Loading...

高速読み込みは下をクリック

ページへ移動

アニメSSまとめ速報

2chのSSまとめブログの記事を集め掲載しています。
アニメSSまとめ速報 TOP  >  咲-Saki- >  穏乃「ウルトラマンギンガ?」 後編

穏乃「ウルトラマンギンガ?」 後編

434 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/24(火) 18:40:34.44 ID:eLHe5n080

第十話『夜襲-ナイトレイド-』


―――街中

穏乃「はぁっ、はぁっ……」

穏乃は道端に腰を下ろし、建物の壁にもたれ掛かった。
その息は荒れ、顔には汗が垂れている。身体中が痛み、目の前の景色がぼんやりと暗くなっていく。

穏乃(……くそっ)

こんなところで倒れちゃダメだ――穏乃は自分にそう言い聞かせ、ポーチから携帯を取り出した。
電話帳から『赤土晴絵』の名を探し、通話ボタンを押す。コール音が中耳に響き、まるで鐘の鳴る音のように反響した。

穏乃(先生に……迎えに来てもらお……)

コール音が鳴る中で、穏乃は意識を保とうとポーチに手を突っ込みギンガスパークを握った。
その時、もう一種類の音が繰り返すのが穏乃の耳に入ってきた。

驚いてギンガスパークを見る。埋め込まれている宝石が七色に光り、穏乃に何かを伝えている。
穏乃には理解できた。これは以前ブラックキングの人形を発見したときと同じ――つまりこの近くにスパークドールがあるということだ。

435 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/24(火) 18:41:01.64 ID:eLHe5n080

穏乃(嘘だろ……)

それはつまり、敵がまだいるということを示していた。
ダークダミースパークと人形を持つ敵がすぐ近くにいるということだ。

穏乃(まずい……!)

その時。コール音が破られ、晴絵の声が通話口から聞こえてきた。

晴絵『しず!?』

穏乃「せんせ……」

晴絵『どうした!?どこにいる!?』

穏乃「ちょっと……やばいかも……しんない」

晴絵『しず……!いいから、今どこにいるか教えろ!すぐ行くから!』

穏乃「すいません……。迷子になっちゃってるみたいで、場所がわかりません……」





436 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/24(火) 18:41:44.45 ID:eLHe5n080

晴絵『……わ、わかった。なら周りに目印になりそうなところはある?』

穏乃「周り――……」

目印を探そうと周囲を見回した穏乃は視界の端に何か引っ掛かるものがあるのを見た。
黒い帽子に黒い制服。スカートは脚を完全に隠し、その人の姿は顔の肌以外は完全に夜の闇と同化していた。
そしてその身長は異様に高かった。人混みの中、一際大きい存在感を出している彼女はこちらに一歩、近づいてくる。その一対の赤い瞳は、確かに穏乃を捉えていた。

穏乃「……!」

彼女の手にそれまた黒い物が握られているのが見えた。
ギンガスパークが反応しているスパークドールは黒い彼女のもう一つの手の中にあった。

歩を進めながら、彼女はその人形をダミースパークに宛がった。その先から紫電が放射状に発され、体を包んでいく。
穏乃は目を逸らすことができなかった。全身の筋肉が強ばり、動くことができない。携帯が汗で手から滑り落ちた。

晴絵『しず!?どうした!?』


『ダークライブ……ブラック指令!』





437 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/24(火) 18:42:21.30 ID:eLHe5n080

通行人も彼女に目を向けるが、すぐに前を向いて歩いていってしまった。
そんな中で闇の中から出てきた彼女の身体は――別段変わらず人型を保っていた。

穏乃(……!?)

黒い帽子に白い肌の顔と赤い瞳。
変わったのは服装だけで、スカートはズボンになり、マントが羽織られていた。

しかし、その雰囲気はまるで別のものになっていた。
まだ距離があるのに穏乃の肌に突き刺さる敵意。それを感じ取った穏乃は急いで腰を上げた。

穏乃「くそ……っ」

携帯を拾い上げるのも忘れ、穏乃は歩きだした。
ポーチの中に手を突っ込みギンガスパークを握りしめながら道を行く。

しかし穏乃は気付いていなかった。ポーチの開いた口から怪獣の人形がこぼれ落ちていることに。





438 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/24(火) 18:43:05.44 ID:eLHe5n080

―――宮守女子のホテル

エイスリン「………」

コンコン

エイスリン「!ハイ」

ガチャッ

塞「ねぇエイちゃん、トヨネ来てない?」

エイスリン「トヨネ?キテナイケド……」

塞「そか……。朝に試合見に行くって言ってから帰ってきてないんだよね」

エイスリン「………」





439 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/24(火) 18:44:08.19 ID:eLHe5n080

塞「あ、そうだ。エイちゃんの分の水着も買ってきたよ」

エイスリン「ドンナノ!?」ズイッ

塞「お、おおう……一気に目の色変わったね」

塞「私と胡桃とシロで相談して、白いのでフリルが付いてる感じ。きっと似合うよ」

エイスリン「サンキュー」ニコ

塞「うん。楽しみだね、海」

エイスリン「ウン!」

そう言ってエイスリンは手の中の貝殻をぎゅっと握りしめた。
頭の中にさざ波が打ち寄せる音が静かに反響した。ようやくその音を初めて生で聞くことができる。

しかし、さざ波の音に何かの音が混じった。塞もそれに気づいて不思議そうな顔をする。
その音は背後から。エイスリンのパソコンから発されていた。

それを聞いたエイスリンの表情が引き締まった。ホワイトボードに何かを描き、塞にそれを見せる。





440 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/24(火) 18:45:04.19 ID:eLHe5n080

塞「これは……迷ってるトヨネと熊倉先生?伝えてくれるってこと?」

エイスリン「ウン」

塞「わかった、助かる。それじゃあ、トヨネから何か連絡来たら教えるね」

エイスリン「マタネ」

塞「うん」

塞が部屋を出ていったあと、エイスリンはパソコンの画面を確認し、トシに電話した。

トシ『もしもし、エイスリン?』

エイスリン「ビーストパルスガ、カクニンサレマシタ」

トシ『……!わかったわ。こっちから虎姫に追加指示を送る』

エイスリン「オネガイシマス。ソレト、トヨネガカエッテコナイッテ、サエガイッテマシタ」

トシ『豊音が……?わかった。そっちも手を打つわ』





441 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/24(火) 18:45:58.95 ID:eLHe5n080

―――穏乃サイド

穏乃「はぁ、はぁ……」

懸命に足を動かす。しかし思うように動かず、焦りと疲労だけが穏乃の中に積もっていった。
後ろを振り向くと大きな影が追ってきているのが見える。しかし彼女は一定の距離を保ち、穏乃との距離を縮めようとはしなかった。

穏乃(おちょくってるのか……?)

しかし、逃げなければならない。止まれば何をされるか分からない。
朦朧とした意識の中、穏乃はそれだけを念じて足を動かしていた。

そして、ブラック指令の中の意識。戒能良子に操られている姉帯豊音は、屈託のない笑顔を浮かべながら穏乃の背中を追っていた。

豊音『追いかけっこだよー』





442 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/24(火) 18:47:24.19 ID:eLHe5n080

―――宮守女子のホテル

エイスリン(これ……次元の褶曲か)

エイスリンが見ているパソコンの画面。
並ぶ折れ線グラフの中の一本が、十分ほど前、都内で何らかの変化が起きたことを示していた。

エイスリン(ウルトラマンがメタフィールドを発動した時も似た変化をしてる。ビーストが位相を変化させた……?)

エイスリン(高鴨穏乃が失踪したのはこれの影響があるかも)

更に前の記録に遡ると、次元の褶曲を表している所がもう一つあった。

エイスリン(これが『行った時』。さっき見つけたのは『戻ってきた時』か)

その時、エイスリンはあることに気づいた。
『戻ってきた時』の記録は一つの地点のみで記録されていたが、『行った時』は二つの記録があったのだ。

まさかと思いつつ、その地点がどこなのかを表示させる。そこは――





443 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/24(火) 18:48:04.91 ID:eLHe5n080

エイスリン(病院……と、阿知賀女子のホテルの近く……!)

エイスリン(この病院、レンが運ばれた場所……!しかも阿知賀のホテルの近くってことは……間違いない……!)

急いで『戻ってきた時』の地点も調べる。
そこは、先程ビースト振動波が確認された場所の付近だった。

エイスリン「……!」

エイスリンは急いで通信機で菫に連絡を入れる。

エイスリン「ヒロセリーダー!」

菫『はい、こちら弘世。イラストレーター?』

エイスリン「ビーストパルスガ、カクニンサレタバショ……チカクニ、タカカモシズノト、オンジョウジトキガイマス!」

菫『高鴨穏乃と園城寺怜が?』

エイスリン「ハイ!フタリヲ、タスケテクダサイ!」

菫『了解。切るぞ』





444 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/24(火) 18:48:49.03 ID:eLHe5n080

―――戒能良子サイド

良子は物陰に隠れながら園城寺怜の姿をビデオカメラに収めていた。
怜は携帯で電話をした後、末原恭子の側でじっとしていて、たまにポケットから変身アイテムを取り出して眺めたりしていた。

良子(それにしても皮肉なもんですね。私が助けようとしていた園城寺怜が倒さなきゃいけない相手になるなんて)

その時――誰もいなかったこの場所に人が現れた。良子は息を飲んで身を隠す。
ただの通行人ではない。あの三つ子を利用した日にも現れた白糸台高校チーム虎姫だった。

何故か彼女たちが武力を持っていることはあの日に確認済みだ。
良子はビデオカメラをバッグに放り込み、静かに路地裏を抜けた。





445 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/24(火) 18:49:31.89 ID:eLHe5n080

良子(……?)

通りに出ると、良子は足元に何かが落ちているのを発見した。
それは怪獣の人形だった。足裏を確認すると、紋章が刻まれている。間違いなくスパークドールだ。

良子(姉帯さんが高鴨穏乃を追って、慌てた彼女が落としていったってところでしょうか)

拾い上げた人形は、銀色で鋭利なフォルムをした超獣だった。
それをバッグに入れ、左右を確認する。右の道にもう一つ人形が落ちていた。

良子(ヘンゼルとグレーテルみたいですね)

近づいてそれを拾い上げる。今度は魚のような怪獣の人形だった。

良子(これは……使えそうですね)





446 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/24(火) 18:50:11.04 ID:eLHe5n080

―――虎姫サイド

菫「大丈夫か?」

怜「ああ、なんとか……って、何でそんな格好してんの?コスプレ?」

菫「こっちも人目につかないように必死なんだ。変なこと言わないでくれ」

怜「………」

虎姫の五人が現場に到着すると、そこには園城寺怜と倒れている末原恭子の姿があった。
高鴨穏乃とビーストは誠子と淡に追わせ、菫はトシに連絡を入れた。

菫「管理官。弘世です。園城寺怜と末原恭子を保護しました」

トシ『……それは本当?』

菫「?はい。今から二人を帰したいと思うんですが、手が空いてるメモリーポリスはいないでしょうか」





447 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/24(火) 18:50:48.02 ID:eLHe5n080

怜「お、おい待て。今から監督が来るって話になってるから、送りとかいらんで」

菫「あ、そうなのか?……すいません、その必要は無かったようです」

トシ『いえ、あるわ』

菫「は?」

トシ『末原恭子は別に渡してもいい。でも園城寺怜はこちらに連れてきなさい』

それを聞いて、菫は怜たちと距離を取った。

菫「……何のために?」

トシ『園城寺怜は…………限界なのよ。ウルトラマンとして戦うには。倒れる前にその光の謎を解明しなくちゃならない』





448 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/24(火) 18:51:14.18 ID:eLHe5n080

菫「人体実験をする……と?」

トシ『ええ。連れてきなさい』

菫「……分かりました。切ります」

ピッ

照「菫……?」

菫「……おい、園城寺。質問がある」

怜「……。なに?」

菫「今私は、お前をうちの基地に運ぶように命じられた。お前を人体実験にかけるつもりらしい」

怜「……は?」





449 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/24(火) 18:52:13.56 ID:eLHe5n080

菫「何故かと訊くと、お前がウルトラマンとして戦うには限界を迎えているからと言われた」

怜「なっ……」

菫「確かにお前は病弱そうだが、『限界』とは一体どういう意味だ?」

怜「……その前に聞きたいんやけど。あんたら一体なにもんなん……?」

菫「私たちは地球解放機構『TLT』に属する対ビースト殲滅部隊。『ナイトレイダー』だ」

怜「意味わからんわ……。何で女子高生、しかも麻雀部の連中がそんなことを……」

菫「お前が言ってくれたら、私たちも答える」

怜「………」





450 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/24(火) 18:52:57.70 ID:eLHe5n080

―――一方

穏乃(くそ……なんなんだ、あいつ……)

止まれば捕まる――穏乃は信号で止まって休むことも許されず、道という道を歩き続けていた。
後ろを振り向くと、変わらずこちらに歩いて来る黒づくめがいる。

棒になり軋む足を感じながら、穏乃は「このままじゃ捕まる」と思い始めていた。
ギンガスパークをぎゅっと握る。ライブして敵と戦う体力は残っていないが――もしかすると逃げるだけならできるかもしれない。

そう思って穏乃はポーチの中をまさぐった。しかし――

穏乃(……え?)

手のひらどころか、指の先にまで、何の感触もなかった。素っ頓狂な声を上げてポーチを掴み、中を覗き込む。
ここで穏乃は漸く気づいた。ポーチの口を開けて歩いていた。中身を落としていたことに気づいていなかった。




451 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/24(火) 18:53:45.58 ID:eLHe5n080

穏乃(も、戻って……)

しかし背後を振り返ると、黒づくめが歩んでくるのが見える。これまで以上の恐怖を感じた。もう奥の手も使えない。

穏乃(迂回して、元の道に戻れば……)

穏乃はそう考え、路地へ入った。黒づくめもそれについていく。
しかし、山育ちの穏乃が見たこともない都会を自在に歩くことは不可能だった。

気づけば――目の前に広がっているのは巨大な壁。
穏乃は行き止まりに辿り着いてしまっていた。

穏乃(しまっ……!)

急いで引き返そうと体を反転させる。しかし、黒づくめは既に行き止まりの口を塞いでいた。

穏乃「……あ」





452 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/24(火) 18:54:49.04 ID:eLHe5n080

ブラック指令「鬼ごっこは終わりだ」

一歩、黒づくめの靴が前へ進んだ。同時に穏乃の足は後退する。
黒づくめが腰に手を掛ける。すらりと、月光に照らされ、サーベルが抜かれた。

穏乃「……!」

唾を飲んだ。カラカラの喉を滑り落ち、痛みが喉と胸を襲う。
一歩後退する。目の前にはサーベルを掲げる巨大な黒づくめ。
月光の元に曝されたその顔には、満月のように丸く赤い瞳が一対、そして、吸血鬼のような牙を覗かせた口が不気味に笑っていた。

更に一歩。しかし、背中に固く冷たい感触が広がった。踵を動かしても、もう後ろへは動けない。

穏乃「やめろ……っ!」

その時、握りしめていたギンガスパークを思い出した。
さっきの時間怪獣との戦いの時のようにギンガの人形が出てきてくれれば。





453 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/24(火) 18:56:48.53 ID:eLHe5n080

穏乃(お願い、ギンガ……!)

しかし、何度念じても、ギンガスパークはうんともすんとも言わず、ギンガの人形も出てくる気配がなかった。

穏乃(なんでなんでなんでなんでなんで!!!)

もどかしさと焦りで胸がいっぱいになる。しかし、今自分が置かれている状況を思い出すと、身体中にぞわっと寒気が走った。
目の前には迫り来る黒づくめとサーベル。しかし私にはなすすべがない。
このままだと――

ブラック指令「ハァッ!!」

金属の鈍い煌めきが一閃した。腕を咄嗟に翳す。瞬間、苛烈な痛みが腕から全身へ駆け巡った。
焦点が定まらない目を向けると、腕はパックリと口が開き、血が溢れだしていた。

穏乃「あ……ぁ……」





454 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/24(火) 18:57:49.14 ID:eLHe5n080

ぺたりと座り込む。背中だけじゃなく、脚や腿にも冷たい感触が伝わっていく。
流れる血は温かく、しかし、外界が彼女に与える感覚は全てが冷たい。傷口からもその冷たさは滲んでいく。それはまさしく、死の感覚だと、穏乃は思った。

黒づくめがサーベルを振り上げた。
口から声にならない声が漏れだす。視点は迫り来る刃から離すことができず、意識は全身を動かそうと、しかし、この刹那にそんなことをできるはずもなく、彼女はその刃を甘んじて受け入れ――

――その時。金属の軽妙な音が、夜の静寂に響いた。

??「そこまでだっ!!」

もう一度、金属の音が鳴った。視界の端に、何かが落ちてきていた。油を差されていないブリキ人形のように首を動かす。
そこに落ちていたのは、先程まで穏乃を襲おうとしていたサーベルだった。

更に、頭の上から、ドラムのような音がリズムを刻んで聞こえてきた。
目の前の黒づくめが呻き声を上げて背後に倒れる。黒い滴がその全身から弾かれ、ライブが解かれた。





455 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/24(火) 18:58:18.06 ID:eLHe5n080

穏乃「はっ……はっ……」

そして、その代わりに――再び黒い影が目の前に現れた。
頭がショートしかかっていた。怒濤のように出来事が押し寄せ、穏乃の脳の許容量を軽くオーバーしていた。

??「あんたは私に倒されるためにいるんだから。何でこんなところで負けそうになってんの」

目の前の影が口を開く。不満げな声色は少女のもので、しかも、どこか聞き覚えのあるものだった。
彼女はこちらを振り向くと、ヘルメットを外した。その中から長髪が解き放たれ、露になった瞳は穏乃を見下ろしていた。

穏乃「大星……さん……?」

淡「大丈夫?怪我ない?」

淡が身を屈めて訊いてくる。
穏乃は胸の奥から込み上げてくるものを抑えきれなかった。顔が熱くなり、嗚咽が喉を遡ってきた。





456 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/24(火) 18:59:28.93 ID:eLHe5n080

淡「ちょっ……」

気づけば、穏乃は淡の胸に飛び込んで泣きじゃくっていた。
許容量を越えた現実は穏乃の体を突き破り、安心感を求めていた。彼女も16歳の少女であり、それも無理ないことだった。

穏乃「うっ……ひぐっ……ぐすっ……」

淡「ま、亦野先輩……?交代してくれない……?」

誠子「少し空気読めって。それにしてもこの人、宮守女子の姉帯豊音だな。何でこんなとこで……」

淡「前の三つ子みたいにビーストに囚われてたんじゃない?」

誠子「っていうか、さっきのビースト完全に人型だったよな。姉帯豊音がビーストヒューマンになってたってわけか?」





457 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/24(火) 18:59:56.57 ID:eLHe5n080

淡「でも、血とか流れてないよね。……まさか外した?」

誠子「いや、確かに命中した。でも意識を失ってるだけみたいだ」

淡「……?」

誠子「とりあえず報告を上げよう」

ピッ

誠子「弘世先輩、亦野です。ビーストを倒して高鴨穏乃を保護しました。あと、ビーストの正体は姉帯豊音でした……」

菫『……そうか、お疲れ。園城寺怜のところにいるからこっちまで連れてきてくれ』

誠子「分かりました。切ります」

ピッ

誠子「ほら、行こう。立てるか?」

穏乃「うっ、ぐすっ……すいません……」





458 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/24(火) 19:00:52.70 ID:eLHe5n080

淡「あのーそろそろ離れてほしいんだけどー?」

穏乃「ご、ごめんなさいっ」バッ

淡「はあ。早く帰って休もー」

誠子「そうだな。試合終わってすぐなんて疲れる……」

穏乃「………」

穏乃はこれまでの会話から、淡たちの正体を察していた。
あの宇宙化猫との戦いの日に出会った『ウルトラマンを知っている人』。彼女たちがそれだったのだと理解した。

しかし、それと同時に疑問も浮かび上がった。
どうして女子高生である彼女たちが武器を持ち、戦っているのだろう。

そう考えることができたのは穏乃が安心したからだった。
ついさっきまでは命のやり取りという張り詰めた空気の中で、思考はそれだけに集中されていた。
安心したことで周囲の事情などに思慮を及ぼすことができたのだ。

しかし次の瞬間――空から降る轟音が、その安寧を切り裂くように耳をつんざいた。





459 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/24(火) 19:01:43.45 ID:eLHe5n080

穏乃「!?」

淡「何の音……!?」

三人が天を仰ぐ。黒い夜空に金色の円盤が浮かんでいた。
呆気にとられる中、円盤から光弾が地上に向かって放たれる。瞬く間に光弾は着弾し、閉塞された路地裏の三人を襲った。

誠子「……っ!」

淡「亦野先輩……!?」

誠子が脚に手をやって倒れていた。淡が駆け寄ると、汗が額に滲んでいるのが見てとれた。しかし誠子は手を払い、淡を促す。

誠子「大星、行け!あいつを誘導するんだ!」

淡「!了解っ!」

天に向けられたディバイトランチャーが火を吹く。円盤の底部に弾丸が命中し、円盤が回転を止めた。
淡は攻撃の手を緩めず、走って行き止まりから出ていく。円盤はそれを見て彼女の方へ光弾を撃っていった。

穏乃「大星さん……!」





460 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/24(火) 19:02:37.01 ID:eLHe5n080

―――菫サイド

ディバイトランチャーの銃撃の音が響いて聞こえてきた。
四人は一斉に顔を向け、その上空に金色の円盤が浮かんでいるのを発見した。

菫「なんだ……!?」

ピピッ

菫「!はい!こちら弘世」

通信機を見やる。画面にエイスリンの顔が現れ、日本語と英語の二重音声が流れ出した。

『新たなビースト振動波をキャッチ。場所は変わらず、すぐ近くです!』





461 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/24(火) 19:04:03.31 ID:eLHe5n080

菫「ああ、こちらからも見えている。金色の円盤のようなビーストだ」

『チェスターに搭乗、攻撃を開始してください』

菫「了解。照、お前はαで。私はβで出る」

照「うん」

菫「堯深、お前は園城寺を安全な場所へ。終わったら淡と亦野と合流して連絡しろ」

堯深「はい……!」

そう言って菫と照は走り出した。
通信機を操作すると、月光の元に青と黒の戦闘機が照らし出された。
“オプチカムフラージュ”というシステムにより、ナイトレイダーの主力戦闘機『クロムチェスター』は透明になって姿を消すことができるのだ。
照はスタンダートな――といっても一般的な戦闘機とは大きく掛け離れているα機、菫はジャイロが特徴的なβ機に搭乗し、二つの戦闘機は垂直に離陸した。





462 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/24(火) 19:04:53.40 ID:eLHe5n080

―――β機コクピット内

ピピッ

菫「淡、応答しろ」

淡『はい……!』

菫「イラストレーターからの指示は受けたか?空から援護する」

淡『了解。私は亦野先輩と高鴨穏乃と姉帯豊音を回収しま…………できるかな』

菫「亦野に何かあったのか?」

淡『足を負傷して動けない状況です』

菫「そうか……なら、ビーストをもっと引き離そう。ポイントGまで誘導する」

淡『了解っ!』





463 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/24(火) 19:05:40.31 ID:eLHe5n080

ビーストの上にまで昇ると、円盤の全形が見えた。
金色の円盤の表面には突起がゴツゴツと突き出ており、その中央には龍を模したオブジェが乗せられている。

菫「攻撃、開始!」

照『スパイダーミサイル、発射』

α機の両翼のミサイルが発射され、円盤の上部へ命中し、火の手が上がる。
それを見て菫も操縦桿のボタンを押す。β機の機首下の砲台からビームが放たれ、円盤を攻撃した。

円盤「ギヤァァァア!!」

円盤が金属音のような叫び声を上げた。
驚いて円盤に目を向ける菫と照の前で円盤はその形を変形させていく。

円盤は『とぐろを巻いた龍』だった。
全身を金色に輝かせる東洋龍のロボット怪獣――“宇宙竜”ナースは、荒川憩がダミースパークで変身した姿だ。

ナース「キュゥウウウア!!」

ナースが海蛇のように身をくねらせ、β機へ突進してくる。菫は操縦桿を思いっきりに倒し難を逃れたが、ナースは即座に身を翻した。





464 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/24(火) 19:07:07.19 ID:eLHe5n080

―――地上

「なんだあれ!」

「映画の撮影とかじゃねえのかよ……?」

ナースとチェスターの空中戦を発見した地上の人々は、空を見上げて放心したり、はたまた悲鳴を上げながら逃げたりしていた。
β機がナースの突進を躱す。しかしナースは即座に身を翻し、背後から追撃した。
β機が煙を吐き出しながら墜ちていく。墜落した地点に爆発の炎が上がったのを見て、絶句していた人々も足を動かした。

「うわぁぁぁぁ!!」

「逃げろーーーーっ!!」

群衆が散り、走り去っていく、そんな中で、怜は変わらず立ち止まって空を見上げていた。
暗くてよく見えないが、空中にパラシュートが見える。菫か照かは分からないが、無防備なのは見るからに明らかだった。

急いで路地に入り、ポケットから変身アイテム“エボルトラスター”を取り出した。
白い短刀のようなそれを腰に構え、鞘を抜き、体の前にそれを翳す。

淡い暖色がその軌跡を描き、中央の深い緑のコアから放たれた光が怜を包んでいった。





465 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/24(火) 19:07:44.80 ID:eLHe5n080

―――α機コクピット内

照「菫!」

空中で無防備な菫にナースが目をつけた。
α機はミサイルを放つが、それよりも先に凄まじいスピードでナースが空を切り裂いていく。

照(間に合わない――!)

思わず目を瞑ったその時、瞼の隙間から白光が潜り込んできた。
目をゆっくりと開く。菫がいた場所に銀色の巨人が浮かび、ナースの首を抱き抱えていた。

照「園城寺さん……?」

巨人は左手を地上に向け、ロープのような光線を放った。巨人が菫を救出し地上に戻したのだ。

菫『すまん、心配かけた』

照「……よかった。引き続き、ウルトラマンを援護する」





466 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/24(火) 19:08:38.93 ID:eLHe5n080

巨人「シュッ」

左手を胸のコアに翳し、振り下ろすと、ウルトラマンの銀の体躯が青のものへと変わった。
ウルトラマンはそのままメタフィールドを展開した。空から降り注ぐ金色の雨は彼とナースを包み、姿を消していく。

暗闇の都市に小さな光が舞い降りると、先程まで展開されていた光景は完全に姿を消してしまっていた。

「消えた……?」

「幻覚だったのか?」

「でも、こんな人数が一斉に幻覚見るって……」





467 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/24(火) 19:09:27.77 ID:eLHe5n080

一方、地上の菫はトシに連絡を入れていた。

菫「夜、人通りも多かったので目撃者はかなりの数です。メモリーポリスでも対応しきれるかどうか……」

トシ『……園城寺怜は変身したのかい』

菫「……はい。申し訳ありません」

トシ『……っ。なら、メタフィールドから出てきたら、即。拘束しなさい。園城寺怜が息絶える前になんとしてでも連れてくるのよ』

菫「息絶える?」

トシ『!……何でもないわ。それより、記憶消去については“レーテ”を使うわ』

菫「分かりました。切ります」

ピッ

菫(園城寺……何を隠している……?)





468 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/24(火) 19:10:01.84 ID:eLHe5n080

―――メタフィールド

巨人「シュアァッ!!」

ナース「キュアァァア!!」

ウルトラマンの右手甲から伸びた光の剣“シュトローム・ソード”が空を切った。
ナースは体をうねらせ、巨人の更にその上へ飛び上がった。彼が見上げる。赤と黒の空を背景に、ナースは突進してくる。

巨人「ハァァッ!」

その首を叩き切ろうと光の剣を振るうが、ナースの素早い動きを捕らえられず、するりと躱されてしまう。
逆にナースは、その長い胴体をウルトラマンに巻き付けた。

巨人「ハァ……ハァァッ……!」

ナース「キュアァァア!!」

ナースの締め付けの圧迫が巨人の体を軋ませる。
特に、腕の剣を振らせないようにがっちりと絞めていたため、ウルトラマンは身動きが取れず、逃れられない。




469 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/24(火) 19:10:32.12 ID:eLHe5n080

ナース「キュアァァァア!」

ナースはそのまま猛スピードで降下し始めた。何とか抜け出そうとするが、疲労の所為なのか力が入らない。
そして地上間際。ナースはするりと巨人の体躯から抜け出し空中へ躍り出た。それとは反対にウルトラマンは地面へ叩きつけられる。

地面は衝撃で小さく凹み、ウルトラマンが埋め込まれていた。
全身がじんじんと痛み、背中に焼けるような感覚が走っている。ウルトラマンは仰向けのまま、指先すらも動かせなかった。

ナース「キュゥウウウン」

空中で器用にとぐろを巻き、ナースが円盤形態に戻った。
円盤の底部から光弾が降り注がれ、動かないウルトラマンに立て続けに命中する。

巨人「……シュ……ア」

胸のカラータイマーが点滅を始めた。小気味よい点滅音の狭間に、心臓の拍動のような音が混じる。
ウルトラマンの中の意識――怜はその音を聞きながら、いつか見た未来のことを思い出していた。


---
-----
-------





470 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/24(火) 19:11:06.13 ID:eLHe5n080

アカデミー時代。

海岸まで到達できた怜は、『予知』というものの不確かさを痛感していた。
彼女もまたエイスリンと同じく、海岸まで辿り着けないという未来を見ていた。だが、その未来は変わった。変えられたのだ。

ある時、怜はもっと先の未来を見ようと思い至った。
一日、一週間、一ヶ月。そして一年、二年と。

怜が見た未来は――『自分が死ぬ』という未来だった。
かいつまんだ情報によると、どうやら彼女の体細胞は17歳から18歳に至るまでに壊死を起こしてしまうらしかった。

怜はすぐ行動を起こした。アカデミーから脱走する計画を立て、日本へと逃亡した。
彼女が見た未来は、『アカデミーの中の怜』だった。そこから逃げてしまえば未来は変わると思ったのだ。

しかし日本に来てすぐの頃だった。怜は予知ができなくなった。
厳密に言うと可能ではあるのだが、予知はほんの数分後が限界となり、しかも体力の消耗が激しくなっていた。

嫌な予感を胸に、彼女は17歳の誕生日を迎えた。
それから毎日、自分の体の調子を入念にチェックした。
そして、その結果――

怜は、『自分が死ぬ未来』からは逃れられないことを知った。





471 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/24(火) 19:11:41.18 ID:eLHe5n080

-------
-----
---


巨人「………」

点滅音と拍動。それらのリズムは時間が経るごとに遅くなっていき――
ウルトラマンの光が、消滅した。

瞳、カラータイマー、コア。全てから光が消え、それに連動するようにメタフィールドも消滅していく。

ナース「キュアァァア!!キュアァァア!!」

再び夜空に解き放たれたナースは身悶えるように躍り狂い、円盤形態に戻ると、地上を光弾で攻撃し始めた。
一方、ウルトラマンの存在を知る者は、彼の敗北した姿にショックを隠せなかった。

穏乃「嘘……」

照「園城寺さん……」





472 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/24(火) 19:12:42.02 ID:eLHe5n080

―――宮守女子の部屋

パソコンの画面に映るウルトラマンの姿。
彼の正体が怜だと知っているエイスリンもまた、衝撃を受けていた。

エイスリン「レン……」

しかしエイスリンは唇を結び、貝殻をぎゅっと握りしめ、念じ始めた。

エイスリン(……レン!レン!聞こえる?)

