残っていたが、急激に安らいだ。
またどこからか怪獣へ向けて攻撃が加えられていたらしかった。

穏乃は姿も見えぬ存在に勇気付けられ、立ち上がる。
視界が開け、ギンガの人形が現れた。それを握りしめ、ギンガスパークに宛がった。


『ウルトライブ!ウルトラマンギンガ!!』





263 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/08(日) 15:37:10.20 ID:dnCr2DDT0

スキューラは光になり、地面に衝突して街を揺らした。
援護していた虎姫のメンバーも揃って目を見張った。

光の中から現れたその戦士の名は――“ウルトラマンギンガ”!

菫「……イラストレーター。この目で確認した。ビーストがウルトラマンになった」

『……作戦変更します。全員に繋いでください』


ギンガ「シュワッ!」

ミケ「フゥゥゥ……!」
タマ「ニギャアァァァ……!」
クロ「シャァアァッ!」

ギンガが構えを取りながらゆっくりと包囲網から移動していく。
それに感づいたミケが青色の光線を発射した。ギンガは体の前に手を翳す――が。





264 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/08(日) 15:37:57.43 ID:dnCr2DDT0

ギンガ「ハァァッ!」

現れるはずの『光の盾』は現れず、ギンガはまともに光線を浴びた。

菫「あいつも……戦い方を忘れているのか……?」


ギンガは様々なポーズを取るが、クリスタルの色が変わることはなく、必殺技を出すことができない。

ギンガ「……。シュワッ!」

必殺技は諦めたのか、ギンガは近くのビルに陣取っているタマに向けて走り出した。
しかし、三体は光線を放ってギンガを近寄らせない。

ギンガ「ハァ……ッ」

しかしこの時も、三体の攻撃はどこからともなくやって来る援護に断たれた。
ギンガが顔を上げて攻撃の元へ目を向ける。





265 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/08(日) 15:38:40.77 ID:dnCr2DDT0

それは一つのビルの上からだった。
そして驚くことに、その主は親指を立ててこちらへ来るようジェスチャーをとっている。

穏乃(……!?)

躊躇いもあったが、今まで援護をしてくれたということもある。ギンガはジャンプし、そのビルの前へ降り立った。

菫「……ウルトラマン。私の言葉が理解できるか?」

穏乃『……!』

菫はヘルメットを被っていたため、穏乃はその正体がどんな人物なのかは分からなかった。
だが大体の外見は見てとれた。白いスカートと、黒いライフジャケットのようなものを着ている。声は低かったが、それは女性の格好だった。

そして、彼女は『ウルトラマン』を知っているのだ。
ということは、タロウ以外にも意思を持つウルトラマンのスパークドールが存在し、彼女に力を貸しているのだろうか。

謎は多かったが、穏乃は信用できる相手と思い、ギンガは頷いた。
それを受けて菫は言葉を続けた。





266 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/08(日) 15:39:59.35 ID:dnCr2DDT0

菫「恐らくお前には活動限界時間があるだろうから手短に話すぞ。一度で聞いてくれ」

菫「あのビーストは半径1kmほどの生物に記憶障害を引き起こす。その範囲の外に出れば記憶は蘇るだろう」

『ビースト』――穏乃はその呼称に違和感を覚えたが、ただでさえ記憶能力に攻撃を受けているのに集中を切らしてはいけないと思い、疑問を頭から振り払った。

菫「今からお前の活動限界時間が訪れるまでに上空1000メートル以上へ行くことはできるな?」

正直なところは分からなかったが、ギンガは首を縦に振った。

菫「よし。今、あのビーストどもは私たちが相手している。そのまま引き付けて……そうだな、あのビルの前に三体を誘き寄せる」

菫「お前の雷の光線が一番範囲が広そうだ。あれを叩き込んで仕留めろ」

『雷の光線』?それが意味するのは“ギンガサンダーボルト”のことだったが、穏乃の記憶からは消えてしまっていた。





267 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/08(日) 15:40:55.86 ID:dnCr2DDT0

首を傾げるギンガを見て、憮然とした声を出して菫は言う。

菫「まぁいい。一番範囲が広そうな攻撃を出してくれ。信号弾を合図に出す。遠いが、お前なら見えるだろう?」

それもよく分からず、ギンガは今度は首を縦に振らなかった。
しかし菫は諭すような口調でこう言った。

菫「……できるだろう?なんたってお前はウルトラマンなんだから」

それを聞いて、穏乃の心に火が灯った。
元気よく頷くと、勢いよく空へ飛び立った。

菫「全員へ。聞いた通りだ。作戦は上手くいっている。第二段階へ入る」

淡『りょーかい!』

誠子『了解!』

堯深『了解しました……』

照『了解』





268 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/08(日) 15:41:23.83 ID:dnCr2DDT0

上空1000メートル超。
雲を突き飛ばし、ギンガはそこで止まった。それと同時に、遮断されていた回線が復活するように記憶が蘇った。

ギンガ「ハァァ……!」

右腕を上げると、全身のクリスタルが黄色に染まっていく。
周囲から雷が集まり、彼の右手が指す宙に渦巻いていった。


一方、地上。

虎姫メンバーのうち四人は地上で三体の怪獣を攻撃していた。
怪獣の行動は、虎姫は知るよしもないが、園児らしく分かりやすい。攻撃を加え、走って逃げるだけで簡単に誘導できた。

淡『識別01の誘導、成功っ!』





269 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/08(日) 15:42:14.43 ID:dnCr2DDT0

誠子『識別02、成功しました!』

菫「……えっと、残り二人!03は!」

照『オッケー。今、完了した』

堯深『離脱します……』

菫「よし」

菫は銃を宙に向け、引き金を引いた。
白い煙が空高くへ飛んでいく。無論、高度1000メートルなど到達するわけもない。


だが、高度1000メートル。ギンガはその超人的な視力を以てして煙弾が上がったのを確認した。

ギンガ「――ギンガサンダーボルト!!」

右手を思いきり振り下ろす。
放たれた渦状光線は大地に向かって凄まじい速度で落ちていく。





270 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/08(日) 15:43:06.19 ID:dnCr2DDT0

ミケ「ニャアァ!?」

タマ「フニャァッ!?」

クロ「シャァァ!?」

地上の三体は、天から向かってくる何かに動物的な勘で気付いた。
尻尾の毛が逆立ち、その場から逃れようと脚を伸ばす。

菫「みんな、伏せろ!」

その直後、空を裂いて雷が落ちてきた。三体の体を貫き、地面に大きな爆発が起きる。
そして地上の爆発音と同時に、どこまでも届きそうな大きな雷鳴が轟いた。


ギンガ「シュアッ!」

ギンガは決着がついたのを見届けると、自分の帰るべき場所へ飛んでいった。





271 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/08(日) 15:44:28.86 ID:dnCr2DDT0

―――地上

菫「作戦終了。ホワイトスイーパーを寄越してくれ」

『はい。ご苦労様です』

そう言うと、回線はプツンと切れた。
菫はヘルメットを脱ぎ、一息ついた。恐らくだが、記憶はもう戻っている。感覚としてそう感じていた。
そんな時、通信の通知が告げられた。彼女は手首の通信機を顔に寄せた。

菫「こちら弘世」

淡『菫先輩?なんか……ちょっと変なことが起きてる』

菫「変なこと?」





272 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/08(日) 15:45:09.94 ID:dnCr2DDT0

淡『うん。ビーストが死んだところに……怪我してる女の子が三人倒れてる……』

菫「!まさか、巻き込まれたのか!?」

淡『そんなわけない!私たち、ちゃんと周りに人がいないのを確認してから連絡したし……』

菫「ということは……ビーストに囚われていたということか?何にせよ、もうすぐ援軍が来るはずだ。彼らに任そう」

淡『はい。切ります』

ピッ

菫「………」


To be continued...