『……エイス、リン……?なんか……?』

掠れ、今にも消えてきそうな声がエイスリンの頭に響いた。

エイスリン(レン……光を信じて)

『光を……』

エイスリン(うん。お願い……死なないで……)

『………』





473 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/24(火) 19:13:20.74 ID:eLHe5n080

―――現場

照『……くっ』

円盤がチェスターを追跡していた。放たれる光弾をからくも躱し、攻撃に転じようとするが、中々ナースは隙を見せない。
淡と堯深はγ機に搭乗し、同じくナースを追っていたが、そのスピードと小回りの利く動きに翻弄されていた。

淡『くっそ、ちょこまか鬱陶しい!』

堯深『宮永先輩、頑張ってこらえてください……』

照『うん……』

その時。地上に倒れているウルトラマンの胸のコアが光り始めた。

照『……?』

淡『なに……』





474 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/24(火) 19:14:18.72 ID:eLHe5n080

信じられないことが起きた。身体中から光や生気が感じられずとも、ウルトラマンが立ち上がった。
今もなお、今にも途切れそうな鼓動がコアを流れ、それによって彼の命は支えられていた。

ナース「ギャアーーーン!!」

ナースが叫び声を上げ、地上のウルトラマンへ向かっていく。
瞳では捉えていたが、それを躱すこともできず、彼は無抵抗にナースの締め付けを浴びた。

巨人「ハ……アァ……」

力ない声が細々と虚空に投げ出され、消えていく。
彼の命もまた消え去ろうかと思うところで、虎姫メンバーはまたもや目を疑う光景を目撃した。

ナース「キュウ……アァァァ……!」

ナースが突如苦しみ始めたのだ。そして、それにつれてウルトラマンの各部位に光が戻っていく。
果てには、巻き付いている体躯から火花が飛び、ナースは悲鳴を上げてウルトラマンを解放した。




475 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/24(火) 19:14:49.91 ID:eLHe5n080

巨人「シュアッ!!」

艶のある銀色を輝かせ、力強い声を上げてウルトラマンが構える。胸に翳した右腕には光の弓が投影された。

ナース「キュアァァア!!」

ナースが突進を始めた。ウルトラマンは光の弓の照準を合わせようとはせず、そのまま身構えて迎え撃つ。
接近してナースは身をくねらせた。そのままウルトラマンの体に巻き付く算段で、素早く首を巨人の腰に回す。

しかしウルトラマンは、その巻き付きをも躱す速度で跳躍した。
腕を自分の真下に向け、跳ぶと同時に添わせた左手を引く。虹色の光が弦となって弓に纏った。

巨人「シュアッ!!」

その掛け声と共に弓形の光弾“アローレイ・シュトローム”を放つ。
巻き付こうとして躱された――その体勢から回避へ移行することはナースでも不可能で、光の弓は見上げたその顔を両断した。





476 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/24(火) 19:15:51.63 ID:eLHe5n080

ナース「キ……ギギ……」

機械がショートする音がし、ナースの体は爆発の中に消えていった。
ウルトラマンは少し離れた場所に降りたって弓をコアに戻し、少しの光の中に身を消した。


照『やった……』

穏乃「よっしゃー!」

その逆転劇に穏乃や虎姫、更には何の事情も知らない群衆も揃って歓声をあげた。
しかし、そのムードから少し離れ――ウルトラマンが消えた場所には、怜が苦悶の表情を浮かべて倒れていた。


To be continued...





477 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/09/24(火) 19:17:13.27 ID:eLHe5n080

登場怪獣:ウルトラセブン第11話より、“宇宙竜”ナース
ウルトラマンレオ第40話~第51話より、ブラック指令

また今度続き書きます





484 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/01(火) 16:53:03.79 ID:lUFwCW990

第十一話『勇士の証明』


―――白糸台高校、チーム虎姫の部屋

エイスリン『まずこの映像を見てください』

スクリーンに映し出されたエイスリンの顔が消え、代わりにウルトラマンとナースの戦闘の映像が流れてきた。
光を失ったウルトラマンにナースが巻き付く。しかし次の瞬間、ナースは突如苦しみ始め、ウルトラマンの瞳に光が戻っていく。

エイスリン『ウルトラマンがビーストに巻き付かれ、接触した時。ビーストが放つ振動波が急に減少しています』

エイスリン『逆にウルトラマンから放たれているビースト振動波の波長は一気に強くなっています』

エイスリン『さっき高鴨さんに聞いた話と合わせると、ダークスパークの闇を光に転換したということでしょう』

穏乃「あのウルトラマンにそんな力が……」





485 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/01(火) 16:53:44.60 ID:lUFwCW990

タロウは、ダークスパークのエネルギーはスパークエネルギーのものと言っており、ウルトラマンの原動力もそれだという。

穏乃「ってことは、園城寺さんが変身するウルトラマンもタロウと故郷が同じなのかな」

タロウ「私はこのウルトラマンを知らないが……ギンガの例もあるし、その可能性は十分にあるな」

穏乃の肩に乗っているタロウが答えた。
彼女の隣に座る淡は未だに信じられないという表情でタロウを見ている。

怜「う、ううーん……?」

ソファに横になっていた怜が目を覚ました。起き上がろうとするが、堯深が彼女を制する。

堯深「まだ横になっててください……」





486 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/01(火) 16:54:18.36 ID:lUFwCW990

怜「……ここはどこ?」

菫「ここは白糸台高校。私たちチーム虎姫の部屋だ」

壁に背をもたれかけ、腕組みした菫が答えた。
寝たまま体をそちらに向ける。菫の横の窓にはカーテンが引かれていたが、部屋の中の雰囲気から怜は今は夜だと推測した。

しかしそれと同時に、菫の隣に置かれた椅子に腰かけている人物が目に入ってきた。
黒い制服に身を包んだ体の大きな女性は姉帯豊音――ではあったが、怜はその格好を見て驚いた。

豊音「んー!んー!」

彼女は椅子に縛られ、口に布が巻かれていた。要するに拘束されているのだ。
怜にはこの状況がいったい何なのか理解できなかった。

怜「……あかん。一から説明して」

菫「言われなくてもそのつもりだ。亦野」

誠子は頷き、豊音を部屋の外へ運んだ。





487 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/01(火) 16:56:13.34 ID:lUFwCW990

彼女が戻ってくると、画面が切り替わり、エイスリンの顔が大画面に映った。

怜「エイスリン……?!」

エイスリン『久しぶり、レン』

怜「……お前もこの……なんとかちゅう組織に入っとるんか?」

菫「彼女はナイトレイダーの参謀だ。『プロメテウス・プロジェクト』は元よりこれが目的だったようだな」

怜「え……?」

エイスリン『私から説明します。私と怜は“プロメテウス・プロジェクト”という計画により生まれました』

エイスリン『プロメテウス・プロジェクトは、優秀な遺伝子同士を掛け合わせることで天才児を人工的に誕生させる計画でした』





488 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/01(火) 16:57:05.02 ID:lUFwCW990

エイスリン『しかしこの計画には裏があった。プロジェクトメンバーはTLTと繋がりがあって、次世代の“コンタクティ”を作り出すのが隠された本当の目的だったんです』

怜「コンタクティ……?」

エイスリン『“来訪者”と交信ができる者。さっき私が貴方に送ったテレパシーと同じ』

怜「あぁ……。でも、来訪者って……?」

菫「ここからは私が話そう。高鴨もよく聞いてくれ」

神妙な面持ちをして、穏乃は頷いた。

菫「今から24年前。アメリカのとある無人地帯に隕石が落下した」

菫「その隕石には遥かM80蠍座球状星団からやってきた宇宙の難民……“来訪者”と呼ばれる不定形生命体が乗っていた」

菫「意思疏通が図れなかった人類は、超能力を持つ少年を使ってコンタクトを取ろうとした。それが成功したんだ」

怜「……その後継者を作ろうってこと、か」

エイスリン『ウン』





489 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/01(火) 16:57:48.13 ID:lUFwCW990

穏乃「来訪者っていうのは、何を語ったんですか?」

菫「スペースビーストによる、来るべき地球の破滅……だ」

穏乃「!」

菫「……だが、さっき高鴨とウルトラマンタロウから聞いた話によると、最近都内に出現したビーストは私たちが思っていたビーストとは違うらしいな」

怜「ウルトラマンタロウって……その変な人形のこと?」

タロウ「変な……」

穏乃「はい。彼はM78星雲から来たウルトラマンで、ダークスパークの力でこんな姿にされてるんです」

淡「さっきの現場に来てたみたいで、合流してここにいるの」

それから穏乃は、タロウが何故地球にやってきたのか、ウルトラマンギンガの正体は何なのかを怜に話した。




490 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/01(火) 16:58:25.82 ID:lUFwCW990

怜「ふぅん……ウルトラマンは宇宙人やったわけか」

穏乃「まだ園城寺さんの方はわかりませんけど……」

タロウ「とりあえず、今までの話を聞くに、君自身が光の国のウルトラマンということではなさそうだな」

怜「ああ。私はれっきとした人間――」

そこまで言って、怜は口をつぐんだ。

エイスリン『……レン』

怜「………」

穏乃「……大丈夫ですよ!生まれが少し特殊なだけで、園城寺さんは私たちと何ら変わらない人間じゃないですか!」

怜「………」

ふと、脳裏に竜華やセーラたちの顔が浮かんだ。
自分に異端の力があると知っても普通に接してくれた彼女たち。その存在がある限りは、自分は人間だと思った。





491 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/01(火) 16:59:04.50 ID:lUFwCW990

怜「……そうやな。私は人間。もちろんエイスリンも」

画面の中のエイスリンはにっこり笑って頷いた。
彼女にも信じられる仲間がいた。二人の道は分かれていたが、歩いてきた中で得た物は同じだった。

菫「話を戻すぞ。とりあえず、ダークスパークの力で変身したのを『怪獣』、私たちが追ってきたのを『ビースト』と呼ぶ」

菫「来訪者からの預言があり、国際連合は破滅を防ぐ組織『TLT』を秘密裏に設立した」

菫「来訪者は、彼らの発達した文明を人類に伝えた。ナイトレイダーが持つオーバーテクノロジーの武器や戦闘機がそれだ」

菫「そして今から10年前――ここ東京に最初のビースト、“ザ・ワン”が出現したんだ」

穏乃「10年前……」

菫「流石に阿知賀女子の生徒は察しがいいか」

穏乃「えっ?」





492 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/01(火) 16:59:55.69 ID:lUFwCW990

菫「ザ・ワンと戦ったのは、宇宙から飛来したウルトラマンと融合した赤土晴絵だった」

穏乃「……え?」

菫「ザ・ワンは……当時のインハイに参加していた女子高生の一人と融合し、その体を乗っ取っていた」

何を言っているのか穏乃には理解できなかった。
10年前、テレビで見ていた。晴絵が準決勝の舞台で敗れるその姿を。

穏乃「そんなっ……嘘でしょ!だって私は……」

菫「これが真実だ。その為の記憶消去、そして記憶改竄だ」

菫「“レーテ”はウルトラマンの力を持つ者には通用しないらしい。お前も違和感を感じていただろう?」

確かに、今まで怪獣が出ても、翌日には怪獣のカの文字も出なかった。
それどころか真実に反した事実がでっち上げられ、何も悪くない人が怪獣の罪を被ったりもしていた。





493 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/01(火) 17:01:02.48 ID:lUFwCW990

怜「……“レーテ”って?」

菫「来訪者による記憶消去装置。消去というよりは掃除機のようなものだ。消去した記憶はレーテに蓄えられている」

穏乃「……赤土先生は」

菫「ああ。10年前、ウルトラマンと初めて融合した赤土晴絵はザ・ワンと戦い、そして勝利した」

菫「その際、ザ・ワンの体を構成する粒子は世界中にばら蒔かれ、ビーストの種となっている」

穏乃「何で赤土先生は……惨敗したなんていう嘘をついたんですか……?」

菫「……恐らく、それが一番周りに迷惑がかからなかったから、だろうな」

穏乃「え?」





494 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/01(火) 17:01:36.96 ID:lUFwCW990

菫「彼女は唯一ウルトラマンと融合した人間だ。TLTは彼女を捕らえて人体実験を繰り返し、ウルトラマンの光の謎を解明しようとした」

穏乃「!」

菫「更には四六時中TLTによる監視がついた。ウルトラマンに繋がる手がかりが他になかったからな……」

菫「だから惨敗したと捏造したんだろう。傷心して、そっとされていれば、周囲に迷惑がかからなかっただろうから」

穏乃「………」

菫「そして――次代の“適能者”。ウルトラマンの光を継ぐ者。それが園城寺、お前なんだ」

怜「……まだ解せんとこがある」

菫「なんだ?」

怜「どうして人々の記憶を奪った?確かにパニックは起こるかもしれへん。でも、そこまでひた隠しにする方がリスクが大きいんやないんか?」

菫「……その必要があったから、だ」

怜「必要?」





495 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/01(火) 17:02:19.50 ID:lUFwCW990

菫「スペースビーストとは……高度な知性に宿る『恐怖』を餌とする生命体」

菫「ビーストに恐怖し、更にビーストが増える。この負の連鎖によって来訪者の星は滅びてしまった」

菫「だから人々にビーストの存在を認識させてはならないんだ。その為に記憶消去のシステムを作る必要があった……」

怜「……。大体は分かった。で、今のこの状況は何なん?」

菫「さっきも言ったが、お前は今、熊倉管理官に狙われている。だから私たちはこうして人質を取って立て籠っている」

怜「人質って……」

菫「熊倉管理官は宮守女子の監督だ。姉帯豊音を実の娘のように可愛がっていたらしい」

菫「園城寺怜に手を出そうとすれば姉帯豊音がどうなっても知らない……そう脅して今に至っている」





496 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/01(火) 17:03:02.21 ID:lUFwCW990

怜「……すまんな。迷惑かけて」

照「気にしないで」

菫「ああ。目の前で同年代が死なれるなんてまっぴらごめんだからな」

怜「……え」

菫「お前の体のことはイラストレーターから聞いた。17から18歳になるまでに寿命が来ると」

菫「お前が生まれたのは9月2日。本当に限界じゃないか」

怜「………」

菫「……園城寺。お前はもう変身しなくていい。怪獣、ビーストの退治は私たちに任せてくれ」

怜「でも……あんたらもただの女子高生やろ……。そんな奴らに任せるなんて」

菫「ナイトレイダーは私たちだけじゃない。日本支部にも他に何チームかあって、それぞれがビースト殲滅に当たっている」

菫「だから気にするな。必ず私たちが出るというわけでもないんだから」





497 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/01(火) 17:03:41.29 ID:lUFwCW990

穏乃「………」

その会話を聞いて、穏乃はインハイ三日目の朝を思い出していた。
穏乃はタロウに「これ以上戦うな」と言われた。だが彼女は、自分でやらなくてはいけない理由を見出だし、戦う事を決意した。

穏乃は薄々予感していた。怜もその理由を見つけたならば、戦う道を選ぶだろうと。
自分はそれを止めなくてはならない。怜はもう変身に耐えきれる体ではない。

だが穏乃自身も戦う力が殆ど残ってはいなかった。
人形は予備にホテルに残してあったものが一つあるのみで、しかもそれは今、手元にはない。
ギンガもどうしたら力を貸してくれるのかが分からない。そのため、この時点で穏乃は完全に無力だった。

穏乃「……タロウ。ごめんだけど、ホテルの部屋からブラックキングの人形を取ってきてくれない?」

タロウ「分かった。できるだけ早く戻れるよう尽力する」

穏乃「うん。頼んだよ」

タロウ「ああ」

ヒュンッ

淡「うわっ、消えた!」





498 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/01(火) 17:04:50.04 ID:lUFwCW990

怜「そういや、もう一つ聞きたいことがあった。何で女子高生のあんたらがこんな仕事やってんの?」

菫「初めてビーストが現れたのがインハイ会場だったから……だから全国一の力がある高校のチームに武力を持たせたのかもしれない」

怜「何が起きても、その場におれるようにか?」

菫「……だが腑に落ちない点もある。白糸台がナイトレイダーとしての仕事を始めたのは二年前のことなんだ」

怜「……そっか。妙やな」

穏乃「何がですか?」

菫「高校生のチームに防衛力を持たせるという目的なら、もっと早く実施してもよかった筈だ」

怜「最初のビーストは10年前にはもう出てきてたからな」

穏乃「はぁー……なるほど」





499 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/01(火) 17:06:03.57 ID:lUFwCW990

菫「しかも、人口密集地には来訪者の超能力による“ボテンシャルバリアー”というものがある」

菫「それによって市街地にはビーストが出現できないようになっているんだ」

穏乃「……何か、変ですね?わざわざビーストが出てこない場所を徹底するなんて」

菫「ああ。……もしかすると、上はまだ隠してることがあるのかもしれないな」

エイスリン『………』

穏乃「あの、赤土先生に電話してもいいですか?今日は帰れないって連絡しとかないと」

菫「ああ」

礼を言って、穏乃は晴絵に電話を掛けた。





500 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/01(火) 17:06:55.24 ID:lUFwCW990

コール音はすぐに破られた。聞こえてきた晴絵の声は、鬼気迫り、荒んでいるようだった。

晴絵『しず!?無事か!?』

穏乃「はい。……心配かけました」

晴絵『よかった……本当に……』

穏乃「それで、今日はもうそっちに帰れないので、その連絡をって」

晴絵『帰れない?どうして!?』

穏乃「お、落ち着いてください。私は……誰かに狙われてるからここを出ちゃいけないって言われてて……」

菫「高鴨。赤土晴絵はレーテの力が通じないようになっている。ぼかす必要はないぞ」

穏乃「え?……先生?あの、ナイトレイダーって分かりますか?」





501 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/01(火) 17:07:36.93 ID:lUFwCW990

晴絵『まさか、捕らえられたのか!?嘘をつくよう脅されてるとか……』

穏乃「違いますよ!逆に……私を守ってくれてるんです。安心してください」

晴絵『本当に?』

穏乃「本当です」

晴絵『……。分かった。お前は嘘が苦手だもんな。ついてたらすぐ分かる』

穏乃「先生は……初めから私のことを知ってたんですか?」

晴絵『初めからって訳じゃないけど……。宥と一緒に倒れてた日に勘づいた。あのウルトラマンが穏乃なんじゃないかって』

穏乃「……ごめんなさい」

晴絵『なに謝ってんの。お前はたくさんの人を守ってきたんだ。私の方こそ、何もしてやれなくてごめんな』

穏乃「そんな……」





502 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/01(火) 17:08:05.35 ID:lUFwCW990

晴絵『……とにかく、みんなには適当に取り繕っておくよ。決勝までには戻ってこいよ』

穏乃「はい。そうなるように頑張ります」

晴絵『うん。じゃ、切るよ』

穏乃「おやすみなさい」

晴絵『……おやすみ』









503 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/01(火) 17:08:42.11 ID:lUFwCW990

―――翌朝、インターハイ九日目

新道寺女子のホテル。
部長の白水哩は外のベンチに座り、ぼーっと物思いに耽っていた。

姫子「ぶちょー、なんばしよーとですか?」

哩「姫子……。ただん考えごと」

姫子「……」

それきり、姫子は黙り込んでしまった。
周囲には誰もいなかった。哩も口を開かず、乾いた静寂だけが二人の間に流れた。

姫子「……部長!」

哩「ん?」





504 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/01(火) 17:09:38.36 ID:lUFwCW990

姫子「こん夏が終わっても……その……」

哩「大丈夫。分かっちょるよ」

姫子「……はい!」

二人は顔を見合わせて、笑顔を交わした。
哩は三年生、姫子は二年生だった。新道寺女子は昨日の準決勝にて敗退を喫してしまったため、この二人が高校の団体戦で組むことはもう無くなってしまった。
だが二人は、ただのチームメイトという間柄はとっくに越えていて、お互いに離れたくないという想いを強く持っていた。

来年になると哩は大学生。インハイに向けて一直線だった彼女はどこに進学するのかもまだ決まってはおらず、こんな状況になってから姫子はそわそわと、彼女の行く末が気になりだしたのだ。
だが彼女は「分かっている」と言ってくれた。その一言だけで、姫子の胸のつっかえは取り除かれた。
きっと、来年も、そのまた来年も一緒にいてくれる。未来への展望など何も持ってはいないが、哩が約束してくれた未来は覆ることはないだろう。





505 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/01(火) 17:10:37.42 ID:lUFwCW990

哩「部屋に戻ろう」

姫子「ですね」

二人が立ち上がった時だった。二人きりだったこの場所に、誰かが侵入してきた。
しかもその人は歩みをまっすぐこちらに向けてくる。姫子はその姿を見て思わず動きを止めた。

姫子「……あの人」

どんどんと大きくなっていくその姿に姫子は見覚えがあった。
哩も同じだった。二人はぽかんと口を開けながら立ち尽くし、その人が目の前に来るまでずっとそうしていた。

良子「グッドモーニングです」

姫子「か……戒能プロ!?」

良子「イエス。ちょうど会えて良かったです」

姫子「え……?」





506 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/01(火) 17:11:21.87 ID:lUFwCW990

良子「あたなたちのパッショナートなハート、使わせてもらいますよ」

そう言うと、彼女の瞳が赤く光り始めた。
哩と姫子はその光に魅入られ、心の中に闇の侵食を許してしまった。

二人の手の中にダークダミースパークと人形が一つずつ現れる。
しかし、二人はそれですぐ変身しようとはしなかった。どころか、まるで何事もなかったかのように会話を続けた。

姫子「えっと……ちょうど会えて良かったとは?」

良子「ちょっと、白水さんに用がありまして。お借りしてもいいですか?」

姫子「えっ……」

姫子は驚いて哩の方に目を向けた。哩の方はそんな彼女の視線に驚いたようだったが、「すぐ戻るから」と諌めて良子に近づいた。





507 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/01(火) 17:12:29.28 ID:lUFwCW990

哩「何のお話ですか?」

良子「プロ入りの件でお話がありまして」

姫子「!?」

哩「プ……プロ入り?そんな話まだ全然聞いたことも……」

良子「ええ。ですから、今からそのお話を、と」

哩「は、はあ」

良子「それでは、行きましょうか」

良子は哩の手をぎゅっと握って引っ張り、そのまま道の向こうへ姿を消してしまった。
姫子は呆然としながら立ち尽くしていたが、二人の姿が見えなくなってから我に返った。

もし哩がプロ行きになったならば。全国のあちこちを飛び回って仕事をすることになり、当然会うことも少なくなるだろう。
姫子は不安な表情を隠しきれないまま、とぼとぼとホテルの中へ戻った。





508 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/01(火) 17:13:18.37 ID:lUFwCW990

―――喫茶店

良子「じゃあ単刀直入にいきますね。白水さんはプロ入りに興味はありますか?」

哩「無いわけじゃなか……無いわけじゃないです。でも、出来れば地元の大学を出てから行きたいなと」

良子「なるほどです。でも、一つ忠告しておきます」

哩「?」

良子「大卒でプロへ行けば、その分プロ歴が減ります。つまり、より高いレベルの場所でプレイできる期間が減るわけです」

哩「………」

良子「実際、大学に行ったことによりドラフト指名を回避された人もいます」

良子「大卒でプロへ行くにはキャンパスライフなんて目もくれずに鍛錬し続ける覚悟が必要なんです」





509 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/01(火) 17:14:40.48 ID:lUFwCW990

良子「というより、大学へ行く人は自分の青春に未練を残している人が多いんです。だから、高卒プロよりレベルが下がってるケースが多い」

良子「あなたはどうですか?何のために大学へ行くんですか?」

哩「……それは」

良子「そこらをよく考えておいたほうがいいです。それじゃ、また連絡しますね」

突き放すようにそう言って、良子は席を立った。
残された哩は自分の将来について思考を巡らせていた。

哩(確かに、私は姫子と一緒にいるために大学へ行こうとしよった)

哩(そんまま就職するんも一つん道や。ばってん……私は麻雀ば続けたい)

哩(……大卒プロ行きは難しい、か)





510 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/01(火) 17:15:12.95 ID:lUFwCW990

哩(……姫子)

『姫子と一緒にいたい』、『麻雀を続けたい』――ダークスパークによって増幅された心の闇は彼女の中で更に増大し、光を求めて彼女の皮膚を突き破ろうとする。
虚ろになった哩の瞳には、黒い雷をほとばせるダミースパークが映っていた。


『ダークライブ……ウェポナイザー1号!』


―――新道寺女子のホテル

姫子(部長……)

ベッドに倒れこんで、悶々と思考を繰り返す姫子。
哩のライブに感応するように、姫子のダミースパークもまた妖しく黒光りした。


『ダークライブ……ウェポナイザー2号!』





511 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/01(火) 17:16:32.05 ID:lUFwCW990

―――宮守女子のホテル

ピピッ

エイスリン「……センセイ!」

トシ「ビースト?」

エイスリン「ハイ。Point1-6-9。シカモ……」

トシ「二体……!」

トシ「……ナイトレイダーで動けるのは?」

エイスリン「イマノトコロハ、トラヒメダケデス」

トシ「……しょうがないわね」





512 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/01(火) 17:17:14.89 ID:lUFwCW990

ピピッ

トシ「ナイトレイダー・チーム虎姫?応答して」

菫『こちら弘世。どうしましたか?』

トシ「都内にビーストが出現したわ。今すぐ出動して」

菫『断ると言ったら?』

トシ「変身さえさせなければ、今のところは園城寺怜を逃がしてもいい」

菫『根本的な問題解決になっていません。彼女に対する人体実験はもう諦めると約束してください』

トシ「……都内でビーストが暴れようとしているんだよ?それを黙って見過ごすのかい?」

菫『私たちが出なかったら……園城寺怜はどんな行動に出るでしょうか?』

トシ「……っ!」

菫『それに、その条件なら姉帯豊音を返すわけにはいきません。最悪の場合、二人とも任務に連れていきます』

トシ「あんたたち……!」





513 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/01(火) 17:17:49.27 ID:lUFwCW990

エイスリン「……トシサン」

トシ「……なんだいエイスリン」

エイスリン「ワタシハウミ、イキタイデス。トヨネト」

トシ「………」

少しの間トシは考え込んでいたが、ビースト振動波のグラフを見て、ため息を吐いた。

トシ「……私の負けだよ。園城寺怜は諦めるわ。その代わり豊音は解放して」

菫『了解です』

エイスリン「ヒロセリーダー、ハヤクシュツドウヲ」

菫『ああ』





514 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/01(火) 17:18:40.24 ID:lUFwCW990

―――虎姫の部屋

『Scramble!Scramble!Point1-6-9!Point1-6-9!』

菫「出動準備!」

五人は一斉にロッカーを開け、そばのボタンを押した。するとロッカーの中身が昇降機のように上がっていき、下からその代わりが出てきた。
中身のジャケットを身に付け、ヘルメットと大型銃を手にする。それは『女子高生』から『兵士』への転換の瞬間だった。

怜「どこにビーストが?」

菫「都心近くだな。そうなると『ビースト』じゃなくて『怪獣』だろう」

それだけ告げると、彼女は穏乃と怜に近づいてこう言い放った。

菫「お前たちは戦うな。私たちで何とかする」

怜「………」





515 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/01(火) 17:19:51.76 ID:lUFwCW990

菫「行くぞ!」

誠子「了解!」
淡「了解っ!」

返事をしていない残り二人も頷き、菫に顔を向けた。それぞれが視線をやり取りした後、彼女らはロッカーに入り、ボタンを押した。
今度は昇降機が下がり、一瞬にして彼女たちの姿は見えなくなった。

虎姫メンバーはそのまま白糸台高校地下へ到着した。
コンクリートに囲まれた灰色のこの場所には、ナイトレイダーの主力戦闘機『クロムチェスター』が納められ、発進ゲートへと直結している。

菫「私と堯深はα。淡と亦野はγ。照はδに搭乗」

了解の合図がコンクリートに反響した。
彼女たちが戦闘機に乗り込むと、それぞれは発進ゲートへと配備されていく。

白糸台高校付近の山。何の前触れもなしにぱっくりと割れ、その中からチェスターたちが飛び立っていった。




516 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/01(火) 17:20:37.27 ID:lUFwCW990

―――現場、β機コクピット内

現場に到着すると、街中を闊歩する怪獣の姿が見えた。

怪獣は恐竜のような頭部と鉤爪を持っていたが、姿勢は恐竜のような前傾ではなくしっかりとした直立だった。
全身には鈍い銀色の鎧が纏われており、背中の部位は青い。体の中央には赤い球とそれを取り巻くパネルが埋め込まれていた。

菫「目標捕捉。攻撃開始」

まず照のδ機がミサイルを放った。そのままδ機は怪獣の背中を抜け、右折する。
それを見て菫は操縦桿のボタンを押した。機首の下から細いビームが放たれ、怪獣の首に命中する。
α機の右折を見て、γもミサイルで攻撃をした。怪獣の首にそれは激突し、その部位に爆発が巻き起こる。

しかし怪獣は攻撃などどこ吹く風といった様子で、チェスターに目もくれず歩き続けていた。

照『……?』

菫「妙だな……」

淡『全然手応えがない……』





517 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/01(火) 17:21:19.02 ID:lUFwCW990

再び三機が編隊を取って攻撃する。しかし今度も変わらず、怪獣は何の興味も示さず歩きをやめなかった。

菫「なんなんだ、こいつ……?」

照『みんな、前見て』

菫「え?」

その連絡を聞いて、δ機の更に向こうに視線をやった。
そこには――

淡『二体目……!?』

この場所にいる怪獣とよく似た姿を持つ怪獣がこちらに歩いてきていた。その怪獣もまた胸に赤い球が埋め込まれている。





518 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/01(火) 17:21:55.38 ID:lUFwCW990

菫「イラストレーター。二体目が出てきた」

『一体目をαとγが、二体目をδが攻撃してください。分断するのが得策です』

菫「了解。照、二体目の方を頼むぞ」

照『了解』

冷静沈着な返事があり、δ機は二体目の方へ直進していく。ミサイルが放たれ、怪獣に命中し、戦闘機は華麗にその場から離れる。
しかし、その怪獣も全く反応を見せなかった。歩行をやめず、そのまま直進していく。

まるで機械のプログラムのような一心不乱ぶりだ。
分断どころか、このまま行けば二体はぶつかってしまうのではないか。菫はそう思っていた。





519 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/01(火) 17:22:28.43 ID:lUFwCW990

―――現場

キキーッ!

穏乃「……っ」

怜「すまんな、車の運転は久しぶりで」

穏乃「は……はい。でもまぁ、無事に着いて良かったです……」

怜はナイトレイダーの車を勝手に拝借し、穏乃と共に現場まで来ていた。

1号「キュオォオン!!」

2号「ギャオォオン!キュオォオン!」

車から出て戦況を観察する。怪獣は二体現れているようで、ナイトレイダーの攻撃を意に介さずに歩いている。




520 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/01(火) 17:23:09.34 ID:lUFwCW990

怜「変やな」

穏乃「そうですね。全然反応がないというか……」


??「あの怪獣はウェポナイザー」


怜「!」

背後を振り向く。そこには――怜にとってよく見知った顔が立っていた。

良子「お久しぶりです、園城寺さん」

怜「戒能先輩……!?」

穏乃「……知り合いですか?」

怜「この人は――……」





521 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/01(火) 17:23:42.09 ID:lUFwCW990

しかし怜が言い淀んでいる間に良子が口を開いた。

良子「ウェポナイザーの胸の赤いコア。あれはある条件を満たすと起動する爆弾なんです」

穏乃「え……」

良子「その条件とは、二つのコアを重ね合わせること」

良子「お互いに離れたくないと強く願う二人を使ったですけど、上手くいきました」

穏乃「……まさかあなたが!」

良子はくすっと笑うと、バッグの中に手を突っ込んだ。
取り出した手の中には――黒いギンガスパーク、即ちダークスパークが握られていた。

穏乃「……!!」

良子「そう。私が今までたくさんの人を怪獣にしてきた張本人ってことですよ」

怜「何で……戒能先輩が……」





522 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/01(火) 17:24:17.43 ID:lUFwCW990

良子「……ま、それはそれとして。このままだと大変なことになりますよ?あの爆弾は地球上の生物の半分は消し去るパワーは持ってます」

怜「なに!?」

良子「それがダブルで……地球上の生命は全滅ってとこですね」

怜「……!」

良子「ちなみに、ウェポナイザーはあんな戦闘機ごときに負けたりはしませんよ?あなたがたが行かないとヤバイんじゃないですか?」

怜「……っ!」





523 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/01(火) 17:25:17.38 ID:lUFwCW990

―――α機コクピット内

ウェポナイザー1号にはαとγの二機が攻撃をしていた。しかし全く反応はなく、豆腐にかすがいを打ち込んでいる気分だった。

菫「くそ……ストライクフォーメーションさえ使えればな」

堯深(弘世先輩がβを落っことしちゃったから……)

そうしている間にも怪獣はその距離を詰めていく。
何が狙いなのかは分からないが、このままだと大変なことになると菫の勘は囁いていた。

菫「照!『クアドラブラスター』で敵の足下を狙え!とりあえず前進させるな!」

照『了解』

δ機の後方部の四つの砲門から青白いビームが放たれ、2号の足下を削った。

2号「キュオォオン……!」





524 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/01(火) 17:26:00.98 ID:lUFwCW990

足を踏み外し、2号が前に倒れる。それを見て、菫はγ機にも同じ指令を送る。

菫「淡、こちらも足下に集中砲火だ」

淡『りょーかいっ!』

α機とγ機のミサイルが同時に乱れ飛び、地上に爆発と粉塵を舞い上がらせ、1号の体がぐらりと揺れた。

菫「よし……!」

しかし――1号は完全には倒れず、煙の中で胸のパネルを開いた。そこには多数の砲門が隠されていた。
それに気付かずに悠々と怪獣の前を通りすぎようとするα機。1号の砲門が一斉に火を吹き、機体を襲った。

菫「うわっ……!」

堯深「きゃ……!」

操縦席内に火花が飛び、ガタガタと揺れが走った。
操縦桿を両手で握りしめ何とかバランスを取ろうとするが、叶わず、機体は菫の支配下を離れて墜ちていく。





525 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/01(火) 17:26:37.97 ID:lUFwCW990

菫「堯深!脱出するぞ!」

堯深「了解……!」

脱出管を引き、二人は席ごとコクピットから飛び出した。α機は煙を上げながら地上に向かっていき、墜落と同時に火の手を上げた。
菫と堯深は咄嗟にパラシュートを開くが、1号は彼女たちの方を振り向いていた。

照『菫!堯深!』

誠子『淡、気を逸らせろ!』

淡『やってる!』

1号の背中にミサイルが激突した。しかし、今までと同じく怪獣は興味を示さず、二人の方から体を逸らさなかった。
砲門が開く。ふわふわと降りていく二人は無防備で、躱す手段を持たない。目を強く瞑り、運命を覚悟したその時――

巨人「シュアッ!!」

目の前に光の壁が昇った。と思うや否や、その中に現れた銀色の巨人は怪獣の顎をアッパーで殴り付けた。




526 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/01(火) 17:27:18.23 ID:lUFwCW990

1号「キュオォオン……」

不意を突かれた1号は背後に倒れた。
ウルトラマンは驚く菫と堯深を光のロープに包み、地上へと下ろした。

菫「園城寺……!」

ウルトラマンはその言葉には答えず、起き上がる1号と対峙した。

巨人「シュアッ!」

1号「キュオォオン!」

しかし――怪獣はそっぽを向き、足を動かし始めた。その先にはこちらに向かってくる2号。
ウルトラマンは1号を引き戻そうと、その背中に飛びかかった。

1号「キュオォオン!キュオォオン!」

蚊を追い払うような仕草で1号はウルトラマンを引き剥がす。
彼はすぐさま起き上がり、体の横で両手を合わせた。右腕で前の空間を裂き、両腕を十字に構える。
放たれた金色の光線“クロスレイ・シュトローム”は背中にクリーンヒットし、怪獣はそのまま前のめりに倒れた。




527 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/01(火) 17:27:46.38 ID:lUFwCW990

―――穏乃サイド

良子はウルトラマンと怪獣の戦いを観戦していた。時おり独り言を呟いたりしている。
倒れた1号が立ち上がり、ウルトラマンが驚く。その様子を見て良子は目で笑っていた。

良子「くすっ」

一方、穏乃は彼女に目を向けたまま動けなかった。
じっとりと汗ばむ手を握りしめ、荒い呼吸を何とか落ち着かせようとする。今の穏乃には、怨敵を目の前にして怜を止める余裕などありはしなかった。

穏乃「……お前は」

良子「はい?」





528 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/01(火) 17:28:18.13 ID:lUFwCW990

穏乃「何で……何で、こんな酷いこと……」

良子「そりゃもう、楽しいからですよ」

穏乃「楽しい?人の夢を壊そうとするのが楽しい?」

穏乃「ふざけんな……そんな意味わかんないことでみんなの夢を!」

良子「落ち着いてください。私は、皆さんが幸せにしてるのが楽しいと言ってるんですよ」

穏乃「は……?」

良子「ほら、私は人がそのハートに宿してる欲望とかを解放してあげてるんです。幸せそうな顔してるじゃないですか」

良子はそう言って、二体の怪獣をあごで指した。
穏乃もその方角を見るが、この姿のままでは怪獣の中の人までは見ることができない。





529 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/01(火) 17:28:51.39 ID:lUFwCW990

穏乃「人の夢とか幸せとかをぶっ潰してまでそんなことする必要ないだろ!」

良子「あなたがそれ言えるんですか?『自分の夢は、他人の夢を踏み台にしないと成就しない』んじゃなかったんですか?」

穏乃「な……っ」

良子「それに、欲望をそこまで増大させたのはライブした本人ですよ?私はそれを助けただけですし」

穏乃「屁理屈だ!そんなの!」

良子「……へえ」

良子は穏乃の心を見透かしたようにニヤッと笑った。
穏乃は心臓が鷲掴みにされたような感覚を覚えた。体が一瞬震え、冷や汗が肌を滑り落ちていく。





530 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/01(火) 17:29:33.74 ID:lUFwCW990

良子「あなた……完全に私への怒りだけで動いてますね?」

穏乃「……!」

良子「もしかしたら、私が怪獣を完全にコントロールした時、あなたは嬉しかったんじゃないですか?昨日の夜の怪獣の時ですよ」

ギクリとした。心臓が更に収縮したような気がした。今にも意識が後頭部から抜けて消えてしまいそうだった。
良子の言う通り、怪獣が操られているのではと予測した時、穏乃は胸を踊らせていた。
彼女自身はそうは感じていなかったかもしれない。だが確かに彼女は嬉しかったのだ。

良子「そりゃそーですよね。『コントロールしてる奴が全部悪い』ってことになったんですから」

穏乃「そ……それがどうした!私は絶対、お前を……」

良子「倒せるんですか?」

穏乃「!」





531 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/01(火) 17:30:12.42 ID:lUFwCW990

良子「持ってるスパークドールも無しで……戦えるんですか?」

穏乃「う……うるさいっ!」

ギンガスパークを取り出し、穏乃は念じ始めた。

穏乃(ギンガ、お願い!来てよ!)

だが、またしても、ギンガスパークは何の反応も示さなかった。
うんともすんとも云わず、穏乃の中に焦りだけが募っていく。

良子「あは……それじゃ、また今度お会いしましょう」

良子は背中を向けて歩き出した。遠くなる後ろ姿に穏乃は更に焦燥感を高め、ギンガスパークをもっと強く握りしめる。
しかし結局、ギンガの人形は現れなかった。良子の姿は消え、穏乃の全身から力が抜けていった。

穏乃「……。くそっ……!」





532 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/01(火) 17:30:49.44 ID:lUFwCW990

―――怜サイド

1号「キュオォォオン!!」

1号はウルトラマンに向き直り、その胸の砲門を開いた。
咄嗟に横に転がり、銃撃から逃れる。膝をついたまま体勢を整え、右手を左手甲に当て、1号の方へ突き出した。手の先から光刃が翔び、怪獣の胸に命中する。

巨人「シュアッ!」

怪獣の胸から火花が散ると同時にウルトラマンは跳躍し、怪獣の顔に飛び蹴りを入れた。
倒れる1号に乗り掛かり、続けざまに首にチョップを当てていく。しかしその時、そんなウルトラマンに銃弾が襲いかかった。

巨人「ハァァッ……!」

照のδ機を攻撃していた2号がいつの間にかこちらを向き、その砲門を開いていた。
1号は怯んだウルトラマンをはね除けて立ち上がる。2号はもう目と鼻の先にいた。





533 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/01(火) 17:31:33.12 ID:lUFwCW990

巨人「……シュッ!」

よろよろと起き上がったウルトラマンは、その体躯を銀から青の物へと変貌させた。
左手甲に右手甲を宛がい、体の前方に半円を描くように右手を回す。

菫「あいつ……メタフィールドに怪獣を引きずり込むつもりか」

亜空間の中ならば爆弾が起動しても、自分の犠牲と引き換えに外界への影響はゼロで済む。怜はそう考えていた。
しかしそうは問屋が下ろさず、1号が振り向く。腕を天に掲げようとするウルトラマンに銃撃を浴びせた。

巨人「シュア……ハァッ!」

1号「キュアオァォン!!」

2号「ギャルルルル……」





534 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/01(火) 17:32:17.52 ID:lUFwCW990

―――穏乃サイド

穏乃「園城寺さん……!」

1号の攻撃にウルトラマンはメタフィールドの生成に失敗し、膝から崩れ落ちた。
チェスターたちの攻撃も虚しく二体のウェポナイザーはその距離をどんどんと詰めていく。

タロウ「シズノ!」

穏乃「!タロウ!」

タロウ「やはりここにいたのか」

小さな光と共にテレポートしてきたタロウはブラックキングの人形を連れてきていた。
穏乃はそれを掴み、礼を言うのも忘れてギンガスパークにそれを宛がった。

『ウルトライブ!ブラックキング!』





535 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/01(火) 17:32:58.70 ID:lUFwCW990

地響きが鳴る。漆黒に身を包んだ怪獣が降り立ち、その巨体をウェポナイザー向けて一直線に揺らす。

ブラックキング「グオォォン!!」

今にも手が触れ合いそうな二体。ブラックキングは2号へ勢い任せに体当たりした。
二つの巨体は同時に横に倒れ、またもや地響きが鳴り響いた。

淡『あれって……』

菫「高鴨か……?」

タロウ「済まない、遅れた」ヒュンッ

菫「ウルトラマンタロウか。あの怪獣は……」

タロウ「あれは“恐竜兵器”ウェポナイザー。二体のコアが重なりあったとき、壮絶な威力の爆弾になる」

菫「!重なりあったとき……なるほどな」

堯深「それってまずいんじゃ……」





536 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/01(火) 17:33:58.40 ID:lUFwCW990

ブラックキング「グオォォン!!」

倒れる2号に対してブラックキングは覆い被さり、身動きを取れないようにした。
しかし今度も、もう一方が援護に入った。1号の砲門が火を吹きブラックキングの背中を襲った。

ブラックキング「グオォ……」

その時、δ機のクアドラブラスターが1号に発射された。
照は砲門が開いた瞬間を狙っていた。怪獣の内部から火花が飛び散り、1号は悶え苦しみ始めた。

2号「ギャォオオン!!」

1号の悲鳴を聞いて怒りに震えたのか、2号はブラックキングを撥ね飛ばし、砲門を開いた。
δ機のブースターが唸りを上げる。機体は急速で上昇し、襲い来る銃撃は空を切った。





537 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/01(火) 17:34:35.38 ID:lUFwCW990

1号「キュアオァォン!!」

2号「ギャルルル」

地にうずくまるブラックキングには目もくれず、再び向き直った二体が近づき始めた。
手を伸ばし、その鉤爪が特徴的な短い指を絡ませ合う。胸の爆弾は終焉へのカウントダウンを刻むように、連動して点滅する。

穏乃『……っ!!』

穏乃には、目を見開いたままその光景を眺めることしか出来ず、ブラックキングはよろよろと立ち上がるものの、今にも繋がりあいそうな怪獣たちに立ち向かう気力は無かった。
――しかしその時。視界の端に光が走った。

巨人「シュアァッ……!!」

ウルトラマンが光のロープを繰り出し、1号の首に巻き付けていた。
しかし引っ張ろうとも、逆にウルトラマンが引き摺られる。足元のアスファルトは木片のように軽く砕け散り、粉塵を撒き散らす。





538 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/01(火) 17:35:55.15 ID:lUFwCW990

怜『高鴨っ!!』

穏乃はその声にハッとして、その光のロープを掴んだ。
掌に焼けるような痛みが滲んだ。まるで刃物を握っているかのよう。腕から力が抜けていき、ブラックキングも引き摺られていく。

巨人「シュ……ハァァァ……!!」

ブラックキング「グオォォ……!」

思いきって、指と、掌に全ての力を結集させた。その瞬間、痛みをも忘れるその刹那に、二つの巨躯の叫びがシンクロした。

巨人「シュアッ!!」
ブラックキング「ゴァァッ!!」

遂に1号は引き摺られ、ウルトラマンとブラックキングに投げ捨てられた。
1号は軽く浮かび上がり、慣性のまま飛ばされ、ビルの一つに突っ込んだ。





539 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/01(火) 17:36:34.95 ID:lUFwCW990

1号「キュオオ……ン」

ウルトラマンはそれを見て、再び手甲を重ね合わせた。
メタフィールドを張らせてたまるかとばかりに2号は即座に攻撃体制に入る。しかしブラックキングがその前に立ちはだかり、仁王立ちする。
発砲音が響く。全弾命中してはいたが、ブラックキングはそこを離れようとしない。

2号「ギャォオオン!!」

埒が明かないと判断したか、2号はブラックキングに向けて歩き出す。二体は取っ組み合い、そして、ブラックキングは後方へ押されていく。
後ろではウルトラマンがメタフィールドを展開する光線を打ち上げたところだった。天に届いたそれは、光の雨を地上に降らせていく。

2号「ギャァァァァア!!!」

その中に入ろうと、2号はブラックキングを押す。ブラックキングは何とか耐えきろうとするが、獰猛なそれを抑えきることができない。
光の雨が地上に達した。後は雨が消失すれば、別位相への移動は完了する。しかし、ブラックキングの尻尾がその中に入ってしまう。





540 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/01(火) 17:37:13.82 ID:lUFwCW990

穏乃(……何で)

穏乃(何で園城寺さんは、自分が死ぬかもしれないっていうのに、戦ってるんだろう?)

時が、スローモーションのように感じられた。早くメタフィールドが完成してほしい。
だが時間が異常なほど遅い。全身の筋肉が疲れている。でも、一瞬でも気を抜けば全てが終わる。

穏乃(そりゃ……ほっといたら地球上の生き物が全滅するって言われれば……嫌が応でも戦わなきゃいけなくなる)

穏乃(でも、何でそんな勇気があるんだろう。自分の命をなげうつような真似が、どうしてこの人はできるんだろう……)

ブラックキングの背中が半分、光のカーテンに埋まる。2号は更に力を強め、その壁を突き破ろうとする。

穏乃(勇気と……覚悟……)

穏乃(まるで、自分の星を守るために自分の命をなげうったギンガみたいに――)





541 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/01(火) 17:37:52.67 ID:lUFwCW990

ブラックキングの体は完全にメタフィールドに入り込んでしまった。2号の体も半分は光の壁の中に侵入していた。

穏乃(私が戦うのは、みんなの夢を守るため――)

穏乃(タロウは言ってた。私が『ギンガの心』を持ったときこそ、私はギンガに変身できるようになるって)

光の雨が天上から徐々に消えていく。

穏乃(そうだ。『私がやらなきゃいけない』……)

穏乃(私が『ギンガ』にならなきゃいけないんだ)

穏乃(自分の命をなげうってでもみんなを守ろうとしたギンガの心――その強さと、意思と、勇気を持って!)

その時、穏乃の視界が開けた。
眩き光の中、彼女の持つギンガスパークが三ツ又に変形し、飛び出た光がギンガの人形を象っていく。

穏乃「私は守る!この世界と、みんなの夢を!」


『ウルトライブ!ウルトラマンギンガ!!』





542 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/01(火) 17:38:29.32 ID:lUFwCW990

光の雨が消えていくそんな中――ブラックキングの体が輝き始めた。
漆黒の怪獣の形は消え、代わりに大きな白光となったそれは、2号を凄まじい勢いで光の雨の中から追放した。

2号「ギャォオオン……!?」

その光は2号と共に外界へ飛び出す。
ちょうどその直後、光の雨は完全に消滅した。

2号「グオルルルル……」

ウェポナイザーが悔しさに全身を震わす。
その視線の先には、白光の中から現れた巨躯が聳え立っていた。

赫焉たる光を全身に纏うその勇士の名は――“ウルトラマンギンガ”!





543 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/01(火) 17:39:44.67 ID:lUFwCW990

タロウ「……そうか。別位相とで分断してしまえば起爆する可能性は無くなる」

菫「照!お前はメタフィールドに突入して園城寺を助けろ!絶対にあいつを死なせるな!」

照『了解。ハイパージェネレーター、フルドライブ!』

δ機はチェスターシリーズの中で唯一単独での別位相突入が可能な戦闘機だ。
ある地点でδ機は壁を突き破るようにして虚空の中に消え、怜と1号を追っていった。


2号「キュオオォン!!ギャォオオン!!」

ギンガ「シュワッ!」

ギンガは2号に向かって突進する。2号は砲門を開けて迎え撃つが、その時には既にギンガは宙に飛び出していた。
宙返りをして怪獣の背後に降り立つ。そのまま背中に飛び掛かり、首周りをチョップする。





544 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/01(火) 17:40:23.70 ID:lUFwCW990

2号「ギャォオオン!」

怪獣は体を回転させてギンガを引き剥がす。尻尾を振り回すと、胸にそれを受けたギンガが吹っ飛ばされていった。

ギンガ「ジュワ……」

立ち上がろうとするギンガを見て、2号は砲門を開いた。火花と硝煙が飛ぶが、ギンガは手を翳し、光の盾を形成して身を守る。
そうしている内に、突如飛来したγ号から放たれたビームが砲門に命中した。

2号「グォルル……」

ギンガ「シュワッ!」

怯む怪獣にギンガは走り寄り、回転しながらその顔を蹴りつけた。





545 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/01(火) 17:41:40.23 ID:lUFwCW990

ギンガ「ジュワッ!」

一回転し、次は拳を叩き込み、殴り抜ける。

ギンガ「ショラァッ!!」

もう一度回転し、その勢いに任せて脚を出す。
鎧が砕ける感触が、蹴り抜けて下げた足に伝わった。

2号「グルルル……ギャォオオ……!」

砲門を潰されたため、遠距離攻撃はもう無い。ギンガはバク転して距離を取り、腕を交差させた。
全身のクリスタルが燃えるように赤く光り、それに伴って彼の周囲に炎が纏っていく。

――しかしその時。ギンガの背中に鋭い痛みが縦断した。

ギンガ「ヘア……ッ!?」





546 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/01(火) 17:42:23.71 ID:lUFwCW990

慌てて背後を振り向く。と、同時に今度は胸に斬撃が加えられた。
不意の事態と焼けるような痛みにギンガは思わず倒れ込む。

ギンガが振り向いた先には――割れた窓ガラスのような景色が、空中に浮かび上がっていた。
その中から鉤爪が姿を覗かせていた。やがてその空間の裂け目から亀裂から伸びた。次元の壁を突き破り、1号が戻ってくる。
その背景には、膝をついて倒れているウルトラマンの姿があった。

菫「照、どうした?!」

照『……。体力が限界だったみたい。メタフィールドが消滅した』

菫「まずい……!」


ギンガが1号の尻尾に撥ね飛ばされるが、すぐさま回転して体勢を整える。
しかし、二体の怪獣は既にその距離を詰めていた。今から走っても、もう間に合わない――





547 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/01(火) 17:43:42.08 ID:lUFwCW990

ギンガ「ショ……ラッ!」

ギンガが両腕のクリスタルを交差させた。
それは目が眩むほどに白く輝き、右腕のクリスタルに光の剣が形成される。

ギンガ「――ギンガセイバー!!」

しかし、その刀身では到底届くはずもない距離に怪獣たちはいた。
そして彼らは、互いの再会を喜ぶように、その身を重ね合わそうとする。

ギンガは剣を掲げ、地面に振り下ろした。
そのエネルギーにより、突き刺さった地点から地面に亀裂が走る。猛スピードで怪獣の元へ駆け走っていく。

その亀裂が到達した所で、ギンガはエネルギーを更に送り込む。
大地の深く、深くに伝わったそれは――マグマとなって怪獣の足下から噴き出した。

1号「キュアオァォン……!!」
2号「ギャァァァァアン……!!」

悲鳴を上げる二体。しかし彼らは、どんな苦境でも繋がり合おうと、ゆっくりと一歩を踏み出す。





548 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/01(火) 17:44:23.21 ID:lUFwCW990

ギンガ「ジュワッ!!」

剣を構え、ギンガが走り出す。
それを見た怜も、一歩目はよろけたが、勢いをつけて足を動かす。胸に翳した右の手甲にシュトロームソードが投影された。

腕を寄りかからせ、2号が1号の胸に飛び込もうとする。
その瞬間――二人のウルトラマンの勇ましい声が響いた。

ギンガ「ショラッ!!」
巨人「シュアァッ!!」

光の剣に切り裂かれた怪獣はそれぞれきらびやかな粒子に分解された。
二体分の粒子は空中で混じり合い、風に飛ばされ消えていく。

怪獣たちが消えた場所には、哩と姫子が抱き合って倒れていた。





549 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/01(火) 17:45:02.99 ID:lUFwCW990

巨人「……ハァ……ハァッ」

巨人が倒れ、膝から崩れ落ちた。霞がかって消えたと思うと、代わりに怜が地上に倒れそうになっていた。

穏乃「……園城寺さん」

元の姿に戻った穏乃が怜を抱き止めた。
今にも消えてしまいそうな微弱な呼吸。蒼白な顔と、焦点が定まっていない虚ろな瞳。

それらはまさしく、怜に訪れようとする限界を示していた――


To be continued...





550 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/01(火) 17:46:24.07 ID:lUFwCW990

登場怪獣:ウルトラマンティガ第17話より、“恐竜兵器”ウェポナイザー1号・2号


今度また続き書きます





554 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/05(土) 14:07:31.01 ID:EAPnGeGu0

第十二話『超時空の大決戦』


頭の中に弦楽器のような音が響いた。
とても澄んだ、綺麗な音色。しかし私は、その音が何を意味するかは理解できなかった。

「戒能、彼らの言っていることが分かるか?」

目を開けると、白衣に身を包んだ大人が目の前に立っていた。
背景は、まるで水族館のようで(自分の足で行ったことはなかったが)、クラゲのような生き物が巨大な水槽の中で身を踊らせていた。

「……わかりません」

その時、白衣の彼は明らかに落胆した。
表情も口調も何も変わらない。だが私には他人の心を読み取る能力が生まれつき備わっていた。

私の存在意義とは一体なんなのだろう。
私は次世代の“コンタクティ”として期待されていたはずだ。そして、その為に生まれてきた命。

だが私には“来訪者”の心は読めなかった。コンタクティにはなれなかったのだ。
その為だけに生まれてきた命は、この時完全に、意味も価値も失ってしまった。





555 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/05(土) 14:08:12.79 ID:EAPnGeGu0

―――朝、インターハイ十日目

ピピピピピピ……

良子「んー……」

バンッ

良子「ふぁ……」

良子(まだ五時か……流石に眠い)

そんなことを思いつつも、布団をはねのけ良子はベッドから降りた。
シャワーを浴び、Yシャツを羽織る。散らかって物置のようになっている洗面台で髪を乾かし、それが終わると化粧をした。

良子「……よし」

シャツのボタンを留め、スーツを着込んだ。一気に気が引き締まり、今日も頑張ろうという気になれる。
リビングに戻り、入念にバッグの中身を確認した。とはいっても、必要な物は数個のみではあるのだが。

銀色で鋭利なフォルムをした怪獣の人形。
アザラシと魚を融合したような気味の悪い怪獣の人形。
群青色のスマートな体躯を持つ怪獣の人形。
そしてダークスパークと、ウルトラマンへの変身アイテム。

彼女はダークスパークをもう一度手に取ると、洗面台に戻った。
鏡の前に立ち、ダークスパークを顔の前に出す。彼女の目は赤く輝きだし、鏡に映る光はその瞳の奥に帰っていった。





556 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/05(土) 14:08:46.52 ID:EAPnGeGu0

―――病院

瞼をあげると、白い光が目の中に入り込んできた。

怜(……ここは)

「怜ぃ!!」

怜「……竜華?」

竜華「よかった……目、覚めたんやな……」

怜「……。そうみたいやな」

セーラ「全く、心配かけさせやがって」

怜「セーラもおったんか……。ここは……?ホテル……?」

セーラ「病院や。昨日……怜が倒れた後ここに運ばれて、昨日いっぱいはICUにおった」

怜「……そっか」

竜華「怜……怜……」

竜華はすがりつくようにベッドの怜の手を握った。
その様子は明らかにおかしかった。いつもならこんなことはない。





557 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/05(土) 14:09:19.20 ID:EAPnGeGu0

怜「竜華……?」

竜華「うっ、うっ……」

セーラ「昨日な。白糸台の奴らが……お前の素性を教えてくれたんや」

怜「!」

セーラ「信じたくはないけど……本当なんか……?お前の寿命があと少しやってこと……」

怜「……ごめん。マジの話」

竜華「あぁぁぁぁ……!!」

怜「竜華……」

竜華「怜、怜ぃ……なんで……」

怜「……ごめんな竜華。でもほんまに楽しかった。みんなとおれた時間……」

セーラ「アホやろ……死んだら意味ないやん……」

竜華は泣き崩れ、セーラも顔を背けて肩を震わしていた。





558 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/05(土) 14:09:48.23 ID:EAPnGeGu0

―――宮守女子のホテル

豊音が帰ってきた宮守女子は、永水女子の選手たちと行く海への準備を進めていた。
今日がその日。まだ時間は早いが、白望以外ははやる気持ちを抑えきれないようだった。

エイスリン「ホラ、シロ!オキテ!」

白望「ダルいよ……まだ寝かせて……」

エイスリン「ダメ!ウミシーズン、マッテクレナイ!」

白望「別にそこまで寝るわけじゃないけど……」

全員が白望と塞の部屋に集まり、笑顔で準備を進める。
しかしエイスリンの笑顔が突然消えた。適当に理由を捏ね、彼女は引き攣った顔で自分の部屋へと戻った。

エイスリン「……レン」

未来が見えた。エイスリンの予知は電気をつけるように自由には使えず、こうして突風のように脳を横殴りするのだった。
彼女の視る未来は十数個の映像だった。そこには沢山の可能性が指し示されたり、場合によると全ての映像が同じだったりする。

今回は全てが同じ――つまり、未来が一つに決まってしまっているパターンだった。

その映像の中で群青色のスマートな体型の怪獣と青と銀のウルトラマンが戦っていた。
それは怜が変身するウルトラマンだ。彼女はその敵と戦い、そしてその命を全うするのだろう。





559 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/05(土) 14:10:18.68 ID:EAPnGeGu0

エイスリン「………」

予知は絶対じゃない。エイスリンはそう怜に教えられた。
しかし今、彼女の中に逆巻く感情は紛れもなく絶望だった。

きっと、どんな手を以てしてもこの未来は変えられないのだろう。
今までだってそうだ。戦うなと言っても怜は変身して戦った。止められない。彼女の破滅への歩みをやめさせることは、決して。

ふと、エイスリンは怜のことを想った。
自分は沢山の未来を視て最善の未来に繋ぐようにする。だが一つの未来しか視れない怜はどう思うのだろう?
『自分が死ぬ』というたった一つの未来を視て、彼女は何を思ったのだろう?

もしかすると、それが原因なのかもしれないとエイスリンは思った。
『どうせ自分は死ぬのだから』という投げ遣りな心。怜が忠告を無視するのはそれに起因しているのかもしれない。

だが、その心はどうやって癒せばよいのだろうか。
彼女の死は避けられない未来なのだ。そんな彼女に『投げ遣りになるな』などという言葉がどうして掛けられようか。





560 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/05(土) 14:10:46.46 ID:EAPnGeGu0

エイスリン「ハァ……」

トシ「どうしたんだい?浮かない顔だね」

エイスリン「……トシサン。キョウタブン、ウミイケマセン」

トシ「海に行けない?どうして?」

エイスリン「『カイジュウ』ガアラワレマス。ソレモ、トテモツヨイ……」

両校には個人戦に出場する選手もいて、海水浴は団体決勝戦の日に行くという予定になっていた。

トシ「……どうする?決勝戦を延期にするかい?」

エイスリン「オネガイシマス……」

トシ「分かった。ちょっと上と相談してくるわ」





561 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/05(土) 14:11:21.65 ID:EAPnGeGu0

―――阿知賀のホテル

穏乃「すー……すー……」

憧「ほらシズ起きて。朝だよ」

穏乃「………」ボー

穏乃「!決勝戦だっ……!」ガバッ

憧「だから忘れちゃダメそれ!……ってことで。ようやく辿り着いたね。和のとこに」

穏乃「うん。楽しみ」

憧(?もっと喜ぶかと思ったのにな)

憧「私はシャワー浴びたから、シズも浴びてきなさいよ」

穏乃「ありがと」





562 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/05(土) 14:11:56.25 ID:EAPnGeGu0

シャワーを頭から被る穏乃は、昨日の出来事を思い出していた。


-
---
-----
-------


―――白糸台高校、チーム虎姫の部屋

お昼時。ウェポナイザーとの戦闘が終わって戻ってきた穏乃と虎姫の五人はエイスリンの話に耳を傾けていた。

エイスリン『戒能良子は……私たち“プロメテの子”の第一子です』

菫「第一子?」

エイスリン『はい。第一回のプロジェクトでは試験段階ということで作られたのは一人だけだったんです』

エイスリン『超能力の道では名が知れた日本の巫女の家系と、少年の遺伝子を掛け合わせて生まれた子』

エイスリン『それが戒能良子です。彼女はアカデミーの中で、プロメテの子を纏めるリーダーの地位にありました……』

穏乃「それで先輩って……」

エイスリン『はい。でもどうして戒能先輩がダークスパークなんかを……』





563 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/05(土) 14:12:30.66 ID:EAPnGeGu0

菫「何か……企んでる様子とかは?」

エイスリン『確かに寡黙な人でしたけど……心当たりは全く……』

菫「そうか……」

穏乃「あの、もしかしたら……敵の黒幕に乗っ取られてるのかもしれません」

エイスリン『え?』

穏乃「私とタロウで、敵の正体はウルトラマンかもしれないって話になったんです」

タロウ「その戒能良子という人物の体を乗っ取っている。その可能性は十分ある」

菫「なるほどな」

エイスリン『ともかく、敵が姿を現したということは何か理由があるんでしょう。気を付けてください』

照「………」





564 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/05(土) 14:13:11.34 ID:EAPnGeGu0

エイスリン『それと怜の体のことですが……』

穏乃「どうだったんですか?」

エイスリン『臓器の機能が全体的に低下しています。もしまた変身すれば……恐らくそれが彼女の最後の戦いになるでしょう』

穏乃「………」

菫「……くそっ。私がちゃんとしてれば」

穏乃「……いや。私が止めればよかったんです。あの時、敵が目の前に出てきて頭が回らなかった……」

照「二人とも、自分を責めないで」

エイスリン『はい。もう過ぎてしまったことは仕方ありませんから……』

穏乃「……。でも、どうすればいいんでしょう……」





565 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/05(土) 14:13:45.66 ID:EAPnGeGu0

エイスリン『……放っておいても……怜の命の灯は近い内に消えてしまうでしょう』

菫「だが友人たちも知らない場所で知らない理由で死んでしまったら……悔いが残るんじゃないか?」

穏乃「清水谷さんたちに伝えますか……?信じてもらえるかは分かりませんけど」

菫「私はそうした方がいいと思う」

照「私も賛成」

エイスリン『そうするなら、くれぐれもTLTに関する情報は漏らさないでください』

菫「ああ。彼女は余命宣告を受けて日本に来た、そしてその命はもうすぐ潰える……とだけ伝えておく」


-------
-----
---
-


穏乃(……ともかく、今日は決勝戦だ)

穏乃(今はそれだけに集中しなきゃ。やっと私たちの夢が叶ったんだから……)





566 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/05(土) 14:14:20.37 ID:EAPnGeGu0

―――灼・晴絵の部屋

Prrrrr...

晴絵(……熊倉さん?)