273 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/08(日) 15:49:11.21 ID:dnCr2DDT0

登場怪獣:ウルトラマンマックス第十六話より、“宇宙化猫”タマ・ミケ・クロ
劇場版ウルトラマンガイアより、“巨大顎海獣”スキューラ

また今度続き書きます





278 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/10(火) 15:25:23.63 ID:AZBWTSj20

第七話『銀色の風(前編)』


穏乃(あのヘルメットの女性と出会った日の翌日)

穏乃(私たち阿知賀女子麻雀部は二回戦に挑み、一位の千里山に大差をつけられたものの何とか二位通過を果たした)

穏乃(しかし次の対戦相手は北九州最強の新道寺女子、全国一位の白糸台)

穏乃(このままじゃいけない……そう思った私たちは、長野から清澄の応援に駆けつけていた風越、鶴賀の人たちと対戦したのをきっかけに、その翌日、三箇牧の荒川憩さんたちと特訓をした)

穏乃(その間、怪獣は現れず、私は特訓に集中することができた)

穏乃(しかし、『記憶がなくなっている』中で、『ウルトラマンを知っている人』の存在については……謎が深まるばかりだった)





279 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/10(火) 15:25:57.62 ID:AZBWTSj20

―――準決勝前夜、穏乃・憧の部屋

穏乃(……興奮覚めてないのかな。寝れない)ゴソゴソ

タロウ『寝れないのか?シズノ』

穏乃(うん。明日……先生が越えられなかった準決勝だからね……)

タロウ『そうか……。邪魔が入らないように祈っているよ』

穏乃(うん……)

タロウ『……なぁシズノ。少し話をしてもいいだろうか』

穏乃(ん?いいけど……なに?)

タロウ『私はここのところ、ウルトラマンギンガの正体について考えていたんだ』

穏乃(ギンガの正体?)

タロウ『ああ。私も知らないウルトラマン……その正体を』





280 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/10(火) 15:26:41.07 ID:AZBWTSj20

タロウ『彼は、君が怪獣へのライブをすることで力を貸してくれる。そして、何も語ってはくれない……』

穏乃(ダークスパークウォーズの参加者なら、タロウに話しかけてきてもおかしくないもんね)

タロウ『ああ。そして……その意味を考えてみたんだ』

タロウ『ウルトラマンギンガとは、ギンガスパークに封印されているウルトラマンではないか?と』

穏乃(封印……?)

タロウ『ああ。そして、封印されているのはギンガの“体”だけだ』

穏乃(どういうこと?)

タロウ『ギンガが何も語ってくれないのは、元よりギンガスパークには“ギンガの意思”が存在しないからではないだろうか』





281 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/10(火) 15:27:15.97 ID:AZBWTSj20

穏乃(でも……ギンガは私に力を貸してくれてるよ?)

タロウ『そこだ。君がギンガへのライブを可能にするタイミング。それが彼の正体に繋がると私は考えた』

タロウ『君がギンガへのライブを可能にするのは、君が“ギンガの精神”に近づいたときではないだろうか?』

穏乃(……?)

タロウ『つまりだ。君が“ギンガの精神”を持ったとき、ギンガスパークに封印されていた“ギンガの体”が反応する』

タロウ『そのことによって君はギンガへ変身することができるのでは……と私は考えた』

穏乃(なるほど……。でも、どうしてギンガは肉体だけ封印されたの?)

タロウ『それはギンガスパークに宿るスパークエネルギーが関係していると思う』

穏乃(スパークエネルギー……?)





282 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/10(火) 15:28:20.60 ID:AZBWTSj20

タロウ『ああ。ウルトラマンは嘗て、人間とよく似た姿だったんだ。だが人工太陽が発するスパークエネルギーによって今のような姿に変わっている』

穏乃(へえ……)

タロウ『そして大昔――それこそ私も生まれるずっと昔、人工太陽が一度だけ暴走したことがあった』

タロウ『溢れ出すスパークエネルギーは逆に危険を及ぼしたが、このギンガスパーク、そしてダークスパークの二つの力によって事態は収束した』

穏乃(……??)

タロウ『その二つのアイテムに溢れ出したスパークエネルギーを封印したんだ』

タロウ『どうやって封印したか……私の推測通りなら、生前のギンガがその身を挺したのだろう』

穏乃(身を挺して……?)

タロウ『ああ。それによってギンガスパークには“ギンガの身体”が、ダークスパークには“ギンガの精神”が封印された……と思う』





283 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/10(火) 15:29:05.81 ID:AZBWTSj20

穏乃(ダークスパークにもギンガの一部が……)

タロウ『ダークというくらいだ。恐らく、スパークエネルギーの負の部分をその精神で封印したのだろう』

穏乃(ねえ。ってことはさ……ダークスパークを操ってるのは……)

タロウ『ああ。考えたくはないが……ギンガの精神が反応する、“ギンガに似た身体”の持ち主』

穏乃(つまり……敵はウルトラマン……?)

タロウ『あくまでも推測だが……』

穏乃(ウルトラマンって宇宙の平和を守ってるんでしょ?どうして……)

タロウ『ウルトラマンにも闇の部分を増幅させる者はいる。過去に一度だけ例があった』

タロウ『そもそも光と闇というのは表裏一体の関係なんだ。少しバランスが崩れるだけで一気に傾いてもおかしくはない……』





284 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/10(火) 15:29:33.65 ID:AZBWTSj20

穏乃(でもこの推測なら、ギンガの顔をタロウが知らなかった理由も説明できるね)

タロウ『そうだな……』

タロウの声(テレパシーだが)は少し曇ったように聞こえた。
推測が当たってしまえば、敵の正体は自らの同胞となってしまうのだ。それを考えると当然だろう。

穏乃(……タロウ)

タロウ『なんだ?』

穏乃(悪いけど……もし敵がタロウの顔見知りだったとしても、私は絶対にそいつを叩きのめすよ)

タロウ『……シズノ?』





285 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/10(火) 15:30:21.19 ID:AZBWTSj20

穏乃(もし全てが終わったとしても、私は宥さんのことを誰かに喋るつもりはない)

穏乃(確かに宥さんがあの事件を起こしたから沢山の人の命が奪われた)

穏乃(でもそれは全部……それを仕組んだ奴が悪いんだ。私は絶対、そいつを許さない……)

タロウ『………』

夜。彼女のその言葉の強さや意志も、部屋の中のように真っ暗闇に塗り潰されているようだった。











286 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/10(火) 15:30:58.28 ID:AZBWTSj20

―――インターハイ八日目

恒子『ついにこの時が来た準決勝……ッ!』

恒子『ベスト4を賭けた戦いが今始まる……!!』ビシィッ!!

健夜『何その動作……』

恒子『んじゃ対戦校の紹介いっちゃう?』

健夜『……。いかない手はないよね……』

恒子『奈良県代表・阿知賀女子学院10年ぶりの全国出場!』

恒子『初出場となった前回と同様準決勝まで駒を進めてきました!』

恒子『福岡県代表・新道寺女子!北部九州最強の高校、今年も見参!』





287 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/10(火) 15:33:04.05 ID:AZBWTSj20

恒子『北大阪代表・千里山女子!インターハイでは昨年4位でしたが春の大会の成績から全国ランキング2位!』

恒子『そして――白糸台高校!』

恒子『言わずと知れた昨年と一昨年の優勝校です!インハイ史上最強のチームとの呼び声も!』

恒子『っちゅーことは小鍛冶プロの20年前より強いってことですか?』

健夜『え……いや、それは比べられないので……』

健夜『って、20年前じゃなくて10年前だから!』


玄「よし――行って参ります!」

憧「玄、がんば!」

宥「玄ちゃんふぁいと!」

玄「おまかせあれ!」





288 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/10(火) 15:33:43.06 ID:AZBWTSj20

―――一方その頃、姫松高校の宿舎

TV『さあ!Aブロック準決勝、先鋒戦スタートです!』

恭子「………」

良子「グッドモーニングですー」

恭子「あ……戒能プロ!おはようございます」ペコ

良子「観戦?でもそろそろ練習スタートですよ」

恭子「はい。大丈夫です」

良子「………」ジー

恭子「?か、顔になんかついてます?」





289 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/10(火) 15:34:18.16 ID:AZBWTSj20