ピッ

晴絵「はい、もしもし?」

トシ『熊倉です。おはよう』

晴絵「はい。どうしたんですか、こんな朝っぱらから」

トシ『ちょっとあんたに伝えておくことがあってね』

トシ『まだ発表はまだだけど、今日のインハイ決勝戦は中止になる可能性があるわ』

晴絵「中止?」

トシ『ええ。理由は……わかるだろう?』

晴絵はシャワールームの方に目をやった。シャワーの音が聞こえる。まだ灼は浴びている最中のようだ。

晴絵「ビースト……ですか」

トシ『ええ。イラストレーターの予知によると朝……まだ試合も始まらない内に出現するらしい』

晴絵「……そうですか。賢明な措置ですね」





567 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/05(土) 14:14:57.43 ID:EAPnGeGu0

トシ『それでね、そっちの高鴨さんを貸してほしいのよ』

晴絵「戦力としてですか?」

トシ『ええ。相当強力なビーストが来ると予知されていた……。現時点で使える戦力は集めておかないといけない』

晴絵「残念ですけど、お断りします」

トシ『!どうして?』

晴絵「そうやってシズを連れ出して人体実験にかける罠なのかもしれないじゃないですか」

トシ『……随分と信用ないんだねえ』

晴絵「当然です。自分がしたことを忘れたんですか」

トシ『……。まぁ、そう言うとは思っていたわ。迎えには信頼に足る人物を出したから』

晴絵「?」

ピンポーン

晴絵「失礼します……。はーい?」





568 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/05(土) 14:15:31.98 ID:EAPnGeGu0

ガチャッ

郁乃「おはようございます~熊倉管理官の命により参りました~」

晴絵「……もっと胡散臭い人が来たんでけど」

郁乃「ええ~……」

トシ『気に入らなかったかい?』

郁乃「お願い。穏乃ちゃんを戦力にするんは最後の手段やから……。何もなかったらすぐ会場にお連れするし……」

晴絵「本当なんですか?」

トシ『本当よ』

郁乃「うん~」

晴絵「……分かりました。でももし嘘ならそちらの秘密を世間に公表しますから」

トシ『ええ、構わないわ』

晴絵「じゃあ、切ります。赤阪さん、私は穏乃を迎えに行ってきますね」

郁乃「おおきに~」





569 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/05(土) 14:16:03.32 ID:EAPnGeGu0

―――穏乃・憧の部屋

コンコン

憧「はーい?」

ガチャ

晴絵「憧。しずは?」

憧「まだシャワー浴びてるけど……どうしたの?シズに何か用?」

晴絵「ああ。今日、しずだけ私たちと別ルートで会場入りすることになったから」

憧「は?」

晴絵「……色々事情があってな」

憧「ねえ、そろそろ教えてくれてもいいんじゃない?突然いなくなったり帰ってこれなくなったりシズは何をしてるの?」

憧「それに……ハルエは何を知ってるの?教えてよ。私だけ除け者にされてるなんて」

晴絵「………」





570 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/05(土) 14:16:33.06 ID:EAPnGeGu0

ガチャッ

穏乃「お風呂でたよー……って、あれ」

憧「シズ……」

穏乃「どうしたんですか?先生」

晴絵「お前に来てもらいたいって」

穏乃「え、それって……」

晴絵「……ああ」

神妙な晴絵の面持ちを見て穏乃も表情を引き締めた。

憧「ああもう!私を挟んで私の知らない話しないでよ!」

穏乃「憧……」

憧「なんなの?シズは何してんの?今日みたいな大事な日でも私たちと離れて行動しなきゃいけない理由があるの?」

穏乃「それは言えないけど……でも、私がやらなきゃいけないことなんだ」

憧「………」

穏乃「だから私は行くよ。……ごめん、憧」





571 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/05(土) 14:17:09.75 ID:EAPnGeGu0

憧はうつ向き、黙りこんでしまった。
穏乃が晴絵の方に向き直り、廊下へと出ようとする。憧はすがり付くように、穏乃の背中に声を投げかけた。

憧「……知ってたよ」

穏乃「へ?」

憧「シズが……それだけ大変なことをしようとしてるっていうのは」

穏乃「………」

憧「……私さ。シズが帰ってこなかったらって思うと不安でしょうがないんだ」

憧「せっかく再会できて、みんなと一緒にここまで来れたのに……シズが帰ってこなかったらって思うと……」

穏乃「憧……」

憧「私は玄みたいに待てないよ。もし私の前からシズが姿を消しちゃったら、私は……」

うつ向いたまま憧は肩を震わしていた。
穏乃は彼女の元に歩み寄り、その肩に手を乗せた。

穏乃「……大丈夫。約束する。絶対戻るって」

憧「何でそんなこと、はっきり言えんのよ……」





572 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/05(土) 14:17:38.35 ID:EAPnGeGu0

そうは言いつつも、穏乃の言葉を聞いて憧は安堵していた。
昔から直情的で、打算など決してしない性格だった。それ故に彼女の言葉には裏がなく、真実味があった。
やると言ったらやる――今こうしてこの場にいることが、その証明になっているだろう。

憧「……約束」

穏乃「うん。破ったら針千本飲むから」

憧「……ばーか」

穏乃「ひどっ」

顔を上げた憧は笑顔だった。穏乃もそれに釣られて頬を緩め、そして表情を元に戻してから廊下へ出ていった。

穏乃「いってくる!」

憧「……。いってらっしゃい!」





573 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/05(土) 14:18:14.03 ID:EAPnGeGu0

―――駐車場

バタンッ

穏乃「お待たせしました」

郁乃「待ってへんよ~。変身アイテムは持った~?」

穏乃「はい。あります」

郁乃「オッケーイ。ほな行くで~」

エンジンが掛かり、車が進んでいく。昨日の怜の運転とはレベルが違い、快適で滑らかに車は走っていた。
道路を進んでいく中、郁乃は助手席の穏乃に声をかけた。

郁乃「ね~高鴨ちゃん~?」

穏乃「はい?」

郁乃「戒能さんに会ったんやってね。あの子、どんな様子やった~?」

穏乃「どんなって……うーん……。何か、悪役っぽい感じでしたよ。普通な」

郁乃「そっか~……」

穏乃「戒能さんを知ってるんですか?」

郁乃「まぁあの子、トッププロやしなぁ。知らん方が少ないと思うで~」

穏乃「そうなんですか」





574 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/05(土) 14:18:51.56 ID:EAPnGeGu0

郁乃「ま、他にも理由はあるんやけどな~。私、あの子が日本に来たときの保護者やったんよ~」

穏乃「保護者?」

郁乃「うん。ウィッシャートちゃんでいう熊倉管理官ってとこやね~」

穏乃「ああ……」

郁乃「あの子な~……日本に来た当初はほんま臆病で、何も喋らんし、困った子やったんやで」

穏乃「……今は違うんですよね」

郁乃「うん。あの子は『人の心を読む』って超能力持っててな、殆どズルみたいなもんやけど、麻雀やらせたらそのお陰でめっさ強くてな」

郁乃「自分に自信が持てたお陰なんか、新しい能力が開花したりしてな。まぁ結局コンタクティにはなれへんかったんやけど」

穏乃「結局コンタクティを継いだのはエイスリンさんだったらしいですけど……」

郁乃「うん。やから……あの子がダークサイドに行っちゃったんはそのせいなのかもしれへんな~……って思ったりしてな」

穏乃「どういう意味ですか?」





575 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/05(土) 14:19:23.49 ID:EAPnGeGu0

郁乃「プロメテの子はみんなコンタクティになることを期待されて生まれてきた。やけど、あの子はなれへんかった」

郁乃「まして第一子で、しかも人の心を読める……あの子にかかるプレッシャーは相当やったんやないかなって……」

穏乃「………」

郁乃「それでもプロメテの子たちのリーダーとして頑張ってたんや。園城寺さんの身体のことも……」

穏乃「?」

郁乃「園城寺さんの細胞の疾患が分かったらプロジェクトは凍結されたんやけどな、戒能さんは世界に散り散りになったプロメテの子たちの力を合わせて特効薬を作ろうとしてたんや」

穏乃「え……?」

郁乃「自分は園城寺さんの居場所を突き止めて無理せーへんように監視してたりな。ホンマは優しい子なんよ……」

穏乃「………」

郁乃「さて、着いたで~。後は待つだけや」





576 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/05(土) 14:20:11.56 ID:EAPnGeGu0

―――病院

怜の病室は、棺桶の中のようにひっそりとしていた。
竜華のすすり泣きの声だけが短調を奏でる弦楽器のように響いている。セーラは椅子に腰掛け、震える手を必死に握りしめていた。

怜「……な、竜華」

竜華「うっ、ひぅ……っ。なに?怜……」

怜「制服着たいな。みんなと一緒におった証を身に付けてたい」

竜華「……うん。セーラ、そこのクローゼットから……」

セーラ「……ああ」

セーラは老人のようにゆっくりと腰を上げ、クローゼットに吊るされているセーラー服を取り出して竜華に渡した。
竜華は怜の病衣を脱がし、制服に着替えさせた。直に見る彼女の体は皮が骨に張り付いているようで、まるで剥製のように生気が感じられなかった。

竜華「うっ、うう……」

怜「……な、泉とフナQにも会いたい。監督と洋榎と絹恵にも……あかんかな?」

セーラ「いける。電話してくるわ」

怜「ありがと、セーラ」





577 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/05(土) 14:20:54.73 ID:EAPnGeGu0

セーラが立ち上がりドアを開く。その時、セーラは仰天した。ドアの向こうに人が立っており、丁度鉢合わせになったのだ。

セーラ「え……」

更に彼女は目を見張った。そこに立っていたのは誰もがよく知るトッププロ――戒能良子に間違いなかったからだ。

セーラ「か、戒能プロ!?」

竜華「えっ」

怜「!?」

セーラは調子外れの声を上げ、竜華は一呼吸遅れて口をぽかんと開けた。
一方で怜は心臓が止まりそうな衝撃を受けた。良子は薄く笑うと、会釈して病室に入ってきた。

良子「グッドモーニングです、園城寺さん」

怜「……何でここに来た!?」

怜自身も驚くほど大きな声が出た。胸が苦しくなり、何度か咳き込んだ。
二度の驚きに動きを止めていた竜華は我に返り、怜の背中を擦った。

良子「落ち着いてください……体に毒ですよ」

怜「……余計な、お世話や……」

セーラ「知り合いなん……?」

良子「ええ、少し。それで園城寺さん、お話がありまして」

怜「……何や」





578 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/05(土) 14:21:34.77 ID:EAPnGeGu0

良子「あなたの体を治す特効薬が開発されたとしたら……どうしますか?」

怜「……されるわけないやろ」

良子「それがですね、完成したんですよ。プロメテの子たちが力を合わせることで」

怜「え……」

竜華「ほ、ほんまですか!?」

良子「ええ。マジでホントでリアリーですよ」

竜華「怜……!」

怜「なに企んどるんや……?」

良子「……。昨日の内にデータはあちらに送りましたから、きっと今日のお昼には薬は到着するでしょう」

良子「今日のお昼まで……貴方が生きていられればの話ですけどね」

セーラ「え?」

怜「……っ!」

良子「園城寺さん。貴方は逃げた。素質があったにも関わらず……自分の未来から逃げた」

良子「私はそれが許せなかった。だから今日ここで……決着をつける」





579 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/05(土) 14:22:24.67 ID:EAPnGeGu0

怜「竜華、セーラ!逃げろ!」

良子「……安心してください。私が戦うのは貴方だけです。園城寺さん」

良子はバッグから黒い棒のような物を取り出し、顔の前に水平にした。
その両端を掴み外側にスライドさせると、中央のコアから黒い雷がほとばしった。

怜「……!」

良子の顔が、仮面が割れるように別のものに変わっていくのが一瞬見てとれた。
黒い塊となった彼女は部屋の壁を突き抜けて外へ飛び出し、アスファルトを砕いて地面に降り立った。

黒真珠のように一点の曇りもない黒の瞳。
胸のカラータイマーの輝きもまた黒く、退廃的な赤と黒が混じる禍々しい体躯は、ウルトラマンのようでありつつも、確然たる差異を示していた。

怜「……くっ」

怜はベッドから降りようとした。しかし竜華は必死な顔をしてそれを止める。

竜華「あかん……やめて怜……」

怜「……行かんと」

竜華「やめて!」

竜華には何が起きているのかはもはや理解できていなかった。
しかし、怜がその命を捨てようとしている。それだけは動物が危機を察するように理解していた。





580 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/05(土) 14:22:51.17 ID:EAPnGeGu0

セーラ「何が起きとるんや……」

竜華「怜!お願いやからやめて!」

怜「竜華……でも……」

その時、怜が言おうとしていた言葉を示すように、轟音が窓の向こうから飛来してきた。
喫驚した三人は一斉にその方角に顔を向けた。黒い巨人が手から光弾を放ち、街を破壊していた。建物が一つ崩れる度、悲鳴が怒濤のように巻き起こった。

怜「……行かんと」

竜華「怜ぃ!」

ポケットからエボルトラスターを取り出し、立ち上がろうとする。しかし竜華は体で怜を止め、離れようとはしなかった。

怜「竜華、お願いやから……」

竜華「いや……嫌や!怜が……怜が死んだら……」





581 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/05(土) 14:23:26.45 ID:EAPnGeGu0

―――虎姫サイド

インハイ会場の近くで待機していた虎姫はエイスリンからの連絡を受けていた。

菫「はい、こちら弘世」

『ビースト振動波を確認!場所は予測地点とは違って、Point1-2-5!』

菫「了解。照と亦野はδ。私と堯深はγ。淡はメモリーポリスの車に同乗して現場へ移動してくれ」

淡「了解っ!」
亦野「了解!」

四人がチェスターに乗り込む中、淡は停まっているメモリーポリスの車に走っていった。

淡「ごめん、乗せて!」

穏乃「あれ、大星さん……」

淡「げっ」

郁乃「虎姫はチェスターが不足してるんやったっけ。連絡は聞いとるからええよ、乗って~」

淡「うむむ……しょうがないか」

穏乃「………」

郁乃「ほな、行くで~」





582 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/05(土) 14:24:07.88 ID:EAPnGeGu0

―――現場

現場は既に火の海になっていた。建物の残骸の上を歩いていたのは怪獣やビーストではなく、黒い巨人だった。

A隊長『現場に到着しました。映像を送ります』

エイスリン『……!』

エイスリンが息を飲むのが無線越しでも分かった。
しかし彼女は冷静な声で指令を出した。コクピット内の通信機から英語と日本語の二重音声が流れる。

エイスリン『その巨人は“メフィスト”と呼称します。ウルトラマンと酷似してはいますが敵として判断。殲滅してください』

A隊長『了解。ナイトレイダーAユニットに告ぐ。各機、黒い巨人“メフィスト”を攻撃せよ』

了解の合図があり、Aユニットの四機は編隊を取ってメフィストに向かっていった。
一斉にビームを放ち、散開する。メフィストは余裕綽々な様子で振り向き、自分の目の前に光球を作り出した。

A隊長『何をするつもりだ……?』





583 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/05(土) 14:24:47.67 ID:EAPnGeGu0

メフィスト「ドゥアッ!」

光球を拳で撃ち抜くと、それは何十個もの小さな光弾に分裂した。

A隊長『ぐっ……!?』

光弾はチェスターを襲い、四つの機体は煙を上げて墜落していった。
そんな中でオプチカムフラージュが解かれ、虎姫のγ機とδ機が空に現れた。

菫『チーム虎姫、現場に到着しました』

A隊長『Aユニットは全機墜落……!地上からの援護に回る!』

菫『了解。照、左右から挟撃するぞ』

照『了解』

菫『……まるで悪魔だな。戒能良子……』





584 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/05(土) 14:25:19.19 ID:EAPnGeGu0

―――穏乃サイド

郁乃「着いたで~」

急ブレーキの甲高い音を鳴らし車は停止した。
穏乃と淡が外に出る。遠く向こうに立つ黒い巨躯が見えた。

淡「じゃ、せーぜー死なないでよね!」

穏乃「そっちこそ気を付けてくださいね」

「別に私の方は心配してない」と不満げな表情を見せたが、淡はディバイトランチャーを抱えて走り出した。

穏乃「あの、園城寺さんの病院ってこの近くだった気がするんですけど……」

郁乃「そこまで行く?もう避難は始まっとるようやけど」

穏乃「はい。もしかしたら……」

郁乃「分かった。はよ乗って。超特急で行くで~」





585 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/05(土) 14:25:48.49 ID:EAPnGeGu0

タロウ「シズノ、待ってくれ」

穏乃「?どうしたの、タロウ?」

タロウ「君のギンガスパークで私を解放してくれ」

穏乃「!」

タロウ「頼む。今の君なら……ギンガスパークを使いこなす事ができるだろう」

穏乃「わ、分かった」

少し慌てつつも、穏乃はポーチからギンガスパークを取り出した。
タロウの人形を掴み、紋章をギンガスパークに近づける。そこで大きく深呼吸し、穏乃は言った。

穏乃「……タロウ。みんなの夢を守るために戦って」

タロウ「ああ!」


『ウルトライブ!ウルトラマンタロウ!!』





586 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/05(土) 14:26:31.86 ID:EAPnGeGu0

紋章の光が飛び出し、タロウの身体を光で包んでいった。光が一瞬とびきり大きくなり、穏乃は目を瞑った。
次に目を開けた時――目の前に大きな赤が聳え立っていることが真っ先に分かった。

銀色の頭には金に輝く眼、そして横に突き出している二本の角があった。
体は赤に染まっており、肩から胸に掛けてプロテクターが備わり、胸の中心には丸く青いカラータイマーが光っている。

その巨躯には醸し出されているオーラがあった。
身に纏わせる厳かさと、それでいて若々しい勇ましさ。それは歴戦を繰り広げてきた戦士だけが持てる風格。

勇壮たるその戦士の名は――“ウルトラマンタロウ”!

穏乃「……!」

穏乃が満面の笑顔でタロウを見上げる。タロウはそんな彼女を見て、ゆっくりと頷きを返した。

タロウ「ショアッ!!」

その出現に驚きを隠せないメフィストにタロウは走っていき、穏乃は車に乗り込み病院へと向かった。





587 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/05(土) 14:27:03.17 ID:EAPnGeGu0

―――γ機コクピット内

菫「あれは……ウルトラマンタロウか!?」

堯深「解放されたんだ……」

ピピッ

菫「!はい」

穏乃『私です!赤阪さんの通信機借りてます!』

菫「高鴨か!あれはウルトラマンタロウか?」

穏乃『はい。タロウの援護お願いします!』

菫「勿論だ。照、彼の動きに合わせて援護を出すぞ」

照『了解』





588 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/05(土) 14:27:46.22 ID:EAPnGeGu0

メフィスト「……ドゥアッ!!」

タロウ「ショアッ!」

走り来るタロウに対しメフィストは光弾を乱射した。地上に衝突したそれは爆発を起こし、煙でタロウの体を隠していく。
しかしタロウは爆発や光弾は難なく躱していた。空に飛び上がった彼は流れるような動きで全身を捻らせ、その勢いによる“スワローキック”を繰り出した。

メフィスト「グオッ……!」

勢いを殺すように、着地と同時にタロウは前方へ転がる。振り向くと、メフィストは頭を振りながら立ち上がっていた。
しかしそんな隙を見逃すタロウではなく、即座に走り寄り、構えるメフィストの腹をパンチした。

メフィスト「オォォ……」

次第にメフィストの呻き声に余裕が無くなってきた。
反撃の口火を切ろうとキックやパンチを入れようとするが、タロウは素早くそれを躱していく。





589 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/05(土) 14:28:14.28 ID:EAPnGeGu0

メフィスト「ドゥアアッ!!」

回し蹴りをタロウがバク転して躱す。ここを好機と見て、メフィストは腕を十字に交差させた。
黒と紫で腕が光り、破壊光線“ダークレイ・シュトローム”が放たれ、体勢を整えた直後のタロウに一直線で向かっていく。

タロウ「ハァッ!」

しかし――タロウは左手首のブレスレットを体の前に翳した。
キングブレスレットの力によってドーム状のバリアーが展開され、メフィストの破壊光線は防ぎきられた。

メフィスト「……!」


堯深「……強い」

菫「逆に援護するタイミングが無いな……」





590 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/05(土) 14:28:45.18 ID:EAPnGeGu0

―――病院

病院に到着した穏乃は避難する患者と職員の中に怜たちを発見した。

穏乃「園城寺さん!」

怜「高鴨……」

穏乃「よかった……。大丈夫でしたか」

怜「……ああ。それにしてもあれは」

穏乃「タロウの解放に成功しました。どうですか?」

怜「めっさ強いで……。戒能先輩を全く寄せ付けん強さや」

穏乃「やっぱりあれ、戒能さんなんですか」

怜「ああ……」

怜の両脇の二人はまさしく意味不明という顔で穏乃を見ていたが、穏乃が戦いの方に目を向けると、それに釣られて同じ方向に顔を向けた。





591 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/05(土) 14:29:15.42 ID:EAPnGeGu0

メフィスト「……フッ!」

メフィストが掛け声を上げると、右の手甲から鉤爪が飛び出てきた。
しかしタロウは全く動揺を見せなかった。武器を持って戦いを挑んできた敵も彼の記憶の中には存在していた。

メフィスト「ハッ!」

メフィストが走りだし、タロウがそれを迎え撃つ。
鉤爪を振るうが、それらは紙一重で躱され、逆に空いた脇腹に蹴りを入れられる。

メフィスト「グッ!」

タロウ「イヤァッ!」

怯んだメフィストの胸を蹴り飛ばし、後ずさりさせる。
その攻撃は一撃一撃が重く、メフィストは受けた部位を押さえながら体勢を保とうとする。

タロウはそれを見て右手を大きく掲げた。
左手をそれに合わせ、両手をそれぞれ腰の横にゆっくり下ろす。それにつれて彼の体は虹色の光を纏っていく。





592 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/05(土) 14:29:51.94 ID:EAPnGeGu0

タロウ「――ストリウム光線!!」

T字に構えた両腕から虹色の光線が放たれた。メフィストは躱すことも防ぐこともできず、まともにそれを喰らった。
光線が終わるとメフィストの体は自然に崩れ落ち、そして倒れたその場所から爆炎が巻き起こった。

穏乃「おっしゃー!!」

怜「やば……」

タロウのカラータイマーが点滅して音を立て始めた。
穏乃や怜、空の菫たち、地上の淡や他のチームの隊員たち。それら全員が勝利の余韻を感じていた、その時――

タロウ「ッ!?」

タロウが突然構えを取った。彼が発した空気はその場にいた全員に伝わり、避難していた人々でさえその方向に顔を向けた。
タロウの視線の先。爆煙が薄れていくその中に紫の雷がほとばしっていた。





593 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/05(土) 14:30:49.60 ID:EAPnGeGu0

『ダークライブ……スキューラ!』

『ダークライブ……バジリス!』

『ダークライブ……キングオブモンス!!』


紫電が地平線の様に広がり、赤い光も混じって稲妻のように空間を駆け走った。
煙が薄れてきたところに轟音と共に再び土煙が立った。

深い青の巨体がその中に姿を現した。
喉元まで続く赤い蛇腹の両脇には牙のような刺がずらりと並び、背中に広がる骨のような翼はその意匠を随所に伸ばしている。

そして、凶悪に鋭い赤い両眼。
更にはその間からぎょろりと丸い眼が開き、その悪魔的な形相は、土煙の向こうにいるタロウをじっくりと見据えていた。

タロウ「ショアッ!」

キングオブモンス「アァァァァァァ!!!」





594 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/05(土) 14:31:18.36 ID:EAPnGeGu0

―――宮守女子のホテル

トシ「これは……もしかして、エイスリンが予知した怪獣?」

エイスリン「……イイエ」

トシ「でも、この絵のと酷似してる……」

トシはエイスリンのホワイトボードを手に取り、その絵に目を落とした。
しかしトシは「違う」と思い直した。そこに描かれていた怪獣は配色や基本的な形こそ似ていたが、翼や蛇腹の牙は生えていなかったのだ。

トシ「確かに形とか少し違うわね」

エイスリン「ソレダケジャナイデス」

トシ「え?」

エイスリン「カイジュウガタタカッテルバショ……タタカッテルアイテ……チガイマス」

トシ「そうだね……確かに」

エイスリン「ミライガ、カワッタ……」





595 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/05(土) 14:31:57.07 ID:EAPnGeGu0

―――現場

キングオブモンス「アァァァァァァァ!!!」

キングオブモンスの口が大きく開いた。タロウは咄嗟に左腕のキングブレスレットを構える。
その口から赤色光線“クレメイトビーム”が放たれる。キングブレスレットはバリアーを作り出し、それを防ぐ。
しかしタロウ自身のエネルギーが残り少なかった。ビームはバリアーを突き破り、タロウの体を襲った。

タロウ「ハァッ……!」

撥ね飛ばされたタロウをキングオブモンスが更に蹴り飛ばした。
地面に倒れるタロウは蹴られた脇腹を押さえたままで中々立ち上がれない。

菫『ウルトラマンタロウを援護しろ!』

照『了解……!』

δ機とγ機のミサイルがそれぞれの方角から怪獣を襲った。
カラータイマーの点滅音が焦燥感を煽る中で、タロウは冷静に体勢を立て直す。





596 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/05(土) 14:32:32.40 ID:EAPnGeGu0

キングオブモンス「アァァァァァァ!!!」

キングオブモンスはどこまでも届きそうな叫び声を上げ、照のδ機にクレメイトビームを吐き出した。
照は何とか逃れようとするが、怪獣は素早く顎を上げて破壊光線をδ機の進行上に浴びせかけた。

誠子『うわぁっ!』

照『くっ……』

光線はブースターの一つを掠り、煙を上げて機体は墜ちていった。

照『ごめん……離脱する……!』

δ機が墜落し、その場所に火の手が上がる。その爆音によって我に返った群衆は再び阿鼻叫喚を呈して足を速めた。





597 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/05(土) 14:33:06.65 ID:EAPnGeGu0

タロウ「……デヤァッ!」

チェスターがキングオブモンスの気を引いている間にタロウは全身に力を溜めていた。
溢れんばかりのエネルギーが炎の形を作って彼の全身に纏われる。キングオブモンスはそれに感づき、タロウの方を向き直った。

タロウ「ショワァッ!!」

タロウはそのままキングオブモンスに突進した。全身のエネルギーは彼の走る軌跡に残光を刻んでいく。

キングオブモンス「アァァァァァァ!」

しかし――キングオブモンスはその翼を広げ、その身体を包んだ。
骨翼は怪獣の前方に赤い障壁を作った。タロウは弾かれ、その突進は阻まれてしまう。

タロウ「ハ……ハァァッ……!」

タロウが肩で息をしながら膝をついた。
彼は今まさに全身のエネルギーを集めて自身の体もろとも爆発させる“ウルトラダイナマイト”を使おうとしていたのだ。
しかしそれが破られ、タロウの体にはエネルギーの残滓が一滴も無くなってしまった。

穏乃「タロウ……!」





598 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/05(土) 14:33:48.01 ID:EAPnGeGu0

キングオブモンス「ウァァァァァァア!!!」

キングオブモンスが悲鳴のような叫び声を響かせた。
呆然としていた穏乃がその方向を見る。昨日とは違い、人間の姿のままでも怪獣の意識を見ることができた。

やはりと言うべきか、その中にいたのは戒能良子だった。
その眼が赤く光り輝き、それに呼応するように怪獣から赤い雷がほとばしる。

すると怪獣の体が蠢き始めた。穏乃は目を見開いたまま次の光景を眺めていた。
キングオブモンスの翼からバジリスが、腹の牙からスキューラが飛び出してきたのだ。
それらは叫び声を上げ、意思を持った新たな怪獣となってタロウに襲いかかった。

スキューラ「シェァアァァァ!!」

まずスキューラが破壊し尽くされた街を滑るように走り、タロウを突き飛ばした。

バジリス「キュァア!キュァア!!」

いつの間にかタロウの背後に降り立っていたバジリスが受け止め、その鎌でタロウを切り裂いた。

タロウ「ハァ……ァッ!」





599 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/05(土) 14:34:26.94 ID:EAPnGeGu0

穏乃「タロウっ!!」

穏乃の中にタロウを助けたいという気持ちと、戦う勇気が満ちた。
ポーチの中のギンガスパークが輝きだし、それを取り出した穏乃の手の中でギンガの人形を出現させた。

穏乃「……今行くよ、タロウ」

怜「私も行く」

穏乃「!園城寺さん……」

竜華「怜!」

セーラ「怜……」

怜「私も戦わんと……勝てへんやろ」





600 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/05(土) 14:36:48.30 ID:EAPnGeGu0

照「今の貴方が行っても勝てない」

全員が驚いて背後を振り向くと、そこにはディバイトランチャーを抱えて立つ照の姿があった。
そんな視線を余所に、彼女は怜だけを見据えて表情一つ変えずに言葉を続けた。

照「あなたは……今まで『死んでもいい』と思って戦ってきた」

照「だから自分の体のことも省みず、後先考えずに能力を使ったり戦いに出たりしていた」

照「でもそれは勇気じゃなくて『無茶』。覚悟じゃなくて『逃げてるだけ』」

怜「……あんたに、私の何が分かるんや」

照「……。分かる。私も逃げたから」

怜「え?」

照「……死んでもいいと思って戦うことと、死ぬ気で戦うことは全く別のこと。だから……」

照「生きるために戦って。例え、明日がなくても」

怜「……生きるために」

怜はエボルトラスターを手に、怪獣の方を見て一歩踏み出した。
竜華が泣きそうな顔で怜を見る。怜はそんな彼女を振り返り、「必ず帰る」と約束をした。





601 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/05(土) 14:38:03.09 ID:EAPnGeGu0

怜「高鴨、行くで」

穏乃も怜の顔を覗き込んだが、その顔は以前見られた物憂げさも悲壮感も無く、まるで森羅万象を見通しているような真っ直ぐな瞳を光らせていた。

穏乃「……はい」


『ウルトライブ!ウルトラマンギンガ!!』


ギンガスパークから光が飛び出し、穏乃の体を包んでいく。
怜も翳したエボルトラスターから放たれた光に包まれ、それぞれの光は二人を巨人の姿へと変貌させた。


タロウ「ハ……ァァ……ッ」

穏乃『タロウ!』

タロウ「!」





602 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/05(土) 14:38:36.44 ID:EAPnGeGu0

驚いて顔を上げると同時に、タロウを弄んでいたバジリスとスキューラが弾き飛ばされた。
更に体が持ち上げられ、そのカラータイマーに光が差し込まれていく。それを為しているのは二人のウルトラマンだった。

タロウ『……すまない。もう大丈夫だ』

タロウのカラータイマーの点滅が消え、元の青色に戻った。ギンガが自身のエネルギーを彼に分け与えたのだ。
一方で怜のウルトラマンはその体躯を銀から青のものへと変え、二人に並び立った。

怜『二人とも、戒能先輩は私に任せて』

穏乃『……はい。頼みました』

タロウ『行くぞ、二人とも!』

三人のウルトラマンが一斉に走り出した。
それを受けて立つのも三体の怪獣。バジリスはギンガへ、スキューラはタロウへ向かっていく。





603 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/05(土) 14:39:06.78 ID:EAPnGeGu0

ギンガ「ショラッ!」

バジリス「キュァア!」

ぶんぶんと振り回す鎌を避け、首や腹に打撃を加えていく。
地上では分が悪いと思ったか、バジリスは翼を広げ、空中へ身を踊り出した。ギンガもその挑戦に応え、その後を追っていった。


タロウ「ショアァッ!」

跳躍してスキューラの突進を躱し、タロウは半月状の光刃を放った。
それを受けたスキューラは、パターン化するのを恐れたのかタロウとは別方向へ滑り、滑空するように飛んでいった。

タロウ「ショァッ!」

タロウもそれに続く。スキューラは湾へ着水し、タロウもその中に飛び込んだ。





604 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/05(土) 14:39:37.36 ID:EAPnGeGu0

巨人「シュアッ!」

巨人は勢いのままに飛び蹴りを食らわせた。怯む怪獣の腹にパンチしようとした時、その脇の牙が大きく飛び出してきた。

巨人「ヘアッ!?」

思わず腕を引っ込める。その動揺を突き、キングオブモンスは腕でウルトラマンを叩き飛ばした。

巨人「シュア……」

キングオブモンス「アァァァァァァァァァ!!!」

クレメイトビームが放たれ、ウルトラマンは体の前にバリアーを張ってそれを防ぐ。
しかしキングオブモンスは光線を吐くのをやめようとはしなかった。徐々にウルトラマンの方が辛くなり、終いにはバリアーが破られてしまった。

巨人「ハァァ……ッ!」

キングオブモンス「アァァァァァァ!!!」





605 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/05(土) 14:40:17.07 ID:EAPnGeGu0

攻撃の手を緩めることはなく、キングオブモンスは広がった距離をどんどんと詰めてくる。
ウルトラマンは左の手甲に右手を当て、そのまま右手を突き出した。その先から光刃が飛び、怪獣の首を掠った。

巨人「シュアッ!!」

僅かでも見せた隙を突こうとウルトラマンが駆け出す。
しかしその考えは読まれていた。骨翼が大きく広がると怪獣の体は宙に浮き上がり、こちらへ向かうウルトラマンへと突進した。
彼はそれを躱すことなどできるはずもなく、まともに受けて背後に倒れ込んだ。





606 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/05(土) 14:41:09.78 ID:EAPnGeGu0

―――宇宙空間

ギンガとバジリスは飛び上がり続けた末に宇宙にまで来ていた。

穏乃(凄い……)

初めての宇宙。というか地球人で宇宙にまで生身で来れた人間なんて自分が初めてなのではと穏乃は思っていた。
そんなことに思いを馳せている中、先を飛んでいたバジリスがUターンしてきた。

ギンガ「ショラッ!!」

ギンガは両腕をジェット機の翼のように広げ、向かい来るバジリスへ真っ向勝負を挑んだ。
スピードが上がり、今にも激突しそうというところでギンガは右の拳を突きだした。

バジリス「キュァッ!」

しかし直前、バジリスは軌道を僅かに逸らせ、ギンガとの衝突を回避した。

ギンガ「ジュワ……ッ」

どころか、その鎌でギンガの背中を斬って通りすぎていった。
ギンガは飛行をやめ、その場で体を止めた。バジリスは再びUターンし、こちらに飛んでくる。

ギンガ「ショ……ラッ!」

ギンガが腕を交差させると、全身のクリスタルが赤く輝き始めた。
炎のようなエネルギーを全身に纏わせ、その周囲には六つの炎弾が浮かび上がった。





607 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/05(土) 14:41:44.03 ID:EAPnGeGu0

―――水中

タロウ「……?」

水中までスキューラを追ってきたタロウだったが、早速その姿を見失っていた。
キョロキョロと辺りを見回す。と、その時、背中に衝撃が加わった。

タロウ「ハァァッ……!」

水中で体の自由を無くし、タロウはくるくると回転しながら水底まで降り立った。
再び辺りを見回すも、スキューラの姿はない。どうやら得意な場所へ誘導されてしまったらしい。

スキューラ「ヴルルルルル……」

声のした方を振り向く。しかしそうした時には既にスキューラはタロウを襲って向こう側へ姿を消しているところだった。

タロウ「デヤッ!」

姿を消した先に光刃を撃ち込む。しかしそのまま見えなくなってしまったのを見ると外したのだろう。
今度は背後からの攻撃に備え、体の向きはそのままで、感覚を背後に集中させた。

しかしそうしていると、突然タロウの視界が遮られた。それと足元が崩れたのは全く同時だった。

スキューラ「ヴルルルル」

スキューラは土中に潜っていたのだ。そしてタロウの足元から現れ、その常軌を逸脱した巨大な顎で彼の全身を挟み込んだ。

タロウ「ンンッ……!」

スキューラ「ヴルルルルル……」





608 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/05(土) 14:42:13.35 ID:EAPnGeGu0

―――地上

地上ではウルトラマンがキングオブモンスと戦っていた。
しかし形勢は完全にキングオブモンスに傾いていた。繰り出す技は次々と破られ、逆に反撃を受けてしまう。
その繰り返しで、怜の限界もあってウルトラマンは既にカラータイマーを点滅させていた。

巨人「……ハァ、ハァ」

キングオブモンス「アァァァァァァ!!!」

キングオブモンスがクレメイトビームを放とうとした瞬間、首回りに爆発が起きた。
怪獣がその方向を睨む。一機残ったチェスターγがミサイルを当てたのだった。

キングオブモンス「アァァァァァァァァァ!!!」

しかしキングオブモンスは再びクレメイトビームを放つ。
懸命に躱そうとするも、掠っただけで機体は大ダメージを受けた。

堯深『弘世先輩!早く脱出を……!』

菫『……くそっ!!』

最後の最後まで粘っていたが、二人は機体から脱出し、γ機は墜落、大破、炎上してしまった。
それを見てウルトラマンは項垂れ、膝をついたままその体は前に倒れ込んでしまった。





609 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/05(土) 14:43:16.23 ID:EAPnGeGu0

―――宇宙空間

Uターンしてくるバジリスと、今度は停止し、炎弾を構えて迎え撃つギンガ。

バジリス「キュァアッ!!」

しかしバジリスは口を開け、そこから赤い光弾を放った。ギンガは咄嗟に炎弾の一つを飛ばす。

ギンガ「シュワッ!」

二つの弾は暗黒空間の中で相殺され、爆発は真空の中で直ぐに消えてしまう。
そのお陰でバジリスが続けて放った光弾の数が把握できた。ギンガは二発の炎弾を発射し、それらもまた相殺された。

ギンガ「ギンガファイヤーボール!!」

腕を突き出し、残る三弾を爆発の中へ放り込む。
すぐに消え行く爆発の中に更に爆発が起こり、炎弾が命中したことが分かった。

バジリス「キュアァァア!!」

しかしバジリスはまだ生きていた。ギンガに突進し、その鎌が太陽の直の光を反射して鈍く輝いた。
だがギンガはその鎌を掴んだ。手に痛みが滲んでいくが、どうにか耐えきり、バジリスの足を両手で掴んだ。

バジリス「キュアァ!キュァア!!」

ギンガ「ショラァッ!!」

足を掴んだままバジリスを振り回し、地球の方へ放り投げる。
慣性にバジリスは飛ばされ、ギンガはそんな怪獣の姿に照準を合わせた。





610 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/05(土) 14:43:48.40 ID:EAPnGeGu0

―――水中

タロウ「ンンッ……デッ……!」

スキューラ「ヴルルルルル……」

タロウ「ショア、デアァッ!!」

力を込め、辛くもタロウはスキューラの顎の中から脱出した。
しかし彼が体勢を立て直した頃には、スキューラの姿は既に消えていた。

タロウ「………」

考えた末に、タロウは左腕のキングブレスレットを掲げた。
その背後にスキューラが迫ってくる。しかしその突進は何故か空を切った。
タロウはその機を逃さず、通り過ぎようとするスキューラの体に打撃を加えた。

スキューラ「ヴルルルル……」

タロウの掲げたキングブレスレット。それが起こす幻覚効果で、スキューラは攻撃を外してしまったのだ。
そして、タロウは倒れるスキューラに向けて照準を合わせた。





611 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/05(土) 14:44:33.95 ID:EAPnGeGu0

―――地上

怜『はぁ、はぁ……』

『――レン!レン!』

怜『……エイスリン?』

エイスリン『レン……よく聞いて』

エイスリン『その光は希望を繋げるための光。だからこそ人から人へと繋がっていく』

怜『………』

エイスリン『だから絶対死んじゃダメ。今、たくさんの人があなたを見ている。ここで死んだら希望はもう繋がらない』

エイスリン『誰かが希望を求める限り、あなたは絶対に負けちゃいけない!だから生きて!レン!』

怜『………』

怜『光は……人から人へ受け継がれていく希望……』





612 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/05(土) 14:45:36.24 ID:EAPnGeGu0

ウルトラマンが立ち上がった。今にも倒れそうながら、足の裏で地面をはっきり感じさせ、体勢を低く取って怪獣と対峙する。

怜『私は生きる……!』

怜『生きて、この光を繋ぐ!』

ウルトラマンが駆け出した。前方には陽炎の中で揺れる怪獣の姿。
だが怜は走った。もう逃げない。走ったこの先にあるのが死であったとしても。

ウルトラマンは右腕を胸のコアに翳した。
その手甲には弓の光と剣の光が伸び、その体に宿る全てのエネルギーを結集させていく。

――だが。怜の考えは『人の心を読む』良子にはお見通しだった、
迎え撃つためのクレメイトビームが放たれたと同時に跳躍し、空から渾身の一撃を叩き込む。それが怜の考えだった。

キングオブモンスは翼をあらかじめ前へ持ってきた。こうすれば破れかぶれで突っ込んでこられたとしてもバリアーで防げる。
跳躍したら、それに合わせてビームを放つ。そうすればその体は無様にも墜ちていくだろう。
まるで、翼をもがれた鳥のように。

そうとも知らず、ウルトラマンは走り続ける。
しかし、ビームを撃たない敵に怜は焦りを感じていた。だがこのまま突っ込んでもバリアーを張られて終わる。
ならば飛ぼう。恋い焦がれていた、自由なあの鳥のように。





613 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/05(土) 14:46:04.89 ID:EAPnGeGu0

―――宇宙空間

体の自由が取れずに慣性に飛ばされていくバジリスに、ギンガは照準を合わせていた。
その両腕を交差させる。左腕を上に右腕を下に回すと、それにつれて全身のクリスタルが重厚な青の輝きを解き放つ。


ギンガ「――ギンガクロスシュート!!」


垂直に立てた右腕から虹色の光線が暗黒を切り裂き、流星のように進んでいく。
それはバジリスを押し続け、大気圏に入ると同時に大きな爆炎を展開させた。


―――水中

水底に倒れるスキューラにタロウは照準を合わせていた。
右腕を高く掲げ、左手をそれに合わせる。エネルギーを全身に漲らせると、身体中が虹色に光り輝いた。


タロウ「――ストリウム光線!!」


T字に構えた両腕から虹色の光線が放たれ、スキューラの体を捉えた。
水底の砂を巻き込んで爆発が起こる。スキューラは木っ端微塵に弾け飛んだ。





614 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/05(土) 14:46:49.25 ID:EAPnGeGu0

―――地上

巨人「ハァッ!!」

ウルトラマンが跳んだ。待ってましたとばかりにキングオブモンスは光線を放つ――
しかし放てなかった。その翼、蛇腹の牙から火花が飛び、キングオブモンスは一瞬怯んだ。

キングオブモンスから生まれた二体の怪獣。それらが敗れたことで、彼らが生まれた場所が連動してダメージを受けたのだった。
慌ててクレメイトビームを吐き出す。しかし既にウルトラマンは遥か高くで構えを取っていた。

巨人「――シュアッ!!」

光の剣と弓が合体した光弾“オーバーアローレイ・シュトローム”が撃ち出され、唸りを上げて空を裂いてゆく。
怪獣の眼の中で急速に大きくなっていくその姿はまるで、金色に全身を輝かせる不死鳥のようだった。





615 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/05(土) 14:47:26.54 ID:EAPnGeGu0

光弾はキングオブモンスの体の中心線を通り、その背後に着弾した。
通った跡に光の亀裂が走り、怪獣は力なく前へ倒れ込んだ。

ウルトラマンが膝をついて降り立つ。
その背後では、キングオブモンスが倒れた場所で爆炎が立ち上っていた。

地上で歓声が起こる。竜華とセーラもひとまずはほっとした目でウルトラマンを見ていた。
ウルトラマンが立ち上がって腕を交差させると、光の渦が周囲に昇り、その姿は渦の中に消えてしまった。


―――???

怜の精神世界――というよりは、彼女が初めてウルトラマンと出会った遺跡の中。
深い青が地平線に至るまで続く海のような空間。その中に怜はいて、目の前にはそんな彼女に眼差しを送る銀色の巨人がいた。

怜「……ありがとう」

エボルトラスターが鞘に納められ、それはウルトラマンの胸のコアに帰っていった。





616 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/05(土) 14:48:33.02 ID:EAPnGeGu0

―――病院

竜華「怜!怜!」

セーラ「怜ぃ!!」

ストレッチャーで移送される怜。二人の呼び声にも全く反応を見せず、その顔は死人のように蒼白で、固まっていた。

照「………」

菫「照!……園城寺は?」

照は黙ったまま、首を横に振った。

誠子「そんな……」

堯深「………」


竜華「怜……怜ぃ……」

すがり付く竜華の手に背筋が凍る程の冷たさがしみた。
しかし、その時――

竜華「……?」

その手に、微かに感触が加わった。

セーラ「怜!?」

怜は目をうっすらと開き、澄んだ瞳を竜華に向けていた。
熱い涙が竜華の頬を滑り、零れ落ちたそれは、二人の手を温もりに包んでいった。





617 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/05(土) 14:49:22.07 ID:EAPnGeGu0

―――現場

穏乃「……で、結局これでよかったの?」

タロウ「ああ」

穏乃の肩に乗ったタロウの人形が答えた。
タロウは一時は復活を果たしたが、活動限界時間が切れてしまうとこの姿に戻ってしまうらしかった。

穏乃「でもウルトラマンの姿の時に地球人に擬態したらエネルギーは使わずに済むんでしょ?わざわざ人形に戻らなくても」

タロウ「だがこの姿の方が君と共に行動しやすいと思ったんだ。まあ、戒能良子の敗北が確認されたらすぐ戻してもらうつもりだが」

穏乃「おっけ。……あ、いた」

キングオブモンスが斃れた場所に戒能良子は横たわっていた。
穏乃は彼女の生死を確認し、息があるのを確認して安堵した。

しかし、あることに気付いたことで、彼女の安堵は再び疑念と恐怖の中に消えゆくことになった。





618 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/05(土) 14:49:49.53 ID:EAPnGeGu0

穏乃「……え!?」

彼女の手にはダークスパークが握られていなかった。怪獣にライブしていたときは間違いなく持っていた。だが今は無い。

穏乃「何で……?」

敗北したことでダークスパークが消滅したとは考えられない。あの中には膨大なエネルギーが蓄えられている。
今までに消えていたのは、それが偽物で、残存するエネルギーも無かったからの筈だ。

タロウ「ということは……」

昨日良子がダークスパークを持って現れ、今日ウルトラマンになったことで、黒幕は彼女と確定したと穏乃は思っていた。
だが今日良子が怪獣に変身したのはダミースパークを使ってだったということだ。つまり――

穏乃「敵は……まだいる……」





619 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/05(土) 14:50:53.25 ID:EAPnGeGu0

その日の午後、レーテが起動されたことにより人々の中のウルトラマンと怪獣の記憶は抹消された。
そして――


―――???

一人の少女が、暑苦しいジャングルの中を歩いていた。
しばらく歩くと、突然目の前に石の棺が現れた。彼女がそれに触れると――

「っ!」

眩い光が彼女を包み込み、次の瞬間、彼女は現実の世界に戻っていた。
右手の感触に驚き、視線を落とす。その手の中で、エボルトラスターのコアが静かに鼓動を刻んでいた。


To be continued...





620 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/05(土) 14:53:56.42 ID:EAPnGeGu0

登場怪獣:劇場版ウルトラマンガイアより、"最強合体獣"キングオブモンス
ウルトラマンネクサス第14話~18話、第24話より、ダークメフィスト


また今度続き書きます





627 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/10(木) 22:41:59.44 ID:n4kNAfEM0

第十三話『輝けるものたちへ』


遥か、M80蠍座球状星団――

嘗て来訪者が棲んでいた惑星はスペースビーストの襲来によって滅んでしまった。
しかし、TLT職員の知るこの情報には更に裏があった。
トシやエイスリンのような地位にある人間は、来訪者の星が滅亡した本当の理由を知っていた。

それが秘匿されていたのには、滅亡の元凶――その中心の存在が深く関わっていた。

来訪者の星はビーストの襲来によって滅びかけた。
しかしそこに救世主が舞い降りた。“宇宙の大いなる神”と呼ばれる巨人は、その圧倒的な力でビーストを殲滅させた。

彼はビーストの殲滅に自らの力を使い果たし、その星の中で眠りについた。
そこで来訪者たちは、その科学力で彼を模した巨人兵器を開発しビーストへの抵抗手段とした。
ビーストは知性に宿る恐怖を餌とし誕生する存在。殲滅後も彼らの星に現れ続け、巨人兵器はそれを撃退していった。

だがある時、巨人兵器は暴走を始めてしまった。

巨人兵器には自己を進化させるプログラムが搭載されていた。
しかしそれによって彼は“宇宙の大いなる神”に近づけるように、より強大な力を欲すようになった。

本来ならば滅ぼすべきビーストを更に増やし、そしてそれを倒して力をつける。星の住人はその歪んだ姿に恐怖し、ビーストは更に増えていった。
その巨人兵器はもはやビーストを統べる存在と言っても過言ではなくなり、来訪者たちはその脅威に対処できなくなった。

そして来訪者たちは最終手段として、自らの母星を爆破し、宇宙の難民となった。
その爆発により巨人兵器は死に、ビーストも全滅した――はずだった。

巨人兵器は死ぬ間際に自らとビーストを光量子情報体に変え、「闇」という概念的な存在となって一命を取り留めていた。
宇宙を遊飛した果てに彼らは地球へ辿り着いた。ビーストはそこで増殖し、巨人兵器は地球の社会に潜伏した。

これが全ての真相。
そしてそれこそ、今から始まる終幕を下ろす者の過去――





628 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/10(木) 22:44:43.15 ID:n4kNAfEM0

―――深夜、宮守女子のホテル

零時を回り、日付は変わってしまった。
インターハイ十一日。延期された決勝戦が行われる日。

眠りについていたエイスリンは夢を見た。
紅蓮に包まれる都市。崩れていくビルと、空を包んでいく暗雲。

エイスリン「ウ、ウウン……?」

重苦しい空気が喉に絡む。胸が苦しくなり、エイスリンは夢の世界から目覚めた。
パジャマは寝汗でぐっしょりと濡れており気分が悪い。着替えるか、とベッドを降りようとしたときだった。

エイスリン「……!」

突然、頭を横殴りするかのように予知が訪れた。
エイスリンはその映像に呆然としていたが、急いでトシを起こした。





629 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/10(木) 22:45:08.22 ID:n4kNAfEM0

トシ「うぅん……?どうしたんだい」

エイスリン「イマスグ、スクランブルヲ!」

トシ「ビーストかい……?」

エイスリン「……イイエ。アト、シズノニモ、レンラクシテクダサイ」

エイスリン「バショハ……Point1-1-1」

トシ「え……?」

エイスリン「Point1-1-1デス!オネガイシマス!」

トシ「わ、わかったわ」

慌ただしく動き始めるトシを見ながらエイスリンも着替え始めた。

エイスリン(……遂に、奴が来るのか)





630 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/10(木) 22:45:40.11 ID:n4kNAfEM0

―――白糸台高校の寮、菫の部屋

菫(決勝戦か……)

決勝戦。菫は三年生なのでこれが最後の団体戦ということになる。
今は戦闘部隊の隊長でもある彼女だが、高校入学当初はそんなこと考えもしていなかった。
自分の高校生活は普通に部活をし、普通に青春を過ごすものだと、彼女はずっと信じていたのだ。

菫(色んなこともあったが……明日が最後なんだな)

その時ふと、菫は思った。
部活を引退し、高校も卒業したあと、自分はどうなるのだろうか?

菫(……そのままTLTの職員にさせられるんだろうか)

菫(それとも――記憶を消されて、一般社会に帰っていくんだろうか)

『記憶を消される』。菫はぞっとした。
もし自分がTLTに属する道を選ばなければ記憶を消されるだろう。
そうすると、この二年間仲間と戦ってきた記憶はどうなるのだろうか?

菫(改竄されるんだろうな……。『普通に部活した』『普通に青春した』っていう風に)

それは嫌だ。TLT内にいて、レーテの影響を受けないようにしている彼女は、記憶が無くなることの怖さはよく分かっていた。





631 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/10(木) 22:46:17.99 ID:n4kNAfEM0

菫(この前の高鴨も……。自分の信じてきた過去が、本当は偽りだったなんて知ったら……)

恐らく知ってしまうことはかなり稀有な例だろう。普通ならそれが偽りだなんて気付かずに日々を過ごしていく。
だが『知らない』ということが怖かった。自分の知らない所で真相が隠されている。それはとても怖いことのように思えた。

菫(だとしたら、私の将来は……)

自分はTLTに属し、ナイトレイダーやメモリーポリスとして働くことになるのだろう。
決まってしまった。未来は一つきりに。

菫(これが運命ってやつなのかもな……)

本当はたくさんの可能性を見たかった。だがそれは叶うことはないだろう。

菫(………)

更けていく夜に想いを馳せている、そんな時。
ひっそりとしていた部屋の中に音が響いた。寝返りをうつと、通信機の画面が光ってスクランブルを知らせているのが目に入った。





632 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/10(木) 22:46:50.46 ID:n4kNAfEM0

―――虎姫の部屋

ガチャッ

淡「ごめん、遅れた!」

菫「今みんな揃ったところだ。早く出動準備を」

淡「はいっ」

五人が眠気を隠しながら準備を進めているとき、突然スクリーンにエイスリンの顔が映った。

菫「イラストレーター。今日の出動はどういうことだ?私たちは深夜帯は非番のはずだが」

エイスリン『申し訳ないです。しかし今日は特別ということで、全部隊にスクランブルを要請しています』

菫「何があったんだ?」

エイスリン『来訪者が予期していた“破滅”。その元凶が姿を現す……その予知を見ました』

菫「なに?」

エイスリン『TLTはずっとその存在を追っていました。そして、“奴”の狙いがレーテにあるということに気付いたのが二年前です』

エイスリン『そのためTLTは高校生のあなた方に武力を持たせました。奴はインハイ会場に姿を現すだろうから……』





633 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/10(木) 22:47:19.85 ID:n4kNAfEM0

菫「話が見えない。わかるように言ってくれ」

エイスリン『レーテはザ・ワンが現れたインハイ会場の地下深くに作られました。“奴”はそれを狙ってくる』

エイスリン『何故なら奴はレーテを壊すことが目的だから。世の中に恐怖を蔓延らせる。それが奴の目的だから……』

菫「すまない。全然わからない。“奴”って誰なんだ?」

エイスリン『破滅の元凶です。とにかく急いでください。δ機の搬入は終わっています』

全くもって核心が見えてこない語りに菫は心の中で舌打ちした。

菫「とにかく……大事らしいから私と照が先に出よう。淡、亦野、堯深。お前たちはメモリーポリスの車で後から来てくれ」

淡「りょーかいっ!」
誠子「了解です!」
堯深「了解しました……」

照「行こう」

菫「ああ」





634 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/10(木) 22:47:57.41 ID:n4kNAfEM0

―――δ機コックピット内

指定されたのはPoint1-1-1。ザ・ワンが現れた始まりの場所にδ機は向かっていた。

照「破滅って、何なんだろう」

菫「さあな……」

照「……菫。通信切ってる?」

菫「?切ってるが……」

照「菫に話さなくちゃいけないことがあって」

菫「なんだ?」

照「今日、変な夢を見た」

菫「夢?」

照「うん。空に暗雲が立ち込めて、世界中が黒く塗り潰される夢……」

菫「………」

照「もしかしたら、これが破滅なのかもしれない……」

菫「たかが夢だろ。そんなに深く考える必要なんて……」

その時、操縦席から何かが菫の方に差し出されてきた。
それが何なのかを理解したと同時に菫は息を飲んだ。それから放たれる厳かな趣には覚えがあった。





635 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/10(木) 22:48:44.53 ID:n4kNAfEM0

菫「……それは、まさか」

照「私が次の『適能者』みたい」

そう言って照はエボルトラスターを自分のポケットに戻した。

照「菫には言っておこうと思って」

照が口を閉じると、コックピット内は呼吸音すら聞こえない静寂に満たされていった。
菫は、照が適能者に選ばれたという事実に衝撃を受けていたが、やがて皮肉めいた笑みを口元に浮かべてこう言った。

菫「お前も……戦うことが運命付けられてるんだな」

照「……そうみたい」

菫「お前が夢の話をしたのはウルトラマンの力を継いだからだったのか」

照「うん。現実感が強い夢だった」

照「もしかしたら……これも運命なのかもしれない」

菫「地球の破滅が運命付けられていると?」

照「うん……」

菫は何も答えられず、否定することができなかった。
既に自分も、照も、運命という糸に絡めとられてしまっているのだから。





636 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/10(木) 22:49:11.35 ID:n4kNAfEM0

―――阿知賀女子のホテル、穏乃・憧の部屋

穏乃(………)

怜は助かった。明日は遂に夢が叶う。
しかし穏乃の胸中はざわめき、なかなか寝付くことができなかった。

そのざわめきは、まだ敵がいるという不安から来ていた。
明日――もう、「今日」だが――の試合中に敵が来襲してくるかもしれない。まだ見ぬ敵と相対して勝てるのだろうか。

穏乃(……いや、悩んだってしょうがない)

穏乃(私は今まで通り、人として、ウルトラマンとして、やれることをやるだけだ)

そう決意を新たにして、穏乃は睡眠に入ろうと寝返りを打った。

穏乃(……!)

その時だった。穏乃の携帯に通知の光が灯っているのが見えた。
手に取り、メールボックスを確認する。晴絵から、ビーストの出現の予知が出たという旨のメールだった。

穏乃(こんな時間に……?)

穏乃はベッドを降り、憧を起こさないように浴衣から私服へ着替えた。
ポーチを肩に掛け、部屋から出ていく。

ドアノブに手をかけたところで、穏乃は憧のベッドの方を振り返った。
部屋の中は真っ暗でよく見えなかったが、その安らかな寝息は聞こえていた。

穏乃(……行ってきます)





637 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/10(木) 22:50:02.18 ID:n4kNAfEM0

―――廊下

廊下に出ると、晴絵と鉢合わせになった。

晴絵「すまないな……私も反対したんだけど今回の敵は」

穏乃「めちゃくちゃ強いとか?」

晴絵「少なくともイラストレーターはそう予知したらしい」

穏乃「………」

晴絵「私の車で行こう。場所はインターハイ会場だ」

穏乃「え……?」





638 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/10(木) 22:50:30.58 ID:n4kNAfEM0

―――インターハイ会場

エイスリン「コンバンハ」

穏乃「こんばんは……」

会場に到着すると、エイスリンとトシ、虎姫の五人、そしてナイトレイダーのA・Bユニットが待機していた。

晴絵「敵は?」

エイスリン「マダ、カクニンサレテマセン」

晴絵「……事が起きるとは限らないんでしょう?どんなに大変かは知らないけど、しずは休ませてやってくれない?」

トシ「うん。会場の中の仮眠室を使ってちょうだい」

晴絵「はい。しず、行こう」

穏乃「はい……」





639 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/10(木) 22:50:56.95 ID:n4kNAfEM0

淡「ふぁーあ……私も仮眠とりたいなー」

誠子「いつ敵が現れるか分かんないんだぞ」

淡「そーだけど……もしこのまま何もなかったら、睡眠無しで試合だよ?テルとかやばいんじゃないの?」

照「大丈夫。多分」

淡「たぶんかぁ……」

淡の予感が当たったかのように、それから数時間が経って夜が明けても、何も現れる気配は無かった。
もうそろそろ人通りも多くなる。ナイトレイダーが衆目に晒される危険性が出るし、会場も開けざるを得なくなる。

トシ「エイスリン……」





640 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/10(木) 22:51:32.77 ID:n4kNAfEM0

エイスリン「……サクセンヲ、カエマス。Aユニット、ヨウスヲミテキテクダサイ」

A隊長「了解。皆、行くぞ」

Aユニットが会場に入っていった。
そしてその15分後、トシはAユニットに連絡を入れた。

トシ「ナイトレイダーAユニット。応答ください」

『…… …… ……』

トシ「ちょっと、応答してください」

しかし何度も呼んでも応答は無かった。通信は生きている。つまり、Aユニットに何かがあったということだ。

エイスリン「Bユニット、ヨウスヲミテキテクダサイ」

B隊長「了解」





641 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/10(木) 22:52:07.30 ID:n4kNAfEM0

―――会場内

Bユニットは関係者入口よりももっと厳重な警備の地下への入口へ立ち入った。
しかし、そのドアを開けた瞬間――

隊長「これは……」

目の前に広がっていたのは累々としたAユニット隊員たちの死屍だった。

隊員A「なっ……!?」

隊長「毒が散布されている可能性がある。全員、エアカーテンを展開せよ」

隊員各々は顔を引き締め、ディバイトランチャーを持つ手に力を入れた。
地下へのエレベーターに乗り、十一層まで降りる。

エレベーターでは最下層までは降りられない。
十一層に行き、そこで厳重なロックを経ることで漸く最下層『SECTION-0』に至ることができる。
そしてそこは、ナイトレイダーの隊長ですら足を踏みいることができない場所だった。

エレベーターのドアが開く。十一層も他と変わらず、壁は全てコンクリートに張り込まれた灰色の世界だった。





642 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/10(木) 22:52:42.57 ID:n4kNAfEM0

隊長が先陣を切り、左右を確認しながらエレベーターから出た。
隊員たちも続いて廊下へ出る。

隊員A「誰もいないですね……」

隊員B「振動波も確認されていません」

各人頷きあい、隊長を先頭に隊列を整えて廊下を進む。
最奥の曲がり角に来て、隊長はどことなく違う空気を感じた。

隊員たちにジェスチャーを示す。確認されたのを見て、隊長は角に飛び出し銃を構えた。

隊長「――止まれ!」

彼の声がコンクリートの中にぐわんと反響した。
その視線の先には侵入者がいた。その背中を見るや否や彼は声を張り上げたのだが、一瞬して、その異様さに気付いた。

ビーストではない。人間だった。
それもかなり背が低い。中学生――高校一年生ほどだろうか。

そしてその格好も異様だった。
純白の布地と、それに垂れる青のセーラーカラーの背部。ボトムは爽やかな青のロングスカートだった。





643 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/10(木) 22:53:33.19 ID:n4kNAfEM0

一見して『制服を着た女子学生』にしか見えない。
首を隠しきらない茶のショーヘアーもその幼さに拍車をかけた。

隊長はその余りの異様さに思わず固まっていたが、彼の言葉を無視して歩き出すそれを見て再び思考を回した。

隊長「止まれ!止まらなければ撃つ!」


少女「……撃ってみたらどうですか?」


その声は余りにも少女的で、文面とは裏腹に優しく柔らかだった。
隊長は再び戸惑いを覚えたが、汗ばむ手に力を込め、その背中にしっかりと照準を合わせた。

その背中が再び動き出す。隊長は引き金を引いた。
銃声が絶えずフロア内に反響した。しかし彼は目を疑う光景を目の当たりにしていた。

隊長の体が突如弾き飛ばされ、背後の壁に叩きつけられた。
それを見て隊員たちは一気に躍り出る。銃を構え、一斉にその背中に向けて発砲した。





644 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/10(木) 22:54:05.03 ID:n4kNAfEM0

―――虎姫サイド

侵入者の存在の連絡があった為、虎姫の五人もまた地下に潜っていた。
エレベーターの外から発砲音が小さく響いてくる。
既に戦闘が始まっているのだ。各員はディバイトランチャーを持つ手に力を入れた。

しかし発砲音の渦はエレベーターが降りていくにつれて、近づいている筈なのに小さくなり、到着したときには消えてしまった。
エレベーターを出て廊下の先を見る。Bユニットの隊員たちが倒れていた。

菫「大丈夫ですか」

隊員A「気を付けろ……奴は……」

照「……!」

菫「照?」

照「『SECTION-0』へのロックが解除されてる……」

隊員A「奴は……『SECTION-0』へ向かった……早く……」

菫「わかりました。照、行くぞ」

淡「私たちは?」

菫「お前たちはBユニットを地上に戻してくれ」

淡「オッケー」

三人は隊員たちの介抱を始め、照と菫は最下層への階段を降りていった。





645 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/10(木) 22:54:55.73 ID:n4kNAfEM0

―――SECTION-0

最下層もこれまでの層と同じく灰色に囲まれた世界だったが、その中は広々としていて地下駐車場のようだった。
階段から少し離れた先に天井にまで届く巨大な扉がある。それは固く閉ざされ、何者をも拒む防壁が備わっている。

“奴”はその扉の前にいた。
その手を宙に向ける。扉はその侵入を阻止せんがために、自らに電撃を巡らす。

少女「……“来訪者”」

少女「今のお前たちの力で……私は止められない」

宙に向けた掌に電撃が集まり、逆にそれは扉にぶつけられた。
扉が重くゆっくりと左右に開いていく。彼女は満足げな表情を浮かべ、その中に足を踏み入れた。

その奥もまた灰色の世界だったが、目の前にはドーム状の広間があった。
その空間の中には宇宙船のような巨大な物体が浮かべられていた。少女はそれを見て目を細める。

少女「レーテ……やっと逢えたね」

彼女が一歩、足を踏み出す。





646 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/10(木) 22:55:28.71 ID:n4kNAfEM0