良子「いえ……。末原さん、貴方なかなか面白い方ですね」

恭子「?」

良子「善野監督に今までお世話になってきたから赤阪代行が認めらない……」

良子「でも今の力じゃ善野監督に恩返しすることができない。だからトッププロを連れてきた代行には素直に感謝しなくちゃいけない……」

良子「でも何となく認めたくなくて、一人で悶々としている。面白いですよ」

恭子(え……何でこの人)

良子「『何でこの人私の考えてることを?』」

恭子「!?」





290 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/10(火) 15:35:23.30 ID:AZBWTSj20

良子「というわけで。あなたのそのアンバランスなハート、使わせてもらいますよ」

良子「思い出に想いを馳せるあなたには、こんな怪獣がいいかもですね」

そう言うと、彼女の目が赤く光り始めた。
恭子はその光に囚われ――

恭子「……戒能プロ。練習始めましょう」

良子(あらら。心強い子だったな)

良子(まぁいいか。駒の目処は立ってるし)








291 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/10(火) 15:35:54.90 ID:AZBWTSj20

―――インターハイ会場

恒子『先鋒戦決着ーーッ!』

恒子『チャンピオンがこんなに大きく振り込んだのは何十年ぶりか!』

健夜『二年ぶりかな……』

恒子『え?そうでしたっけ?』

健夜『私も高校生の頃……ハネマン以上のダメージを一度だけ受けたことがあります。それも想定を超える打ち筋からの一撃でした』

健夜『今でもそのことは、強く心に残っています……』





292 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/10(火) 15:36:30.78 ID:AZBWTSj20

玄(やっぱり削られちゃったけど……二回戦の時よりずっと多い点数でおねーちゃんに繋げることができた……)

玄「おつかれさまですっ!」

照「お疲れ様でした……」

煌「すばらでしたよ」

照「!」

照「千里山……」

宮永照がいつもの無表情を少し歪めた。
その視線の先には――椅子の背もたれに身を預けて憔悴している園城寺怜の姿があった。

玄「……園城寺さん!」





293 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/10(火) 15:37:00.05 ID:AZBWTSj20

怜「あ、お疲れ様……」

玄「大丈夫ですか……!?」

怜「んっ……よい、しょっ。大丈夫……仮病やから……」

怜「心配せんとって……」

ふらっ

玄「!」








294 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/10(火) 15:37:41.81 ID:AZBWTSj20

ガララララ

怜「うわわ、大げさ大げさー」

竜華「万が一があるから!」

怜「申し訳ないわ。あんなに点離された上にこんなことになって……」

泉「うちらが頑張りますんで」

セーラ「俺たちにまかせとけよ」

怜「次鋒戦……行って、泉……!」

泉「……っ!はい!任せてください!」





295 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/10(火) 15:38:09.04 ID:AZBWTSj20

玄「園城寺さん大丈夫かな……」

憧「あれ仮病じゃなかったんだ……」

穏乃「……!」

憧「しず?どうしたの」

穏乃「なんでここにいるんだ……?」

憧「え?」

穏乃の視線の先には――

憧「和……」

和「穏乃……憧……玄さん……」

和「お久しぶりです……」





296 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/10(火) 15:39:19.95 ID:AZBWTSj20

―――一方、会場の外

ワアアアアア

咲(終わったのかな……)

和のチームメイト、宮永咲は会場に入らず外で時間を潰していた。

咲(………)

照を介して、彼女の脳裏にある映像が想起される。

炎に包み込まれた病室の中で、彼女は佇んでいた。
目の前に現れる黒い影法師。その足元に横たわる、ピクリとも動かない少女の体――

咲(………)





297 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/10(火) 15:40:14.06 ID:AZBWTSj20

―――街中

とある服屋。
二回戦敗退してしまった永水女子のメンバーは宮守女子の皆と共に海へ遊びにいくことになり、水着を買いに来ていた。

霞「小薪ちゃん、この水着なんてどうかしら」

小薪「いいですね……!」キラキラ

巴「霞さん、あんまり選びすぎると決められなくなりますよ」

霞「えー……でもねぇ」

小薪「迷っちゃいますよね!こんなに多いと」

春「………」ポリポリ

巴「あー、春ちゃん!お店の中で飲食は駄目ですってば」

春「………」コク





298 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/10(火) 15:40:56.87 ID:AZBWTSj20

巴「そういえば、はっちゃんはどこに?」

初美「ここですよー」ヒョコッ

巴「迷子にならないでくださいね。東京は人も多いし、はっちゃんは見つけにくいし……」

初美「なんですかそれは。私が視界に入らないほどのチビ助だとでも言いたいんですかー」

巴「別にそうじゃないですけど……。はっちゃんは水着決めたの?」

初美「そっちはどうなんですかー?」

巴「私と春ちゃんは決めました。霞さんと姫様は……まだまだかかりそう」

初美「そうですかー」





299 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/10(火) 15:41:58.28 ID:AZBWTSj20

初美「で、私の方は候補を二、三絞ったので巴さんに見てもらおうかなーと」

巴「あぁ、そうだったんですか。で、どんなのを?」

初美「まず、これですー」

巴「……殆ど紐じゃないですか。公然猥褻で捕まりますよ」

初美「捕まるもの売るわけないじゃないですか」

巴「うーん……」

初美「じゃあこれはどうですかー?」

巴「肌色……!?それは犯罪だよ!」

初美「また犯罪云々ですかー巴さんはビビりですねー」

巴「いやいや、はっちゃんが度胸ありすぎるだけですよ……うん……」





300 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/10(火) 15:43:02.82 ID:AZBWTSj20

初美「じゃあこれなんかどうですかー」

巴「ちょっと待って、それは水着じゃない。水着に似て非なる何かです」

初美「そうですかー?」

巴「いやだって……首輪つけるスペースとかあるじゃないですか……これってあれがあれするやつですよ……」

初美「?」

巴「というか何でそんなに露出好きなんですか。普通の着ればいいじゃないですか普通の」

霞「はっちゃんは露出くらいしないと……ほら、ねぇ?」

初美「!?」

巴(私にも刺さったんですけど、その言葉)





301 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/10(火) 15:43:40.85 ID:AZBWTSj20

霞「でも別に露出しても、そんなにじゃない……?普通の着た方が……」

初美「な、な……なんですかその理屈!ナイスバディじゃないと露出しちゃいけないんですか!」

霞「別にそうじゃないけど……。はっちゃんは過度な露出するよりは可愛い系を……」

初美「おんなじことじゃないですかー!子供扱いしてるってことでしょー!?」

霞「そんな……」

初美「もう、霞さんなんて知りませんー!」





302 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/10(火) 15:44:16.32 ID:AZBWTSj20

ダダダ……

春「………」ポリポリ

シャッ

小薪「?なにかありましたか?」

霞「わあ、よく似合ってるわ……!」

小蒔「そ、そうですか?じゃあこれにしようかな……」

巴(……しょうがない。私が連れ戻しにいくか)ハァ





303 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/10(火) 15:45:10.63 ID:AZBWTSj20

―――路地

ダダダ……

初美「はぁっ、はぁっ……!」

初美(何で……どうして認めてくれないんですかー!露出は全人類に与えられた平等なアピールなのに!)

初美(誰であろうと露出が認められるような世界……そんな世界になれば……!)

??「……。はっちゃん……」

初美「!あれ、戒能さんじゃないですかー」

良子「何かデジャヴ感じますけど……まぁいいや」

初美「?」





304 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/10(火) 15:45:53.80 ID:AZBWTSj20

良子「あなたのそのレボリューションなハート、使わせてもらいますよ」

そう言うと、良子の目が光り始めた。
初美の心はその光に囚われ――

良子(……よし。これで四人目)

良子(今度こそ……ウルトラマンギンガを……!)