菫「止まれ!」

そこに声が響いた。彼女が振り向くと、銃を構えて立つ二人の少女がいた。

照・菫 「「 !? 」」

二人の表情が同時に驚愕に変わった。
少女はにっこりと、天使のような微笑みを浮かべて、こう言った。

・ ・ ・ ・ ・ ・
少女「はじめまして。お姉ちゃん」

照「咲……!?」

二人の前にいたのは、紛れもなく照の妹・宮永咲だった。




647 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/10(木) 22:56:04.46 ID:n4kNAfEM0

二人は驚きのあまりこれ以上声も出せず、動きも思考も停止していた。
咲がその微笑みを浮かべたまま掌を前に突き出した。菫がハッと、我に返る。

菫「照っ!」

叫び、菫は照に飛びかかった。同時に咲の掌から波動が放たれた。
茫然としたまま床に伏せられた照と菫は辛くもその直撃を免れた。菫はすぐ立ち直り、銃を構える。

菫「答えろ!お前は――」

しかしその言葉は最後まで言い切られることはなかった。
咲が愉しそうに指を動かす。それに釣られて菫の体が宙に浮かび上がる。

菫「あっ……うぐっ……」

指を少々乱暴げに振るうと、菫の体がそれに連動し、悲鳴を上げながら壁に激突した。
咲の支配下を離れ、菫の体が床に落ちる。彼女の微かな呻き声を聞き、照は震えながら実の妹の方を向く。

咲はその視線に気付き、彼女に笑顔を返した。
昔から見ていた、屈託のないその笑顔――

――その時。乾いた発砲音がフロア内に響き渡った。





648 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/10(木) 22:56:59.23 ID:n4kNAfEM0

咲「……!」

咲は人間離れした速度で腕を突き出した。
いつの間にかその視線の先、ここへ至る扉の近くに、銃を握ったエイスリンと穏乃が立っていた。

エイスリン「ミヤナガサキ……オマエハ、ダレダ!」

咲「………」

咲がその笑顔を歪めた。笑顔なのは変わらない。だがそれは先程までの面影など全くない、悪魔的な微笑みだった。
彼女の拳が開かれる。ひしゃげた金属がコンクリートの床に落ち、不気味なほどに澄んだ音が響き渡った。

そして咲が口を開く。
その口から溢れ出す声は、少女のような優しい声に靄がかかった、とても人間のものとは思えないおぞましいものだった。


咲「ダーク――ザギ」





649 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/10(木) 22:57:30.48 ID:n4kNAfEM0

『ザギ』と名乗った咲はレーテの方へ歩き出し、そのドームの中に浮かび上がった。

咲「照……私は、お前がウルトラマンの光を継承するのを予知していた」

照「……?」

照は床にへたり込んだまま、震える瞳を咲から逸らすことができなかった。

穏乃「お前がダークスパークを持ってるのか……?!」

咲「うん」

咲はポケットからダークスパークを取り出した。

咲「力を無くして途方に暮れていた私は、宇宙から降ってきたこのダークスパークを回収した」

咲「ビーストはポテンシャルバリアーによって都市部に出現させることができない」

咲「でもこれを使って人を怪獣に変えることで、多くの人々に恐怖を植え付けることができた」

咲「でも私自身は動くことができなかったから、戒能さんを闇の巨人にしてダークスパークを適合させた」





650 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/10(木) 22:58:00.79 ID:n4kNAfEM0

エイスリン「ナゼ、ソンナコトヲ……」

咲「来訪者の力を弱めるためだよ。レーテを使わざるを得ない状況を作り、何度も起動させる」

咲「そうすれば来訪者の力は弱まっていく。そして同時に……レーテの中には闇が蓄えられていく」

エイスリン「マサカ……」

咲「そう。全ては私が元の姿を取り戻すための……道具だ……!」

穏乃「ふざけんな!その為に……どれ程の人が……!」

咲「……だからあなたがそれ言えるの?『自分の夢は、他の人の夢を潰さなきゃ成就しない』んだよね?」

咲「私は『自分の姿を取り戻す』という夢を叶えようとしていただけ。その為に、結果的に人の夢を潰すことになった」

咲「でもそれは、あなたがインターハイで優勝を目指すことと何の違いがあるの?」

穏乃「……っ!」

返す言葉が無くなり、穏乃は歯軋りした。





651 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/10(木) 22:58:43.00 ID:n4kNAfEM0

咲は照の方に顔を向け、妖艶な笑みを浮かべながら語りかけた。

咲「照……私は6年前のあの時から、ずっとこの時を待っていた」

照「……6年前」

照の脳裏に思い出される光景。

燃え盛る病院を照は走っていた。足の不自由な従姉妹を探すために。
煙が充満し、肺が焼けつく痛みに襲われる中で、彼女は病室のドアを開けた。

病室の中には誰もいなかった。しかし、その中をもう一度見渡す彼女の視界に何かが引っ掛かった。
自分の足元だった。ぎこちない動きで彼女は顔を下ろした。

そこにあったのは、ピクリとも動かない従姉妹の姿だった。
しゃがみこもうとしたその時――彼女の目の前に黒い影法師が現れた。

「私がやった」

少女の声。

「お前が私に光を渡す……その時のために」

火に照らされて浮かび上がる、その顔は――





652 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/10(木) 22:59:13.43 ID:n4kNAfEM0

照「――うわぁぁぁぁぁぁっ!!!」

咲「思い出した?」

照の叫び声がコンクリートに何度も跳ね返され、フロア中に響き渡った。

照「貴様ああぁぁぁぁぁ!!!」

掠れ、鬼気迫る怒声で照は叫び、腰を上げて駆け出す。
意識が薄れかけていた菫の目が醒める。付き合いが長い彼女ですら聞いたこともない照の声。
それはまさしく、今までの自分の全てが無に帰して――その絶望を打破せんが為の魂の叫びだった。

照がエボルトラスターを腰に構える。それを見て、咲の頬がつり上がった。

エイスリン「ダメ!」

しかし今の照には何も聞こえてなどいなかった。
鞘を抜き、エボルトラスターの刀身を掲げ上げる。コアから爆発するかのような光が弾け、その中から銀色の拳が突き出される――

――しかし、その寸前。ウルトラマンの拳が止められた。

咲「ふふっ」

巨人「……!?」





653 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/10(木) 23:00:02.16 ID:n4kNAfEM0

レーテから黒い触手が伸びていた。それがウルトラマンの腕を拘束し、その動きを止めていた。
更に触手が伸びる。両腕、腹、脚、それらに絡みつき、ウルトラマンの体をレーテに磔にした。

穏乃「宮永さんっ!!」

菫「照!」

咲「レーテの闇がお前の憎しみとシンクロした」

咲「その結果――……光は闇に、変換される!」

照『う……っ!?』

ウルトラマンのコアから光が飛び出し、レーテの中に取り込まれていく。

照『うあ……あぁぁぁぁぁぁ……!!』

やがて――ウルトラマンの瞳、コアから光が消え、その首ががくりと項垂れた。
レーテに取り込まれたウルトラマンの黄金の光は暗紫の闇に変えられていた。咲はレーテの前で腕を広げる。

咲「さぁ……来い!」

その呼び声に応えるように闇が彼女にめがけて飛び、その小さな体に吸収されていく。
彼女は苦しそうに体を震わせ、呻き声を上げる。その瞳は光り、顔には赤い模様が浮かび上がった。


咲「復活の時だあああああああああ!!!」





654 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/10(木) 23:00:51.37 ID:n4kNAfEM0

穏乃「うっ……!」

エイスリン「ッ!」

突風が吹き荒れ、彼女たちの体に襲いかかる。
顔に掛かった髪をどかせ、戻した視線の先には、漆のような艶を持つ黒の巨体が存在していた。


ザギ「ウ゛……オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛ーーーーー!!!!!!!」


穏乃「っ……!」

獰猛な野獣のようにザギが遠吠えを上げる。
一方で磔になったウルトラマンの周囲からは闇が立ち上り、雲のようになって辺りに漂った。

ザギ『照の心の闇だけが暴走しているのか』

ザギ『いいよ。もうこんなものは必要ない。お前にくれてやる……!』

ザギが掌を突き出すと、そこからダークスパークから飛び出してきた。
それは立ち込める闇に反応し、空間の中に蜘蛛の巣のように紫電を撒き散らした。


『ダークライブ……ガタノゾーア!』





655 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/10(木) 23:01:27.25 ID:n4kNAfEM0

ザギとその雷はエネルギー体となって天井を突き抜け、外界へ飛び立っていく。
しかし闇の発生は止まることはなかった。際限なく溢れだし、フロア内に行き渡る。

穏乃「……タロウ!」

タロウ「分かっている。私は奴らを追う」

穏乃「頼んだよ」


『ウルトライブ!ウルトラマンタロウ!!』


ギンガスパークから放たれた光がタロウの人形を包み、彼もまた天井を突き抜けて外界へ飛んでいった。
それを見送ると、穏乃は唇をきゅっと閉じ、闇の雲に顔を向けた。

菫「待て……」

エイスリン「……シズノ」

穏乃「私は一人で行きます。二人は避難してください」





656 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/10(木) 23:02:13.72 ID:n4kNAfEM0

菫「……なあ、高鴨」

穏乃「何ですか?」

菫「お前は……人間なんだ。ただの女子高生で……神じゃない。運命を自分で決めることなんて出来ないんだ」

穏乃「?」

菫「だから……勝ち目のない敵に向かっていく必要なんてないんだ!分かってるだろ!?」

穏乃「………」

穏乃はウルトラマンの力を持っている。だが穏乃自身はか弱い少女なのだ。運命を変える力などあるわけもない。
破滅というものを目の当たりにした菫はそう思っていた。同時に、まだ逃げることもできる穏乃に対して、戦う義務は無いと言っているのだった。

しかし穏乃は振り返ると、二人の方を見て微笑み、こう言った。

穏乃「勝ち目がないなんて……分かりませんよ」





657 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/10(木) 23:03:03.05 ID:n4kNAfEM0

穏乃「私はバカなんで運命とかよく分かんないんですけど……」

穏乃「私は自分にできることをやるだけです。人間として、ウルトラマンとして」

菫「……高鴨」

穏乃は再び闇に向き直り、駆け出した。
ギンガスパークを持つ手に力を入れる。その雲の中に飛び込むと、暗闇に遮られて彼女の姿は見えなくなった。

エイスリン「……。コノタタカイデ、シズノガカテバ……」

菫「………」

エイスリン「ミライヲ……ウンメイヲ、カエラレルカモシレナイ……」

菫「そのために……自分ができることを……」

頷き合い、二人もまた走り出した。





658 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/10(木) 23:04:27.37 ID:n4kNAfEM0

―――外

タロウ(一体……)

外は朝なのに、まるで夜のように真っ暗闇になっていた。
空に立ち込める暗雲のせいだ。しかしそれは途切れることもなくどこまでも続き、地平線の彼方まで黒に染め上げていた。

タロウ(ザギ――奴はどこへ行った?)

タロウは自分の感覚を頼りに、大きな気配を感じる場所へ飛んでいった。

東京湾。

そこに怪獣はいた。しかしザギの姿は見えない。タロウはしくじったかと思いつつ、その場所へ降り立った。

ガタノゾーア「ギャオォォォォン……」

目の前の敵。ガタノゾーアはアンモナイトのような冒涜的な形状をした異形の怪獣だった。
頭部は殻のような体の下部にあり、二つの目は大きく裂かれた口の下で赤く光っていた。





659 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/10(木) 23:05:08.18 ID:n4kNAfEM0

タロウ「ショァッ!」

タロウはその体へパンチを叩き込む。しかしガタノゾーアは怯む素振りを見せない。

ガタノゾーア「ギャァァァァン……」

タロウ「ンンッ……デュアッ……!」

吹き出された闇に包まれタロウが苦しみだす。その体から火花が弾け飛び、タロウは海の中に倒れた。
起き上がったところに、水の中から現れた巨大な鋏がタロウに飛びかかってきた。

タロウ「ハァ、ヤァッ!」

空中に飛び上がってそれを躱した。そのまま宙で身体を捻り、スワローキックを繰り出す。

ガタノゾーア「グォォォン……」

その時、水の中から触手が現れた。向かい来るタロウの脚に巻き付き、その勢いよりも強い力で彼を投げ飛ばす。

タロウ「デヤァ……ッ!」





660 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/10(木) 23:05:43.43 ID:n4kNAfEM0

―――SECTION-0、闇の中

穏乃「……っ!」

闇の雲の中に飛び込むと、その中は無重力で、尚且つ嵐のように風が吹き荒れていた。
レーテから溢れた闇、ダークスパークが反応して生まれた闇、そして照の心の奥底に眠っていた闇。

それら全てが絡み合った空間は、時空をも越えて侵食の手を広げようとする。
現在、過去、そしてその未来にさえも。

穏乃(これは……)

穏乃は闇の中に浮かぶ情景を発見した。
ウルトラマンと怪獣の熾烈な戦いが繰り広げられる中、ダークスパークを操る黒い影法師が彼らを人形の姿に変える。

穏乃(まさか……この闇は過去にまで影響を及ぼしてるのか……?)

やがてその映像はどこかへと消え、穏乃は照を探すことに専念した。
進む方向の風を見つけ、それに乗って移動する。そうしている内、レーテに縛り付けられている照の姿が目に入ってきた。





661 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/10(木) 23:06:17.93 ID:n4kNAfEM0

穏乃「宮永さんっ!」

照「……。たかかも……さん」

穏乃「宮永さん!闇に呑まれちゃダメだ!」

そう叫んで、穏乃は手を伸ばす。
しかし――照はそれに応えようとはしなかった。

穏乃「宮永さん、手を……!」

照「……うれしかった」

穏乃「え……?」

憔悴しきった目を虚空に泳がせ、彼女はぽつり、ぽつりと語り出す。

照「咲が……私に会いに来てくれる……それを知ったとき……うれしかった……」

穏乃「………」

照「辛い過去を捨てて……逃げ出した私を……許してくれて……また、あの頃みたいに……」





662 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/10(木) 23:06:50.60 ID:n4kNAfEM0

照「でもそれは……全部あいつが改竄した偽の記憶だったんだ……」

照「全て、私の心に闇を植え付けるための罠だった……」

穏乃「………」

照「大切なものに……信じていたものに裏切られた気持ちが……あなたにわかる……?」

穏乃「……宮永さん」

照「私にはもう……」

照の目元に涙が溜まっていく。
風の向きが変わった。穏乃の身体はバランスを崩し、更に照から離れていってしまう。

照「生きる理由なんて……なにもない……」

照の背後から突風が吹き、涙が滴になって空中に躍りだし、穏乃の頬に当たって散っていった。
彼女の周囲に闇が纏わりつく。やがて彼女の姿はその中に見えなくなった。

穏乃「宮永さんっ!!」

懸命に手を伸ばすも、もはや届くことは決してない距離にまで来てしまっていた。
耐えきろうとするも、身体の自由が効かない。穏乃はどんどん照から離されていった。





663 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/10(木) 23:07:43.03 ID:n4kNAfEM0

―――インハイ会場、外

外に出たエイスリンと菫を待っていたのはトシと虎姫の仲間たちだった。

トシ「エイスリン、大丈夫かい……?」

エイスリン「ハイ。カッテニトビダシテ……スイマセン」

淡「……菫先輩、テルは?」

菫「………」

誠子「まさか……」

淡「ね、ねえ!何とか言ってよ!テルは!?」

菫「照は今……高鴨が助けに行っている」

淡「高鴨穏乃が……?」

菫「ああ。今はあいつを信じて、私たちはやれることをやろう」

爆発音が向こうから聞こえてくる。ザギが光線を振るって建物を薙ぎ払っていた。





664 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/10(木) 23:08:12.86 ID:n4kNAfEM0

菫「亦野がα、私がβ、堯深がγ。淡、お前はδに乗れ。出動する!」

一同「了解!」

全滅したBユニットのチェスターを借り、菫たちは空に飛び立った。

菫『ハイパーストライクフォーメーションに移行。一気に叩くぞ』

誠子『了解。Set into Hyper Strike Chester!』

チェスターたちはそれぞれ空中で変形、分離し、それら全てが合体した一機の“ハイパーストライクチェスター”となった。
αの機首を先頭にβ、γは続き、δは二本の砲門となって機体上部に載せられている。

淡『食らえ!ハイパーストライクバニッシャー、シュート!!』

二本のキャノン砲からハイパーストライクチェスターの破壊光線が放たれる。
ザギはそれに感づき振り向く。

ザギ「フゥア゛ッ!!」

ザギが掌から光弾を放った。双方の攻撃は空中で相殺され、きらびやかな粒子が散った。

淡『なに……』

ザギ「ドゥア゛ッ!!」

誠子『!』

更にザギは光弾を連射した。誠子は操縦桿を思いっきり倒して辛くもそれを躱した。





665 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/10(木) 23:08:41.37 ID:n4kNAfEM0

―――東京湾

ガタノゾーア「ギャオォォォォン……」

タロウ「ハァッ……デァッ……!」

ガタノゾーアの触手がタロウの首を絞めていた。
必死で振りほどこうとするが、それは叶わない。更には吹き上がってきた闇の霧にタロウは飲まれ、ダメージを受けていく。

タロウ「……ショァッ!」

触手を掴み上げ、二本の角から青い熱線を浴びせた。ガタノゾーアは思わずその触手をほどく。
解放されたタロウは側転して怪獣から距離を取った。先程の光線は効いてはいたが、ガタノゾーア自体はまだ平然としていた。

それを見てタロウは再び距離を詰めた。
拳にエネルギーを込め、アトミックパンチを打ち込む。しかしガタノゾーアには大した反応はなかった。





666 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/10(木) 23:09:33.86 ID:n4kNAfEM0

一方、陸上では――テレビカメラがこぞって集まり、その戦闘の様子を電波に流していた。

レポーター「あれが御覧になりますでしょうか!?謎の巨人と怪獣が戦っています!」

レポーター「私たちは引き続き、この様子を――うわぁっ!?」

足元から上ってきた闇が彼の身体を包んだ。
のたうちまわる彼を見て、カメラマンや他局の職員も後ずさりした。

レポーター「う……あぅぐ……ぐぁぁっ!!!」

カメラマン「うわぁぁーー!!逃げろーー!!」

倒れる彼を置いて皆逃げてしまった。
現場に残されたテレビカメラは、タロウとガタノゾーアが戦っているのをカメラに納めたまま立ち尽くした。





667 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/10(木) 23:10:16.33 ID:n4kNAfEM0

―――SECTION-0、闇の中

照の姿はもう見えなかった。更には、穏乃の体は彼女からどんどんと離れてしまっている。
だが穏乃は望みを捨ててなどいなかった。声を張り上げ、照に呼び掛ける。

穏乃「宮永さん!あなたの周りには……たくさんの人がいた!」

穏乃「大星さん……弘世さん、亦野さん、渋谷さん!みんなとの思い出があったでしょう!?」

闇の中から返事は無かった。だが穏乃は吹き飛ばされないように自分の身体を抱き締め、言葉を続ける。

穏乃「例えあいつがあなたの記憶を変えていたとしても……大星さんたちとの記憶は嘘偽りの無い真実でしょう!?」

照(……みんなとの……思い出……)

菫と共に優勝した二年生の時の大会。
新しく堯深、誠子、淡が加入したチーム虎姫の初陣。
そして今年のインハイ。三連覇を目指して戦ってきた軌跡。

照「みんな……」

穏乃「大切なものなんて……いくらでもあるじゃないか!!だから……宮永さん……!」


穏乃「―――諦めるな!!!」





668 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/10(木) 23:12:04.25 ID:n4kNAfEM0

照「……!」

闇が弾け飛び、照の姿が見えた。穏乃に向かって懸命に手を伸ばしている。
頷き、風を掻き分けて穏乃が進む。二人の腕が伸び、指先が触れ合う。

穏乃「もうちょっと――……っ!?」

しかしその時、またもや二人は引き裂かれた。
照の背後に巨大な影法師が立っていた。その手に握られたダークスパークを振るうと、紫の波動が穏乃を襲った。

穏乃「う……ぐぅっ!?」

その波動を受けて、指先から穏乃の体が石化していく。

照「高鴨さんっ!!」

穏乃「……邪魔を、するなぁっ!!」





669 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/10(木) 23:14:51.24 ID:n4kNAfEM0

ギンガスパークが輝き出した。穏乃の体に光が纏い、その姿はウルトラマンギンガに変わっていく。

ギンガは闇の奔流を逆流し、影法師へ突っ込んだ。
その手のギンガスパークを掲げる。それを思いきり振り下ろし、影法師の身体を切り裂いた。

影法師「オォォォォォ……」

闇が霧散して影法師が消滅する。同時にギンガの体からも光が弾け跳ぶ。
元の姿に戻った穏乃は、照の伸ばすその手を掴んだ。

繋いだその手が輝きを放つ。

闇の中で銀色の巨人が光を取り戻した。ドーム内に光が吹き抜け、彼もまた外界へと飛び立っていく。
その衝撃は一人取り残されたレーテを襲い、長く人々の記憶を溜め込んできたそれは今ここに陥落した。





670 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/10(木) 23:15:33.03 ID:n4kNAfEM0

―――外

地上に降り立った穏乃と照は、チェスターがザギと交戦しているのを発見した。

照「……ありがとう。高鴨さん」

穏乃「よかったです。助けられて……」

街頭の大型ビジョンにはガタノゾーアと戦うタロウが中継されていた。

照「私が産み出した……怪獣……」

穏乃「大丈夫。タロウは負けませんから」

背後から爆発音がした。チェスターのミサイルが空中で爆破され、ザギは更に光弾を宙に放ち続けた。
ブースターが唸りを上げて加速し、それを躱していく。しかしザギは冷静に、その進行方向に大量の光弾をばら蒔いた。

誠子『なに!?』

堯深『アビロックミサイル、発射……!』

ミサイルが光弾と相殺される。しかし全ての数に対応しきることは不可能で、数発の光弾はチェスターを襲った。

誠子『くそっ……!』

菫『立て直せ!各機、損傷箇所を報告しろ!』

淡『絶対……諦めるかぁっ!!』





671 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/10(木) 23:16:06.46 ID:n4kNAfEM0

地上でそれを見ていた穏乃はギンガスパークを持つ手に力を入れた。
だが、ギンガの人形は現れてはくれなかった。皆を守りたいと心の中で念じ続ける。
しかし一向にギンガスパークは反応してくれなかった。

穏乃「………」

照「……あいつに言われたことを気にしてるの?」

穏乃「……わかんないです」

自分の夢を叶えようと努力してきたこと。奴によるとそれは戒能良子や宮永咲がやってきたことと本質は同じだという。
ザギは許せない。穏乃はそう思っていたが、まだ迷いを捨てきることができていなかった。

ザギも自分の夢を求めてきた者。自分もそれと同じとしたら、奴の夢を潰す権利が自分にあるというのだろうか?
もしそうなってしまえば、自分もザギと同じ破壊者になってしまうのではないか?

決意の中に混じる僅かな染みは、たった一滴だけでも穏乃の勇気と覚悟を覆い隠していた。

照「もしそうだとしても……あなたは思い悩む必要なんて無い」

穏乃「え?」

照「あなたの夢は……確かに他人の夢を潰してきた結果かもしれない」

照「でもそれは、たくさんの人の想いを乗せた夢。だからあなたの夢は、その人たちの夢も背負ってる」

穏乃「……!」





672 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/10(木) 23:17:03.02 ID:n4kNAfEM0

ふと穏乃は、新免那岐と灼のことを思い出した。
那岐は「私たちの分まで頑張って」と言ってくれた。
副将戦が終わって灼とハイタッチをした時、穏乃は皆の想いを渡された気がした。

穏乃「みんなの想いを背負って……」

照「あいつは……そうじゃない。潰してなお、その想いを踏みにじる。全ては自分のためにしかなっていないから」

照「だからあなたは悩む必要なんて無い。あいつとあなたは全く違うから」

穏乃「――はい!」

元気な声で穏乃が返事をする。するとギンガスパークが輝きだし、先端から光を飛び出してきた。
その光はひとつの人形を象っていく。穏乃はギンガではないその人形に驚いたが、照はそんな彼女を見て頷いた。

穏乃はそれを掴み、数歩前へ出る。

穏乃「絆――……ネクサス!」

人形を宛がったギンガスパークから紋章の光が飛び出し、穏乃を包んでいく。
彼女によって名付けられた、繋がる希望と絆の戦士の名は――


『ウルトライブ!ウルトラマンネクサス!!』





673 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/10(木) 23:17:41.65 ID:n4kNAfEM0

ザギ「ドゥラアッ!!」

満身創痍のチェスターに向けて、お遊びは終わりだと言わんばかりにザギは巨大な光球を撃ち込んだ。

誠子『っ!』

躱せない――誠子がそう覚悟し眼を瞑った瞬間、チェスターの前方に光の柱が駆け昇った。

ネクサス「シュアッ!」

その光球を弾き飛ばしたのは銀色の体躯を持つ巨人。
一旦その場を離れるチェスターのβ機から、菫はその巨人の魂を感じ取っていた。

菫『高鴨……なのか……?』





674 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/10(木) 23:18:10.68 ID:n4kNAfEM0

ネクサスが降り立ち、ザギと対峙する。
ザギは叫び声を上げながらネクサス向けて走り出した。

ザギ「グオ゛オ゛ォォォ!!!」

ネクサス「シュアッ!」

迎え撃つネクサス。ザギのパンチを躱して反撃に出ようとするも、不意に飛び出してきた足に蹴り飛ばされた。
衝撃に引きずられたネクサスに向かって、悠々とザギが歩を進める。

ネクサス「ハァァッ!」

今度はネクサスが駆け出す。勢いのままに蹴りを繰り出すが軽くいなされ、ラリアットを受ける。

ザギ「ウ゛オ゛オ゛オ゛ッ!!」

そのまま二人はビルに突っ込んだ。粉塵が舞う中で、ザギは倒れるネクサスを踏みつけようと足を上げる。
しかしその時、その背中に衝撃が襲った。





675 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/10(木) 23:18:44.13 ID:n4kNAfEM0

淡『よしっ!』

ザギが軽くよろけ、振り返ると、チェスターの砲門がこちらを向いていた。
チェスターは直ぐさまザギの向こうへ飛び去っていく。

ザギ「グゥオ゛ォォオ゛ッ!!」

その方向へ光弾を打とうとするザギ。しかし倒れていたネクサスが立ち上がり、その腕を抑え、腹に蹴りを入れる。
更に、怯んだ様子を見せたザギに飛び蹴りする。ザギは腹を押さえて後方へ引きずられていく。

ネクサス「シュアッ!」

両手を体の横で重ね合わせ、右手で前方の空間を切り裂く。
両手を十字に組むと、垂直に立てた右腕から“クロスレイ・シュトローム”が放たれた。

ザギ「……ドゥ、アァッ!!」

しかし――両腕を組んでそれを受けたザギは、直ぐに光線を弾き飛ばした。

ネクサス「!……シュアッ!」





676 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/10(木) 23:19:12.55 ID:n4kNAfEM0

再びザギとネクサスが取っ組み合う。その中でザギは、自らの右腕に暗黒の波動を纏わせた。

ネクサス「ハッ!」

危機を察知しネクサスは距離を取ろうとする。
しかしそれを逆手に取られ、左腕は掴まれたままザギの右腕を自由にしてしまった。

ザギ「グオ゛ァッ!!」

ネクサスに叩き込んだ“ザギ・インフェルノ”は拳から光線を放ち、その身体を宙に浮かせていく。

菫『堯深、エネルギー再充填までは!』

堯深『あと43秒です……!』

菫『各機、全砲門よりミサイルを撃て!』

一同『了解!』

全機合体のハイパーストライクチェスターの各所からミサイルが放たれ、ザギに向かって乱れ翔んだ。
しかしザギは片手間仕事のように左手でバリアーを展開した。ミサイルは全てそれに防がれてしまう。

菫『なに!?』





677 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/10(木) 23:19:44.49 ID:n4kNAfEM0

そうしている内に飛ばされ続けるネクサスの体は、空を覆う暗雲の中に突っ込んだ。
その暗雲はどこまでも続いていそうなほど厚く、今その身を突き飛ばしている光線以外に全くの光がない世界だった。

怜『――負けんな高鴨!』

穏乃『……!?』

そんな時、頭の中に怜の声が響いた。

怜『私はお前のお陰で最後まで戦えた。ウルトラマンとして!』

それは夢か幻か――だが彼女の声は、穏乃の心に青く轟く稲妻を駆け巡らしていく。

ネクサス「――シュアァッ!!」

ネクサスの胸のコアが鳴動し、その姿に光を纏わせた。
暗雲の中に光を解き放った彼の体躯は青に変わり、同時にザギの光線を弾き飛ばした。





678 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/10(木) 23:20:14.27 ID:n4kNAfEM0

―――東京湾

タロウ「イヤァッ!」

ガタノゾーアに次々と拳を叩き込むタロウ。しかし相変わらずガタノゾーアは堪えていないようだった。
そうしている内に――そのカラータイマーが赤に変わり点滅を始めた。

タロウ「……ショァッ!」

距離を取り、指から光刃を、角から熱線を次々と放つ。
だがガタノゾーアは平然としている。活動限界時間が近付くにつれ、流石のタロウにも動揺が見えてきた。

ガタノゾーア「グアォォォォン……!」

タロウ「!」

その動揺を見通しているように、ガタノゾーアは触手を絡めてタロウの体の自由を奪った。
残りエネルギーも少ない中で、その対処に無駄なエネルギーを使いたくない。タロウはどうにか腕力だけでそれを振り払おうとする。





679 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/10(木) 23:20:41.32 ID:n4kNAfEM0

ガタノゾーア「ギャォォォォン……」

ガタノゾーアは触手を振るい、抵抗するタロウを水の中に叩き落とした。
大きく水飛沫が跳ぶ。タロウは歯軋りする思いで、角からの熱線で触手を断ち切った。

ガタノゾーア「グォォォォン……」

タロウは更に離れ、触手も闇の霧も届かない距離まで下がった。
右腕を大きく掲げ、左手をそれに合わせる。両手をそれぞれ腰に下ろすにつれて彼の体躯は虹色の光を纏っていく。

タロウ「――ストリウム光線!!」

T字に構えた両腕から放たれる虹色の破壊光線。暗闇を裂き、ガタノゾーアにクリーンヒットした。火花が跳び散り、その動きが鈍る。
しかし少しすると、ガタノゾーアは再び叫びを上げた。まだ、斃れない――

タロウ「ハァ、アァ……」

思わずタロウは膝をついてしまった。
その前にいるのは余りにも強大な――全てを呑み込む闇の化身“邪神”だった。





680 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/10(木) 23:21:16.84 ID:n4kNAfEM0

―――インハイ会場付近

ザギ「……?」

“ザギ・インフェルノ”の光線は破られたが、ネクサスは暗雲の中から姿を現そうとしなかった。

誠子『まさか……』

菫『そんなわけはない!堯深、エネルギー充填率は!』

堯深『100%!バニッシャー、撃てます……!』

菫『淡!』

淡『了解っ!喰らえ!!』

チェスターの砲門に光が集っていく。

ザギ「………」

しかしザギにはもう読めていた。大雑把に手を振るうと光刃が放たれ、チェスターに直撃した。





681 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/10(木) 23:22:08.14 ID:n4kNAfEM0

淡『うあぁっ!!』

光刃は砲門を構成しているδ機を襲った。
δ機の上に合体しているγ機コックピットにもその影響が出る。

菫『淡!……堯深!応答しろ!』

しかし応答は返ってこなかった。
通信は生きている。だが、彼女たちの返事はなかった。

誠子『堯深!大星っ!!返事しろ!』

菫『亦野、一時離脱するぞ!』

誠子『……っ!』

チェスターが機体を翻してザギに背を向けた。
だがザギは宙に光球を作り出し、飛んでいくチェスターの動きを観察していた。

菫『オプチカムフラージュ、ON!』

チェスターの姿が闇の中に消える。ザギは少し驚いたが、再び暗雲を見上げた。
――するとその時。暗雲の中から光刃の雨が地上に降り注いだ。





682 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/10(木) 23:22:46.59 ID:n4kNAfEM0

ザギ「オ゛オ゛オ゛……!」

ネクサス「シュアッ!!」

暗雲からネクサスが帰ってくる。流星のようにザギにキックを入れ、更にその反動を利用して宙に身を翻す。

ザギ「グッ……!?」

ネクサス「ハァッ!」

宙返りしながら胸のコアに手を翳し、光の剣“シュトロームソード”を手甲から伸ばす。
地に降り立つと同時にそれでザギの体を斬りつける。攻撃の手を緩めず、怯むザギに何度も剣を振り上げる。

ザギ「グ……ドゥラッ!!」

数撃目を何とか躱し、ザギはネクサスの顔にパンチを入れた。衝撃にネクサスは背後に吹っ飛ばされていく。

ネクサス「シュアッ!」

直ぐさま体勢を整え、ネクサスはバク転して距離を取った。
コアに翳した右手甲に光の弓が投影される。ネクサスは左手を添わせ、それを引き絞る。





683 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/10(木) 23:23:44.39 ID:n4kNAfEM0

ネクサス「ハァァ……」

弓に虹色の弦が帯びていくのと同時に、その先端から光の剣が伸びた。

ネクサス「――シュアッ!」

放たれた破壊光弾“オーバーアローレイ・シュトローム”は唸りを上げてザギへと突き進んだ。
ザギは腕を構えてそれを迎え撃つ。

ザギ「ドゥア゛ァッ!!」

ザギはその腕で光弾を消し飛ばした。
ネクサスは思わず膝をつく。この技は全てのエネルギーを結集させる。その為ネクサスは既に立つこともできなくなっていた。

だがその時、ネクサスの中の意識――穏乃の視界が開けた。
右手に持つギンガスパークから光が飛び出し、それはウルトラマンギンガの人形を象っていく。

穏乃『ネクサス、ありがとう。力を貸してくれて』

穏乃『今度は……私の番だ!』


『ウルトライブ!ウルトラマンギンガ!!』





684 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/10(木) 23:24:20.00 ID:n4kNAfEM0

ザギは憔悴しきったネクサスを見て余裕綽々に歩いていた。
だが突然、ネクサスの身体は白い光球に変わった。ザギに体当たりし、そして地面に降り立つ。

白光の中から現れたのは深い紅と蒼き光の勇士。
その名は――“ウルトラマンギンガ”!

ザギ「オ゛オ゛オ゛……!」

ギンガ「ジュワッ!」

ザギとギンガが対峙する。穏乃から分離した絆の光は、次の適能者の元へ飛び立っていった。

ザギ「ヴオ゛オ゛オ゛ッ!!!」

ザギが走りだし、ギンガと組み合った。
黒い腕に闇が纏われる。ギンガはそれを見て、自ら体勢を落とした。

ギンガ「シュワッ!」

脚を使ってザギを巴投げする。倒れたザギから少し離れ、ギンガは左腕を天に掲げた。
ギンガのクリスタルが黄色に輝く。暗雲の中から雷撃が落ち、彼の掲げた腕の先に渦を巻いていく。





685 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/10(木) 23:24:59.65 ID:n4kNAfEM0

ザギ「グォォォ……」

ギンガ「――ギンガサンダーボルト!」

渦を左手から右手に移し、前へ突き出して雷撃を放つ。
ザギは咄嗟に腕を広げ、そして十字に組んだ。暗黒の重力光線“グラビティ・ザギ”が雷撃と激突する。

ギンガ「ジュッ!」

ギンガサンダーボルトが押される。ギンガは押しきられる前に跳躍し、空中へ飛び上がった。

ザギ「ドゥ……ハァッ!!」

ザギは目の前に光球を浮かべ、それを拳で打ち砕いた。
光球は無数の光弾となり、空中のギンガへ向かって雨あられに降り注ぐ。

ギンガ「ショ……ラッ!」

高速で身体を駆動させ、ギンガは追尾してくる光弾を次々と躱していく。
残る光弾も少なくなったところで腕を交差させた。ギンガのクリスタルが烈火のように赤く光り、彼の周囲に火炎弾を浮かび上がらせる。





686 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/10(木) 23:25:28.13 ID:n4kNAfEM0

ギンガ「――ギンガファイヤーボール!」

ギンガは振り向いて拳を突き出す。放たれた炎弾は光弾と相殺され、空中に爆炎が広がった。
その中から黒い影が飛び出してくる。ギンガは咄嗟に腕を交差させる。クリスタルは今度は紫色に染まっていく。

ギンガ「――ギンガスラッシュ!」

ギンガの頭のクリスタルから、それと同じ形の光刃が翔ぶ。煙から飛び出してきたザギに命中し、再び爆発が起こった。
しかしその爆煙からもザギは飛び出してきた。今度は迎え撃つことは出来ず、ギンガはザギに首を掴まれ、地上へと急降下させられる。

ギンガ「ジュワッ!」

ザギ「ドゥラァッ!!」

手足をばたつかせようとするも、勢いに負けて動けない。更に息が出来ない苦しみにギンガは悶え、抵抗が鈍る。
そして――ザギは最後まで拘束したままギンガを地上に叩きつけた。

穏乃『……う、く……っ』

舞い上がった粉塵がギンガの身体にパラパラと降りかかってきた。
身体中に痛みが滲み、ギンガは動けない。ザギはそんな彼目掛けて拳を振り上げた。





687 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/10(木) 23:25:58.32 ID:n4kNAfEM0

菫『ハイパーストライクバニッシャー、シュート!』

ザギの背後に位置を取っていたチェスターから光線が放たれた。
背後からの攻撃にザギは動きを止め、飛び去っていく機体に目を向けた。彼もまた飛び上がり、チェスターを追尾し始める。

菫『亦野、来るぞ!』

誠子『っ……!』

しかし飛行速度は圧倒的にザギの方が上だった。いつの間にかザギはチェスターの前に回り込んでいた。

誠子『くそっ!』

ザギが拳を構え、闇がそこに溜められる。
しかしその時、ザギがコックピットの視界から姿を消した。

ギンガ「シュワッ!」

ザギ「ドゥア゛ッ!」

ギンガが、先程ザギにやられていたようにその首を掴んで飛行していた。
しかしザギは闇を纏った拳から光弾をギンガに放つ。至近距離で避けられる筈もなく、二人は空中で爆発に飛ばされ、地上に降り立った。

ザギ「ルルォォ……」

ギンガ「ジュッ!」





688 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/10(木) 23:26:31.96 ID:n4kNAfEM0

一方、少し離れて地上には群衆ができていた。
目の前には二体の巨人の死闘が繰り広げられ、携帯の画面や大型ビジョンには巨人と邪神の戦いが流れている。

照「……高鴨さん」

??「私……あの巨人に見覚えある……」

照「……?」

照はその声のした方を振り向いた。
そこにはインターハイ決勝戦の出場選手や観戦に来た他校の生徒たちが集まっていた。

胡桃「なに言ってんの?シロ……」

白望「私が……何というか、自分じゃなくなったような時……。あの巨人に助けてもらった……」

塞「……そういえば、私も……。あれに似てる巨人を……最近、見たような……」

照(え……?)





689 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/10(木) 23:27:11.31 ID:n4kNAfEM0

一「ボクも。助けてもらった……」

初美「私もですー……」

豊音「……ウルトラマン」

恭子「うちもや……ウルトラマンは私を助けてくれた」

憩「うちも!覚えある……!」

哩「姫子……」

姫子「はい。私たちも……」

宥「……穏乃ちゃん」

憧「あれが、シズなんだ……」

灼「10年前もそうだった……ウルトラマンは私たちのために戦ってくれた……」

レーテが崩落して――だから人間たちは10年前の真実、そしてウルトラマンのことを思い出した。
しかしそれだけではなかった。レーテの影響ではない、ダークスパークによる記憶の欠落でさえ蘇っていた。

それは、理屈抜きの奇跡。
皆の夢を背負い、守ってきた穏乃。彼女に託された絆の光は今、全ての人々に伝わっていた。





690 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/10(木) 23:27:44.34 ID:n4kNAfEM0

―――東京湾

タロウ「ハァ……ッ!」

ガタノゾーア「ギャオォォォォォン!!」

膝をつくタロウに、ガタノゾーアは今まさに止めを刺そうとしていた。
その時――


『――立て!タロウ!』


タロウ「!」

頭の中に、聞き慣れた――しかし随分と久し振りな声が響いた。

ゾフィー『タロウ。我々はお前に教えた筈だ』

セブン『大切なのは最後まで諦めず、立ち向かう事だ』

ジャック『たとえ僅かな希望でも勝利を信じて戦う事が……』

エース『信じる心。その心の強さが不可能を可能にする』

ウルトラマン『……それが、ウルトラマンだ!』





691 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/10(木) 23:28:54.86 ID:n4kNAfEM0

テレパシーの来た岸の方に顔を向ける。
そこには、人形の姿ではあったが、タロウの兄弟たちが佇み、視線を送っていた。

タロウ『兄さん!何故ここに!?』

ゾフィー『恐らくダークスパークの呪いが弱まったのだろう』

タロウ(シズノは……ミヤナガ・テルやレーテの闇に勝ったということか)

セブン『強大な闇……それが感じられた場所に我々は急行した』

ジャック『するとお前が戦っているんだ……驚いたよ』

ゾフィー『いや、積もる話もあるが、そんな場合ではない。タロウ、立つんだ!』

タロウ「……!」

ガタノゾーア「グオォォォォオン!!!」

タロウ「……ショァッ!」

タロウが立ち上がる。しかしその足はおぼつかなく、カラータイマーの点滅も早い。
ガタノゾーアは触手でその腕を拘束し、タロウのカラータイマーに照準を合わせた。





692 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/10(木) 23:29:24.76 ID:n4kNAfEM0

ゾフィー「兄弟たちよ、ウルトラ・シックス・イン・ワンを使うぞ!」

ジャック「!ウルトラ六重合体ですか……」

セブン「今の我々のエネルギーで足りるかどうかだが……」

ウルトラマン「なに、皆の心と信念があれば……」

ゾフィー「その通りだ、ウルトラマン」

エース「行きましょう!」

六つの人形はそれぞれの光の筋となり、タロウのウルトラホーンに集っていった。

タロウ「!」

ガタノゾーア「ギャオォォォォォン!!!」

ガタノゾーアの口が開き、紫電の光線が放たれた。タロウは腕を拘束されてそれを躱せる筈は無かった。しかし――





693 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/10(木) 23:30:38.36 ID:n4kNAfEM0

ガタノゾーア「ギュアァァァァァ……!!」

ガタノゾーアが悲鳴を上げる。同時に空から、その触手がぼとりと落ちてきた。

タロウ「トゥアッ!!」

タロウは、その触手を引きちぎって空中に跳び上がっていたのだった。
そしてその勢いで身体を捻らせ、スワローキックを繰り出す。

ガタノゾーア「グオォォォォオン……!」

命中した部位に爆発が起き、ガタノゾーアは背後に倒された。
身を起き上がらせようとするガタノゾーアを見て、タロウは両拳を突き合わせる。

腕に金色の光が纏い、輝きを解き放っていく。凄まじいエネルギーに起き上がるガタノゾーアは怯む。
そしてタロウは右腕を突き出した。彼の中を循環した金色の光は今、宇宙最強の光線となって放たれる――!


タロウ「――コスモミラクル光線!!!」


水面にその上を走る光が照り映え、湾を割るようにそれは一直線に伸びていった。
ガタノゾーアに光線が命中する。瞬間、その衝撃など感じさせる間すら与えず、邪神は木っ端微塵に砕かれた。

爆発の風が水上を薙いでいく。
やがて暗雲も切り裂かれ、朝の日差しが水面を照らして煌々と輝かせた。





694 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/10(木) 23:31:21.23 ID:n4kNAfEM0

―――インハイ会場付近

向かい合うザギとギンガ。突如、上空の暗雲が消え、光が差し込んできた。

ザギ「……ッ!?」

ギンガ「……ハァッ!」

それに目を奪われたザギを見て、ギンガは腕を交差させた。

ザギ「グオ゛オ゛ッ!」

それに気付いたザギもその両腕に力を込めていく。

ギンガ「ジュァァ……!」

左腕を下に、右腕を上に、その二つの軌跡で円を描くようにゆっくりと回す。
それにつれてギンガのクリスタルは深い青の輝きを解き放っていく。


ギンガ「――ギンガクロスシュート!!」


左の拳を垂直に立てた右の肘に打ち付ける。右腕には虹色の光が纏い、流星のような光が放たれた。





695 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/10(木) 23:31:53.30 ID:n4kNAfEM0

ザギ「ドゥア゛ア゛ア゛ア゛ッッ!!!」

ザギも両腕をL字に構えることで、その腕から稲妻超絶光線“ライトニング・ザギ”を放った。
二つの光線は激突し、辺りに衝撃音を木霊させ、そして突風を吹き荒れさせる。

誠子『弘世先輩!接近は不可能です!計器がいかれてます!』

菫『……っ!一時、離脱!』

菫『頼む、勝ってくれ……!』


ギンガ「シュアァァ……!!」

ザギ「ハア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッッ!!」

ザギの稲妻がギンガの流星を押し込む。
ギンガは踏ん張り、何とか巻き返そうと、意識と集中を切らさないようにする。

「ウルトラマン、頑張れー!」

「負けるなーー!!」





696 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/10(木) 23:32:54.10 ID:n4kNAfEM0

ギンガ「ジュ……アァァッ!!」

しかしそんな声も虚しく、光線は押され続けていく。
ザギは止めを刺そうと一気に力を強める。

ザギ「ドゥア゛ア゛ッ!!」

ギンガ「――ッ!!」

押す。押す。押す。
しかし中々押しきることができない。ザギはもっと力を込め、意識を前方に集中させた。

ギンガ「ジュ……シュアァッ!ラァッ!」

しかしこれでも押しきれない。まるでギンガの背中を押し、その身体を支えている存在がいるかのように。





697 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/10(木) 23:33:42.11 ID:n4kNAfEM0

そして、少し離れて。

晴絵は穏乃が戦うその姿を手に汗握って食い入るように見つめていた。

晴絵「しず……頑張れ……!!」


『アカド……アカド……』


晴絵「!」

思わず辺りを見回した。しかし誰もいない。
だがその声には聞き覚えがあった。それが誰なのかを思い出し、晴絵はハッとする。

『行こう……共に……』

晴絵の手にどこからか光が集ってきた。その光は手の中でエボルトラスターの形を象った。

晴絵「そうか……」

晴絵「たくさんの人の絆で……君は本当の姿を取り戻すことができたんだな」

エボルトラスターを握り締め、晴絵はそれを天に掲げた。
日に照らされたそのコアから光が発される。彼女の姿は包まれ、そして――





698 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/10(木) 23:34:22.54 ID:n4kNAfEM0

ザギ「ドゥア゛ッ!!」

ギンガ「シュアァ……ッ!」

ザギは苛立ちを感じていた。どれ程エネルギーを込めてもギンガは一歩も下がらず、光線は完全に押しきられない。
もっともっと、意識を前方に、両腕に集中させる。稲妻は更に太くなってギンガを押そうとする。

――しかし、その時。

ザギ「ドゥラッ……!?」

ザギの上空から光弾の雨が降った。意識を前方に集中させ過ぎたせいで、その存在の到来に気付いていなかった。
顔を上げる。そこには、宙に佇む荘厳な巨躯がザギを見下ろしていた。

全身を光沢のある美しい銀と流れる黒に包み、胸にはプロテクターが紫色に、その中心にはカラータイマーが虹色に光っている。
神秘の具現たるその戦士こそ――銀河に“宇宙の大いなる神”として崇められている存在。

その名は、“ウルトラマンレジェンド”!





699 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/10(木) 23:34:57.05 ID:n4kNAfEM0

ギンガ「ショ――ラァァッ!!」

ザギ「……!」

レジェンドの出現に気を取られたザギの隙を突き、ギンガは一気に光線の勢いを強める。
虹色の光は紫電の稲妻を押し返す。ザギは力を込めてそれを押し返そうとするが、その勢いはもう止められない。

ザギ「グオ゛、オ゛オ゛オ゛ッ……ッ!?」

ザギ「オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛ーーーーー!!!」

ザギの視界が光に包まれる。光線の激突は爆発を起こし、ザギがその中に飲み込まれた。
爆煙が消える。そこにはもうザギはいなかった。ギンガは勝ったのだ。

地上では歓喜が渦を巻き、ギンガとその横に降り立ったレジェンドに対する歓声はいつまでも絶えることはなかった。


To be continued...





700 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/10(木) 23:36:40.42 ID:n4kNAfEM0

登場怪獣:ウルトラマンティガ第52話より、“邪神”ガタノゾーア
ウルトラマンネクサスFinal Episodeより、“邪悪なる暗黒破壊神”ダークザギ


ノア
レジェンドみたいな感じで。
また今度続き書きます。





706 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/17(木) 16:32:00.04 ID:ooFwn3vf0

第十四話『泣くな初恋怪獣』


――あれから、一ヶ月が経ちました。

ダークザギは私と、赤土先生が変身したウルトラマンレジェンドの前に敗れ去りました。
その後、レジェンドは先生から分離して宇宙へ帰り、ダークスパークは新しく建てられた新子神社に奉納されることになりました。
タロウの推測によると、ダークスパークはレーテの闇の中で世界に破滅をもたらし、次元を超えて私たちの世界へやってきた。
つまり今現在私たちの世界にダークスパークがあるということは、その運命から私たちは逃れることができたということ。
私たちは勝ったのです。決められていた破滅から。運命から。

――でも、その傷痕は大きかった。

TLTは組織の存在とレーテに関する秘密を全世界に公表しました。
もちろん、ビーストや怪獣被害の罪を覆い被せた人たちのことも。
彼らへの補償や名誉回復に努めることをTLTは約束しましたが、過ぎ去った時間はもう戻ってはきません。
世論は非難の方向に動きましたが、その一方でこれまで陰で平和を守ってきたTLTに対する擁護意見も現れました。

その問題は、きっといつか解決してくれるでしょう。
だって今もまだ、ビーストは世界中に現れ続けているのですから。





707 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/17(木) 16:33:18.53 ID:ooFwn3vf0

――そしてその傷痕は、もっと小さな単位にも現れていました。

ザギは清澄高校の宮永咲と自らを偽っていました。
それは宮永照さんに心の闇を植え付けるための策だったのですが、そうだったとしても清澄の人たちと宮永咲の関わりは事実として残っているのです。

そう。宮永咲に裏切られた清澄高校麻雀部の人たちの心には大きな傷痕が残りました。
彼女たちもまた全国という舞台で頂点を純粋に目指していたのです。
宮永咲が消えたことにより清澄高校は団体決勝戦への出場資格を失い、代わりに別の高校が上がってくることになりました。
全くの知らない場所で裏切られていた清澄の人たちは大きなショックを受け、暫くは塞ぎ込んでしまいました。
部長の竹井さんが真っ先にそんな仲間たちを励まし、何とか割り切ることができたそうですが――ひとりだけ、それでも立ち直ることができませんでした。

――原村和。

宮永咲の一番の親友だった彼女が受けた傷は特に大きく、未だに癒えていません。
私たち阿知賀の旧友も連絡を取ったり会いに行ったりしているのですが、和はまだ塞ぎ込んだままで、今は部屋に引きこもっているようです。
また、彼女は私たちが全国を目指すことになったきっかけでもありました。つまり、彼女と決勝で戦えなくなったことは、私たちの夢も打ち砕かれたことを意味します。
ザギはその身の道連れにたくさんの人の夢を奪っていきました。

――私がザギを倒したから、みんなの夢が。

でももう、そんなことは考えないことにしました。
あの時ザギを止められなかったらもっとたくさんの人の夢が奪われていたでしょうし、それに、奪われたのなら取り戻せばいいんです。

だから私は、和が立ち直り、また全国の舞台で会えるようになることを願っています――





708 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/17(木) 16:34:38.29 ID:ooFwn3vf0

―――阿知賀

夜、阿知賀のとある山。
一人の青年と一人の少女がそこで話をしていた。

光太郎「じゃあ今日は彼を頼む」

穏乃「……このウルトラマンの名前は?」

人形『私の名はウルトラマン80。ウルトラ兄弟の九番目だ』

穏乃「80……か。はじめまして。じゃあ、今からあなたを解放しますね」

穏乃はそう言い、ギンガスパークを人形の紋章に宛がった。
するとそこから紋章の光が飛び出し、人形に纏っていく。


『ウルトライブ!ウルトラマン80!』


山の中に銀と赤の巨人が現れる。しかし解放された80はすぐ小さな光の中に消えてしまった。
それに代わり、二人の前にひとりの青年が現れた。ウルトラマン80が人間体に変身したのだ。





709 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/17(木) 16:35:13.71 ID:ooFwn3vf0

青年「ありがとう、助けてくれて」

穏乃「いえいえ」

青年「僕の地球での名前は矢的猛。よろしく!」

穏乃「はい!よろしくお願いします」

穏乃「……で、タロウ。今日は一人だけ?」

光太郎「ああ。いや、他にも人形は見つかったんだが、彼らは人間への変身能力を持っていないんだ」

穏乃「なるほどね」

矢的「タロウ兄さん。僕たちは……」

光太郎「『迎え』が来るまではキャンプ生活だ。すまないな」

矢的「いえいえ」





710 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/17(木) 16:35:48.00 ID:ooFwn3vf0

ザギの件が終わって――

ダークスパークの呪いが弱まったことにより、ギンガスパークで解放すると、ウルトラマンたちはもう人形の姿に戻ることもなくなった。
タロウの兄弟たちはウルトラマンレジェンドの次元を超える能力によって元の世界に帰っていき、タロウはこの世界に残ってスパークドールを探す日々を送っている。
そしてレジェンドは、一ヶ月に一回この次元の地球に戻ってきて、解放されたウルトラマンや宇宙人、怪獣たちを元の世界に帰してやっている。

穏乃「じゃあ、また今度ね」

光太郎「ああ、ありがとう」

矢的「本当にありがとう!また今度お礼に行くよ」

手を振り合って、穏乃たちは別れた。

矢的「……本当に、あんな小さな子が戦ってたんですね」

光太郎「ああ。だが小さいながらも大きな力を持った子だよ」





711 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/17(木) 16:36:42.30 ID:ooFwn3vf0

―――翌日、穏乃の家・和菓子店

学校が終わり、斜陽差し込む店の軒下で穏乃と憧はお菓子をほおばりながら話し込んでいた。

憧「はーー……昨日も和からの連絡なかったね」

穏乃「そうだなー……。簡単に解決する問題とは思わないけど、ここまで来ると……」

光太郎「シズノ、アコ」

穏乃「あ、タロウ」

憧「久しぶり……って、横の彼は?」

矢的「僕は矢的猛。桜ヶ丘中学の……」

憧「ウルトラマン?」

矢的「えっ!?」

穏乃「うん。ウルトラマン80っていうんだって」

矢的「ちょっ!?」





712 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/17(木) 16:37:17.77 ID:ooFwn3vf0

光太郎「80、彼女はザギの件に関わっていてウルトラマンの事情を知っているんだ」

矢的「ああ……そうなんですか。変身して地球を去ろうとするところでしたよ」

穏乃「よかったらこのお饅頭食べていきませんか?賞味期限ギリギリの売れ残りなんですけど……」

矢的「ここは君の家なのか?」

穏乃「はい。和菓子店をやってるんです」

矢的「へえ、いいねえ」

憧「売れ残りだけど味は保証するよ。いっつも食べさせに来てもらってるし」

矢的「ああ、喜んで頂くよ。……うん、美味い!」





713 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/17(木) 16:37:46.42 ID:ooFwn3vf0

穏乃「タロウもいいよ?食べても」

光太郎「!?……い、いや。私は遠慮しておくよ」

憧「……え、タロウって案外賞味期限とか気にするタイプなの?」

光太郎「そ、そんなわけではないが……」

矢的「あはは。タロウ兄さんは弱いものいじめと饅頭は大嫌いだからね」

光太郎「お、おい!ばらすな!」

憧「饅頭と弱いものいじめが同列なの!?」

穏乃「やっぱりウルトラマンの感覚ってわけ分かんないな」





714 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/17(木) 16:38:20.96 ID:ooFwn3vf0

憧「……ま、それはともかくとして。シズ、今日の生物のさ、ここ、わかった?」

穏乃「憧に分からないのが私に分かるわけないじゃん」

憧「だよね。うーん……」

矢的「遺伝子のところ?」

憧「うん。ややこしくて……」

憧「……って分かるの?!」

光太郎「80は理科の教師をやっていたんだ。だから地球の教育にも詳しい」

憧「教師?何でウルトラマンが教師?」

矢的「……そうだなぁ。マイナスエネルギーって分かるかな?」

穏乃「いや、全然……」

憧「ま、響きから良い言葉ではなさそうね」





715 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/17(木) 16:39:17.62 ID:ooFwn3vf0

矢的「ああ。人間の心の揺れ、間違った方向へ傾いてしまった可能性。それによって生まれるエネルギーのことなんだ」

穏乃「それって、ダミースパークで変身した人みたい……」

憧「世間を賑わしてるスペースビーストの発生メカニズムとも似てるね」

矢的「その通り。そのマイナスエネルギーは怪獣を生み出す。心の闇が怪獣を生み出すということについては同じだ」

憧「……それで、どうして教師に?」

矢的「感情の揺れは思春期の子供たちに顕著に現れるものと思ったからだ。だから僕は勉強を重ね、中学教師になった」

光太郎「そういえば、ザ・ワンが現れた場所もインターハイ会場だったな。奴も感情の揺れというものに引き寄せられたのかもしれない……」

穏乃「なるほどなー……」

光太郎「ザギが敗れ、ポテンシャルバリアーも無くなった今、世界にはビーストが出現するようになった」

光太郎「確かに世界にはウルトラマンと人間との絆が蘇った。しかし、人の悲しみもまた晒け出される事になるだろう」

穏乃「良いことばかりじゃないんだな……」

矢的「何にせよ、気を付けなきゃいけないな」





716 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/17(木) 16:40:04.77 ID:ooFwn3vf0

―――その夜、長野

その部屋には電気が点いていなかった。ドアには鍵が掛けられ、窓は分厚いカーテンに覆われている。
そして部屋の主である一人の少女は、布団に自らの身を包み、ベッドに座り込んでいた。

「和……ここにお夕飯置いとくからね」

彼女の母の声がドアの外から聞こえてきた。
暫く部屋の中を伺っているようだったが、諦めたのか廊下の向こうへと足音が離れていった。

和「……咲さん」

思い出される彼女との記憶。

最初は反発してしまったけれど、全国を目指す約束をしてから仲が良くなっていった。
そして県予選。ギリギリのところを逆転した決勝戦。そして全国の舞台。

和(咲さんが私を裏切ったなんて、そんなことありえません……)

和(本当は、本当は……まだ生きていて、あのTLTなんていう得体の知れない組織に囚われてるんです)

和(咲さんは……私を裏切ることなんて絶対にしません……)

和はベッドに置いてあった人形を手に取った。
青と白のふさふさの毛を持つ可愛らしい小動物の人形。これはある日、咲からプレゼントしてもらったものだった。

和(咲さん――……)








717 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/17(木) 16:40:53.05 ID:ooFwn3vf0

―――翌日、夜

久「こんにちは」

和母「いらっしゃい。……ごめんなさいね、毎日毎日。忙しいでしょうに」

久「いえ。かわいい後輩のためですから」

和の慰問に来た久は、慣れた足取りで和の部屋まで歩いた。
相変わらず部屋の中はひっそりとしている。久はドアの外から話し掛けた。

久「和、いる?」

返事はなかった。だが和は昼夜逆転の生活を送っているという話なので、この時間帯は起きている筈だった。




718 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/17(木) 16:41:24.07 ID:ooFwn3vf0

久「……ね、もう出てきたらどう?まこも優希もあなたのことを待ってるわよ」

「………」

久「そろそろ秋季予選も始まるから部員集めもやってるの。あなたが出てきてくれたら捗ると思うんだけど」

「………」

久「みんな、和と一緒にもう一度全国に行きたいのよ。今度は優勝で」

「………」

久「あなたもそうでしょう?阿知賀の皆さんと再会できたら……」

「………」

久「……ねえ和。いつまでそうしてるつもり?出てきた方がきっと楽しいわよ」





719 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/17(木) 16:41:58.48 ID:ooFwn3vf0

久「ショックも大きいでしょうけど、ずっとそうしてるわけにはいかないでしょう?」

「………」

久「ねぇ、何とか言ってよ……」

「……殺さないで」

久「え?」

「咲さんを殺さないでください!咲さんは生きてる!どうしてみんな……!」

久「……和」

静寂の部屋の中からすすり泣きの甲高い音が聞こえてきた。
それにつられそうになる自分の心を繋ぎ止めるように、久は自分の制服の胸を引き絞った。





720 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/17(木) 16:42:32.76 ID:ooFwn3vf0

―――部屋の中

和(どうしてみんな……咲さんが死んだ風に言うんですか……!)

和(咲さんは生きてる……生きてるのに……!)

人形を引き寄せ胸に抱き締めた。涙が頬を伝い、人形を濡らしてしまった。
そうしている内、ふと和は何らかの気配を感じて目を開けた。部屋を見回す。しかし、自分以外には誰もいない。

和(……?)

ドアの外には久がいる。だがその気配とはだいぶ印象が違った。
その気配は、部屋の中にあった。それもすぐ近くに――

驚いて手元に目を落とした。
握りしめられた人形から煙のようなものが立ち上っていた。





721 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/17(木) 16:43:03.59 ID:ooFwn3vf0

和「え……?」

その人形の姿が変わっていく。
可愛らしい小動物の面影が徐々に消えていき、眼や頭は尖り、口は大きく裂かれ牙が伸びてくる。

和「……!?」

思わずそれを投げ飛ばしてしまった。
壁に当たって床に落ちるが、それから立ち上る煙は一向に止まない。

「和!?どうしたの!?」

その物音に驚いたのか、久の裏返った声が部屋に響いた。
しかし和は声が出せず、視線もその人形と黒煙から逸らすことができなかった。


『ダークライブ……ギャビッシュ!』





722 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/17(木) 16:43:43.89 ID:ooFwn3vf0

―――奈良、穏乃の部屋

窓の外にウルトラサインが出ていた。
夜空に描かれているぐにゃりと曲がった奇妙な文字。それがウルトラサインであり、タロウからの連絡でもあった。

穏乃(ホント、携帯って便利だな……)

いちいち変身してからサインを出さなくてはならないタロウを考えると、人類の叡知とは素晴らしいものだと穏乃は思った。
彼女にはウルトラサインの意味は分からないが、ギンガスパークを握るとその意味を読み解くことができた。
恐らくそのエネルギーが彼女に影響をもたらしているのだろう。

穏乃はポーチからギンガスパークを取り出し握った。その時――

穏乃(……!)





723 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/17(木) 16:44:43.61 ID:ooFwn3vf0

頭の中に激流のように何かが流れ込んできた。
それは怪獣が現れたというサインだった。しかも、そのサインが出るのは巨大怪獣の場合に限っている。

穏乃(長野……?)

穏乃は窓の外に目をやった。
タロウからのウルトラサインは『話したいことがあるから集合してくれ』というものだった。

穏乃(くっそ……そんな時間ない!)