初美「ミンナ……平等ニ……露出……」

朧気な意識の初美の手には一つの人形と、ダークスパークによく似た『ダークダミースパーク』が握られていた。
人形をダミースパークの先端に宛がう。紫色の雷が放射状に走り、彼女を闇に包んでいく。

『ダークライブ……デガンジャ!』





305 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/10(火) 15:47:24.42 ID:AZBWTSj20

―――インターハイ会場、阿知賀の控え室

憧「うっし」パタン

憧「じゃあ、行ってくるかね」

灼「引き締めて気……」

穏乃「頼んだ!」

晴絵「憧っ」

憧「ん?」

晴絵「江口セーラは二回戦より強いから」

憧「うん。わかってる」





306 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/10(火) 15:48:25.72 ID:AZBWTSj20

バタンッ

タロウ『シズノ!怪獣だ!』

穏乃(うわ……来ちゃったか)

タロウ『すまない……試合中なのに』

穏乃(大丈夫。すぐ倒して戻ればいい)

タロウ『ああ……。怪獣の場所は』

穏乃(それも大丈夫。ギンガスパークが教えてくれる)

タロウ『わかった。とりあえず……遅くなるかもしれないが私も現場へ向かう』

穏乃(わかった。またあとで)

タロウ『ああ』





307 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/10(火) 15:49:21.41 ID:AZBWTSj20

穏乃「ちょっと、トイレ行ってきます」

晴絵「憧の試合までには帰ってこいよ」

穏乃「はい!」


穏乃は部屋から抜け出すと会場も出て、人目の付かなさそうな場所へ移動した。
ギンガスパークを手に取ると、怪獣の場所が頭の中に刻み込まれた。

穏乃(タロウの話が当たってるなら……これは私の力ってことになるのかな。それともスパークエネルギー関係かな)

まぁいいや、とポーチから人形を取り出し、ギンガスパークに宛がった。

『ウルトライブ!バジリス!』

穏乃の体は光に包まれ、空高くまで昇った。昇るにつれ光の形は変わっていき、最終的に銀色の怪獣に変身した。
バジリスは翼を広げ、敵のいる場所に向けて飛んでいった。





308 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/10(火) 15:50:08.54 ID:AZBWTSj20

―――現場

その周囲は風が吹き荒れていた。
歩道には車が横転し、巻き上がるゴミや砂で辺りの視界は悪く、まるでピンぼけしているかのようだった。

飛行するバジリスは、その中心に怪獣の姿があることに気付いた。
この場所は商店街のようで、広く開いた道路の両脇には店が立ち並び、道路の中央に怪獣は陣取っていた。

その姿は人の形をした鰐のようであり、その顎や腕は強い茜色に染められている。
他の部位は黒く、一見では赤と黒の大雑把な縞模様のように見える。

穏乃がそう観察していたとき、怪獣の方角から緑色の光球が猛スピードで飛来してきた。
不意を突かれたバジリスは避けることが出来ずにそれと激突する。それでも何とか空中でバランスを立て直すと、もう一撃光球が向かってきているのが見えた。

バジリス「キュァア!」

バジリスが口から赤い光球を放つ。
緑と赤は宙で相殺され、バジリスは翼を折り畳んで滑空を始めた。この隙に距離を詰め、腕の刃で攻撃する算段だった。





309 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/10(火) 15:51:08.90 ID:AZBWTSj20

しかしバジリスの目に、光球の姿がもう一つ飛び込んできた。
それは向こう側の宙から飛んでくる白い光。猛スピードでこちらに向かってきている。

躱すことができず、勢いよくバジリスと白い光は激突した。
この時、穏乃は違和感を感じた。白い光は消えず、まるで意思を持っているかのような動きで着地したのだ。

バジリス「キュァ……」

広い道路には、倒れ込むバジリス、そして降り立った白い光。その奥には疾風を巻き起こす怪獣が位置している。
そして、白い光がうっすらと消えていった。

顔を上げた穏乃は目を見張った。
そこにいたのは――銀色の体躯を持つ巨人だった。

ウルトラマンに酷似していたが、胸にはカラータイマーが無く、代わりに弓を寝かしたような形の発光体がついている。
両腕には赤と青が少し混じった手甲を装備しており、穏乃が持ち合わせていたウルトラマンの人形ともまた違う雰囲気を漂わせていた。





310 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/10(火) 15:52:07.79 ID:AZBWTSj20

デガンジャ「ヴォォォォ!」

怪獣――デガンジャが声を上げ、爪から緑の光球を打ち出した。

巨人「シュアッ!」

巨人が地面を蹴って飛び立つ。
外れた光球はバジリスの周囲に着弾し、爆発が起きた。

バジリス「キュァア……」

それを見た巨人は左腕を胸の前に翳し、そのまま振り下ろした。
彼の周囲の景色が一瞬ぼやける。青白い光が彼の頭の先から包んでいき、そして消えていく。

光の中から出てきたその体はさっきまでとは違うものになっていた。
銀一色だった体躯は青を基調としたものに変わり、胸にはカラータイマーが現れた。

次に彼は、身体の前方に半円を描くように右腕を水平に回し、そのまま腕を天高く突き上げた。
掲げた拳の先から金色の光線が空に放たれ、そしてそこから滝がなだれ落ちるように降り注いでくる。
その光の雨は彼の身体と、二体の怪獣を包みこんでいき――





311 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/10(火) 15:52:43.94 ID:AZBWTSj20

―――メタフィールド

穏乃が目を開けると、周囲の景色が全く違うものになっていた。
大地は赤く、空は赤と黒が混じる中に青いオーロラが揺れている世界。
穏乃――バジリスはゆっくりと立ち上がり、周囲を見渡した。

穏乃『なんだこれ……』

全く意味がわからず、穏乃の頭は混乱しきっていた。
タロウは来ていないのだろうか――と考えたところで、昨夜のタロウの言葉が胸を過った。

その時突然、バジリスの首に打撃が加えられた。
驚く間もなく地面に叩きつけられる。目の前にはあの青い巨人が立っていた。

穏乃(敵は……ウルトラマン……)

ということは、このウルトラマンが黒幕ということになるのだろうか。
そう考えると、穏乃は自分の頭が熱くなるのを感じた。宥さんや、他の皆を利用した敵――





312 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/10(火) 15:53:25.19 ID:AZBWTSj20

バジリス「キュァァッ!!」

バジリスが口から赤い光球を吐き出す。
それはウルトラマンの胸に命中し、彼の体は背後に吹っ飛んだ。

巨人「ハァァッ……!」

バジリス「キュァア!キュァア!」

仰向きに倒れるウルトラマンの胸を踏みつける。痛がる素振りに情けもかけず、バジリスはウルトラマンの脇腹を思いきり蹴り飛ばした。

巨人「シュァァァッ……」

獲物を追い詰めるように、バジリスはウルトラマンの方へゆっくりと歩き出した。
ウルトラマンはよろよろと体を持ち上げると、膝を地面につけたままバジリスの方へ顔を向けた。





313 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/10(火) 15:54:16.91 ID:AZBWTSj20

バジリスが両腕の鎌を振り上げ、ウルトラマンに振り下ろす。彼は咄嗟に、鎌の付け根に手をやって攻撃を止める。
両者の力は拮抗し、どちらの腕もそのまま動かない。

――その時。バジリスの背中に痛みが走った。

バジリス「キュァア……!?」

腕の力が思わず緩み、その拍子にウルトラマンに撥ね飛ばされる。隙を突かれ、腹に蹴りを入れられた。

穏乃『くそっ……!』

背後を振り返る。
デガンジャが疾風と砂塵を纏って立っていた。両手がこちらに向けられ、爪先から再び光弾が放たれた。

バジリスは翼を広げ、空中へ逃げる。
目の前に広がる退廃的な色使いの空は終末感を思わせ、先程までの澄みきった青空とはまるで対照的だった。





314 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/10(火) 15:55:14.75 ID:AZBWTSj20

地上に目を向けると、躱した光弾がウルトラマンの近くに着弾しているところだった。
デガンジャの中に、ライブしている人の姿が見える。

穏乃(そうだ。ウルトラマンの中には誰が……?)

そう思い、ウルトラマンの方へ目を向ける。
しかしいくら目を凝らしてみても、その中に人の気配を見て取ることはできなかった。

穏乃(ってことは……あのウルトラマンはライブしたものじゃなく、『本人』ってことか)

つまり――これで間違いない。
あのウルトラマンはダークスパークで操られているものではなく、黒幕そのものなのだ。

バジリス「キュァア!!」

空中からウルトラマンに向けて光弾を放った。
しかし彼は避けようとせず――むしろ、突っ込んできた。





315 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/10(火) 15:55:54.72 ID:AZBWTSj20

バジリス「!?」

バジリスは一瞬戸惑ったが、光弾を打ち続けた。しかしウルトラマンは肘で飛来する光弾を弾き飛ばしながらそのまま突っ込む。

そして一定まで距離が詰まったところで、ウルトラマンは宙を力強く蹴り、大きな曲線を描いてバジリスの背後へ回り込んだ。
背後に顔を向けようとするが、それよりも先に、ウルトラマンが勢いのままにバジリスを踏みつけた。

巨人「シュ……ハァァッ!!」

バジリスが地面へ墜落していく。その速度と勢いにバジリスは落下から逃れられない。

巨人「シュッ!」

ウルトラマンが右腕を前に、左腕を横に構え、両手を合わせた。
それを開くと、掌同士を繋ぐように雷が現れる。それを振りほどき、刀を抜くように右腕で前方の空間を切り裂き、両腕を十字に交差させた。





316 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/10(火) 15:56:50.11 ID:AZBWTSj20

巨人「シュァアッ!!」

垂直に立てた右腕の先から金色の光線が放たれた。
煌めく流星のようなそれは宙を墜ちていくバジリスへまさしく一直線で向かっていく。

穏乃『――うわぁぁぁっ!!』

穏乃が悲鳴を上げた。次の瞬間、光線はバジリスの腹を捉え、更に速度を上げさせて怪獣の体を落としていく。
バジリスの体が地に衝突し、砂埃が大きく舞い上がった。そこから爆発が起き、更に炎の手が上がった。



穏乃「く……うぅ……」

ライブが解かれ、穏乃はその妙な大地に倒れ伏していた。
体全体が痛み、指一本すら動かせない。熱と痺れが爪先から髪の一本まで突き通り、口の中をカラカラに渇かした。





317 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/10(火) 15:57:41.40 ID:AZBWTSj20

その時、穏乃の髪が無秩序に靡いた。風が近づいてきていた。懸命に顔を上げると、デガンジャの巨体がそこにはあった。

デガンジャ「ヴォォォォー……」

デガンジャが穏乃に迫っていた。しかし体が動かせず、彼女は逃げられない。

デガンジャ「ヴォォォォ……」

ゆっくりと、デガンジャが足を上げる。穏乃の周囲が大きな影に包まれていく。

穏乃「やめ……ろ……」

デガンジャ「ヴォォォ……」

しかしそんな願いは聞き入れてもらえるはずもなく。デガンジャは無表情に足を振り下ろす。

穏乃「やめろぉぉぉぉぉぉ!!!」

渇いて裏返った声が悲痛に、亜空間の中に響き渡った。
しかし外の世界には届かない。そしてタロウはこの空間の中にいない。この中にいるのは、穏乃の敵だけだ。

そしてデガンジャの足裏が、地面をしっかりと踏みしめた――


To be continued...





318 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/10(火) 16:01:47.17 ID:AZBWTSj20

登場怪獣:ウルトラマンG第四話より、“風魔神”デガンジャ


デガンジャは設定的に流石に無理がありすぎますが、風の神様ってことでこれ以上がなかったので……

あと、「人型の鰐」って書きましたが、デガンジャのデザインモチーフはタスマニアデビルです
個人的に鰐に見えたのと、「タスマニアデビルのような」と書いても伝わりにくいかな、と思ったので……

続きまた今度書きます





322 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/13(金) 18:48:17.37 ID:7fB5fhaT0

第八話『銀色の風(後編)』


『誰ひとり私のことを知らない場所へ行ってしまえば、私は自分の未来を忘れていられる』

『そう思って私はあの日……オークランド発大阪行の飛行機に乗った』

『ここは……とても居心地がいい』

『私は……会う人みんなを好きになる』

『それでも……私は時々考える』

『私の命は……どこから来たんだろう』

『そして……私の命は……どこへ行くんだろう……?』





323 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/13(金) 18:48:53.52 ID:7fB5fhaT0

〔高三・7/11・千里山女子高校〕

竜華「とーきー!」

怜「ん?」

竜華「おっはよー!」

怜「はいはい。何かええことでもあったん?」

竜華「へへーやっぱわかってまうかー」

怜「で、何?」

竜華「私の今日の運勢、最高やって!ほらこれ!」

怜「おお……おめでと!」





324 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/13(金) 18:49:25.15 ID:7fB5fhaT0

竜華「何かええことあるかなぁ~?」

怜「……ほら、こうやって幸せに浸れてることがええことなんちゃう?」

竜華「ええー!?そんなんつまらんやん」

セーラ「はいはい。朝からテンション高いなお前ら」

怜「セーラ。おはよ」

竜華「おはよー」

セーラ「ああ。で、どうしたん?」

竜華「これこれ!私の今日の運勢が最高なんやって」

セーラ「……えっ、くだらなっ」





325 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/13(金) 18:49:50.84 ID:7fB5fhaT0

竜華「くだらなくないわー……ね、怜」

怜「うんうん。こーいうの甘く見とったら痛い目遭うで」

セーラ「え~~?でもこんなん書いとる奴も殆ど適当やろ?」

怜「本物の超能力者ってこともあるやん」

セーラ「んなわけあるか。そもそも超能力なんてもんが眉唾……」

竜華「うーわ、セーラも船Qにあてられたかつまらん人間になったもんやなぁ」

セーラ「だ、誰がつまらん人間や!ロマンのありようは人の好き勝手やろ!」

怜「まぁそうやなぁ」

竜華「って身近に超能力者おるやん」

セーラ「怜のは……まあ、なんというか」





326 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/13(金) 18:50:27.88 ID:7fB5fhaT0

竜華「……ところでセーラの運勢結構ええで」

セーラ「え!?マジ!?」

怜「………」
竜華「………」

セーラ「あ……ちゃ、ちゃうって!これは」

怜「……ぷっ」

竜華「あははは!」

怜「もう……セーラどっちなん……?くくくっ……」

セーラ「わ、笑うなって!ったく……」





327 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/13(金) 18:51:06.91 ID:7fB5fhaT0

〔放課後・麻雀部部室〕

セーラ「むむ……」

泉「卓の上に勉強道具広げるとは監督に喧嘩売ってますね」

セーラ「うるさい……監督から勉強しろ言われたんやし……」

泉「え?」

竜華「追試なんやって。生物」

泉「あー……」

セーラ「な、なんやその憐れみの目は!」

泉「ほな頑張ってください!私は打ってきますんで~」





328 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/13(金) 18:51:46.33 ID:7fB5fhaT0

セーラ「くぅ……生意気な奴になりやがって」

浩子「泉は最初からあんな感じでしたよ」

セーラ「マジか……」

浩子「っていうかどこ分からないんですか?」

セーラ「ああ。ここのDNA云々が……」

セーラ「って学年違うやろ!」

浩子「ピンチの中でもノリ突っ込みを忘れない。関西人の鏡ですわ」

セーラ「うっさいわもー……集中できひん……」

浩子「じゃあ何でここでやってるんですか」

セーラ「……終わったら麻雀しようって」

浩子「そういう考えだから捗らないんですよ」





329 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/13(金) 18:52:33.16 ID:7fB5fhaT0

浩子「インハイ前の合宿に一人だけ行けないなんてならないように頑張ってくださいね」

セーラ「……おう」

浩子「ほな私も打ってきますんで」

セーラ「うう……後輩が冷たいわ」

怜「DNAのところ?」ヒョイッ

セーラ「怜?お前生物取ってないやろ?お前に聞いても……」

怜 「遺伝暗号が3種類の塩基で構成されとるんは、タンパク質を作るアミノ酸の数が20種類あるから。アデニン、グアニン、シトシン、チミンの4つの中から2 つの塩基を使って組み合わせてみても4の2乗で16通りやから、アミノ酸の数に対応できひんやろ?でも3つの塩基を組み合わせれば、4の3乗で64通り。 これなら十分ってわけ」

セーラ「……えっ?」





330 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/13(金) 18:53:15.08 ID:7fB5fhaT0

怜「これがガモフの仮説。わかった?」

セーラ「………」

竜華「怜すっごーい」

竜華「そういえば怜ってめっちゃ頭ええよね。この前のテスト12位とかやっけ」

セーラ「……俺な!ずーーっと聞こうと思ってたんやけど……お前一体何者?」

怜「私?私は……三年くらい前に川原で寝袋で寝てたのを監督に拾われて」

怜「今は監督の家の離れに住まわせてもらってる千里山女子高校麻雀部員やけど?」

セーラ「それは分かっとるんやけどさぁ……」





331 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/13(金) 18:53:47.19 ID:7fB5fhaT0

セーラ「とにかくさ、そろそろ親に居場所くらい知らせた方がええんやないの?心配しとるで?きっと」

怜「大丈夫!心配しない。っていうか心配できひんし」

竜華「できひん?って何で?」

怜「私の親って……DNAやから」

セーラ「はい?」

怜「見た目こういうの」ビシッ

セーラ「………」
竜華「………」


怜「……くくっ」

セーラ「……ったく!人がマジな話しとる時によぉ!」

セーラ「もう何なん?からかうなよ怜ぃ!」

怜「あははははっ」

セーラ「ああーもう!やめたやめた!」

竜華「ええ!?」

セーラ「家帰ってやる!こんなところで勉強なんてできるか!」バサッ

セーラ「今は麻雀や!打つで!」

怜「おっけ!」

竜華「やっぱこうなるんかー」





332 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/13(金) 18:54:42.48 ID:7fB5fhaT0

タン、タン……

セーラ「怜はさあ。何か将来の夢とかってあるん?」

怜「夢?……私の夢は、もう叶ったから」

竜華「叶った?」

セーラ「んー……そんじゃ希望とか望みとかは?」

怜「私の望みは、ここで打ってるみんながずっと笑顔でいられること」

セーラ「へえー……そんで、怜は?」

怜「私は、見てる」

竜華「見てるだけ?」





333 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/13(金) 18:55:15.92 ID:7fB5fhaT0

怜「うん。ずっとここで、幸せな人間を見ていたい」

竜華「いやいや卒業するやろ」

セーラ「何か……変わった奴やなぁお前って」

怜「そう?」

セーラ「そうやろ」

竜華「うんうん」

怜「ふふっ」





334 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/13(金) 18:55:43.88 ID:7fB5fhaT0

〔その夜・愛宕宅離れ〕

ピッ、ピッ、ピッ……

怜「………」

怜の腕には血圧計のような機械が取り付けられていた。
機械の数字盤に記録される数字を見て、彼女はため息をついた。

怜「……マイナス1.05」

コンコン

怜「!はーい!」

洋榎「怜ー?晩ご飯できたでー」

怜「今いくー」





335 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/13(金) 18:56:21.61 ID:7fB5fhaT0

ガチャッ

洋榎「はよ行こ。今日のおかずはできたての唐揚げやで」ジュルル

怜「おお、ええな――」

怜「!?」クルッ

洋榎「ん?」

怜「………」

洋榎「……どしたん?怜」

怜「……いや。何でもない……」

怜(今確かに、誰かの視線が……)





336 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/13(金) 18:56:57.86 ID:7fB5fhaT0

〔愛宕宅〕

洋榎・絹恵・怜「いっただっきまーっす!」

洋榎「おお美味いわぁ……流石うちらのオカンや」

雅枝「突然誉めても何も出んで」

洋榎「やろうな」

怜「二人の方はどうなん?部活」

絹恵「えーっとな、今日は……」

洋榎「絹、ストップ!」

絹恵「え?」





337 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/13(金) 18:57:38.90 ID:7fB5fhaT0

洋榎「……怜、言っとくけどうちらとお前たちは敵同士やからな?」

怜「バレたか」

洋榎「ったり前や。この愛宕洋榎の前にそんな誘導尋問が通用するかい」

雅枝「怜。相手校の情報をこんな形で聞き出そうとするなんて千里山の……」

怜「だーもう!そこまで考えとらんわ!冗談に決まっとるやろ!?」

雅枝「それならよし」

怜「ったく監督は家でも監督やなぁ」

洋榎「それはお前がおるからやろ、怜」

怜「……ん」





338 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/13(金) 18:58:11.38 ID:7fB5fhaT0

雅枝「こら洋榎。あんたら二人も怜も、私にとっては同じ娘たちや」

洋榎「そ、それはうちらも納得しとるって!そんな意味で言ったんやなくて!」

怜「……これでお返しやな」ニヤ

洋榎「……むぅ」

絹恵「してやられたなお姉ちゃん」

洋榎「……へへっ、この借りは全国で返すで」

怜「もちろん」





339 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/13(金) 18:58:38.21 ID:7fB5fhaT0

雅枝「えーー青春しとるとこ悪いけど……ご飯が冷めるからさっさ食って」

洋榎「お、忘れとった!」

絹恵「……あ!いつの間に唐揚げが半分くらいに!」

洋榎「怜ぃ!?」

怜「……ふふっ、おおきに~♪」

洋榎「うわぁぁぁぁぁ!!!」

雅枝「はぁ……近所迷惑な娘たちやわ……」





340 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/13(金) 18:59:04.22 ID:7fB5fhaT0

〔7/13・病院〕

怜「『ときシフト』……?」

セーラ「うん」

怜「何それ」

竜華「怜をサポートできるようなスケジュールをみんなで組むちゅうことや」

セーラ「それを条件に合宿の許可も取り付けたんや。お医者さんにも」

泉「最初は校内からですけど」

浩子「合宿中なんかの料理のレシピは完全に考慮検証済みです。許可も貰いました」

竜華「実際の料理はうちも手伝うで。結構得意やねん」

セーラ「体力いるところはおまかせ!」





341 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/13(金) 19:00:06.91 ID:7fB5fhaT0

怜「んー嬉しいけど申し訳ないな……。やってくれるにしても他の人に頼んだ方がええんちゃうかな」

竜華「監督も補欠にやらせろって言うてはったけど……」

浩子「私もその方が効率的かつ一般的やとは思います。……でも」

浩子「私たちがやりたいことなんで」

怜「……フナQ」

泉「一緒にいることで何か良い効果があるかもしれないですしね!」

浩子「それは非科学的」

泉「ええーそんな実も蓋もないような……」

怜「……みんな。ありがとう」

竜華「うんっ」





342 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/13(金) 19:00:39.45 ID:7fB5fhaT0

〔7/25・夜、合宿所のベランダ〕

怜「そんなところにいたら蚊に食われんで」

竜華「んー」

竜華「なんや寝るんがもったいなくて」

怜「………」

竜華「あかり見てた」

怜「えっ、何?」

竜華「ほら」

竜華が指を指す。その先には夜景が粛々と広がっていた。





343 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/13(金) 19:01:15.67 ID:7fB5fhaT0

竜華「川の向こうにあかりがちらほら見えるやろ?」

竜華「あそこにそれぞれ家庭があるわけやん。人の営みっちゅうか……」

怜「ああ……そうやな」

怜は――食い入るように、じっくりとその景色を目に焼き付けた。
二人で暫く風情を楽しんだあと、しっとりとした空気の中、竜華が口を開いた。

竜華「……そういえばな。セーラが言ってたんや」

竜華「去年のインハイで負けて戻った時、飛行機の窓から地元の街のあかりがたくさん見えて」

竜華「その中に一人くらいは自分を応援してくれてた人がおったんちゃうか――」





344 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/13(金) 19:01:46.24 ID:7fB5fhaT0

竜華「そう思たらもう……申し訳なくて、悲しくて、悔しくてアカンかった……って」

怜「らしくない……」

竜華「せやな……でもらしくなくなるんがインハイなんちゃう?」

怜「……何言ってんの?」

竜華「うわ!冷たっ!!」

怜「まあでも……私もこの合宿の帰りに見てみるわ」

竜華「うん」

空から見た夜景は――





345 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/13(金) 19:02:19.92 ID:7fB5fhaT0

〔8/10・インターハイ準決勝先鋒戦〕

怜「……!」ハッ

照「ツモ。4100オール」

怜(……またか)

点数を確認する。一位の宮永照は213800、二位の怜は80900。その差は13万点。

怜(次に来るんは18600以上――……)

怜(やるしかない……!)グッ

怜(ここから先は……みんながくれた一巡先や……!)





346 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/13(金) 19:02:48.81 ID:7fB5fhaT0

〔中三・6/25〕

セーラ「俺はな、今年のインターミドルで良い成績を残して特待でどっか行こうと思うんや」

怜「ふふっ」

セーラ「おいー笑ったやろ怜」

怜「笑ってない笑ってない。でもセーラが行く学校決まったら私も一般でそこ受けることにするわ」

竜華「私もー」

セーラ「なんじゃそりゃ」

怜「あははっ」





347 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/13(金) 19:03:23.93 ID:7fB5fhaT0

〔高一・4/5・千里山高校〕

雅枝「えー私が麻雀部監督の愛宕雅枝や」

怜(おお……)

セーラ「本物や……」

雅枝「一年生の頃からレギュラーになった例も少なからずおる」

雅枝「一年生も積極的に練習に参加するように!」

全員「ハイッ!」





348 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/13(金) 19:03:54.68 ID:7fB5fhaT0

〔6/12・夜、麻雀部〕

キュッキュッ

怜「………」

ガチャッ

セーラ「ときー?何しとん」

怜「三軍の私でも部に貢献できることしたいなーって……」

竜華「私らも手伝うで」

怜「ダメやーそれやったらまた貢献度に差がついてまう」

竜華「なんやそれ」

セーラ「怜がそれでええんならそれでいいけど……」

セーラ「俺たちが手伝うんも、怜の力やで?」

怜「……!」





349 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/13(金) 19:04:26.97 ID:7fB5fhaT0

〔高校二年・9/15・麻雀部〕

タン、タン……

怜(……よし、やるか)

昔のように、あの力を使おうとする。
しかし何故か、怜の身体から一気に力が抜けていった。それに伴って思考も薄れていく。

怜(……ああ、来たんか)

彼女の脳が辛うじて絞り出したのはそれだけだった。
しかしその『予感』は間違っていたらしく、まだ彼女には目を開く機会があった。





350 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/13(金) 19:05:06.24 ID:7fB5fhaT0

〔10/9・夕方〕

セーラ「ときー!」

怜「!」

怜「ごめん、今日は遅れて」

竜華「メールで聞いてたから別にええよ」

怜「看護師さんがミスって検査長引いてしもて……」

怜「てか何で二人ともここにいんの?部活もう終わってもうたん?」

竜華「今日はな、秋季予選のスタメン発表があったんや」

怜「おお。私は?」

二人は顔を見合わせ、にやっと笑った。





351 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/13(金) 19:05:41.37 ID:7fB5fhaT0

セーラ「エースやで」

怜「え……マジで?だってエースはセーラやん」

セーラ「監督が近頃の怜を見て決めたんや」

怜「嬉しい……けど、プレッシャーあるなぁ。セーラにも悪いし」

セーラ「アホ!こちとら全く気にしてへんのに気ィ使われると逆にイヤやわ。俺は自分自身のポジションよりもチームが強くなる方が嬉しい」

セーラ「今年はやられたけど来年は白糸台にも勝ちたいからな」

竜華「うん」

怜「ほな私をあんなバケモンに当てる気なんか……」

セーラ「怜がさらに強くなればええねん」





352 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/13(金) 19:06:12.71 ID:7fB5fhaT0

怜「………」

怜は自分の胸が疼くのを感じた。

その日、彼女は二人に『一巡先』が見えることを話した。
何故だか、二人はすんなり受け入れてくれた。

本当に、何故なのだろう。
今まで怜は『予知』は自分が異端の証だと思っていた。自分は人とは違う証なのだと。

しかし二人は怜の言葉を受け入れ、そのあともずっと変わらず友達で居続けた。
今までこの力を使わなかったのが馬鹿馬鹿しく思えてきた。

どうせ残り少ない人生なら、みんなと一緒に――





353 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/13(金) 19:06:48.88 ID:7fB5fhaT0

〔???〕

怜「ここは……?」

辺りを見回してみる。知識でのみ知った定義だが、ジャングルという言葉が相応しい。
熱帯の雰囲気を持つぐったりとした空気の中、何かに惹かれるように怜の足は進んだ。

そしてジャングルから出た先は、遠いところまで見渡せる高台だった。
怜は発見する。黄昏色に染まった空の下に聳え立つ、石造りの奇妙な遺跡の姿を。

怜(一体……)





354 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/13(金) 19:07:25.74 ID:7fB5fhaT0

〔高三・8/7・二回戦先鋒戦終了後〕

怜「………」パチッ

竜華「……怜?」

怜「……夢」

泉「え?」

怜「夢、見とった……」


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355 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/13(金) 19:08:58.41 ID:7fB5fhaT0

―――メタフィールド

恐る恐る瞼を開くと、そこは光の中だった。
つい一瞬前、自分の体は怪獣に踏み潰されようとしていたはずだ――穏乃はそう思ったが、目の前の景色は一瞬にして変わってしまっていた。

穏乃「……え?」

光が消えたとき、目の前に広がったのは『空の中』だった。
奇妙な赤と黒の世界。しかし穏乃は『座り込んでいた』。飛んでいるのでも、巨大化したのでもない。

穏乃が座っていたのは、銀色の足場の上だった。滑らかな銀色には温もりがあった。
顔を上げる。白く光る二つの瞳が彼女を見下ろしていた。

穏乃の体は、あのウルトラマンの掌に乗せられていたのだ。

穏乃(何で……?)

穏乃の体は再び光に包まれた。ウルトラマンは掌から光のロープを伸ばし、穏乃を地上に下ろした。

穏乃(このウルトラマンは……敵じゃないの……?)





356 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/13(金) 19:09:46.79 ID:7fB5fhaT0

巨人「シュアッ!」

ウルトラマンは体勢を低く構え、デガンジャと対峙した。
デガンジャが纏う風が戦場を流れていく。砂塵を巻き込み、怪獣と巨人の体を包み込んだ。

デガンジャ「ヴォォォー」

爪をウルトラマンに向ける。爪の先が緑の光に包まれると同時に、ウルトラマンが右手を胸のコアに翳した。
すると右手首の手甲から光が伸びた。先端が尖り、光の剣が形成される。

デガンジャ「ヴォォー!」

光弾が放たれる。ウルトラマンは襲い来るそれを次々と剣で弾き落としたが、両指十発には対応しきれない。

巨人「シュアァッ!」

一撃ヒットすると、二発目三発目が立て続けに命中し、ウルトラマンは背後に吹っ飛ばされた。
地響きを立てて地面に倒れ込む。デガンジャは彼の元へ歩き、立ち上がろうとする巨人の首を絞めた。





357 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/13(金) 19:10:19.50 ID:7fB5fhaT0

巨人「ハァ……アァッ……!」

デガンジャ「ヴォォォー」

巨人「シュ……アッ!」

逆に自ら体勢を崩し、ウルトラマンは怪獣を巴投げした。
悲鳴を上げてデガンジャが倒れる。

デガンジャ「ヴォォー……ルルル……」

ウルトラマンは先に立ち上がったが、起き上がろうとするデガンジャの爪に気づき、バク転して距離をとった。
起き上がってウルトラマンを睨み付けるデガンジャ。その爪には緑の光がスパークを起こして纏わりついていた。





358 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/13(金) 19:11:00.35 ID:7fB5fhaT0

穏乃(来る……)

恐らくは、さっきより強力な光弾が放たれるだろう。さっきの剣でも防御しきれなかった。ここは回避に専念するだろうか――

しかしウルトラマンは、穏乃の予想とは全く違う行動に出た。

巨人「シュアァッ!」

掛け声をあげ、ウルトラマンは走り出した。
穏乃は呆気にとられた。真っ直ぐ向かって行くなんて、格好の標的になるだけに決まってる。

デガンジャ「ヴォォォーー!!」

まずデガンジャの右爪から二発、雷光の軌道を空に残して光弾が撃たれた。
ウルトラマンは地面を横に蹴り、方向を変えることで光弾を躱す。





359 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/13(金) 19:12:30.27 ID:7fB5fhaT0

だがまだ攻撃は続く。デガンジャは手を地面に水平にし、三発の光弾を放つ。
横三方向への弾幕は方向を変えるだけでは逃れられない。ウルトラマンは今度は地面を垂直に蹴りつけ、跳躍する。

左手五発の標準を、ジャンプして空中に飛び出したウルトラマンに合わせる。
彼はそれを察知し、更に宙を蹴りつけようとする。同時に光弾が三発放たれた。

巨人「シュ――ハァァァッ!!!」

ウルトラマンが全速力で飛び上がる。その下を光弾が通過していく。しかし、不意に現れた二発の光弾が彼を襲い、空中に爆炎が展開された。
残りの二発は既に撃ち込まれていた。ウルトラマンの動きを予測して、その場所に撃たれていたのだ。

穏乃「……!」

しかし、薄れた爆炎の中からウルトラマンは現れた。
右腕を胸のコアに翳す。寝かされた弓のような形をしたコアから光が手甲に投影され、光の弓が彼の腕に現れた。





360 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/13(金) 19:13:06.99 ID:7fB5fhaT0

巨人「ハァァ――……」

腕を地上のデガンジャに向けた。そして弓を引き絞るように添わせた左手を引く。それに伴って虹色の光が弦となって弓に帯びていく。

デガンジャ「ヴォォォー!!」

それを見ていたデガンジャも、爪から光弾を放つ。十発だ。それらが一斉に、空中のウルトラマンに向かっていく。

巨人「シュアッ!!」

勇猛な掛け声をあげ、左手を離す。同時に手甲に展開されていた光の弓が飛び出した。
光の弓――“アローレイ・シュトローム”は唸りを上げて空を裂き、デガンジャへまっしぐらに進む。
邪魔する光弾は全て切り裂さかれる。しかし、光の弓は何の損傷もなくその美しい形を為したまま、怪獣の背後の地に着弾した。





361 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/13(金) 19:13:48.07 ID:7fB5fhaT0

デガンジャ「ヴォ……ルルル……」

力なくデガンジャが前に倒れた。その体には光の弓が貫いた跡が縦に走っていた。
地面に落ちたところで、爆発が巻き起こる。同時にウルトラマンがふわりと舞い降りた。

巨人「シュッ」

右手をもう一度胸に翳した。光の弓は回転し、コアへ帰っていく。
十数秒の死闘に想いを馳せているのか、彼は空を見上げていた。そんな中、空間の壁が泡のように崩れ始めた。





362 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/13(金) 19:14:27.00 ID:7fB5fhaT0

―――商店街

妙な大地も、前衛的な空もが消え去った。
穏乃は、商店街の道路の真ん中に座っていることに気がついた。

穏乃(いったい、何が……)

辺りを見回してみる。あの異空間に引きずり込まれる前と変わっておらず、ひとけも全く無かった。
その時、穏乃は全身の毛が逆立つのを感じた。悪寒が体幹を貫いていき、筋肉が強ばる。

気配があった。自分の後ろに。
それも物柔らかなものでは決してない。冷たく、そして刺々しい気配がそこにあった。

??「手を挙げろ」

しかし、穏乃は拍子抜けしたのを感じた。
その声は明らかに少女のものだった。それも威圧感や快活さは感じられない、大人しそうな少女の声だった。




363 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/13(金) 19:15:06.57 ID:7fB5fhaT0

??「聞こえとるんか!手ぇ挙げろや!」

後頭部に何か固いものが当てられた。穏乃は慌てて両腕を上げた。

??「よし。早速聞くけど……」

少し間があった。声の主は何かを考えているようだった。

??「あんた、高鴨穏乃やろ?阿知賀の」

完全に想定外の言葉だった。
穏乃が言葉を詰まらせていると、後頭部に何かがぐりぐりと当てられた。彼女は唾を飲み込んでから、漸く言葉を出す。

穏乃「……知ってるんですか?」

しかし、声の主は後頭部への感触を更に強めた。張り詰められた空気が吐き出されたのが分かった。





364 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/13(金) 19:15:50.57 ID:7fB5fhaT0

??「質問すんな。あんたは高鴨穏乃、イエスかノーで答えろ」

穏乃「……はい」

??「よし。もう一つ聞く。あんたは一体何もんや?」

穏乃「………」

本格的に困った。この声の主は一体何者なのだろう。
自分の敵か、それとも味方なのか。それが分からない限りは返答ができない。

??「聞き方が悪かったか?じゃあ端的に聞くわ。あんたはビーストか、人間か?」

穏乃「……人間です」

後頭部の感触が離れた。何を疑われているかは分からないが、疑いが晴れたのだろうか。
そう思った瞬間、頭頂に重い痛みが走った。

穏乃「っ……!?」





365 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/13(金) 19:16:28.88 ID:7fB5fhaT0

??「ざけんな……ほな、何でビーストに変身しとった!答えろ!」

『ライブ』を知らない?
ということは、この人は何の関係もない人なのだろうか?

いや、鎌をかけているという可能性も捨てきれない。
穏乃がライブの事に言及すれば、ギンガの正体と確定され、即座に殺しにかかってくるのかもしれない。

穏乃(やばい……)

??「早く……答えろや……」

穏乃(……?)

このとき、穏乃は違和感を覚えた。
その声は弱々しく頼りなかった。まるで憔悴しているかのような――





366 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/13(金) 19:16:59.23 ID:7fB5fhaT0

「ウルトラ念力!」

??「!?」

その時突然、タロウの声が響いた。
頭の後ろの感触が消える。穏乃はそれを感じとり、横に転がった。

??「っ!」

穏乃「……あなたは」

目の前に広がる光景。

虹色の波紋が声の主だろう少女の前方に広がり、白い銃のようなものが宙に浮かんでいる。
驚いた表情を向ける少女の顔に穏乃は見覚えがあった。





367 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/13(金) 19:17:38.58 ID:7fB5fhaT0

穏乃「千里山の……園城寺さん……?」

短く切り揃えられた柔らかい黒の髪と、少し物憂げな表情を見せる少女は紛れもなく千里山女子の園城寺怜だった。

タロウ「シズノ!大丈夫か!?」

穏乃「タロウ……ありがとう、助かったよ」

タロウ「彼女は……?」

穏乃「この人は……」

言葉を繋げようとして怜に顔を向けたその時だった。
彼女の体が力なく揺れた。まるで糸を切られた操り人形のように、彼女は崩れ落ちる。

穏乃「っ!」





368 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/13(金) 19:18:14.88 ID:7fB5fhaT0

アスファルトに落ちそうになるところで穏乃が彼女を抱き止めた。その体はやはりというべきか軽かった。

穏乃「だ……大丈夫ですか……?」

しかし返事がない。咄嗟に口元に手をやったが、呼吸はしていた。穏乃はほっと息をついた。

穏乃「よかった。でもどうしようか……」

タロウ「……一体何が起きていたんだ?話してくれ」

穏乃「うん」





穏乃「ってことなんだ」





369 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/13(金) 19:18:47.09 ID:7fB5fhaT0

タロウ「……『謎のウルトラマン』、か」

穏乃「うん……。あれが黒幕なのかは分からない。私を助けてくれたのも事実だし……」

タロウ「………」

穏乃「とりあえず……そうだね。救急車を呼んで私は会場に戻るよ。タロウは救急車が来るまで園城寺さんのことを見てて」

タロウ「ああ。わかった」

携帯電話で119をコールしてポーチに仕舞い、代わりに怪獣の人形を一つ取り出した。





370 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/13(金) 19:19:19.36 ID:7fB5fhaT0