ギンガスパークが輝き、その先端から飛び出してくる光はひとつの人形を象った。
穏乃はそれを握りしめ、急いで家から飛び出した。


『ウルトライブ!ウルトラマンギンガ!!』





724 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/17(木) 16:45:11.92 ID:ooFwn3vf0

―――公園

付近の公園で矢的とタロウは穏乃を待っていた。
しかしそんな中、ひとつの白光が夜空を突っ切っていくのが見えた。

矢的「兄さん、あれを!」

光太郎「あれは……ウルトラマンギンガか?シズノが変身したのか。何故……」

矢的「何か感じ取ったのかもしれませんね」

光太郎「そうだな。どうしようか……」

矢的「なら僕が彼女を追います。兄さんはこっちでの調査をお願いします」

光太郎「わかった。シズノを頼むぞ」

矢的「はい!」





725 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/17(木) 16:46:10.93 ID:ooFwn3vf0

―――穏乃サイド

ギンガは腕をジェット機の翼のように広げ、猛スピードで怪獣のいる場所に向けて飛んでいた。
場所は長野。和がいる場所だ。

穏乃(嫌な予感がする……)

そんな時、飛び続けるギンガにもう一人のウルトラマンが追い付いてきた。
ウルトラマン80は両腕を前方に伸ばしながら飛び、金色の瞳を隣のギンガに向けた。

穏乃『あれ……』

80『高鴨さん、何があったんだ?』

穏乃『長野の辺りに怪獣が出たっていう予感がしたんです。すいません、集合する時間も惜しくて』

80『なるほど』

穏乃『怪獣とは私が戦います。あなたは避難を助けてください』

80『……?わかった、そうしよう』





726 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/17(木) 16:46:49.54 ID:ooFwn3vf0

―――長野

ギャビッシュ「ギャァオオオオオン!!!」

町の中を怪獣が闊歩していた。
青い体毛と赤く光る眼。狼のような顔と牙と爪。体の後ろには、先端が三日月のような形の尻尾が伸びている。

その怪獣の名は“凶悪怪獣”ギャビッシュ。
家屋を見つける度に踏み潰し、叫び声を上げながら暴れまわっていた。

和母「……あ、あぁ」

久「和……!」

和の母と久はその怪獣を見つめたまま動けなかった。
そんな時――彼方の空から二つの光が向かってくるのが見てとれた。

その内の一つはこちらへ迫り、その姿をどんどん大きく、明瞭にしていく。
夜の空の中に見えたその正体は、ザギを倒した光の巨人・ウルトラマンギンガだった。




727 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/17(木) 16:47:18.80 ID:ooFwn3vf0

ギンガ「ショ……ラッ!」

ギャビッシュ「ギャァアオオオオオ!!」

ギンガはそのまま怪獣へ直進し、空からその頭を蹴りつけた。
倒れるギャビッシュに降り立ったギンガは追い討ちを掛けようとする。久は咄嗟に声を張り上げた。

久「待って!」

ギンガの動きがピタリと止まり、声のした方へ顔を向けた。

久「その怪獣の眼の中に……和が閉じ込められているの!」

ギンガ「!」

ギャビッシュ「ギャァオオオオオン!!!」

そうしている間にギャビッシュが乗り掛かるギンガを突き飛ばした。
ギンガは転がって体勢を整え、怪獣の赤く鋭い眼を凝視した。





728 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/17(木) 16:47:55.94 ID:ooFwn3vf0

和『……うっ、ぐすっ』

ギンガ「……!」

久の言う通り、その中には和がいた。
眼の中に空間ができているのか、捕獲光線に包まれているのか、はたまた異次元空間に繋がっているのかは定かではない。

だが自らの親友・原村和がその眼の中に閉じ込められているということは確かな事実だった。

ギンガ「シュ……シュワッ!」

ギャビッシュ「ギャァオオオオオン!」

ギャビッシュがギンガに飛び掛かり、爪を振るった。
ギンガはそれをいなすものの、和への影響を考えると反撃に転じることができない。





729 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/17(木) 16:48:37.65 ID:ooFwn3vf0

ギャビッシュ「アォォォォオン!!」

距離を取ったギンガに対してギャビッシュは遠吠えを上げた。
体勢を低くし、その尻尾をもたげて先端をギンガに向ける。

ギンガ「ジュワッ!」

三日月状の先端から雷が乱れ飛んだ。

ギンガ「ハァッ!」

ギンガは側転し、その攻撃を躱していく。
雷が曲がって落ちた場所には火花が散り、爆発が起きた。

ギャビッシュ「ギャァオオオオン!」

唐突にギャビッシュが口を開けた。
針状の光弾が吐き出され、体勢を整えようとするギンガに雨のように降り注いでいく。

ギンガ「シュワ……ッ!」





730 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/17(木) 16:49:34.64 ID:ooFwn3vf0

―――ギャビッシュの眼の中

和(………)

眼の中の空間は全てが赤く、水晶体や角膜を通して見える外界の映像も赤く染まっていた。
そんな中で和は虚ろな視線を落とし、がっくりと項垂れていた。

和(……咲さん)

咲からプレゼントしてもらった人形が突如怪獣に変わり、和の身体をその眼の中に閉じ込めた。
これはいったい何を意味するのだろう?

和(……咲さん)

目を逸らし続けてきた現実はそこにはあった。
咲は和を駒にする可能性も考慮してあの人形をプレゼントしたということだ。

和(……咲さん)

和(どうして……裏切ったんですか……?)

和の奥底に隠されてきた真実が露になったことで、それは彼女の闇となって立ち上った。
何物をも疑うことのない純白に落ちた一滴の黒は、彼女の心を呪いの色に染め上げていく――





731 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/17(木) 16:50:03.19 ID:ooFwn3vf0

―――地上

ギャビッシュ「ギャオオオオオオ!!」

ギンガ「ジュッ!」

ギンガは前転して針の雨から抜け出し、ギャビッシュの顎を押し上げ、口を閉じさせた。
取っ組み合いの様相を呈したが、ギャビッシュの爪が振るわれギンガの胸を裂く。

ギンガ「ハァァ……ッ」

ギャビッシュはうずくまるギンガを蹴り飛ばした。ギンガは膝を突きつつも何とか立ち上がろうとする。
しかしそんなギンガの背後に黒い霧が立ち込めていた。彼がそれに気付いて振り向く。

ギンガ「ジュッ……!?」

霧から光が放たれた。その光は霧を晴らし、そしてひとつの怪獣の形を象っていく。

ホー「ウゥゥゥゥゥゥ……!」





732 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/17(木) 16:50:38.51 ID:ooFwn3vf0

そんな様子を矢的は地上から見ていた。

矢的「あれは……“硫酸怪獣”ホーか」

彼は元の世界の地球で活躍していたとき、この怪獣と戦ったことがあった。
その時は失恋に傷心した教え子のマイナスエネルギーによって生み出されたものだった。

矢的(ということは……この世界でもマイナスエネルギーが怪獣を作ったということか……?)

彼は変身アイテムを取り出そうとしたが、苦渋の顔でそれをしまい、再び避難誘導に戻った。

矢的(すまない……何とか持ちこたえてくれ……!)





733 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/17(木) 16:51:28.50 ID:ooFwn3vf0

ホー「ウゥゥゥゥゥゥゥ!!」

ホーが唸り声を上げると共にその青い眼から液体が溢れ出し、怪獣が暴れ出す拍子に辺りに飛び散った。

ギンガ「ジュ、ジュワッ!?」

ギンガは自分の右腕に苛烈な熱さと痛みを感じた。
腕を押さえて下を向くと、ホーの液体が撒き散った場所のアスファルトが溶けているのが見えた。

ホー「ウゥゥゥーーー!!」

ギンガ「!ジュワッ!」

飛び跳ね、町を荒らそうとするホーにギンガは飛び掛かった。

ギンガ「ハァ、アッ!ショラッ!」

打撃を数回入れ、そして蹴り飛ばす。
ホーが倒れたのを見てギンガは後ろを振り向いた。





734 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/17(木) 16:52:02.66 ID:ooFwn3vf0

ギャビッシュ「ギャァオオオオオン!!!」

ギャビッシュもまた飛び跳ねてギンガに向かってくる。
手を出せない相手だが、ギンガは組み合って必死にそれを押さえ込む。

ギャビッシュ「ギャァアア……!」

ギャビッシュは大きく口を開け、ギンガの肩に噛み付いた。

ギンガ「ハアァッ……!」

ギンガはギャビッシュの身体を押し退けようとするが、立てられた牙は離れようとない。
むしろ無理に引き剥がそうとすると自らの肉体が引きちぎられてしまいそうだった。

ギンガ「アァァァァ……ッ!」

その時、ギンガの背後から破壊音が耳に入ってきた。
振り向くことはできないが、ホーが町を破壊していることは明らかだった。





735 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/17(木) 16:52:43.20 ID:ooFwn3vf0

このままだとどうしようもない。ギンガは拳に力を込め、ギャビッシュの頭部に向けた。

久「ま、待って!和が……!」

ギンガ「ショォラァァッ!」

ギンガの拳がギャビッシュに突き出された。久は顔を背け、反射的に目を瞑った。
――しかしその拳はギャビッシュに命中はしてはいなかった。拳が透過し、光を放ちながら怪獣の顔に突っ込まれていた。

ギンガ「ハァ……アッ!」


和「え……っ!?」

ギャビッシュの眼の中にいた和は驚いて思わず声を上げた。
外界が映し出されていた場所から銀色の光が飛び込んできたのだ。

それはゆっくりと和に近づき、そして開いて、彼女の身体を握り込んだ。





736 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/17(木) 16:53:21.94 ID:ooFwn3vf0

ギンガ「ハッ!」

ギャビッシュ「ギャァオオオオン!」

拳を顔から引き抜き、驚いて口を離したギャビッシュをギンガは蹴り飛ばした。
そして身を屈め、拳をゆっくりと地面に下ろし、そっと開いた。

久「和!」

和「部長……」

開かれた拳から下ろされたのは和だった。
久は感極まって走り寄り、彼女を抱き締めた。

矢的「おい!そこの二人!早く避難を!」

あらかたの避難が終わったことを確認してその様子を見ていた矢的は、二人の元に走っていった。





737 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/17(木) 16:54:05.07 ID:ooFwn3vf0

久「和、避難するわよ!」

和「……咲さんは、裏切ったんですね」

久「……ええ、そうよ。それより早く――」

和「私……もう、ひとりで生きていきます」

久は和の手を引いて急ごうとしたが、その言葉を聞いて足を止めた。

久「……和?」

和「そうしたら……もう誰にも裏切られずに済みますから……」

久「和、それは……」

矢的「それは違うぞ、原村さん」

和と久は驚いて、声のした方に顔を向けた。





738 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/17(木) 16:54:42.92 ID:ooFwn3vf0

矢的「君には君のためを想い、そして君のために戦ってくれる仲間がいる」

矢的「あのウルトラマンを見るんだ。ほら!」

矢的が和に近づき、ギンガに指を差す。

矢的「わかるか?あれは君の親友、高鴨穏乃だ」

和「え……?」

矢的「君は一人なんかじゃない。高鴨さんの他にも、たくさんの人たちが君のことを想っている」

和「あなたは……いったい……?」

矢的「……僕は」

久「っ!」

久が息を呑んだ。矢的がその表情に気付いて背後を振り向く。





739 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/17(木) 16:55:22.67 ID:ooFwn3vf0

ホー「ウゥゥゥゥゥゥ!!!」

ホーが飛び跳ねるように道路を走り、こちらに向かってきていた。
その眼から溢れる涙は周囲に飛び散り、アスファルトを溶かして白煙を上げさせる。

しかしそんなことよりも、地を揺らしながら一直線に迫り来る巨体に三人の視線は集中していた。
和と久は金縛りにあったかのように身体を固まらせ、動くことができない。

一方で矢的は二人の前へ出た。ポケットから変身アイテム『ブライトスティック』を取り出す。

矢的「――エイティ!」

掛け声を上げながら彼はそれを夜天に掲げた。
ブライトスティックの先端から光が発される。彼はその本来の姿に変身し――





740 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/17(木) 16:56:39.19 ID:ooFwn3vf0

80「ショワッ!」

大きい掛け声と、これまた大きな地鳴りが起きた。
閃光に目を瞑っていた二人が瞼を開ける。

そこに広がっていたのは倒れる怪獣と、二人の前に立つ大きな銀の背中。
頼もしさと強さを持つその戦士の名は――“ウルトラマン80”!

ギンガ「!」

80「ショワッ!」

起きたホーに80が手刀を当て、怯んだその首を腕で絞めて向こう側へ投げ飛ばした。

ホー「ウゥゥゥ……」

身体を持ち上げようとするホーに向けて80は走り、跳躍して空から蹴りつけた。
ホーはその衝撃に飛ばされ、和たちから更に距離が離れていく。





741 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/17(木) 16:57:16.01 ID:ooFwn3vf0

ギンガ「ジュ、ワッ!」

ギャビッシュ「ギャァオオオオン!」

ギンガは牙に気を付けながらもギャビッシュと取っ組み合い、その肩越しに見える80の戦いに惚れ惚れとしていた。
流れるような美しい攻撃。派手に飛び跳ねる華麗な動き。全てが計算されたようなプロの戦い方だった。

ギンガ「ショラッ!」

ギャビッシュを掬い投げし、向こうへと投げ捨てる。
しかしギャビッシュはすぐに前転してギンガを振り向く。ギンガは腕を交差させ、頭のクリスタルに翳した。

ギンガ「――ギンガスラッシュ!」

紫に染まったクリスタルからそれと同じ形の光弾が翔ぶ。

ギャビッシュ「ギャァッ!」

するとギャビッシュは両眼から赤い光線を放った。
ギンガスラッシュはそれに取り込まれ、そしてギャビッシュの眼の中に吸い込まれていった。





742 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/17(木) 16:57:42.74 ID:ooFwn3vf0

ギンガ「ヘァッ……?!」

ギャビッシュの喉元に赤い光が纏い、口元に集まっていく。
ギンガは急いでバリアーを展開しようとするが、それより先にギャビッシュの口から光弾が放たれた。

ギンガ「ジュワァッ……!」

胸に命中し、ギンガは背後に倒れた。ギャビッシュは飛び掛かり、そんな彼の首を絞めた。

ギャビッシュ「ギャァオオオ!!ギャァァオオオ!!」

ギンガ「ジュ……アァ……!」

「穏乃!」





743 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/17(木) 16:58:19.02 ID:ooFwn3vf0

ギンガ「……!」

顔を傾ける。視線の先には、こちらに顔を向ける和がいた。

和「穏乃!頑張って!」

ギンガは頷き、拳を握ってギャビッシュの頭に叩きつけた。
ギャビッシュの締めつけが緩む。ギンガはその隙を突いて足を曲げ、怪獣の体を巴投げした。

ギャビッシュ「アオオオオオン……!」

ギンガとギャビッシュは同時に起き上がり、対峙した。
ギャビッシュは体勢を落として尻尾をギンガに向け、その先から電撃を放った。
ギンガはバリアーを展開し、どうにかそれを抑え込む。

ギンガ「シュッ……!」





744 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/17(木) 16:59:24.12 ID:ooFwn3vf0

80「ショワッ!」

80は跳躍してホーを飛び越え、すれ違い様に首の後ろを蹴り付けた。
ホーは呻き声を上げながらたたらを踏んだ。

ホー「ウゥゥゥ……」

80「!」

ホーの後方ではギンガとギャビッシュが戦っていた。
ギャビッシュの放電をギンガが耐えている。

80は胸の前に両腕を構え、右腕を肩の後ろへ下げた。
その手にエネルギーが漲り、ドーナツ状の円盤が発生し、掌の上で高速回転する。

80「トアッ!」

80は“八つ裂き光輪”をホーの向こう側へ投擲した。
光輪は唸りを上げて空を裂き、ギャビッシュの尻尾を断ち切った。





745 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/17(木) 17:01:08.40 ID:ooFwn3vf0

ギャビッシュ「ギャァァァァァ!!」

ギンガ「……!ショ――ラッ!」

ギンガはバリアーを戻し、80の方へ飛んだ。
80は隣に降り立ったギンガを見て頷き、ホーと、その真後ろで悶えているギャビッシュに目を向ける。

ギンガ「ハァァ――……」

両腕を交差させ、左腕を上側へ、右腕を下側へ、その二つで円を描くようにゆっくりと回していく。
それと共に全身のクリスタルは光り、深い青の輝きを夜の町に解き放っていく。

80「ハッ!」

80もまた光線のポーズを取った。
左腕を斜め上へ、右手を横へ構えると、彼のカラータイマーがキラリと煌いた。





746 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/17(木) 17:02:21.50 ID:ooFwn3vf0

ギンガ「――ギンガクロスシュート!」

右腕に虹色の光が纏い、そこから流星のような光線が放たれる。

同時に80も腕をギンガと同じようにL字に構えた。
彼の必殺光線“サクシウム光線”が発射され、青い光線が虚空を切り裂いていく。

その二つは宙で衝突し、一本の大きな激流の渦となってホーを、そしてその体を貫いて背後のギャビッシュに命中した。

ホー「ウゥゥゥゥゥ……」
ギャビッシュ「ウァオオオオオオン……!」

怪獣の体からストロボライトのような閃光が放たれ、青白い炎に包まれて消滅した。
ギンガと80は向かい合って頷き合うと、勝利を分かち合うように拳を突き合わせた。





747 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/17(木) 17:03:02.97 ID:ooFwn3vf0

―――地上

穏乃は元の姿に戻り、矢的は人間の姿に変わって地上に降り立った。
道路の向こう、避難した人々がいる場所で、到着したTLTの職員が町の住人たちの保護を行っているのが見て取れた。

和「穏乃!」

背後から和の声がした。穏乃が振り向くと同時に――その小さな身体に和が飛び込んできた。

穏乃「の、和。大丈夫だった?ちょっと手荒な真似しちゃったけど……」

和「……はい。ありがとうございます。助けてくれて」

穏乃「そっか。無事でよかったよ」

和「……穏乃」

穏乃「ん?」





748 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/17(木) 17:03:38.46 ID:ooFwn3vf0

和「ごめんなさい。心配かけて」

穏乃「………」

和「私はもう大丈夫です。学校にも行きますし、穏乃たちと全国で会えるように頑張ります」

穏乃「……無理はしないでね」

それを聞いた和の顔は、一瞬、何かを隠す為に吊り上がったように見えたが、それさえも隠すように笑顔を浮かべた。
しかしどこかぎこちない笑顔だった。そんなに容易く解決できる問題ではないのだから。

穏乃「私に出来ることがあればなんでもするから。メールしてね」

和「……はい」

穏乃は不安を覚えながらも、確かな手応えも感じていた。
きっと和は立ち直ることができる。彼女はひとりじゃないのだから。





749 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/17(木) 17:05:11.51 ID:ooFwn3vf0

―――阿知賀、公園

阿知賀に戻ってきた二人は、待ち合わせ場所だった公園でタロウを待っていた。
しかしなかなかやってこない。何らかの調査に出かけていたようだが、まだそれが終わっていないようだった。

矢的「そういえば――あの怪獣」

穏乃「なんですか?」

矢的「後から現れた怪獣。あれは僕も過去に一回戦ったことがあってね」

穏乃「そうなんですか?どうりで戦い方が慣れてると思った」

矢的「うん。まぁ問題はそこじゃなくてね……あれはマイナスエネルギーから生まれた怪獣なんだよ」

穏乃「え?」

矢的「つまりダークスパークウォーズに参加するような怪獣じゃないってことだ。あれはスパークドールから生まれた怪獣じゃあない」





750 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/17(木) 17:05:40.27 ID:ooFwn3vf0

穏乃「……そういえば、最初の怪獣は」

矢的「原村さんの先輩から聞いたんだけど、あれは彼女が宮永咲からプレゼントしてもらった人形が実体化したものらしい。実際に拾ってきた」

矢的はポケットからギャビッシュの人形を取り出した。
足の裏を穏乃に見せる。そこにはスパークドールの紋章が刻まれていた。

穏乃「!スパークドールか……」

矢的「うん。でもダークスパークは持ち出されていないはずだ。それなのにスパークドールは解き放たれた」

矢的「マイナスエネルギーの発生と無関係だとは思えない。僕が思うに、原村さんのマイナスエネルギーがスパークエネルギーの代わりになったんだ」

穏乃「……似ている性質のエネルギーだから、こんなこともあり得るんですね」

矢的「多分ね」





751 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/17(木) 17:06:10.92 ID:ooFwn3vf0

穏乃「………」

矢的「やっぱり不安か?」

穏乃「え?何がですか?」

矢的「……すまん。てっきりまだ戦いが続くことに不安を感じてるのかと思って」

矢的「そんな心配は要らないほど、君は強い子みたいだな」

穏乃「ま……無くはないです。でも、きっと私たちなら何とかなるって思ってます」

矢的「『私たち』?」

穏乃「はい。私はひとりじゃないし……それにまた新しい夢に歩みだしてる」





752 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/17(木) 17:06:41.07 ID:ooFwn3vf0

穏乃「私はそのために、私にできることを頑張るだけですから」

矢的「一所懸命。だな」

穏乃「え?」

矢的「人には……一生、命をかけてやらねばならないことがあるよな」

矢的「その大きな目的を達するためには、その人が今いるところで、今やっていることに最大を尽くすことが必要だと僕は思う」

矢的「『ひとところに命を懸ける』。それが僕のモットーなんだ」

穏乃「へえー……」

矢的「うん。君には言うまでも無かったようだけどな!」

穏乃「あはは」





753 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/17(木) 17:07:07.92 ID:ooFwn3vf0

光太郎「すまん、遅れた」タタタ

矢的「お疲れ様です。どうでしたか?」

光太郎「ああ。実は……」

穏乃「それよりまず、私に説明してよ」

光太郎「そ、そうだったな。すまない」

光太郎「ついさっき、私は黒い霧のようなものが空に漂っているのを見たんだ」

穏乃「!それって……」

光太郎「なんだ?」





754 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/17(木) 17:07:42.36 ID:ooFwn3vf0

矢的「僕たちも、さっき行ってきた所で黒い霧――マイナスエネルギーと遭遇したんです」

光太郎「!ということは、あれもマイナスエネルギーってことなのか……?」

矢的「一体どこに?また怪獣が現れるかもしれない!」

光太郎「落ち着け。私はその調査に向かったんだが……到着した時には霧は消えてしまっていたんだ」

穏乃「消えた?」

光太郎「ああ。80、マイナスエネルギーについてはお前は詳しかったよな。どういうわけかわかるか?」

矢的「……僕はそういうことは経験していません。なので推測でしかものは言えませんが……」





755 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/17(木) 17:08:13.29 ID:ooFwn3vf0

矢的「その『マイナス』が満たされた、ということではないでしょうか」

穏乃「心の闇が解消されたってこと?」

矢的「うん。多分だけど」

光太郎「それなら問題は無さそうだが……。しかし、出現はしていたんだ。注意せねばな」

矢的「そうですね……」

穏乃「………」


穏乃(このとき私はまだ気づいていなかった)

穏乃(私のすぐ近くに、その闇は迫っていたということに――)





756 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/17(木) 17:08:51.32 ID:ooFwn3vf0

―――山の中

一人の少女がおぼつかない足取りで山の中を歩いていた。
山というものに余り慣れてはいないのだろう、ところどころ足を滑らしたりしていた。
しかし彼女は何かに引き寄せられるかのように真っ直ぐ歩いていく。

暫く歩いた後に彼女は足を止めた。
笹薮の中に屈み込み、その中からあるものを拾い上げた。

「……何だろう、これ」

それは、山に降り注いできたスパークドールだった。
しかし彼女はそんなことは知らなかった。

むしろ――その怪獣の姿に彼女は愛おしさを感じていた。
いつもすぐ側にいてくれて、自分を助けてくれる存在だったから。

彼女は腰を上げ、人形から土を払ってポケットに仕舞い込んだ。
それが悪夢の始まりになるとも知らずに――


To be continued...





757 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/17(木) 17:10:33.64 ID:ooFwn3vf0

登場怪獣:ウルトラマンダイナ第7話より、“凶悪怪獣”ギャビッシュ
ウルトラマン80第3話より、“硫酸怪獣”ホー

ホーwwwwwwwww

ということで続きまた今度書きます





758 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/17(木) 19:10:17.10 ID:q2s7tPdno

乙です
咲さんはやっぱり架空の存在だったのか





764 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/18(金) 17:20:54.68 ID:qsQPqAb3o

原付ホー乙!




765 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/23(水) 19:41:55.85 ID:Z9AwjW110

第十五話『龍の恋人』


―――時は少し遡って、奈良

阿知賀の老舗旅館・松実館。
その裏は松実家の住宅となっており、玄や宥はそこに住んでいた。

「宥のこと、よろしくお願いします」

男の声が障子の向こうから聞こえてきた。
その主は姉妹の父親。

「必ずや、プロにも通用する選手にしてみせます」

今度聞こえてきたのは礼儀正しさを体現したような声。
その主は玄の姉・宥を特待生として迎えたいと勧誘をかけてきた大学からの使者。

話も終わりが見えてきたのを察して、障子の外で話を盗み聞きしていた玄は足音を立てないように廊下を進んだ。
静かに襖を開け、寝室へ入る。あらかじめ敷いておいた布団に飛び込み、全身でひんやりとしたそれを感じた。

玄(……おねーちゃん)

インターハイで優勝を飾った阿知賀は高三生が宥だけで、故に彼女にはプロ行きのオファーや特待生の話が多く持ちかけられた。
割合内気な性格の宥やその父親は大学進学を好み、今日来たのはその中の一つであり、それは東京の大学だった。





766 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/23(水) 19:42:36.36 ID:Z9AwjW110

玄(来年……私一人になるんだな)

父親は旅館の仕事が忙しく、家の方へ帰ってくるのも遅い。
そのため松実家の日常は大抵玄と宥の二人だった。しかし来年からそれが玄一人だけになってしまう。

玄(ひとりぼっち、か……)

その時、玄は微かな声を耳にした。
廊下の方を振り向くが、今なお続く声はそこから来ているのではなかった。

むしろ逆だった。玄は窓に近づき、夜の闇が立ち込めるその向こうに目をやった。
声はそこから聞こえていた。声というよりは、動物の遠吠えのような――

玄がそれを『声』と認識したのは、それがとても身近なものだったからだ。
小さい頃から親しんできたものの声。彼女は無意識の内にそう感じていた。

玄(………)

玄は何かに引き寄せられるかのように家を出て、その闇の方へ歩いていった。





767 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/23(水) 19:43:11.64 ID:Z9AwjW110

―――穏乃の家

和の件を終え、タロウたちと別れた穏乃は家に帰って電話をしていた。

穏乃「……ってことで。マイナスエネルギーによる黒い霧には注意してください」

菫『ああ、わかった。上へ言っておく』

菫『しかしどうして今になってマイナスエネルギーとやらが?やはりザギと関係があるのか』

穏乃「タロウや80もそう考えてます。世の中が大きく変化して人々の心が今までより大きく揺らいでいるからだって」

菫『なるほどな……』

『あ、菫先輩!代わって!』

菫『え?……ああ。高鴨、淡に代わる』

穏乃「大星さん?はい……」





768 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/23(水) 19:43:39.66 ID:Z9AwjW110

淡『あ、高鴨穏乃?言っておかなくちゃいけないことあって』

穏乃「はい、何ですか?」

淡『インハイで一位になったからってちょーし乗らないでよね。たかみ先輩と私が抜けたうちに勝ったからって』

穏乃「は……はい」

ザギとの交戦で負傷した淡と堯深は決勝戦には出られなかった。

淡『秋季予選、絶対勝ち抜いてよね。今度こそ何百回も叩きのめしてやるんだからっ』

穏乃「……ふふっ」

淡『……!?今笑った!?ねえ!』

穏乃「だって大星さん、面白いんだもん」

淡『な……っ!覚えといてよ!絶対後悔させてやるから!』





769 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/23(水) 19:44:13.93 ID:Z9AwjW110

菫『……代わった。すまないな、うちの淡が』

『なんか言ったー!?』

穏乃「いえいえ。早く良くなるようにって、二人に伝えといてください」

菫『ああ、ありがとう。じゃあ切るぞ』

穏乃「はい。おやすみなさい」

穏乃は頬を緩めたまま携帯を閉じた。

穏乃(……うん。秋季予選に向けてまずは部員集め)

穏乃(今度は個人戦も参加だし。楽しみ増えてきた!)

マイナスエネルギーという新たな懸念もあったが、穏乃の心は踊っていた。
玄、灼、憧と共に明日から忙しくなる。それさえも今の穏乃には楽しみに思えるのだった。





770 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/23(水) 19:44:40.26 ID:Z9AwjW110

―――翌日・昼、阿知賀女子学院高校

教師「えー……ここはこうで……」

玄「………」

授業中だったが、玄は上の空だった。
宥のいない日常。それはいったいどんなものになるだろうか。

玄(………)

洗濯物も少なくなり、お米を炊くのも一合減るだろう。
姉妹の寝室も広くなる。居間のこたつは撤去されるだろうか。

玄(ずっと前……お母さんが死んだときも同じことを思ったっけ……)

その時を玄は回想した。少し前までは思い出したくもない記憶だったが、インハイ準決勝の日からそんなことはなくなった。





771 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/23(水) 19:45:16.07 ID:Z9AwjW110

玄(……お葬式の日)

玄と抱き合って泣く宥を見て玄もまたもらい泣きしてしまった。
――実はその時、玄は母の死というものに涙したのではなかった。

彼女が泣いたのは姉が哀しそうにしているからだった。嗚咽を漏らし、自らの胸の中で泣き続ける姉の姿に涙を流したのだ。
母の死が哀しくなかったというわけではない。その事実が、玄にはあまり飲み込めていなかったのだ。

玄(………)

だからあの時の玄は、これからの暮らしの変化というものを考えた。
現実を理解するために。受け入れるために。そして、未来を見据えることで、辛い過去から目を逸らすために。

玄(……おねーちゃん)

玄は耐えきれなくなり、いっそう鼻をつん、と上げて、黒板を凝視した。
その時、玄はまた何かの声を耳にした。彼女は思わず窓の向こうに視線をやった。

そこに広がっていたのは、いつもと変わらない連なる山々の風景。
しかしその中に何かがいる。彼女はそれを感じ取っていた。





772 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/23(水) 19:46:09.34 ID:Z9AwjW110

―――放課後、麻雀部・部室

ガララッ

憧「あ、待ったよー……って、あれ?」

宥「憧ちゃん。お久しぶり」

驚いて部室の穏乃と灼も宥を見た。
宥は部活を引退し、ここへやって来るのもかなり久しぶりのことだった。

憧「宥姉?久しぶりだけど何で?」

宥「えーと……昨日ね、特待生の件が正式に決まって……」

憧「あ、決まったんだ」

穏乃「おめでとうございます!」

灼「おめでと……」





773 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/23(水) 19:46:40.01 ID:Z9AwjW110

宥「ありがとう。それで、入試免除のようだから、勉強する必要が無くなって……」

憧「なるほどね」

宥「それで何かお手伝いできるかなぁ……って思ったの。迷惑だったかな……?」

憧「全然。猫の手も借りたいくらいだったから」

宥「ホント?よかった。じゃあ何すればいい?」

憧「そろそろ来る頃だと思うけど……」

憧がそう言うと同時に戸が開き、そこから波のように人が押し寄せてきた。

宥「わわ」





774 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/23(水) 19:47:14.60 ID:Z9AwjW110

穏乃「やー……お昼休みの間に入部希望者がいっぱい来て……」

憧「それで、全員のレベルを測ることになったんだ。でも私たち四人じゃこれだけ全員を見て回るのも難しいし」

灼「だから、宥さんに手伝ってもらえると助かる」

宥「うん、分かった。……でも、そういえば玄ちゃんの姿が見えないけど」

穏乃「そうなんですよね……。灼さん、何か聞いてませんか?」

灼「いや、聞いてな……」

憧「そっか。どうしたんだろうね」

穏乃(………)





775 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/23(水) 19:47:51.73 ID:Z9AwjW110

―――その頃、玄サイド

玄は学生鞄を提げたまま、山の中を幽霊のような足取りで歩いていた。
ただし、行き先があらかじめ決まっているかのようにまっしぐらに。

歩いていくにつれて、玄の耳にだけ聞こえる『声』は大きくなっていった。
頼もしさと懐かしさと親しさを感じられる声。彼女はそこへ真っ直ぐに進んでいく。

歩いた末に彼女は声の在処に辿り着き、草むらの中にしゃがみこんだ。
拾い上げたそれは、とても長い首と尾を持つ龍の人形だった。

玄「……あなたが私を呼んだの?」

龍『ギャァァオオオ……』

玄「………」

龍の声は、どこか寂しそうで、どこか哀しそうだと玄は思った。
人形から土を払い、鞄の中にそっと仕舞った。首や尾が挟まって苦しくならないようにスペースを開けて。

玄「………」

玄は知らず知らずの内に胸を抉る哀しみが無くなっていることに気づいた。
この龍がもたらしてくれたのだろうか。孤独に悲嘆する心を癒してくれたのだろうか。





776 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/10/23(水) 19:48:17.62 ID: